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埼玉県・大野知事に聞く「渋沢MIX」開設の狙いとプログラム『Canvas』への期待感――県発オープンイノベーションの設計図とは?

埼玉県・大野知事に聞く「渋沢MIX」開設の狙いとプログラム『Canvas』への期待感――県発オープンイノベーションの設計図とは?

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明治時代に約500社もの企業創立に携わり「日本資本主義の父」として知られている実業家・渋沢栄一。その出身地である埼玉県では、彼の名を冠したイノベーション創出拠点「渋沢MIX」を、2025年7月、さいたま新都心駅前に開設した。

オープニングイベントには、同施設の構想を自らの公約に掲げたという埼玉県知事 大野元裕氏が出席。「渋沢MIX」は、「オープンイノベーションの創出・促進」「スタートアップの創出・成長支援」「イノベーションを担う人材の育成」のコンセプトを掲げ、県内外の多様な企業や人々の出会い・交流を促してイノベーションの創出を目指している旨をアピールした。

そして、同施設による「オープンイノベーションの創出・促進」事業として開始したのが、【渋沢MIXオープンイノベーションプログラム『Canvas』】だ。本プログラムは、全国区の大企業がホストとなる「大企業テーマ提示型」(4社)と、埼玉県内の中堅・中小企業・スタートアップ企業がホストとなる「中小企業プロジェクト提案型」(11社)とに分かれ、各ホスト企業が設定した事業テーマに基づき、パートナー企業のエントリーを募っている。(※応募締切:2025年10月10日)

TOMORUBAでは、パートナー企業募集開始に伴い、埼玉県知事・大野氏への取材を実施。「渋沢MIX」をハブとしたオープンイノベーションやエコシステム構築における県としての考え方、他県にない独自の強み、さらには『Canvas』のホスト企業やパートナー企業に対する期待感などについてお聞きした。

▲埼玉県知事 大野元裕氏

1963年埼玉県川口市生まれ。慶應義塾大学 法学部政治学科卒業。国際大学 国際関係学研究科修士課程修了。外務省での中東諸国の大使館勤務などを経て、大学教員、防衛省防衛戦略委員会の委員としても活動。2010年に参議院議員(埼玉選挙区)に初当選し、防衛大臣政務官兼内閣府大臣政務官などを歴任。2019年8月に埼玉県知事に就任し、2023年に再選(現在、二期目)。

埼玉県における「人と企業を結びつける場づくり」を公約に掲げた3つの理由

――大野知事は「渋沢MIX」の構想を自らの公約として掲げられていましたが、どのようなお考えからの発案だったのでしょうか。

大野知事 : 渋沢栄一翁が適切な人や企業をマッチングすることで多くの事業を成功に導いたように、埼玉県ならではの人や企業を結びつける場である「渋沢栄一起業家サロン(仮称)」をつくりたいと考えており、一期目の知事立候補の時点から公約に掲げていました。

私がそのような構想を公約に掲げた理由は大きく3つあります。1つ目は、埼玉県内における生産年齢人口の減少です。これまで増え続けてきた本県の人口も残念ながら減少局面に転じる見込みです。そのため、県内の生産年齢人口が減少しても労働生産性を維持するなど、持続的な発展を確かなものとする施策が必要だったのです。

2つ目は、埼玉県の優位性の活用です。埼玉県は首都圏の中央に位置しており、交通網が発達した移動のしやすいエリアと言えます。また、幅広い産業の広がりも埼玉県の強みです。このような交通の要衝としての優位性、産業の多様性をさらに有効に活かすための取り組みが必要だと考えました。

3つ目は、中小企業やスタートアップなど、貴重な技術やアイデアを持ったオンリーワン企業の活動支援です。埼玉県内ではさまざまな先端技術、豊富なアイデアをお持ちの企業が活動していますが、そのような企業であっても営業力や資金力の問題で廃業に追い込まれてしまうケースも少なくありません。そのようなオンリーワン企業に対してオープンイノベーションなどの機会を提供し、他の企業やファンドと結びつきながらイノベーションを起こせる仕組みが必要だと考えていました。

私はこのような3つの想いを実現するためにも「渋沢MIX」のような拠点が必要であると考え、自らの公約に掲げて実現を推進してきました。

――知事自らがそのような想いを持って進められてきた「渋沢MIX」ですが、実現に導くまでのプロセスで印象に残っていることはありますか?

