自動車産業の大変革期を勝ち抜く――『愛知自動車サプライヤーBUSINESS CREATION』始動!参画企業3社が共創で目指す新事業とは?
CASE、MaaSなど、クルマや移動を取り巻く新たな潮流によって、自動車産業全体が大きな変革期を迎えようとしている。このような状況の中、国内自動車産業の一大集積地である愛知県では、2021年に策定した「あいち自動車産業アクションプラン」をベースに、県内自動車産業の持続的な発展を目指した様々な取り組みを推進している。
本年度、愛知県は、県内の中堅・中小自動車サプライヤーの新事業創出、新分野進出に向け、新たな事業の柱の構築を支援するプログラム、『愛知自動車サプライヤーBUSINESS CREATION』を始動。セミナーやワークショップの開催を経て、他社と連携した新事業の共同開発を目指す「オープンイノベーション推進プログラム(Aコース)」、自社内で新事業の開発を目指す「新事業展開プログラム(Bコース)」の2つのコースで参画企業を募り、全8社をハンズオン支援している。
TOMORUBAでは、愛知県庁担当者への取材を実施し、『愛知自動車サプライヤーBUSINESS CREATION』を立ち上げるに至った背景や県としての支援体制、プログラムにかける意気込みについて伺った。また、他社とのオープンイノベーションを目指す「オープンイノベーション推進プログラム」に参画した県内企業3社(オーテック、名友産商、前田シェルサービス)にもインタビューを行い、今回のプログラムへの参画理由や、共創で実現したいビジョンなどについて語っていただいた。
オープンイノベーションは自動車産業の大変革期を勝ち抜くための有効な手段となり得る
まずは、『愛知自動車サプライヤーBUSINESS CREATION』の運営主体である愛知県庁の中田氏・岩田氏に、愛知県の産業特徴や県としての取り組み、今回のプログラムの実施背景や目指すゴールなどについて話を聞いた。
――今回のプログラムの概要をお聞きする前に、愛知県が地域企業の新事業創出を支援する背景について教えていただけますか?
中田氏 : 愛知県は、製造業の規模を示す製造品出荷額等の分野で45年連続全国1位であり、国内でも突出してものづくりが盛んな地域です。なかでも自動車産業は5割を占めており、愛知県にとっての基幹産業です。県内には完成車メーカーのトヨタ自動車や三菱自動車工業が存在し、両社の事業に関連する多くのサプライヤーも立地しているため、私たち自身も「愛知県は自動車産業のメッカである」と捉えています。
このように愛知県にとって重要な自動車産業ですが、CASE,MaaSの進展により「100年に一度と言われる大変革期」を迎えています。特にエンジン車から電動車への移行が進むことで、自動車1台あたりの部品点数は2/3程度に減ってしまうと予測されており、自動車を構成する部品群も従来の切削・鋳造・プレスで作られていた機械部品から、電気・電子部品やソフトウェアへと軸足が移っていくと考えられています。
▲愛知県庁 産業振興課自動車グループ 主任 中田 大策氏
――自動車が変われば、産業自体も変わらなければならないということですね。
中田氏 : そのように考えています。サプライヤー各社は電動化への対応はもちろんのこと、これまでに培ってきた高度な技術、ものづくりに関するノウハウなどを活かして、新分野への進出や新事業の開発を目指すことが重要になると考えています。
私たちは県内産業の要である自動車産業の振興を目的とした支援策を実施しています。電動化に向けた情報提供やセミナーの実施、県の公設試験場とタッグを組んだ技術開発支援、製造現場のDX支援、販路拡大に向けた展示会への出展支援などが挙げられます。現在は特に、新分野進出・新事業開発促進に注力しており、そのための取り組みの一つが、今回の『愛知自動車サプライヤーBUSINESS CREATION』となります。
――それでは改めて『愛知自動車サプライヤーBUSINESS CREATION』の立ち上げ背景についてお聞かせください。また、「オープンイノベーション推進プログラム(Aコース)」と「新事業展開プログラム(Bコース)」という2つのコースを設けられた理由についても教えてください。
岩田氏 : CASEやMaaSの進展によって、自動車産業を取り巻く環境が劇的に変わりつつあります。多くの自動車サプライヤーの皆様にとっては、大きな影響があると同時に、このような大変革期は、新たな潮流を捉えた新事業を創出するチャンスでもあると考えています。
