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カーボンニュートラル達成に向け、なぜ「政策」が重要なのか?米・独・英の特徴的な政策とは【各国の政策:前編】

カーボンニュートラル達成に向け、なぜ「政策」が重要なのか?米・独・英の特徴的な政策とは【各国の政策:前編】

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パリ協定で定められた「世界の気温上昇を産業革命前に比べ1.5度までに抑える」を達成するための指標として、先進国では「2050年までにCO2排出量をゼロにする」ことが目標になっています。これがいわゆるカーボンニュートラルですが、日本でも段階的な目標として2030年までにCO2排出量を46%削減することを目指しています。TOMORUBAの連載「カーボンニュートラル達成への道」では、各業界がどのように脱炭素に向けた取り組みをしているのか追いかけていきます。

今回はカーボンニュートラル達成を目指す「各国の政策」に注目してみます。カーボンニュートラルを達成するには数々の高い目標をクリアしなければなりませんが、企業や個人の取り組みを加速する政策が非常に重要です。

前編では、政策がなぜ重要なのかの背景を解説し、その後、米国、ドイツ、英国のカーボンニュートラルの政策に注目し、有効なものやユニークなものを紹介していきます。

なぜカーボンニュートラル達成のために政策が重要なのか?国内の過去の事例

カーボンニュートラル達成のためになぜ政策が重要になるのでしょうか。過去の環境関連の政策を振り返ると重要性が見えてきます。

国内では、1967年に制定された「公害対策基本法」が良い事例です。当時、高度経済成長真っ只中の日本では工業化や都市化が進み、大気汚染、水質汚濁、自然破壊などが深刻化していました。有名な四大公害病もこのとき課題となりました。

公害対策基本法では、事業者だけでなく国や自治体にも公害を防止する責任があることが明示されました。全ての公害が収束したわけではありませんが、環境保護と経済成長を両立させた法律として政策が有効に働いた一例だと言えます。

世界で125カ国がカーボンニュートラル実現を表明

2021年4月時点で、125カ国と1の地域が2050年までのカーボンニュートラルの実現を目指すと表明しています。なお、中国、ロシア、サウジアラビアなどはカーボンニュートラルの達成時期を、これらの国と地域よりも10年遅い2060年に設定しています。つまり、これだけの国と地域の数だけ政策が存在しているのです。


出典:第2節 諸外国における脱炭素化の動向

【米国】米連邦政府を2050年までにカーボンニュートラルに

米国ではトランプ政権時にパリ協定から脱退するなど、カーボンニュートラルから遠のいていましたが、バイデン政権になってからはバイデン大統領の大統領令によってトランプ政権時の環境政策を82覆しており、さらに54の環境政策を追加しているとワシントンポストが報じています。

この中でもユニークな政策として、「2050年までに米連邦政府をカーボンニュートラルにする」というものがあります。内容はとても意欲的で、2020年代にはCO2排出量を65%削減し、2030年までにクリーンな電力に置き換え、2035年には現在65万台ある遠方政府の自動車・トラックを全てガソリン・ディーゼル車から切り替えるというものです。

米連邦政府は製品やサービスの購入・利用に年間5000億ドルを使っていると言われていますが、「Buy Clean」という施策によって、この購買力を環境対策にあてるとのことです。

【ドイツ】達成期限を5年前倒し。主力の自動車産業でEV化に大きく舵を切る

ドイツ​​連邦政府は2021年5月、気候保護法改正法案を閣議決定しましたが、目玉はカーボンニュートラルの達成期限を当初の2050年から5年前倒しして2045年にしたことです。改正法案ではエネルギー、製造業、建造物、交通、農林業、廃棄物その他の6分野で、温室効果ガスの年間許容排出量を規定する徹底ぶりです。

中でも、主力の自動車産業では2030年までに電気自動車(EV)を700万〜1000万台市場に投入することを目標にしています。自動車メーカーと連邦政府が共同でEV購入を補助する「環境ボーナス」の制度がEVの投入を加速しており、2021年6月1日時点で、制度導入(2016年7月)以降、合計約64万件の助成申請を実現しています。

