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秋田県の観光産業を、オープンイノベーションで革新する!「自立した観光事業」の確立に向け採択された4つのビジネスアイデアとは?

秋田県の観光産業を、オープンイノベーションで革新する!「自立した観光事業」の確立に向け採択された4つのビジネスアイデアとは?

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豊かな自然や食文化、温泉地など、多くの魅力的な観光資源を有する秋田県。しかし観光の課題は山積みで、2022年4月に策定された秋田県観光復興ビジョンによると、東北6県の観光消費額単価の比較で秋田県は2016年以降、最下位に位置し続けている。

そこで秋田県は2022年9月、観光DXをテーマとしたオープンイノベーションプロジェクトを始動させた。秋田県内の4つの自治体(大館市/にかほ市/美郷町/湯沢市)を舞台に、スタートアップ等と県、自治体、地元企業などが連携して、デジタル技術を活用した観光課題解決にのぞむものだ。

11月30日~12月2日、新たな観光ビジネスの創出を目指す「AKITA TOURISM INNOVATION BUSINESS BUILD 2022」が開催された。募集を行ったホスト自治体は、大館市、にかほ市、美郷町、湯沢市。全国から109もの提案が寄せられる中で、8社が選抜されビジネスビルドに挑んだ。本イベントの様子を、最終発表と審査結果を中心に紹介する。

現地視察後、2日間の議論とメンタリングにより、事業の骨組みを創る

初日である11月30日は、ホスト自治体の現地視察が行われた。大館市、にかほ市、美郷町、湯沢市の各観光地を提案企業が訪れ、課題やニーズの深掘りや提案アイデアの事前検証を実施した。そして12月1日、2日はいよいよビジネスビルドの本番だ。現地でさらにクリアになった課題感やアイデアをもとに、メンターを交えて共創ビジネスアイデアをブラッシュアップしていった。

ビジネスビルドのDAY1では、ホスト提案アイデアについて、参加企業とホスト企業、そしてメンターが入念に議論を交わした。そして中間プレゼン後、メンターから鋭いフィードバックを受けながら、アイデアのブラッシュアップを行った。


DAY2は、最終発表会に向けた準備やメンタリングを重ね、実現可能なプランを目指して提案に磨きをかけていった。そしていよいよ、2日間の集大成となる最終発表会の時が来た。採択基準は、(1)テーマとの合致性 (2)新規性 (3)市場性 (4)事業拡張性 (5)実現可能性 の5つとなる。参加企業8社が、それぞれプレゼンを行った。

現地視察と2日間のビジネスビルドを経て、各社はどのような共創アイデアを練り上げていったのだろうか。最終発表会の内容を、採択された企業をメインに紹介する。


【大館市】 謎解きやVR動画による情報拡散により、新規顧客流入を狙う

秋田犬発祥の地であり、「忠犬ハチ公の故郷」としても知られる大館市。比内地鶏や枝豆、きりたんぽといった食とグルメも豊富で、曲げわっぱなど伝統的工芸品などの地場産業も強い。このように観光資源は充実しているものの、あまり広く知られていないことが課題だ。そこで「地場産品の魅力化による『大館市』のブランディングで地域産業の活性化に繋げる」をテーマに掲げ、共創パートナーを募集した。そしてプレゼンの結果、「りべる株式会社」の提案が採択された。

■りべる株式会社「リアル×バーチャル 大館謎解き宝箱」


あらゆるコミュニケーション課題解決のために、様々な施策を組み合わせた広報PR・新規事業支援を行う、りべる株式会社。彼らが提案したのは、「謎解き」をフックとした集客プランだ。大館市は、閑散期の集客や滞在時間の短さなどに課題を抱えている。それに対して、「謎解き」コンテンツや、PRを得意とするりべるが共創することで解決を図るという。渋谷に拠点を置くりべるは、2023年のハチ公生誕100年に向けた「HACHI100プロジェクト」にも参画できれば嬉しい。と意気込みを見せた。

プランの想定ターゲットは、休日家族での時間の過ごし方を探しているファミリー層だ。そのターゲットに向けて、秋田犬の里を舞台とした「謎解き」と、大館の謎解きと観光地の魅力訴求を行うVR・WEBサイトを提供し、新規顧客の獲得を狙う。謎解きをしながら大館を周遊して楽しみながら魅力を伝え、WebサイトやVR動画などにより情報拡散し、クーポンなどの報酬を得ることで再来訪にもつなげていくというものだ。


