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デジタルの力で県内4自治体を「稼ぐ観光エリア」に――秋田県が共創プロジェクトを始動させた理由とは?

デジタルの力で県内4自治体を「稼ぐ観光エリア」に――秋田県が共創プロジェクトを始動させた理由とは?

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2022年9月、秋田県が観光産業の革新に向け、新たなプロジェクトを始動した。それが、秋田県主催の共創プロジェクト『AKITA TOURISM INNOVATION BUSINESS BUILD 2022』だ。

本プロジェクトでは、秋田県内の4つの自治体(大館市/にかほ市/美郷町/湯沢市)を舞台に、スタートアップ等と県、自治体、地元企業などが連携して、デジタル技術を活用した観光課題解決にのぞむ。共創を通じて、各自治体に「自立した稼ぐ観光エリア」を形成するのが目標だ。

豊富な観光資源を有する秋田県だが、観光産業における課題は山積している。今年4月に策定された秋田県観光振興ビジョンによれば、東北6県の観光消費額単価の比較で、秋田県は2016年以降、最下位に位置し続けている。秋田県の観光産業は”稼げていない”のが現状なのだ。

現在募集が開始している『AKITA TOURISM INNOVATION BUSINESS BUILD 2022』では、全国の企業の斬新なアイデアやテクノロジーを基軸に、そこからの脱却を目指す(※応募締切:2022年10月24日)。

今年度が初の開催となった本プロジェクトは、どのような思いで立ち上げられ、どのような青写真が描かれているのか。そして、各地域の産業の特徴や共創テーマ、提供リソースとは?――TOMORUBAでは、秋田県および4自治体の担当者にインタビューを実施し、プロジェクトの全貌を紐解いていく。

今回、第一弾として登場いただくのは、『AKITA TOURISM INNOVATION BUSINESS BUILD 2022』の事務局を務める秋田県庁の4名のメンバーだ。本プロジェクトに込められた思いや、秋田県の観光産業が直面している課題などについて詳しく聞いた。

秋田県の観光産業を、オープンイノベーションで革新する

――『AKITA TOURISM INNOVATION BUSINESS BUILD 2022』を立ち上げられた背景や狙いをお聞かせください。

齊藤氏 : これまでも秋田県庁をはじめ県内自治体では、さまざまな観光施策に取り組み、県内の観光産業の振興を図ってきました。それらの結果として、観光客数の増加など一定の効果は見られているのですが、他県に比べればその伸び率は低い水準で推移しているのが現実であり、新たな振興策が求められています。

時を同じくして、新型コロナウイルスの感染拡大が発生し、全世界的に急速にデジタル化が進みました。秋田県庁としても、秋田県デジタル・トランスフォーメーション(DX)戦略本部を設置し、「秋田県DX推進計画」を策定しています。そうしたなかで、観光産業においても、デジタルの力で事業者の収益力アップや観光資源の魅力向上に取り組むべきだと考えました。

さらに、2022年4月に策定した「秋田県観光振興ビジョン」では「稼ぐ」を重要なキーワードとして掲げています。そこで、デジタル技術を活用して観光産業の課題を解決し、自立した稼ぐ観光エリアの創出を目指す、本プロジェクトを立ち上げることとなりました。


▲秋田県観光文化スポーツ部 観光振興課 調整・観光地育成班 主事 齊藤 零 氏

――秋田県における観光産業の課題とは何でしょうか。

小笠原氏 : 最も大きな課題は、観光の消費額が非常に少ないことです。東北6県における観光消費額単価の比較で、秋田県は2016年以降、最下位に位置し続けています。また、宿泊業や飲食業の就業者の平均賃金は、他業種に比べて極めて低い水準です。消費額単価が少なく、繁忙期と閑散期の差も激しいため、観光事業者は非正規の従業員に頼らざるを得ず、結果として賃金が上がらないという悪循環があります。

また、秋田県の観光の魅力をうまく情報発信できていないというのも課題です。秋田県には、歴史情緒あふれる角館の武家屋敷や県内各地の温泉郷など、魅力的な観光資源が数多く存在しています。

しかし、全国的な知名度が高いのは一部のスポットのみで、逆に「首都圏から遠い」といった漠然としたイメージだけが根強いです。実際には、東京(羽田)から秋田県までは飛行機で1時間程度と、それほど遠方ではありません。こうした問題を解決するためにも、情報発信の仕組みづくりが急務だと考えています。


▲秋田県観光文化スポーツ部 観光振興課 政策監 小笠原 晋 氏

齊藤氏 : デジタル化の遅れも課題だと認識しています。昨年、観光振興課が独自で実施した、県内自治体・観光事業者を対象にしたアンケート調査では「デジタル技術を活用して観光施策の課題にアプローチしているか」という問いに対して、全体の79.1%が「アプローチしていない」と回答しました。デジタル化に対して、多くの方が敷居の高さを感じているのが実態のようです。