しかし、多くのサプライヤーは新事業の開発経験がなく、事業立ち上げ時には困難に直面することも多いのではないでしょうか。また、急速な変化に対応するためには、事業の立ち上げ期間の短期化も重要となります。このような状況を踏まえ、外部リソースとの連携も視野に入れるべく、自社の強みを生かしながら、自社内で新事業の開発を目指す「新事業展開プログラム(Bコース)」に加えて、今年度から新たに、オープンイノベーションを活用する「オープンイノベーション推進プログラム(Aコース)」を設定するに至りました。
オープンイノベーションのメリットは、他社のリソースを活用することで開発にかかる期間やコストを削減できる点にあり、まさにこの激動の時代を勝ち抜くための有効な手段であると考えています。
▲愛知県庁 産業振興課自動車グループ 主事 岩田 侑美 氏
――愛知県としての具体的な支援内容についても教えていただけますか?
岩田氏 : 新事業創出支援の豊富な実績を持つeiicon社と連携し、支援企業様の状況に応じたハンズオン支援を実施していく予定です。今年度はこれまで、7月から8月にかけて事業創出に関するセミナーを4回開催したほか、WebメディアやSNS、県からのプレスリリースなど、様々な形での情報発信を行っています。
また、必要に応じて、技術開発や製造現場のDX推進に活用できる補助制度の案内や必要なサポートをしていきたいと考えています。3月には、成果発表会も予定しています。
――最後になりますが、今回のプログラムで目指すゴールや展望、お二人の意気込みなどをお聞かせください。
岩田氏 : 愛知県では、令和2年度より新事業開発を支援するプログラムを実施してきました。県としては今後も引き続き、共創による新事業の創出支援、各社のコア技術を活かした新事業展開支援をしていく方針です。「100年に一度の大変革期」と言われ、世界中の企業が技術開発にしのぎを削る、まさに激動の時代を迎えており、サプライヤーの皆様が競争に勝ち抜くには、早い段階で策を講じておくことが必要と考えます。
社外のリソースを活用するオープンイノベーションは、まだ馴染みの薄い手段であるかもしれませんが、今回のプログラムをきっかけに、県内の自動車サプライヤーの皆様にも積極的に取り入れていただき、新事業創出の一歩を踏み出していただければ嬉しく思います。
中田氏 : これまで多くのサプライヤーの皆様とお会いしていますが、一社一社が本当に優れた技術をお持ちであると感じています。皆様には自動車の電動化領域、さらには自動車以外の分野でも、優れた技術・ノウハウを活かしていただきたいと考えています。県として全力でお手伝いさせていただきますので、一緒になって頑張っていけたらと思っています。
【株式会社オーテック】ものづくりの知見とデジタル技術を組み合わせて生産管理の革新を実現したい
ここからは同プログラムの「オープンイノベーション推進プログラム(Aコース)」のホスト企業として共創パートナーを募集するサプライヤー各社へのインタビューをお届けする。最初に紹介するのは独自技術「冷間鍛造工法」を活用した、自動車部品製造に強みを持つ株式会社オーテック。同社の取締役 統括部長 小川大佑氏にお話を伺った。
▲株式会社オーテック 取締役 統括部長 小川 大佑 氏
――最初にオーテックの事業内容や特徴について教えてください。
小川氏 : 当社は1959年に名古屋市北区で創業し、60年以上にわたって自動車部品の製造・量産をメインに事業を展開してきました。2015年には愛知県小牧市に新工場を建設し、以降は本社機能や各地に点在していた小規模工場も、小牧市の拠点に集約する形で現在に至っています。主な製造品目は、自動車エンジンや排気系システムの部品です。得意先は大手Tier1メーカーが中心であり、多くの国産車に当社の部品が搭載されています。
当社の強みは、独自技術である「冷間鍛造工法」にあります。既存の工法を冷間鍛造に置き換えることで、より高品質でコスト削減にもつながるものづくりが実現できるため、多くのお客様からご支持いただいています。また、冷間鍛造だけでなく、プレス工程や機械加工、溶接など、様々な異なる金属加工技術を組み合わせた社内一貫生産体制を有していることも、当社の大きな強みとなっています。
また、近年は製造現場のIoTや間接業務などでデジタルツールの活用を推進しており、複数社のスタートアップ企業とも連携しています。加えて、デジタル化で得たデータを自社のものづくりの技術・ノウハウと結びつけて自社内で生産性を改善する装置を開発するなど、単純にデジタルを導入するだけでなく、デジタルを活用した現場の成果創出を意識した活動を推進しています。
――貴社が『愛知自動車サプライヤーBUSINESS CREATION』に参画した背景・理由についてお聞かせいただけますか?
