プラスチックのリサイクルで出遅れる日本。知られていない国内基準と国際基準の違いとは
パリ協定で定められた「世界の気温上昇を産業革命前に比べ1.5度までに抑える」を達成するための指標として、先進国では「2050年までにCO2排出量をゼロにする」ことが目標になっています。これがいわゆるカーボンニュートラルですが、日本でも段階的な目標として2030年までにCO2排出量を46%削減することを目指しています。TOMORUBAの連載「カーボンニュートラル達成への道」では、各業界がどのように脱炭素に向けた取り組みをしているのか追いかけていきます。
今回は「プラスチック」がどのような課題を持っていて、どのようなソリューションを準備しているのか探っていきます。私達にとってもっとも身近な素材のひとつであるプラスチックは、カーボンニュートラルを達成するためにどのような変化が必要なのでしょうか。
また、「プラスチックの再利用率」をめぐる国内基準と国際基準の違いについても解説していきます。
プラスチックを製造する4つの工程
プラスチックを製造する工程は大きく4つに分けられます。工程はそれぞれ以下の通りです。
1.石油精製でナフサをつくる
2.ナフサの分解で基礎化学品をつくる
3.基礎化学品を組み合わせてプラスチックをつくる
4.廃プラスチックをリサイクルする
ほとんどのプラスチック製品は石油から作られているのはよく知られています。では石油がどのように使われているのかというと、1つ目の工程で石油からプラスチックの原料となる「ナフサ」を作り出しているのです。
石油から作ったナフサは、2番目の工程で熱分解炉で850℃に熱することで分解されて基礎化学品になります。そして3番目の工程で、特定の化学製品を組み合わせるとプラスチックが作られるのです。
1〜3の工程はイチから石油を原料にプラスチックを製造する方法ですが、4番目の工程は廃プラを利用したリサイクルです。リサイクルについて詳細は後述します。
産業・工業部門のCO2排出量のうち18.6%は化学分野の排出
そもそもプラスチックの製造で排出されるCO2はどの程度あるのでしょうか。CO2排出量を部門別で分類すると、産業・工業プロセス部門は全体の29.3%、約3億トンを占めます。
そしてその3億トンのうち、化学分野によるCO2排出は18.6%にあたる約6000万トンを占めています。
出典:カーボンニュートラルで環境にやさしいプラスチックを目指して(前編)
前述したプラスチックを製造する4つの工程のうち、特にCO2が排出されるのは2番目の「ナフサの分解で基礎化学品をつくる」と4番目の「廃プラスチックをリサイクルする」段階です。
ナフサを分解して基礎化学品を作るには熱分解炉を850℃の高温にしますが、このときにメタンなどのガスを利用して焼却するためCO2が発生します。化学分野のCO2排出量は6000万トンあると説明しましたが、このうち基礎化学品は51.5%を占めていて、さらにほとんどのプラスチックの原料となっている「エチレン」と「プロピレン」はあわせて22.8%となっています。化学分野のなかでもプラスチックがどれほどのCO2排出インパクトがあるかがわかるはずです。
出典:カーボンニュートラルで環境にやさしいプラスチックを目指して(前編)
廃プラスチックの再利用率は85%だが、サーマルリサイクルの工程で大量のCO2を排出
プラスチック循環利用協会が発行している資料によると、日本の廃プラスチックの再利用率は85%と非常に高い水準であるように見えます。
しかし、再利用の内訳を見てみると以下のようになっています。
・マテリアルリサイクル:22%
・ケミカルリサイクル:3%
・サーマルリサイクル:61%
・単純焼却:8%
実はこの大半を占めているサーマルリサイクルは、廃プラスチックを燃料として再利用し焼却する方法であるため、当然CO2を排出します。サーマルリサイクルと単純焼却をあわせると年間に1600万トンのCO2を排出しています。
OECD(経済協力開発機構)の基準ではサーマルリサイクルはリサイクルに含まれず「エネルギー回収」とカテゴライズされます。マテリアルリサイクルとケミカルリサイクルのみがリサイクルとみなされます。
出典:• Chart: The Countries Winning The Recycling Race | Statista
この基準だと2013年時点の日本のプラスチックリサイクル率は19%で、OECD加盟国34カ国中27位タイとなっています。
今後、マテリアルリサイクルとケミカルリサイクルの比率を上げていくことが、プラスチック業界がカーボンニュートラルを目指す上で優先すべきことになります。
マテリアルリサイクル、ケミカルリサイクルの事例
マテリアルリサイクルとは、廃プラスチックをプラスチック製品の原料として再生させるリサイクル方法です。有名な事例だと、回収したペットボトルをフレーク状、ペレット状に再商品化し、食品用トレイや繊維としてリサイクルする方法があります。
ユニークな事例としては、今年4月にバンダイナムコグループが『ガンプラリサイクルプロジェクト』と題してプラモデルの廃材である「ランナー」を破砕・溶融・固形化して再度プラモデルとして再利用する活動が話題となりました。
参照ページ:「ガンプラ」のランナーをリサイクルするプロジェクト『ガンプラリサイクルプロジェクト』年間目標回収量の110%となる11トン超 のランナーを回収!
ケミカルリサイクルは廃プラスチックを化学原料として再生させる手法です。ケミカルリサイクル技術もペットボトルの再利用に使われており、回収したペットボトルを化学原料として再生させて、再度ペットボトルとしてリサイクルする「ボトルtoボトル」の比率も増加してきています。
【編集後記】石油から作ったプラをゼロに
プラスチック業界がカーボンニュートラルを達成するには、石油から作ったいわゆるバージンプラスチックの製造におけるCO2排出量を実質ゼロにする必要がありそうです。マテリアルリサイクルとケミカルリサイクルの比率はまだ25%程度なので、国際的には出遅れていますが、ビジネスチャンスとして捉えるとまだまだ伸びしろがありそうです。
(TOMORUBA編集部 久野太一)
■連載一覧
第1回:地球の持続可能性を占うカーボンニュートラル達成への道。各国の目標や関連分野などの基礎知識
第2回:カーボンニュートラルに「全力チャレンジ」する自動車業界のマイルストーンとイノベーションの種
第3回:もう改善余地がない?カーボンニュートラル達成のために産業部門に課された高いハードルとは
第4回:カーボンニュートラル実現のために、家庭や業務はどう変わる?キーワードは省エネ・エネルギー転換・データ駆動型社会
第5回:圧倒的なCO2排出量かつ電力構成比トップの火力発電。カーボンニュートラルに向けた戦略とは
第6回:カーボンニュートラルに向けた原子力をめぐる政策と、日本独自の事情を加味した落とし所とは
第7回:カーボンニュートラルに欠かせない再生可能エネルギー。国内で主軸になる二つの発電方法
第8回:必ずCO2を排出してしまうコンクリート・セメントを代替する「カーボンネガティブコンクリート」とは?
第9回:ポテンシャルの高い洋上風力発電がヨーロッパで主流でも日本で出遅れている理由は?
第10回:成長スピードが課題。太陽光・風力発電の効果を最大化する「蓄電池」の現状とは
第11回:ロシアのエネルギー資源と経済制裁はカーボンニュートラルにどのような影響を与えるか?
第12回:水素燃料電池車(FCV)は“失敗”ではなく急成長中!水素バス・水素電車はどのように社会実装が進んでいる?
第13回:国内CO2排出量の14%を占める鉄鋼業。カーボンニュートラル実現に向けた課題と期待の新技術「COURSE50」とは