最後に同社は「大館市には、温かい人や文化など、他に負けない魅力がたくさんある。これをきっかけにして、東京・渋谷の我々と大館市の皆さまとで、一緒に大館を盛り上げていきたい」と、決意を述べた。

<ホスト自治体・受賞者コメント>

大館市・富樫氏は、採択の決め手として「実現可能性の高さ」を挙げた。さらに、「課題を乗り越えながら、一緒にいいものを創っていきたい」と述べた。一方、りべるは「この共創を一過性のものに終わらせず、大館市という魅力ある地を盛り上げられるように尽力していきたい」、「ここから提案内容をさらにブラッシュアップして、未来につなげていきたい」と前向きに語った。


【にかほ市】 楽しみながら地域について学べるクイズラリー

日本百景のひとつである鳥海山を擁する、にかほ市。豊かな自然はアウトドアスポットとして人気があり、県外からも多くの人が訪れる。その魅力を、さらに多くの人に知ってもらいたいというのが、にかほ市の想いだ。そこで、「雄大な自然『鳥海山』の恵みを多くの人へ届ける自然体験のエンターテインメント化」をテーマに掲げ、道の駅象潟(きさかた)「ねむの丘」などの施設と連携しながら、初めての人でも楽しめる自然や食、エンターテインメントの創出を目指す。最終的に、「合同会社ダイスコネクティング」の提案が採択されることとなった。

■合同会社ダイスコネクティング「GPS学びクイズラリー」


にかほ市には観光地が点在するが、実際に周遊しているのかデータを取れていないこと、そして観光客数の減少といった課題がある。ミニゲームの提供や、ウェブコンテンツ制作、イベント企画運営などを手掛けるダイスコネクティングが提案したのは、そうした課題を解決する、楽しみながら学ぶことができるクイズラリーだ。

にかほ市の歴史や自然、アウトドアなど各テーマでクイズを解きながら観光地を回る。GPSで位置情報を取得し、チェックインポイントでスタンプが押され、すべてコンプリートできれば、「ねむの丘」での食事の割引クーポンを発行するという仕組みだ。


メインターゲットは、小中学生の子供がいる家庭。子供が楽しめることはもちろん、親も様々な知識を学びながら、家族で有意義な時間を過ごすことができる。また、データ面の課題は、このサービスにより性別や年齢、居住地、チェックインの日時などが把握でき、どのように観光地を回っているのか行動が分かるようになるという。マイルストンとしては、まずはプロトタイプを創って、試してもらいながら実証実験を展開していく。

<ホスト自治体・受賞者コメント>

にかほ市の須田氏は、「新しいコンテンツとしてすぐに取り掛かることができ、面白いものができそうなところが採択の決め手になった。ぜひ一緒に頑張りましょう」と呼びかけた。ダイスコネクティング・あべき氏は、「ビジネスビルドがこれほど大変なものだとは想像もしていなかった。これからまた気を引き締めて頑張りたい」と、決意を述べた。


【美郷町】 タクシーライドシェアの仕組みで、2次交通の課題を解決

美郷町には、ラベンダー園や六郷湧水群、真昼山、温泉宿泊施設、道の駅美郷などの観光スポットが点在する。しかし主要な駅からの移動手段が整備されていないことや、車を運転しない人の観光地へのアクセスに課題を抱えている。そこで「2次交通」に焦点を絞り、「デジタルのチカラで2次交通の課題を解消!観光スポットを繋ぐ新たな移動手段と連携し、スムーズな観光体験を提供」をテーマに設定。「株式会社NearMe」を採択した。

■株式会社NearMe「『ミズモシャトル』のご提案~美郷町の移動をもっと自由に~」


※美郷町のイメージキャラクター「美郷のミズモ」に関連づけて命名。

NearMeは、タクシーのライドシェアでドアツードアの移動問題に取り組んでいるスタートアップ。同社が取り組む美郷町の課題は、大曲をはじめとした主要駅などからの2次交通アクセスが足りないこと、滞在時間が短く、宿泊に繋がらないこと、そしてタクシー業界が成長していないことだ。観光地が点在して回りにくい、タクシーなどの手配が難しく、料金もかさんでしまう。そうした観光課題を解決すべく、「ミズモシャトル」という新しいサービスを提案した。

このサービスは、テクノロジーを活用して持続可能な二次交通へのアクセスをつくるものだ。利用者のニーズを集約し、AIを用いた組み合わせの最適化をし、そこに対して地元のタクシー会社をマッチングさせ、効率よく送迎する仕組みを同社は持っている。しかも、タクシー会社は1社占有ではなく、地元のすべてのタクシー会社が入ることができる。