――課題解決の手段として、オープンイノベーションを選んだのは、なぜでしょうか。

小笠原氏 : 現状に危機感を覚え、これまでも秋田県や各市町村では、課題解決の取り組みを幾度か実施しています。しかし、それがなかなか課題解決に至っていない現状がありますし、何より地域の関係者だけで議論を重ねても、ブレイクスルー的な発想が生まれにくい傾向があります。

異なるアプローチで課題を掘り下げ、本質的な解決策を見いだすためにも、地域外から知見やアイデアを取り入れる必要がありました。その点で、オープンイノベーションは魅力的で、課題解決の手段として可能性を感じています。

舞台となるのは4つの自治体。取り組みを通じ、「自立した観光エリア」を目指す

――『AKITA TOURISM INNOVATION BUSINESS BUILD 2022』には、大館市、にかほ市、美郷町(みさとちょう)、湯沢市の4つの市町が参画し、スタートアップ等との共創にのぞみます。各市町のテーマや地域の特徴をお聞かせください。

齊藤氏 : 大館市が設定したテーマは「地場産品の魅力化による『大館市』のブランディングで地域産業の活性化に繋げる」です。大館市は秋田犬発祥の地であり、「忠犬ハチ公の故郷」としても知られています。また、比内地鶏や枝豆、きりたんぽなどのグルメも豊富で、伝統工芸品などの地場産業が強い土地でもあります。

このようにコンテンツは非常に充実しているのですが、それぞれがあまり広く知られていないのが課題です。本プロジェクトでは、新たな視点で地場産品を魅力化・発信することで、大館市の魅力と地域と産業の活性化を目指します。

次に、にかほ市のテーマは「雄大な自然『鳥海山』の恵みを多くの人へ届ける自然体験のエンターテインメント化」です。日本百景の一つである鳥海山は、アウトドアスポットとしても人気で、トレッキング、登山、森林浴などで多くの人が訪れます。しかし、その魅力は、さらに多くの人に知られてもいいポテンシャルを秘めています。そこで、道の駅象潟(きさかた)「ねむの丘」などの施設と連携しながら、初めての人でも楽しめる自然や食、エンターテインメントの創出を目指します。

長崎氏 : 美郷町は「デジタルのチカラで2次交通の課題を解消!観光スポットを繋ぐ新たな移動手段と連携し、スムーズな観光体験を提供」をテーマとしました。他の市町に比べ、美郷町はテーマが明確で「2次交通」に焦点が当てられています。

美郷町にはラベンダー園や六郷湧水群、真昼山、温泉宿泊施設、道の駅美郷などが点在しているのですが、主要な駅からの移動手段が整備されていないこと、車を運転しない方の観光地へのアクセスに課題を抱えています。本プロジェクトでは、新たな2次交通手段やスムーズな観光体験の創出が目標です。


▲秋田県観光文化スポーツ部 観光振興課 調整・観光地育成班 主査 長崎 弥生 氏

石川氏 : 湯沢市は「小安峡(おやすきょう)温泉を魅力化!湯沢エリアの観光資源を繋いで観光客の周遊を創出」がテーマです。小安峡温泉は江戸時代初期に開湯し、現在でも10軒の宿が並ぶ歴史ある温泉地なのですが、全国的には知名度があまり高くないのが現状です。

そこで、小安峡温泉を知らない方にも隠れた魅力が伝わるコンテンツや、オンライン観光体験などを通じて、観光周遊の促進を図ります。また、湯沢市内には「こまちシャトル」という予約制乗合タクシーが運行しているのですが、この仕組みをアップデートして、温泉地以外の観光エリアとの接点創出も目指しています。

さらに、今回はサポート企業として地域に根ざした地元企業、合同会社トマトクリエイション様もおりますので、うまく連携した課題解決に期待します


▲秋田県観光文化スポーツ部 観光振興課 調整・観光地育成班 主事 石川 卓 氏

――本プロジェクトにおける共創パートナーへの支援体制について教えてください。

齊藤氏 : 共創については、今回の4市町はもちろんのこと、秋田県も強力にバックアップします。また、エリアごとに体制の相違はありますが、地元企業も参画して共創パートナーの皆様をサポートする予定です。

地域課題を解決したいという熱い思いを持っていても、県外からの参入に難しさを感じる企業は少なくないはずです。そうした際に、地域に深く根付いた行政や企業の支援が得られるのは大きなメリットだと思います。私たちも、応募企業と地域の壁を解消するために、可能な限り、尽力するつもりです。