参照ページ:2045年の気候中立達成へ向け、法整備や官民の取り組みが進む(ドイツ) | グリーン成長を巡る世界のビジネス動向 - 特集 - 地域・分析レポート

【英国】独立機関『気候変動委員会』が政策に提言、3つのシナリオを準備

英国では、独立機関『気候変動委員会(CCC)』が政府に対してカーボンニュートラル実現に向けた政策への提言をする仕組みになっています。CCCは「ネットゼロ排出に向けた正確な技術や行動を予測することは不可能」という前提のもと、3つのシナリオを提示しています。

排出量80%削減(1990年比)の「Coreシナリオ」、96%削減の「野心的シナリオ」、そしてネットゼロ達成の「投機的シナリオ」の3つのシナリオがあり、それぞれのシナリオでどの分野でどのような対策が必要かを明示しています。


出典:英国・EUにおける カーボンニュートラルシナリオについて

興味深いのは、分野ごとに温室効果ガスの許容排出量を決めているドイツとは正反対に、英国では「複数の道筋(シナリオ)で達成する絵姿としているため」分野ごとの排出量キャップは定めていません。あくまで状況によって流動的に政策を対応させていく狙いです。

【編集後記】環境貢献に積極的に投資できる土台の整備を

いずれの政策も、2050年の未来が完全に見通せていないことが前提になっています。つまり、結局はイノベーションが起きることが前提となっているわけなので、環境に貢献する事業への投資が積極的に行われなければなりません。

ESG投資が話題となって久しいですが、環境に貢献するからといって必ずしも儲かるわけではありません。本質的に投資を呼び込むには「環境貢献に投資することに明確なメリットがある」と動機付けてくれる土台が整備されなければ難しいでしょう。

後日掲載する後編では、フランス、中国、ポーランドでのカーボンニュートラルの政策について紹介していきます。

(TOMORUBA編集部 久野太一)


■連載一覧

第1回:地球の持続可能性を占うカーボンニュートラル達成への道。各国の目標や関連分野などの基礎知識

第2回:カーボンニュートラルに「全力チャレンジ」する自動車業界のマイルストーンとイノベーションの種

第3回:もう改善余地がない?カーボンニュートラル達成のために産業部門に課された高いハードルとは

第4回:カーボンニュートラル実現のために、家庭や業務はどう変わる?キーワードは省エネ・エネルギー転換・データ駆動型社会

第5回:圧倒的なCO2排出量かつ電力構成比トップの火力発電。カーボンニュートラルに向けた戦略とは

第6回:カーボンニュートラルに向けた原子力をめぐる政策と、日本独自の事情を加味した落とし所とは

第7回:カーボンニュートラルに欠かせない再生可能エネルギー。国内で主軸になる二つの発電方法

第8回:必ずCO2を排出してしまうコンクリート・セメントを代替する「カーボンネガティブコンクリート」とは?

第9回:ポテンシャルの高い洋上風力発電がヨーロッパで主流でも日本で出遅れている理由は?

第10回:成長スピードが課題。太陽光・風力発電の効果を最大化する「蓄電池」の現状とは

第11回:ロシアのエネルギー資源と経済制裁はカーボンニュートラルにどのような影響を与えるか?

第12回:水素燃料電池車(FCV)は“失敗”ではなく急成長中!水素バス・水素電車はどのように社会実装が進んでいる?

第13回:国内CO2排出量の14%を占める鉄鋼業。カーボンニュートラル実現に向けた課題と期待の新技術「COURSE50」とは

第14回:プラスチックのリサイクルで出遅れる日本。知られていない国内基準と国際基準の違いとは

第15回:カーボンニュートラルを実現したらガス業界はどうなる?ガス業界が描く3つのシナリオとは

第16回:実は世界3位の地熱発電資源を保有する日本!優秀なベースロード電源としてのポテンシャルとは

第17回:牛の“げっぷ”が畜産で最大の課題。CO2の28倍の温室効果を持つメタン削減の道筋は?

第18回:回収したCO2を資源にする「メタネーション」が火力発電やガス業界に与える影響は?

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