脱炭素ドミノを目指す「地域脱炭素ロードマップ」と「脱炭素先行地域」の戦略とは?
パリ協定で定められた「世界の気温上昇を産業革命前に比べ1.5度までに抑える」を達成するための指標として、先進国では「2050年までにCO2排出量をゼロにする」ことが目標になっています。これがいわゆるカーボンニュートラルですが、日本でも段階的な目標として2030年までにCO2排出量を46%削減することを目指しています。TOMORUBAの連載「カーボンニュートラル達成への道」では、各業界がどのように脱炭素に向けた取り組みをしているのか追いかけていきます。
今回取り上げるのは「地域脱炭素」についてです。カーボンニュートラルを達成するためには、中央の政策と地域ごとの戦略の足並みをそろえることが必要ですが、現状ではどのようなロードマップが想定されているのでしょうか。地方に脱炭素の責任を押し付けるだけではなく、カーボンニュートラルを地方の成長エンジンにつなげる仕組みに迫ります。
国と地方が協働・共創するため設置された「国・地方脱炭素実現会議」
政府は2020年10月に、2050年までのカーボンニュートラル実現を目指すことを宣言しています。さらに、マイルストーンとして2030年度に温室効果ガスを2013年度比で46%削減することを目指しています。
この目標達成のために、国と地方が協働・共創する取り組みとして、内閣官房長官を議長とする「国・地方脱炭素実現会議」が設置されました。同会議では脱炭素を成長の機会と捉えていて、具体的に下記の3つの戦略を描いてきます。
1.地域脱炭素を地域の成長戦略にする
2.再エネ等の地域資源の最大源の活用により、地域の課題解決に貢献する
3.一人一人が主体となって今ある技術で取り組む
ここでは地方が主役となって特に2030年までに集中して行う取り組みの具体的な工程と時期を示す「地域脱炭素ロードマップ」が2021年6月に策定されています。
参照ページ:地域脱炭素とは - 脱炭素地域づくり支援サイト|環境省
「脱炭素ドミノ」を狙う「地域脱炭素ロードマップ」
前述した「地域脱炭素ロードマップ」には2050年にカーボンニュートラルを実現するまでのマイルストーンが記されています。第一段階では、2020年から2025年を集中期間としてこの5年間で政策を総動員します。具体的には少なくとも100ヶ所で「脱炭素先行地域」を創出すること、そして重点対策を全国で実施することの2点です。
次に、「脱炭素先行地域」に端を発して、その他の地域にムーブメントが広がっていく「実行の脱炭素ドミノ」を2030年までに引き起こすことを狙っています。
そして最終的には、2030年以降も全国へと地域脱炭素の取組を広げ、2050年を待たずして多くの地域で脱炭素を達成し、地域課題を解決した地域社会へと移行することがロードマップの全体像となっています。
参考ページ:地域脱炭素ロードマップ(概要)
脱炭素先行地域はすでに目標の半数近く選定されている
脱炭素先行地域になるためには、その地域の特性に応じた効果的・効率的な手法を活用し「温室効果ガスの削減」および「CO2排出実質ゼロ」を2030年までに達成する計画をたてる必要があります。
地域の持つ特性はそれぞれ異なりますので、いくつかの類型で区別されます。その類型によって脱炭素に関して責任を負う範囲が定められています。類型は以下の4つです。
・住生活エリア
・ビジネス・商業エリア
・自然エリア
・施設群
そして、脱炭素を目指すための取り組みとして、類型にふさわしい手段を下記の7つから選択します。
・再エネポテンシャルの最大活用による追加導入
・住宅・建築物の省エネ及び再エネ導入及び蓄電池等として活用可能なEV/PHEV/FCV活用
・再生可能エネルギー熱や未利用熱、カーボンニュートラル燃料の利用
・地域特性に応じたデジタル技術も活用した脱炭素化の取組
・資源循環の高度化(循環経済への移行)
・CO2排出実質ゼロの電気・熱・燃料の融通
・地域の自然資源等を生かした吸収源対策等
脱炭素先行地域の募集は第一回が2022年4月に、第二回が11月に開催され、すでに46の地域が選定されています。前述したとおり、目標は「2030年までに少なくとも100ヶ所」ですので、最低限の目標に対してすでに半数近くの地域が選定されています。