小川氏 : 世間一般で広く言われているように、自動車産業には100年に1度の大変革期が訪れています。当社のメイン商材は自動車のエンジンや排気系の部品であるため、今後エンジン車が減少を続けると、当社の売上自体もそれと等しく減ってしまうなど、大きな影響を受けることは間違いありません。
先ほど申し上げた、デジタル化による生産性向上や製品の競争力向上に加え、自社の利益率や収益性を上げる様々な取り組みを行ってはいるものの、やはり自動車部品一辺倒ではリスクが高いと感じており、新しい事業の育成や事業構造の一部転換を避けて通ることはできないと考えていました。
当社が60年以上培ってきたものづくりの技術や近年のデジタル化に関しては、ある程度胸を張って誇れる部分もあるものの、まったく異なる事業を生み出した経験はありません。自社内で新しい人材を採用してゼロから新しい事業や技術を生み出すには、リソース的にも能力的にも難しいと感じていたところに、今回の愛知県さんのプログラムのお話をいただいたのです。
オープンイノベーションの手法を用いて、当社が有するものづくりの技術・ノウハウと他社のリソースを組み合わせることで、まだ世の中にない製品・サービスを生み出せる可能性があると思い、エントリーを決意しました。
――今回のプログラムでは、どのような共創パートナーを募集し、どのような価値を一緒に生み出していきたいと考えていますか?
小川氏 : 私たちは今回のプログラムで、デジタル技術による生産管理の革新を実現したいと考えています。現在でも世の中には数多くの生産管理システムがありますが、各社の様々なものづくりに完璧に対応できるシステムはまだ存在していないと思います。自社の業務を強引にシステムに合わせるか、もしくはシステムを大幅にカスタマイズする必要があり、多額の投資と手間が掛かってしまいます。
また、生産管理システムを導入したとしても、私たちのような中小企業は完全なデジタル化ができていないため、在庫の管理や生産数の集計に関しては、どうしても手作業に頼らざるを得ず、そこで発生するミスが納期遅れや欠品につながってしまうケースも多いのです。
このような状況を解消するためにもAI、IoT等のデジタル技術や計測ツール関連の技術を持ったスタートアップの皆様と、材料から最終製品化までの各工程における製品数の見える化が実現し、尚且つ100名程度の中小企業でも導入しやすいような、システム・デバイスを開発したいと考えています。
――共創に際してオーテックからパートナー企業に提供できるリソースやアセットについて教えてください。
小川氏 : 当社は冷間鍛造やプレス加工、切削、溶接など、様々な加工技術・生産方式を有しており、それぞれの製造現場を実証実験の場として活用いただけます。また、名古屋市北区の旧本社工場は、現在も空き家として残してあるため、実証実験のスペースとして使ったり、製品が完成した際の展示・営業スペースにしたり、ラボのような交流スペースとして使うこともできると考えています。
また、冒頭で申し上げたように、これまでにもデジタルツールの社内導入に関してスタートアップ各社と連携してきた実績があります。官公庁やメディア、中小製造業者とのネットワークを通じて、製品・サービスのPRや拡販ルートとして活用いただける可能性があります。
加えて私自身の話になりますが、以前は大手外資系コンサル会社で働いていた経験があり、2年ほどスタートアップの設立支援に関わったことがあります。その過程で事業計画立案やマーケティング戦略立案、人事採用、製品・サービスの設計やプライシング、M&Aも含めた事業提携交渉など、様々な業務を経験してきたので、そのような観点でもお力になれると考えています。
