
自動車サプライヤーの次の一手!異業種参入・技術転用を目指す愛知県内企業の挑戦とその後の展開に迫る――『愛知自動車サプライヤーBUSINESS CREATION 2024』成果発表会レポート
3月19日、中日ホール&カンファレンス(名古屋市)で、愛知県が主催するイノベーション創出を目指した4事業の合同成果発表会、『AICHI INNOVATION CHALLENGE』が開かれた。このイベントでは、『AICHI MATCHING 2024』『愛知自動車サプライヤーBUSINESS CREATION 2024』『TECH MEETS』『AICHI CO-CREATION STARTUP PROGRAM 2024』の4つのプログラムから生まれた成果を披露。イベント当日は、各プログラムの成果発表に加え、基調講演や登壇企業との面談ができるブース出展、合同交流会も実施され、スタートアップ・エコシステムの発展や地域連携、オープンイノベーションに関心を持つ多くの来場者で賑わった。
本記事では、そのうちの『愛知自動車サプライヤーBUSINESS CREATION 2024』のイベントレポートをお届けする。同プログラムは2023年度より始動しており、県内の中堅・中小自動車サプライヤーの新事業創出、新分野進出に向け、新たな事業の柱の構築を支援することを目的としている。プログラムの特徴は、自社の強みを活かしながら、自社単独で新事業開発の深化を目指す「社内新事業開発コース」と、他社との協業を前提とした新事業創出を目指す「共同事業開発コース」という、2つのコースを用意している点だ。

記事前半では、2024年度の「社内新事業開発コース」に参画した企業3社(小島鉄工所/高井技鈑/東郷製作所)による進捗報告のトークセッションを紹介。また、記事後半では、2024年度の「共同事業開発コース」に参画した2社(Edge Creators/江口巖商店)と、2023年度の「社内新事業開発コース」に参画した七宝金型工業のピッチの様子をレポートしていく。
危機感から一歩を踏み出した、自動車サプライヤー3社が語る新規事業創出のリアル
トークセッションのパートでは、「自動車サプライヤーによる新事業の実践」をテーマとして、社内新事業開発に取り組んだ小島鉄工所の小島武史氏、高井技鈑の高井俊宜氏、東郷製作所の牧野勲氏が登壇した。

自動車部品の切削加工を得意とし、岡崎市で従業員15名の町工場を経営する小島氏は、プログラムに参画した背景として「自動車産業の危機感」を挙げた。プログラム内で実施したワークショップを通じて、自分たちの技術力を把握して、技術を発信することに課題があると感じたという。

続いて会社紹介をしたのは高井技鈑の高井氏。岡崎市で創業し、自動車やロボットの部品の精密研削加工を得意としている同社は、製造現場の半分以上が女性の従業員であるという特徴がある。プログラムに参画した背景には、小島鉄工所と同じく、自動車部品の減産からくる見通しの不安があったという。

トークセッション3人目の登壇者は、東郷製作所の牧野氏。東郷町を拠点にする従業員870名ほどの中堅企業として、自動車部品のばねやプレス品の成形技術に特徴を持っている。同社もまた、EV化が進む業界での組立品の減産に危機感を抱いており、プログラムへの参画を通じて社会課題解決型の新規事業に取り組んでいる。

プログラムに参画した手応えを聞かれた小島氏は、「自分たちの技術力の活用先がわからなかったが、プログラムを通して整理できました」と語った。同じく、牧野氏も「我々はばねメーカーですが、そこにこだわらず大きな視点でテーマの創出に取り組めました」と述べ、双方ともプログラム参画によって自社の立ち位置やチャレンジの方向性が整理できたことをメリットに挙げた。さらに、東郷製作所では社内で社会課題をテーマにした企画案を募ったところ、70名から100件を超える応募があったという。現在は次のステップへ向けてそれぞれの企画案について情報収集を進めているところだ。
セラミックの研磨加工をテーマに新規事業開発を進めている高井技鈑の高井氏は、事業創出の難しさを問われると、「セラミックメーカーへのヒアリングで、セラミックの加工に需要があることはわかったものの、同時に難易度の高い技術ということもわかりました。ただ、調査するほどに可能性のある市場であることも明確になっています」と語り、難易度は高いが挑戦しがいのある市場であると自信をのぞかせた。