例えば、第二回で選定された京都市では、寺院などの文化遺産100ヶ所にソーラーパネルを設置するなど、太陽光発電を最大限活用し、電気料金の一部を寺社や商店街の活動費に充てる戦略を立てており、ゼロカーボンと地域経済の活性化を両立させるプランを進行しています。
参考ページ:脱炭素先行地域 - 脱炭素地域づくり支援サイト|環境省
【編集後記】脱炭素と経済成長の両輪が機能するか
社会課題解決に関する政府の資料を読んでみると、そのほとんどに「課題解決を経済成長のエンジンに」といった文言を見かけます。カーボンニュートラルにとっても同じことで、理想的には太陽光発電などの技術が安く・効率よく使えるようになればイノベーティブなソリューションになるでしょう。脱炭素先行地域の中から、「脱炭素に取り組むほど経済が潤う」という状態が作れる地域がいくつ出てくるかが今後のネックになりそうです。
(TOMORUBA編集部 久野太一)
■連載一覧
第1回:地球の持続可能性を占うカーボンニュートラル達成への道。各国の目標や関連分野などの基礎知識
第2回:カーボンニュートラルに「全力チャレンジ」する自動車業界のマイルストーンとイノベーションの種
第3回:もう改善余地がない?カーボンニュートラル達成のために産業部門に課された高いハードルとは
第4回:カーボンニュートラル実現のために、家庭や業務はどう変わる?キーワードは省エネ・エネルギー転換・データ駆動型社会
第5回:圧倒的なCO2排出量かつ電力構成比トップの火力発電。カーボンニュートラルに向けた戦略とは
第6回:カーボンニュートラルに向けた原子力をめぐる政策と、日本独自の事情を加味した落とし所とは
第7回:カーボンニュートラルに欠かせない再生可能エネルギー。国内で主軸になる二つの発電方法
第8回:必ずCO2を排出してしまうコンクリート・セメントを代替する「カーボンネガティブコンクリート」とは?
第9回:ポテンシャルの高い洋上風力発電がヨーロッパで主流でも日本で出遅れている理由は?
第10回:成長スピードが課題。太陽光・風力発電の効果を最大化する「蓄電池」の現状とは
第11回:ロシアのエネルギー資源と経済制裁はカーボンニュートラルにどのような影響を与えるか?
第12回:水素燃料電池車(FCV)は“失敗”ではなく急成長中!水素バス・水素電車はどのように社会実装が進んでいる?
第13回:国内CO2排出量の14%を占める鉄鋼業。カーボンニュートラル実現に向けた課題と期待の新技術「COURSE50」とは
第14回:プラスチックのリサイクルで出遅れる日本。知られていない国内基準と国際基準の違いとは
第15回:カーボンニュートラルを実現したらガス業界はどうなる?ガス業界が描く3つのシナリオとは
第16回:実は世界3位の地熱発電資源を保有する日本!優秀なベースロード電源としてのポテンシャルとは
第17回:牛の“げっぷ”が畜産で最大の課題。CO2の28倍の温室効果を持つメタン削減の道筋は?
第18回:回収したCO2を資源にする「メタネーション」が火力発電やガス業界に与える影響は?
第19回:カーボンニュートラル達成に向け、なぜ「政策」が重要なのか?米・独・英の特徴的な政策とは【各国の政策:前編】
第20回:カーボンニュートラル達成に向け、なぜ「政策」が重要なのか?仏・中・ポーランドの特徴的な政策とは【各国の政策:後編】
第21回:海水をCO2回収タンクにする「海のカーボンニュートラル」の新技術とは?
第22回:ビル・ゲイツ氏が提唱する「グリーンプレミアム」とは?カーボンニュートラルを理解するための重要な指標
第23回:内閣府が初公表し注目される、環境対策を考慮した「グリーンGDP」はGDPに代わる指標となるか?
第24回:カーボンニュートラルの「知財」はなぜ重要か?日本が知財競争力1位となった4分野とは
第25回:再エネ資源の宝庫であるアフリカ。カーボンニュートラルの現状とポテンシャルは?
第26回:「ゼロ・エミッション火力プラント」の巨大なインパクト。圧倒的なCO2排出を占める火力発電をどうやって“ゼロ”にするのか?