▲オーテックでは、付加価値の高いものづくりを推進するために、積極的に設備投資をしている。こうした製造現場も実証実験で活用することが可能だ。
――最後になりますが今回のプログラムに対する意気込み、応募を検討している企業へのメッセージをお願いします。
小川氏 : 当社を含む日本の中小製造業者の皆様は、国際競争や事業構造の変化、物価高騰、人手不足、後継者不足、賃上げ、さらに最近ではカーボンニュートラルへの対応など、多くの課題・難題に直面していると思います。日本の中小企業には、世界に誇れるような技術力を持っている企業もたくさんありますが、このような厳しい状況が続くことで存続が難しくなるケースも出てきており、個人的にも強い危機感を持っています。
このような状況を打開するためにも、今回のプログラムを通して中小企業の生産管理改革に寄与できる製品・サービスを生み出し、日本のものづくりを支えている多くの中小企業の生産性・収益性向上に貢献していきたいです。そのためにもパートナー企業の皆様がお持ちのデジタル技術と当社の技術・ノウハウを組み合わせた新しい製品・サービスを生み出していきたいと考えているので、志や問題意識を共有し、情熱を持って一緒に取り組んでいけたらと考えています。
【株式会社名友産商】様々な業界・領域で生産性の高い「転造加工」の技術を活かしたい
続いて紹介するのは「転造加工」の技術による少量多品種のものづくりに強みを持つ、株式会社名友産商だ。同社の代表取締役である南竜市氏にお話を伺った。
▲株式会社名友産商 代表取締役 南 竜市 氏
――最初に名友産商の事業内容や特徴について教えてください。
南氏 : 当社は1975年の設立となりますが、最初は機械・機械部品の商社として事業をスタートしました。その後、様々な機械を販売していた関係から、転造加工を行うための転造盤という機械を下取りすることになり、以降は商社部門と製造部門の2軸で事業を展開し、徐々に製造業の割合を増やしてきました。さらに平成に入って自動車サプライヤーとの直接取引を開始して以降は、自動車向けの製造業務の比重が高くなり、現在では自動車部品用のネジ・ギアの製造が売上の80%強を占めています。
――貴社の強みである転造加工とは、どのようなメリットのある加工技術なのでしょうか?
南氏 : 転造加工は「冷間塑性加工」とも呼ばれており、常温の金属を金型で絞り込んで成形する工法となります。研削したダイスで被加工面を押しつぶすため、面粗度が向上するほか、切削加工のように金属組織を切断しないので、高い強度を保つことができます。また、切削を行わないため、金属の破片や金屑も発生しないクリーンな技術であるとも言えます。
――貴社が『愛知自動車サプライヤーBUSINESS CREATION』に参画した背景・理由についてお聞かせいただけますか?
南氏 : 先般のコロナ禍での減産、今後の電動化による自動車部品点数の減少などを考えると、自動車部品の1本足で事業を続けていくことに不安がありました。そこで、昨年1年間かけてマーケティング戦略の見直しを行った結果、自動車産業以外の領域でも地域に根差した貢献ができる可能性を見出せたため、リスク分散の手段の一つとして今回のプログラムへの参加を決めました。
――今回はオープンイノベーションを前提とした取り組みになりますが、他社との協業・共創についてはどのようにお考えでしょうか?