これを活用して、まず空港からの2次交通アクセスを早い段階で作る計画だという。その上で、大曲駅からの移動や美郷町周遊の観光のパッケージを創る。そしてゆくゆくはそれを住民が使えるように拡張していく算段だ。


<ホスト自治体・受賞者コメント>

美郷町の出口氏は「美郷町が抱える2次交通の課題は、他の地域にも共通している。だからこそ期待も大きい。この共創でぜひ実現したい」、そして藤井氏は「共に汗をかいていきたい」と、共創に掛ける想いを述べた。NearMeの高原氏は、「現地を訪れ、リアルに課題を伺うことができてよかった。ぜひ美郷町でモデルをつくり、それを秋田県全域に広げ、秋田県内での移動を自由にしていきたい」と話した。


【湯沢市】 テレワーカーやフリーランスに寄り添う、小安峡温泉滞在体験

江戸時代初期から続く小安峡(おやすきょう)温泉。湯沢市は、この歴史ある温泉地の魅力を最大化したいと考えている。そこで「小安峡温泉を魅力化!湯沢エリアの観光資源を繋いで観光客の周遊を創出」をテーマに据え、小安峡温泉を知らない人にも隠れた魅力が伝わるコンテンツや、オンライン観光体験などを通じて、観光周遊の促進を図ろうとしている。また、「こまちシャトル」という予約制乗合タクシーの仕組みをアップデートして、温泉地以外の観光エリアとの接点創出も目指す。最終発表会の結果、「dot button company株式会社」が採択され、インキュベーションに進むこととなった。

■dot button company株式会社「第二のふるさと、小安峡温泉プロジェクト。」


人口3,000人規模から92万人規模の自治体まで、既成概念にとらわれないプロジェクトを推進する、dot button company。同社が提案するのは、「増え続けるテレワーカー、フリーランスの不安や孤独に寄り添う、第二の故郷、小安峡温泉プロジェクト」だ。

コロナ禍を経て、フリーランスは増加傾向にあり、国内ワーケーションの市場規模も急拡大が予測されている。つまり、孤独の中で働く人が非常に多くなっているということだ。こうした、気分転換や集中できる環境を求めるフリーランスやテレワーカーをターゲットに、小安峡温泉の宿に滞在し、テレワークのストレスや疲労を回復してもらうというプランだ。


Webサイトで自分に合った女将さんを選んでネット予約。駅から「こまちシャトル」に乗り、地元の案内人と共に小安峡へ。旅館では温泉や食事を堪能し、仕事に集中できる環境も得られる。そして帰宅後は、noteで滞在体験を発信してもらうことで、次の誘客につなげるという。こうして、小安峡温泉への賑わいと、「こまちシャトル」の利用促進を実現することができる。

<ホスト自治体・受賞者コメント>

湯沢市の冨田氏は、「大変素晴らしい提案をいただけた。これから一緒にブラッシュアップをしていきたい」と、期待を語った。dot button companyの中屋氏は、「しっかりと実になるビジネスを創り上げられるように、現地の声に耳を傾けていきたい」と述べた。


ソロ旅、顧客データ分析、オンデマンドバス、デジタルイラストマップ――可能性あふれる提案

今回は惜しくも採択に至らなかったが、株式会社ホーン、合同会社オレンジビズ、SWAT Mobility Japan株式会社、株式会社FBCの4社もビジネスビルドに参加し、ビジネスプランを提案した。

■株式会社ホーン「ソロ旅で秋田犬と触れる体験を提供」(大館市への提案)

「ソロをもっと気軽に、ソロからゆるいつながりを。」をビジョンに、ソロ事業を展開するホーン。同社が提案したのは、ソロだからこそ実現できる秋田犬と触れる旅、暮らす旅だ。犬が好きだが飼えないという人をターゲットに、ソロ旅の中で触れ合う機会を提供する。他にも様々なソロコンテンツを用意し、リピーターを獲得していく提案だ。


■合同会社オレンジビズ「市内の飲食店などの顧客データベースを構築し、リピーターを獲得」(にかほ市への提案)

インターネットを利用した情報提供サービスや、Webサイト制作、プログラミングカレッジ運営などを行うオレンジビズは、ねむの丘やにかほ市内の施設や店舗の顧客データベース構築を提案した。同社が提供するデジタルスタンプラリーサービスなどを活用してデータを収集、顧客ニーズを分析し、施策につなげる。レストランのクーポンなども活用しながら、また訪れたくなる観光地モデルを創っていく。