さらに、採択後の実証実験では、費用の1/2、最大150万円の支援を行います。こうした支援を活用し、思い描くビジョンを現実に近づけてほしいです。

長崎氏 : オープンイノベーション実績が数多いメンターからのサポートも支援体制の一つです。本プロジェクトのテーマを設定するにあたり、私たちや参画する市町を交えて外部メンターの方々とミーティングを実施したのですが、そこで多くの新しい発見がありました。共創においても、外部メンターからのアドバイスや指摘などが、より良いアイデアを生み出すきっかけになるのではないかと考えています。

「そんなアプローチがあったのか!」と驚愕させられる、斬新なアイデアを求める

――本プロジェクトを通じて実現したいビジョンや将来像についてお聞かせください。

齊藤氏 : 本プロジェクトは今年度が初めてということもあり、まだまだ先が見えない取り組みですが、私としては数年の期間をかけて、各エリアで自立する事業を創出したいと思っています。ここでいう「自立する事業」とは、行政の補助金や支援が入らなくても成立するビジネスのことです。

そして、ゆくゆくは本プロジェクトの成功事例を秋田県全域に横展開し、県全域の観光産業を活性化するとともに、県外の企業の皆様にも「秋田県なら面白いことができる」というイメージを訴求したいです。

石川氏 : 私は男鹿市役所からの出向職員なのですが、本プロジェクトで得たノウハウやナレッジを男鹿市に持ち帰りたいです。私自身、本プロジェクトに関わるようになってオープンイノベーションという手法を知ったのですが、男鹿市の皆さんにもオープンイノベーションの効果や意義を認知してもらい、地域課題解決のエンジンとして活用してほしいです。そのためにも、本プロジェクトを必ず成功させたいと意気込んでいます。

――最後に、応募を検討している企業にメッセージをお願いいたします。

齊藤氏 : 秋田県に眠っているコンテンツは非常に数多いです。本プロジェクトでは、そのコンテンツ群の魅力を、いかにターゲット層に届けられるかがカギになります。スタートアップ等との共創を通じて、各エリアのコンテンツをブラッシュアップし、届けたい人にしっかりと届けるのが理想です。その実現のためにも、これまでにない新たなアイデアのご提案を求めています。

小笠原氏 : 私も県外からの新たなアイデアに期待しています。少し大げさに言ってしまえば、長年、県内で観光産業に携わり、凝り固まってしまった人々の目から鱗を落とすようなご提案をお待ちしています。人間は、長期間、同じ環境にいると自然と頑なになってしまいます。地域の課題解決についても同様で、いくら斬新なアイデアを発案しようとしても、県内の人間だけではなかなか難しいのが実情です。

だからこそ、固定観念に捉われていない共創パートナーの皆様の知見が必要だと考えています。私たちが「そんなアプローチがあったのか!」と、驚愕して目が覚めるような斬新なアイデアに期待したいですね。



取材後記

取材を通じて感じたのは、事務局メンバーの危機感だった。小笠原氏の「驚愕して目が覚めるような斬新なアイデアに期待したいですね」という言葉には、通り一遍ではない熱量がこもっていた。本プロジェクトが、秋田県の観光産業の現状を何とかして変革したいという、強い意思のもと立ち上げられたことがわかる。その熱量は応募する企業にとっても心強いに違いない。

本プロジェクトへのエントリーはすでに開始されている。10月6日のオンラインによるプログラム説明会を挟んで、10月24日にエントリーが締め切られる。その後、書類選考などを通過した企業は、11月30日〜12月2日に開催される『AKITA TOURISM INNOVATION BUSINESS BUILD 2022』に進出。3日間でビジネスアイデアのブラッシュアップにのぞむ。見事、採択された企業は秋田県庁などの支援を得て、ビジネスアイデアの実証実験を実施する予定だ。

応募資格は「プロダクトや技術をお持ちで、アイデアの事業化に取り組むことのできる法人/チーム(企業規模は問わない)」。秋田県というフィールドにポテンシャルを感じ、ビジネス拡大の足がかりを求めているスタートアップ等にはぜひ応募をお勧めしたい。

※『AKITA TOURISM INNOVATION BUSINESS BUILD 2022』の詳細はこちらをご覧ください。

(取材・編集:眞田幸剛、文:島袋龍太、撮影:加藤武俊)

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  • 萩広史

    萩広史

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  • 木元貴章

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AKITA_TOURISM_INNOVATION_BUSINESS_BUILD_2022

秋田県内4市町がホストとなって「デジタルの力で自立した稼ぐ観光エリアの形成」を目指す共創プロジェクト『AKITA TOURISM INNOVATION BUSINESS BUILD 2022』。 ホスト自治体が抱える地方ならではの課題や目指したい新しい観光の姿について迫ります。