南氏 : 当社の得意とする転造加工は、ニッチな技術です。お客様は皆、転造盤を使ってネジを加工できることはご存知ですが、「その機械を使って他に何ができるのか」というところまで突っ込んで聞かれることはほとんどありません。今回のプログラムでは、当社から転造加工を使った様々な提案をさせていただけると考えており、その意味では大きな期待を持っています。
▲転造技術を駆使して作られた「ウォームねじ」。
――今回のプログラムでは、どのような共創パートナーを募集し、どのような価値を一緒に生み出していきたいと考えていますか?
南氏 : 当社がこれまでに培ってきた転造加工の技術を活かすことで、自動車産業以外の様々な分野で、ネジ・ギアの製造を行っていきたいと考えています。昨今では、後継者不足や人手不足で事業を畳まれているものづくり系の中小企業も少なくありません。農機具や農業機械、建設資材、医療機器、航空分野、半導体など、様々な業界・領域で転造加工の工法を活かし、生産性を上げるような取り組みを提案ができればいいなと考えています。
そのため、ネジ・ギア関連のものづくり技術・ノウハウを求めている企業様、現状の工法に課題を感じている企業様、さらにはこれから新しい製品の試作・量産を検討している企業様などと共創したいと考えています。
――共創に際して名友産商からパートナー企業に提供できるリソースやアセットについて教えてください。
南氏 : まずは転造加工に関するノウハウですね。金属はもちろん、樹脂、木材など多彩な素材を転造加工するための技術・ノウハウを提供できると考えています。また、当社側で開発業務やテスト加工を担当することもできますし、精密なネジ・ギア、強度が必要なネジの多品種少量生産を行うためのノウハウもご提供できます。
さらに当社では、全設備にIoT機器を取り付けて生産性や金型の寿命などを一括管理しているため、ものづくり企業におけるIoT機器導入に関してもアドバイスできるのではと考えています。
――最後になりますが今回のプログラムに対する意気込み、応募を検討している企業へのメッセージをお願いします。
南氏 : 近年は日本のものづくり業界に元気がありませんが、私たち自身が様々なチャレンジを行うことで新たな価値を創造し、その価値を通じて社会やお客様の課題を解決していきたいと考えています。今回のプログラムを通して、そのような取り組みを一緒に進めていける企業様とお会いできればと思っています。
【前田シェルサービス】サステナブル材料と3Dプリンターで地球に優しいインテリア製品づくりを目指す
最後に紹介するのは、生産現場で使用されるエアーフィルターや耐摩耗性ウレタンを開発・販売する、株式会社前田シェルサービス。同社は、金型製作や試作品製作に強みを持っているが、今回は樹脂製3Dプリンターを活用した共創を目指しているという。今回は、同社のグループ会社で、本プロジェクトの共同推進者である、株式会社前田技研の柴野氏にお話を伺った。
▲株式会社前田技研 技術営業グループ 柴野 光輝 氏
――前田シェルサービスおよび前田グループの事業内容や特徴について教えてください。
柴野氏 : 私たち前田グループは、前田シェルサービスと前田技研の2社で構成されています。前田シェルサービスは、工場に導入されているエアーフィルターやドライフィルターの開発・販売、前田技研は金型製作や試作品製作などを行っている会社となります。長年にわたって厳しい品質基準をお持ちの自動車メーカー様向けに製品を提供してきたこともあり、ものづくりに関する技術・考え方については高いレベルを維持していると自負しています。
――貴社が「愛知自動車サプライヤーBUSINESS CREATION」に参画した背景・理由についてお聞かせいただけますか?