■SWAT Mobility Japan株式会社「交通課題解決、そして美郷町の美しさを発信へ」(美郷町への提案)

シンガポール発のモビリティースタートアップであるSWAT Mobility Japan。世界7カ国の自治体や交通事業者向けにオンデマンド交通を提供している実績を持つ同社の提案は、大曲駅から各観光地へのオンデマンドタクシー運行サービスだ。多様な予約方法や多言語対応など、様々な人が利用できるサービスであるだけではなく、レンタサイクルや飲食店などのクーポンをアプリ内で通知するなど、誘客ツールとしても活用することができるというものだ。


■株式会社FBC「〝秘湯リトリート・小安峡温泉〟というブランディングの確立へ向けて」(湯沢市への提案)

ブランドコミュニケーションを中心としたイベントの企画運営を行うFBC。同社の提案は、「デジタルイラストマップ」に各施設や観光ルート、イベント情報など様々な情報を集約させ、小安峡温泉の魅力づくりや情報発信を行うというものだ。それにより、小安峡温泉を“秘湯リトリート”としてブランディングし、誘客につなげていく。


メンター/審査員からの総評、閉会の挨拶

採択企業の発表後は、メンター/審査員による総評が行われた。株式会社MTG Ventures 代表取締役の藤田豪氏は、「観光に関する課題や社会課題の解決のために、スタートアップと共創しようという秋田県の姿勢が表れたプロジェクトとなった。採択された企業は、まだ現場の課題の解像度が低いので、もっと現地に張り付いて課題を捉えていただきたい」とエールを送った。


JR東日本スタートアップ株式会社 代表取締役社長 柴田裕氏は、「8社すべてが実現性の高い優れた提案だった」と賛辞を送った上で、「秋田県が観光DXをテーマに掲げてオープンイノベーションを進めることはありがたい。それほど観光にかける熱が高いのだと思う。ぜひ、この秋田の地から新しいモデルを生み出していただきたい。交通事業者として、しっかりと伴走していきたい」と語った。


株式会社CAMPFIRE シニアコンサルタント 照井翔登氏は、「採択された企業は、これからしっかりと事業を創りこんでいただきたい。また採択されなかった企業も、観光に関わる領域は課題だらけなので、またチャレンジして欲しい」と鼓舞した。さらに、「共創には、お互いの信頼関係が不可欠。ぜひ互いをよく知って進めて欲しい」と述べた。


eiicon company 代表/founderの中村亜由子は、「これがゴールではなく、ここからがオープンイノベーションの始まり。オープンイノベーションは、1社で行うよりもインパクトの大きなものを生み出せる。我々もしっかりと伴走していく」と、今後に向けた想いを語った。


続いて、秋田県 観光文化スポーツ部 観光振興課 政策監 小笠原晋氏が閉会の挨拶を行った。小笠原氏は、「109の提案から選ばれた選りすぐりの8社から、非常にレベルの高い提案をいただけた。採択された企業は、これから3カ月間のインキュベーション期間に入る。決して容易な道ではないと思うが、来年3月のデモデイでさらにブラッシュアップされたビジネスプランの発表を楽しみにしている。採択ならなかった企業も、このビジネスビルドでの経験をステップとして、挑戦を続けて欲しい」と、締めくくった。


――閉会後は、懇親会が行われた。参加企業、メンター、ホスト自治体が充実した時間を振り返り、親睦を深めた。

取材後記

地域と産業の活性化、自然体験のエンターテインメント化、スムーズな観光体験をかなえる2次交通の課題解消、歴史ある観光地の魅力化――今回、4つのホスト自治体が掲げたテーマは、全国各地に共通する課題だ。メンターの総評にもあったように、この秋田から新たな観光DXモデルが生まれるかもしれない。

採択された事業アイデアは県内自治体・メンター・サポーター企業とともに社会実装に向けたインキュベーション・実証実験を進めていく。そして2023年3月にはデモデイが開催される予定だ。今回採択された事業プランが、インキュベーション期間を経てどのようにブラッシュアップされるのだろうか。各プロジェクトの進展が非常に楽しみだ。

(編集・取材:眞田幸剛、文:佐藤瑞恵、撮影:齊木恵太)

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シリーズ

AKITA_TOURISM_INNOVATION_BUSINESS_BUILD_2022

秋田県内4市町がホストとなって「デジタルの力で自立した稼ぐ観光エリアの形成」を目指す共創プロジェクト『AKITA TOURISM INNOVATION BUSINESS BUILD 2022』。 ホスト自治体が抱える地方ならではの課題や目指したい新しい観光の姿について迫ります。