新たな市場への参入という共通点のある牧野氏は、この意見に共感し「我々は農業への参入にあたって情報収集したくても、パイプがありませんでした。突然メールや電話をして話を聞かせてほしいと連絡をしたわけですから、返事がくるか心配だったのです。ただ、思いのほか皆さんから連絡が帰ってきたので、関係者の方々には感謝しています」と苦労を振り返った。こうして泥臭くヒアリングを重ねた結果、「農業業界の現実的な面を知れた」「現場の困りごとの情報を得られた」「業界にパイプができた」といったメリットを得られたという。現在はこのように市場調査を続けているフェーズだが、今後は調査をもとにした事業化計画の立案を見据えているとのこと。
小島鉄工所は、プログラムを通じて展示品を制作するフェーズまで進んでいる。次のアクションとしては「展示品をより高精度に仕上げて、展示会で売り込んで行ければ。」と今後の意気込みを語った。

トークセッションを通じて3社いずれも、プログラムを通じて自社の持つ技術が優れていることを再認識し、新規事業の創出につなげているという共通点があった。異業種への参入など一定の壁はあるものの、外に目を向けることで新たな売上の柱を切り開く可能性があることを気づかせてくれるセッションとなった。
愛知県の自動車産業からオープンイノベーション創出を目指す3社のピッチ
『愛知自動車サプライヤーBUSINESS CREATION 2024』では、愛知県産業を支える自動車産業が引き続き競争力を維持し続けられるよう、電動化分野への対応や自動車産業以外の新たな分野へ進出することなどを含め、中堅・中小自動車サプライヤーが新事業の柱を獲得するためのプログラムを展開している。
2024年度の「共同事業開発コース」に参画した企業による成果発表会のセクションでは、Edge Creatorsと江口巖商店がピッチを実施。さらに、2023年度の「社内新事業開発コース」に参画した七宝金型工業も、新事業のその後の展開についてピッチを行った。
●株式会社Edge Creators「“臭い”をテーマにしたトータルソリューション構築」
(2024年度「共同事業開発コース」参画)

▲担当者が急遽欠席となったため、同社のピッチ内容はモデレーターが代理で紹介する形となった。
2011年に創業し、愛知県岡崎市に本社を構えるEdge Creatorsは、自動車業界を中心に受託開発、課題解決、実験評価分析といった事業をメインに展開している。同社が今回掲げたテーマは「臭い」だ。樹脂などの素材に熱源を加えることによって、現場で発生する独特の臭いが問題となっており、作業環境の改善が求められている。この課題に着目し、『臭い』問題の解決に取り組む。「消臭・脱臭効果がある素材」「フィルタによる吸着や分解」「ニオイのセンシング、分析技術」といった技術やサービスを求め、消臭・脱臭プロダクトの共同開発を目指している。
これまで同社が手がけてきた事業とは異なる新分野への挑戦であるが、「臭い」という課題の解決に取り組むことで、社会貢献と事業成長を両立させ、今後の事業の軸にしていきたいと考え、本プログラムに取り組んでいる。その結果、2社とマッチングすることに成功した。1社目の東北ウェイストエナジーは、同社のマイクロバブル技術を用いて水に溶けた有機物を分解する技術を応用して臭いの分解をする狙いでパートナーとなった。2社目のパートナーは、名古屋市で建築事業を中心にカビ除去などの研究開発を展開するエグゼスタイルだ。
今後、東北ウェイストエナジーとは廃棄物由来の吸着・分解技術を活用した”エコフレンドリー技術横展開”に取り組み、また、エグゼスタイルとは光触媒技術を活用した”快適空間作り”に取り組むという。それぞれの技術を融合し、多面的なアプローチで臭い問題を根本から解決することで、作業環境の改善にとどまらず、生活空間や社会環境の向上にも貢献していく方針だ。