柴野氏 : 現在、自動車産業は大きな変革期の真っ只中にあります。ガソリンで動くエンジンから、モーターや水素に切り替わっていくことにより、自動車の部品点数は2/3に減ってしまうと見込まれています。当然、当社が手掛けてきた金型や試作品のニーズも確実に減少すると考えられ、当社にとっても新領域への進出、新規事業の立ち上げは避けられない選択でした。
一方、当社では新たな試作品開発のために3年ほど前から3Dプリンターを導入しており、こちらを活用して自動車部品以外の製品を作りたいとも考えていました。当社が保有する3Dプリンター(EXF-12)は、ペレット状の樹脂材料を活用し、1700*1300*1000と非常に大きいサイズまで造形が可能です。このサステナブルを意識した樹脂材料を使ったものづくりを検討していますが、一方で当グループ内には材料開発のノウハウがありません。そこで今回のオープンイノベーションを前提としたプログラムに参加することで、材料に関する技術・知見を持った企業様と出会いたいと考えたのです。
――今回のプログラムでは、どのような共創パートナーを募集し、どのような価値を一緒に生み出していきたいと考えていますか?
柴野氏 : 私たちは、当社の3Dプリンターで造形したインテリア製品を製造・販売したいと考えています。社内で「3Dプリンターで何を作るか」について検討した際に、現状3Dプリンターでインテリア製品を作っている会社はほとんどなかったものの、当社の大きなサイズの3Dプリンターであれば、多種多様な製品を造形することも可能なため、ぜひ挑戦しようという話になったのです。
先ほどもお話ししたように、今回のプログラムでは材料に関する知見を持ったパートナーと出会いたいと考えています。これまでの当社が手掛けてきた金属加工は、地球や自然に対して優しいとは言えない事業でしたが、これから新しく事業を立ち上げるのであれば、地球環境に貢献できるような事業にしたいと考えています。そのためには、3Dプリンターで作るインテリアの材料となる「ペレット」をサステナブルなものにしなければなりません。
たとえば自然由来の廃棄物を利活用したい企業様、リペレッターの装置や樹脂材料の知見があり、一緒に新規材料開発を行っていただける企業様、すでに自然由来の材料を使用したペレットをお持ちで新たな活用先製品を模索している企業様などと出会うことができれば、当社の3Dプリンターを活用したサステナブルなインテリア製品づくりが実現できると考えています。
▲前田技研では、環境問題に考慮したプロダクトデザインプロジェクトを始動。3Dプリンターで造形したインテリア製品を生み出している。
――共創に際して、前田グループからパートナー企業に提供できるリソースやアセットについて教えてください。
柴野氏 : 当社保有の3Dプリンターに関する知見全般となります。3Dプリンターを活用した造形技術力やデザイン力といった、当社技術者の有するスキルに加え、装置の情報や造形技術・造形品の現状動向などに関する情報もご提供できると考えています。
――最後になりますが今回のプログラムに対する意気込み、応募を検討している企業へのメッセージをお願いします。
柴野氏 : 3Dプリンターを使ったインテリア製作は、日本においてはほぼ初めての試みとなるでしょう。さらに、地球に優しいサステナブルな材料を作るというチャレンジも併せて行うことになります。実現までには様々なハードルを超えていく必要があると思いますが、志を共にすることで一つひとつ課題をクリアしていき、ぜひ私たちと一緒にこの分野の先駆者になっていただきたいと考えています。
取材後記
ホスト企業3社の優れた技術力、各社の志向する新規事業のアイデアはいずれも魅力的である。各社の技術に興味を持たれた方、各社の想いに共感された方は、ぜひ積極的にエントリーを検討してほしい。今回のプログラムの実施背景には、当然のことながら電動化を中心とする自動車産業の大変革がある。ホスト企業のサプライヤー3社は、いずれも現在の自社事業に対する強い危機感を持っていたものの、取材の要所では「日本のものづくりを元気にしたい」といった旨の発言をされていた。自社の新規事業創出にとどまらず、そこで創出した新たな価値によって、日本の産業全体を活性化させていきたいという熱い想いがひしひしと伝わってきただけに、今後のプログラムの動向や共創によって生み出されるイノベーションの行方に注目していきたい。
(編集:眞田幸剛、文:佐藤直己)
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