カーボンニュートラルに「全力チャレンジ」する自動車業界のマイルストーンとイノベーションの種
パリ協定で定められた「世界の気温上昇を産業革命前に比べ1.5度までに抑える」を達成するための指標として、先進国では「2050年までにCO2排出量をゼロにする」ことが目標になっています。これがいわゆるカーボンニュートラルですが、日本でも段階的な目標として2030年までにCO2排出量を46%削減することを目指しています。TOMORUBAの連載「カーボンニュートラル達成への道」では、各業界がどのように脱炭素に向けた取り組みをしているのか追いかけていきます。
今回ピックアップするのは自動車業界です。言わずもがな、カーボンニュートラルに向けて自動車業界は重要な役割を担っていますが、具体的にどのようなアプローチを進めているのでしょうか。
日本自動車工業会はカーボンニュートラルに「全力チャレンジ」を宣言
国内での自動車業界を取り巻く環境を整理します。まず、カーボンニュートラルを分野ごとに大別すると「電力」「非電力」「炭素除去」の三つに分けられます。自動車業界はこの中では「非電力」に該当します。
では、自動車業界はの現状の二酸化炭素排出量はどうなっているのでしょう。2019年度の日本の二酸化炭素排出量は日本の1990-2019年度の温室効果ガス排出量データによると約11億トンとなっています。
この内訳を見ると、自動車業界が含まれるのは「運輸部門」となります。運輸部門とは文字通り人や物を運ぶ部門です。運輸部門から自動車とは関係のない鉄道・船舶・航空を省いた二酸化炭素排出量は約1.8億トン(2018年度)です。
なお、運輸部門は部門別二酸化炭素排出量ではエネルギー転換部門(発電所など)、産業部門についで三番目にシェアが高い部門となっています。
政府が掲げている2050年カーボンニュートラル実現の目標を受けて、豊田章男氏が会長を務める業界団体『日本自動車工業会(JAMA)』は、カーボンニュートラルに「全力でチャレンジ」する方針を打ち出しています。
走行だけでなく、製造から廃棄までケアが必要
自動車のカーボンニュートラル実現は容易ではありません。走行だけでなく材料調達から部品製造、車両製造、そして廃棄に至るまで二酸化炭素の排出のケアが必要です。
まず、材料調達から製造の工程でできることは限られています。ひとつは、そもそも製造や廃棄時に二酸化炭素が排出されにくい設計にすることです。もうひとつは、工場などで用いる電力を再生可能エネルギーによるものに置き換えることです。これらを実現することで走行以外の二酸化炭素排出は大幅に抑えられます。
次に走行時の二酸化炭素排出について見てみます。自動車の走行時に二酸化炭素排出量を減らすには、ステップ1として燃料としてのガソリンの消費量を抑える必要があります。ガソリン車の燃費改善はもちろん、すでに広く利用されているガソリンと電気のハイブリッド車(HV)の普及が重要になります。
ステップ2として、燃料にガソリンを使わない次世代型自動車の普及が必要です。
ガソリンを利用しない次世代自動車にはさまざまな燃料が使われます。ガソリンの代替として主に電気と水素が有力なオプションになっています。そのほかにもバイオ燃料、CNG、合成燃料など、さまざまなオプションが研究・開発されて誕生している途上です。
JAMAはカーボンニュートラル実現のマイルストーンとして、「2035年に新⾞販売で電動⾞100%を⽬指す」としていますが、達成のためには強⼒な政策的・財政的⽀援が必要であると想定しています。
次世代自動車の普及にはイノベーションが必要
仮に2035年の新車販売が電動車100%になったとしても、電動車とガソリン車と置き替わらなければカーボンニュートラルは達成できません。置き替えを実現するには運輸部門に関わる多くの事業者が当事者となるため、ハードルは非常に高くイノベーションの必要性があります。
例えば川崎市では、市内のマクドナルド店舗から排出されたプラスチックゴミを昭和電工のリサイクル施設で低炭素水素へ再生させ、その低炭素水素をマクドナルドのデリバリー用EVバイクの燃料にする取り組みが始まっています。
参考記事:川崎市×昭和電工×日本マクドナルド | ケミカルリサイクルで使用済みプラスチックをEVバイクのエネルギーに
また、佐川急便とEV開発ベンチャーのASFは、二酸化炭素を排出しない小型のEVを共同開発しています。軽自動車規格のキャブバンタイプを予定しており、将来的には自動運転にも対応する計画です。
参考記事:佐川急便×ASF | 小型電気自動車の共同開発・実証実験を開始
このように、運輸部門に関連する事業者がドラスティックに次世代自動車を導入するためのイノベーションを模索している動きが活発化しています。
【編集後記】モビリティに関わっているなら個人も法人も当事者
持続可能な社会を作るためにカーボンニュートラルが必要なのは当然として、同時にカーボンニュートラルを推進するプレイヤーが経済的に成功することが理想です。言い換えれば、環境に配慮したビジネスを消費者側がチョイスすることが重要となります。
自分が移動するときや、物を送るときなどに事業者を選ぶ際、価格やサービス内容だけでなく環境への配慮の有無を考慮できれば、自動車業界のカーボンニュートラルを小さく前進させることができるはずです。
(TOMORUBA編集部 久野太一)
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