●株式会社江口巖商店「塗装技術を応用し、IoTの加速と持続可能な農業を実現」
(2024年度「共同事業開発コース」参画)

続いて登壇したのは、江口巖商店の一楽氏。創業117年の歴史を持つ同社は、名古屋市に拠点を構える、自動車用塗料をはじめとした商社だ。昨今変化を続けるモビリティ社会への対応や、環境負荷対策に配慮してプログラムに参画したと語る一楽氏は、今回のコンセプトを「将来社会を見据えた環境配慮、環境適応型の新しいものづくり」だと説明する。具体的にはIoTの加速と温暖化の対応に着目してパートナー選定を進めた。
パートナーとしてマッチングした青森県のジョイ・ワールド・パシフィックは、IoTセンサーをはじめとする精密機械の組み立てやスマート農業技術を用いたいちごの生産加工を主な事業としている。この2社によって解決を目指す課題は2つ。ひとつは「遮熱性の高いビニールハウスで温暖化でも持続性のある農業」、もうひとつは「耐環境性を高める電子機器へのコーティングによってIoTを加速する」とのこと。
江口巖商店からは塗装技術のノウハウと市場調査のリソースを提供し、ジョイ・ワールド・パシフィックからは実機での遮熱性に関するデータ収集、ビニールハウス内の状況の整備といったリソースを提供する。

PoCでは、センサー及びビニールに機能を付与して生産機能の安定や生産性の向上を検証する。具体的には、いちごの生産を通じてセンサーの横展開の可能性や、ハウス内の除熱といった技術の応用、費用対効果などを調査するという。
今後は2028年に市場への展開を見込むほか、農業以外の用途の開拓も進めるマイルストーンとなっている。また、新たなパートナー探しの一貫として、センサーのカバーやビニールメーカーなどとの接点の創出を会場に呼びかけた。
●七宝金型工業株式会社「トップダウンから生まれた新たな“治具”で大きな成果」
(2023年度「社内新事業開発コース」参画)

3社目として登壇したのは、七宝金型工業の野場氏。2023年度のプログラムに参画した同社は、プログラム後の事業の順調ぶりを報告した。七宝金型工業の主力事業は大型の金型の設計施工だが、野場氏が所属する研究開発課では、自動化や省人化に向けた設備の開発や、金属3Dプリンターを活用した技術製品の開発を推進している。
プログラムに参画した背景について野場氏は、「金型だけでは今後やっていけない、とトップダウンで自社製品の開発をするように指示があった」と語った。ものづくりの経験はあるものの、販売の経験がなかった同社は、マーケティングなどに苦労しながらも、現場の困りごとからヒントを得て「水平出し」の工数を改善する治具を開発する方針を固めた。
開発・販売の過程を野場氏は笑い話を交えて振り返った。「何十トンという重量物をターゲットにした同様の治具は、市場になかったため難しい仕様検討になりました。現場の方々とはかなり喧嘩したのですが、なぜかというとこれまで自社で使う道具は作ったことがあったものの、販売の経験はなかったので、製品の品質に関して現場と折り合いがつかなかったためです。苦労したかいもあって、0.01ミリ単位の調整ができる治具『EASYG(イージグ)』が完成しました。これは売れる、と社内でも大いに盛り上がりました」。

その後、課題だったマーケティングを本プログラムで集中的に取り組み、2024年6月に販売したところ、目標が100個だったのに対して8ヶ月で111個を販売する結果に至ったという。プロジェクト発足時は「社長のお遊びでは、と冷ややかな雰囲気が社内にあった」とのことだったが、社内の改革に繋がったという成果をあげることができたとピッチを締めくくった。
取材後記
危機感から始まった企業の挑戦が、確かな手応えへと変わっていく過程が印象的だった本プログラム。自社の技術を見直し、市場と対話しながら事業のタネを育てていくプログラム参画企業の姿には、地域のモノづくり企業が持つ底力を感じた。既存の枠にとらわれず、変化を力に変える取り組みが今後どう広がっていくのか、引き続き注目したい。
(編集:眞田幸剛、文:久野太一、撮影:加藤武俊)