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カーボンニュートラルを実現したらガス業界はどうなる?ガス業界が描く3つのシナリオとは

カーボンニュートラルを実現したらガス業界はどうなる?ガス業界が描く3つのシナリオとは

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パリ協定で定められた「世界の気温上昇を産業革命前に比べ1.5度までに抑える」を達成するための指標として、先進国では「2050年までにCO2排出量をゼロにする」ことが目標になっています。これがいわゆるカーボンニュートラルですが、日本でも段階的な目標として2030年までにCO2排出量を46%削減することを目指しています。TOMORUBAの連載「カーボンニュートラル達成への道」では、各業界がどのように脱炭素に向けた取り組みをしているのか追いかけていきます。

今回のテーマは「ガス業界のカーボンニュートラル」です。ガス業界で流通するほとんどのガスは化石燃料であり、燃やして使うほどにCO2を排出します。となると、2050年にカーボンニュートラルが達成するのであればガス業界はどうなってしまうのでしょうか。

ガス業界が描くカーボンニュートラル達成に向けたステップと、そのために社会実装が期待される新たなテクノロジーについて解説していきます。

ガス業界が描くカーボンニュートラル化に向けた3つのシナリオ

ガス業界のカーボンニュートラル化を知るためには、ガス業界全体が目標達成に向けてどのようなシナリオを描いているのかを知っておく必要があります。

経済産業省のホームページに、一般社団法人日本ガス協会が2020年12月に作成した資料「カーボンニュートラルチャレンジ2050」が公開されています。同資料では、カーボンニュートラル達成に向けた3つのシナリオが提示されています。

1.需要側の取り組みである「徹底した天然ガスシフト・天然ガス高度利用」による着実なCO2削減。(2050年までの累積CO2を極力低減)

2.並行して、メタネーションや水素利用等、供給側のイノベーションによる「ガス自体の脱炭素化」。

3.あわせて、優れた国内技術の海外展開等の「海外貢献」による世界のCO2削減への貢献や「CCUSに関する技術開発やその活用等」。

この3つのシナリオを時系列で可視化すると以下のようなイメージになります。


出典:カーボンニュートラルチャレンジ2050 


ーーひとつずつ概要を解説します。

「累積CO2低減」の観点から、天然ガスへのシフト

カーボンニュートラルが語られる時、「2050年カーボンニュートラル達成」が大きなマイルストーンとなっていますが、そもそもカーボンニュートラル達成は地球温暖化を阻止するためのひとつの手段です。

実際に、全国地球温暖化防止活動推進センターのホームページでは「CO2の累積排出量と気温上昇量の変化はほぼ線形関係(比例関係)にある」と、IPCCの資料を根拠に言及しています。


引用:1-9 CO2累積排出量と気温上昇量の関係 

日本ガス協会のひとつ目のシナリオである天然ガスへのシフトは、このCO2の累積排出量を抑えるためのプランとなります。天然ガスは化石燃料なので燃やせばCO2を排出しますが、注目すべきは他の燃料と比較したCO2排出量です。

火力発電の燃料として石油、石炭と比較すると、天然ガスのCO2排出量はかなり抑えられていることがわかります。


出典:発電と二酸化炭素 | 中国電力

以上のことからガス業界の最初のマイルストーンは、石油、石炭などCO2排出のより多い化石燃料を天然ガスに移行させることで、化石燃料によるCO2排出量の累積を低減することとなっています。

メタネーションや水素など、イノベーションによるガスのカーボンニュートラル化

ふたつ目のシナリオはメタネーションや水素といった新技術によって、ガス自体をカーボンニュートラル化することです。イノベーションが必要なこのステップがガス業界の命運を握ると言ってもいいでしょう。

通常、化石燃料を燃やすとCO2が発生しますが、CO2は水素(H2)と結合することでメタン(CH4)になります。メタンは既存のガスインフラを利用して流通できる燃料となるため、ガスのカーボンニュートラル化に向け期待を集める技術となっているのです。

メタネーションの社会実装を実現するにはふたつの技術の確立が必要です。ひとつは水を電気分解して水素を生成する技術。もうひとつはCO2からメタンを生成する合成プラントです。


出典:CO2を有効利用するメタン合成試験設備を完成、本格稼働に向けて試運転開始 | プレスリリース | NEDO

イノベーティブな技術ではありますが、インフラ各社が連携しながら電気分解による水素の生成も、メタンの合成プラントもすでに試運転や実証の段階に入っており社会実装までの青写真は描けている状態です。

バリューチェーン全般のカーボンニュートラルのノウハウを活かした、CCUS等の海外貢献

みっつ目のシナリオは、国内のガスのカーボンニュートラル化のノウハウを海外展開し、世界のカーボンニュートラルに貢献することです。国内の技術は国際的にも高品質であるため、上流工程から下流工程まで輸出できる余地があります。

また、火力発電で排出されたCO2を回収・貯蔵して別の用途に利用する「CCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)」という技術の実証も進んでいます。東京ガスでは都市ガス利用で排出されるCO2を資源として活用する技術開発を進めており2023年度のサービス化を目指しています

参照ページ:東京ガスグループの脱炭素化に向けた取り組みについて

【編集後記】燃料の安定供給の側面からも重要

ロシア産の天然ガスの輸入の動向が不透明なこともあり、今後ガス業界がどのように変化していくのか読みにくくなっています。そうした意味でも、排出されたCO2からメタンを生成できるメタネーションの技術が実用化されることは燃料の安定供給の新たな柱としても期待されそうです。

(TOMORUBA編集部 久野太一)


■連載一覧

第1回:地球の持続可能性を占うカーボンニュートラル達成への道。各国の目標や関連分野などの基礎知識

第2回:カーボンニュートラルに「全力チャレンジ」する自動車業界のマイルストーンとイノベーションの種

第3回:もう改善余地がない?カーボンニュートラル達成のために産業部門に課された高いハードルとは

第4回:カーボンニュートラル実現のために、家庭や業務はどう変わる?キーワードは省エネ・エネルギー転換・データ駆動型社会

第5回:圧倒的なCO2排出量かつ電力構成比トップの火力発電。カーボンニュートラルに向けた戦略とは

第6回:カーボンニュートラルに向けた原子力をめぐる政策と、日本独自の事情を加味した落とし所とは

第7回:カーボンニュートラルに欠かせない再生可能エネルギー。国内で主軸になる二つの発電方法

第8回:必ずCO2を排出してしまうコンクリート・セメントを代替する「カーボンネガティブコンクリート」とは?

第9回:ポテンシャルの高い洋上風力発電がヨーロッパで主流でも日本で出遅れている理由は?

第10回:成長スピードが課題。太陽光・風力発電の効果を最大化する「蓄電池」の現状とは

第11回:ロシアのエネルギー資源と経済制裁はカーボンニュートラルにどのような影響を与えるか?

第12回:水素燃料電池車(FCV)は“失敗”ではなく急成長中!水素バス・水素電車はどのように社会実装が進んでいる?

第13回:国内CO2排出量の14%を占める鉄鋼業。カーボンニュートラル実現に向けた課題と期待の新技術「COURSE50」とは

第14回:プラスチックのリサイクルで出遅れる日本。知られていない国内基準と国際基準の違いとは

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