実は世界3位の地熱発電資源を保有する日本!優秀なベースロード電源としてのポテンシャルとは
パリ協定で定められた「世界の気温上昇を産業革命前に比べ1.5度までに抑える」を達成するための指標として、先進国では「2050年までにCO2排出量をゼロにする」ことが目標になっています。これがいわゆるカーボンニュートラルですが、日本でも段階的な目標として2030年までにCO2排出量を46%削減することを目指しています。TOMORUBAの連載「カーボンニュートラル達成への道」では、各業界がどのように脱炭素に向けた取り組みをしているのか追いかけていきます。
今回は「地熱発電」がカーボンニュートラルにどう貢献するかを解説していきます。数ある発電方法の中でも地熱は火力や原子力と比較して存在感が薄いですが、化石燃料を使わないクリーンな電力です。
資源に乏しい日本ですが地熱発電に関しては世界最高レベルのポテンシャルを秘めています。地熱発電はどのような仕組みで稼働しているのか、また、普及しないボトルネックはどこにあるのか、今後の展望を読み解きます。
地熱発電は地中深くのマグマの熱を利用して発電する優秀な「ベースロード電源」
地熱発電とは、地中1,500〜3,000m程度の地下にある、150℃を超える高温高圧の蒸気・熱水を利用して発電する方法です。マグマの熱で温められた、高温高圧の蒸気・熱水が貯まっている「地熱貯留層」まで井戸を掘って、蒸気・熱水を吸い上げてその力でタービンを回して発電します。使い終わった熱水は別の井戸から「地熱貯留層」に戻すことで安定的に地下から蒸気・熱水を取り出すことができるため、持続可能性の高い発電方法とされています。
出典:知っておきたいエネルギーの基礎用語 ~地方創生にも役立つ再エネ「地熱発電」
地熱発電は化石燃料を使わず、CO2排出もほぼゼロです。さらに、風力発電や太陽光発電のように天候に左右されず昼夜を問わず安定的に発電が可能な「ベースロード電源」としても期待されています。
2030年には再エネの1%が地熱に
持続可能性と安定性に優れている地熱発電ですが、国内の全体の電力における構成比率はかなり小さくなっています。総合資源エネルギー基本政策分科会の資料では、2018年度の電力構成のうち、17%が再エネでしたが、再エネの内訳を見ると地熱は0.2%と非常に少ないのが現状です。
2030年の試算を見ると、再エネの構成比率は22〜24%まで増え、再エネの内訳で地熱は1.0〜1.1%となっており成長が期待されていることが見受けられますが、インパクトはそれほど大きくありません。
出典:2050年カーボンニュートラルに向けた 地熱をとりまく現状について
地熱発電において日本は世界3位の資源を保有
日本は実は地熱発電において世界トップクラスのポテンシャルを持っています。地熱資源量では米国、インドネシアに次いで3位の位置につけていますが、その一方で実際に導入されている地熱発電設備容量は61万kWにとどまっています。
要するに、保有する資源は豊富ですがそれに対して発電量がかなり少ないのです。
出典:もっと知りたい!エネルギー基本計画④ 再生可能エネルギー(4)豊富な資源をもとに開発が加速する地熱発電
温泉資源、限定された適地…地熱発電拡大に向けたハードル
日本は地熱発電のポテンシャルが大きいことがわかりました。では、地熱発電設備容量を拡大するうえでハードルになっている課題は何なのでしょうか。
課題は大きくわけて4つあります。
1.目に見えない地下資源であり、開発リスク及び開発コストが高い。
2.地熱資源は火山地帯に偏在し、適地が限定的。
3.温泉資源等への影響懸念から、地元の理解促進が必要不可欠。
4.関係法令の規制により、許認可が必要な地点が多い。また、地域によっては過大な対応が求められる場合がある。
地熱発電に適した掘削地点を効率よく発見するイノベーション
地熱発電の抱える4つの課題のうち、2〜4は制度の見直しや地域・事業者の理解である程度解決することができそうです。ただ、1の開発リスク・コストについてはイノベーションが必要な領域であり、すでに国内でも研究・開発が進められています。
京都大学の小池克明教授が率いるプロジェクト『地熱生産井掘削地点特定用の蒸気スポット検出技術の高精度化とボーリングによる実証』では、リモートセンシング・地球化学・鉱物学・数値シミュレーション技術を組み合わせて、地熱発電用のボーリングを掘削するのに適した場所を地表から正確に見つけるための手法を開発しています。
地熱発電の先進国でもあるインドネシアを相手国として進めているプロジェクトなので、成功すれば国内でも横展開できる可能性があります。開発リスク・コストを最小限におさえることで、国内の地熱資源を効率よく活かすためのイノベーションが待たれます。
【編集後記】地熱発電は日本でカーボンニュートラルの象徴的な電源となるか
どの国にとっても発電におけるカーボンニュートラルの実現は容易ではありません。カーボンニュートラル達成を重視するならば原子力の比率を拡大するのが現実路線ではありますが、日本では慎重な議論が続いています。
本記事で解説してきたように地熱発電はインパクトは大きいものではありませんが、ベースロード電源として利用できる優秀さと、適地が多い日本の地形もあるため、今後盛り上がりを見せるポテンシャルは十分ではないでしょうか。
(TOMORUBA編集部 久野太一)
■連載一覧
第1回:地球の持続可能性を占うカーボンニュートラル達成への道。各国の目標や関連分野などの基礎知識
第2回:カーボンニュートラルに「全力チャレンジ」する自動車業界のマイルストーンとイノベーションの種
第3回:もう改善余地がない?カーボンニュートラル達成のために産業部門に課された高いハードルとは
第4回:カーボンニュートラル実現のために、家庭や業務はどう変わる?キーワードは省エネ・エネルギー転換・データ駆動型社会
第5回:圧倒的なCO2排出量かつ電力構成比トップの火力発電。カーボンニュートラルに向けた戦略とは
第6回:カーボンニュートラルに向けた原子力をめぐる政策と、日本独自の事情を加味した落とし所とは
第7回:カーボンニュートラルに欠かせない再生可能エネルギー。国内で主軸になる二つの発電方法
第8回:必ずCO2を排出してしまうコンクリート・セメントを代替する「カーボンネガティブコンクリート」とは?
第9回:ポテンシャルの高い洋上風力発電がヨーロッパで主流でも日本で出遅れている理由は?
第10回:成長スピードが課題。太陽光・風力発電の効果を最大化する「蓄電池」の現状とは
第11回:ロシアのエネルギー資源と経済制裁はカーボンニュートラルにどのような影響を与えるか?
第12回:水素燃料電池車(FCV)は“失敗”ではなく急成長中!水素バス・水素電車はどのように社会実装が進んでいる?
第13回:国内CO2排出量の14%を占める鉄鋼業。カーボンニュートラル実現に向けた課題と期待の新技術「COURSE50」とは