大野知事 : 一期目の知事就任時から公約実現に向けて動き出していました。「人と人が出会うこと」が重要である当事業を進めている最中に、新型コロナウイルスの感染が拡大し、人と人が出会うことが難しい状況が発生してしまったのです。そのため一時的な中断を余儀なくされましたが、コロナが沈静化した時期からは有識者との議論を重ねていき、ようやく今年の7月に形にすることができました。

埼玉県の特徴を活かしながらハブアンドスポークとしての特性を磨いていく

――これからの「渋沢MIX」について、どのような想いを描いていますか?

大野知事 : 「渋沢MIX」開設までに先行して進めてきた事業やイベントなどを通じて、さまざまな企業・団体・支援機関との強固な関係性を構築することができたと考えています。たとえば今年3月には、県内金融機関に出資いただき「渋沢MIXイノベーション創出支援ファンド」を設立しました。

同ファンドは「渋沢MIX」と県内金融機関が連携して投資先企業の成長支援を行い、県内産業の持続的な発展や新たな産業・イノベーションの創出を図っていくものですが、今後もこのような形で埼玉県のイノベーション・エコシステムに多くのプレイヤーを巻き込んでいきたいと考えています。

また、秩父エリアのように豊かな自然や広い土地を有するエリアや、県南部の都市部の特徴を有するエリアなど、特色の異なるさまざまな地域があることも埼玉県の特徴の一つです。そのため、県内でさまざまな実証実験ができることも「渋沢MIX」の事業を進める上での魅力になると考えています。

――「渋沢MIX」オープン後の反響や手応えについては、どのように感じていますか?

大野知事 : 7月にオープンしたばかりなので、何らかの評価をするのは早いかもしれませんが、すでに多くの皆様からお申し込みをいただいていると聞いています。また、駅直結でアクセスがしやすいなど、拠点としての「気軽さ」も受け入れられているとのことで、非常に喜ばしいことであると感じています。

その一方で、「渋沢MIX」は他地域のイノベーション施設とは異なる特性を発揮していく必要があると考えています。埼玉県内では多くの中小企業・ベンチャー企業が活動しており、新幹線や高速道路など多様な移動手段が充実しています。他の施設と競うつもりはありませんが、そのような埼玉県独自の特徴を活かしながらハブアンドスポークとしての個性・特性を磨いていくことが、結果的には他地域の施設に対しても良い影響を与えていくことになると考えています。

▲7月に開催された「渋沢MIX」のオープニングイベントに登壇した大野知事。

――「渋沢MIX」では、「オープンイノベーションの創出・促進」「スタートアップの創出・成長支援」「イノベーションを担う人材の育成」という3つのコンセプトを掲げられています。現在、『Canvas』というプログラムを推進されていることを踏まえ、特に「オープンイノベーションの創出・促進」というコンセプトを掲げられた理由や期待感について教えてください。

大野知事 : これまで埼玉県は、県内総生産においても高い水準を維持してきました。県民の平均年齢についても比較的若い状況です。しかしながら先ほどお話ししたように、現在では人口減少の局面に入っており、他県と比べて高齢化の進行が早いことも予想されています。

他方では中小企業の人手不足が深刻化しており、事業承継に悩まれている方々も少なくありません。このように中小企業の皆様はさまざまな課題に直面されていますが、自社内のリソースや知恵、人材育成だけでは解決できない課題もたくさんあります。そのような課題を解決するためにも、社外のアイデアや技術を活用して新たな価値を創造するオープンイノベーションが重要になると考えています。

また、先ほどお話ししたような先進的な技術・アイデアを有するオンリーワン企業の発掘に関しても、オープンイノベーションが大きな役割を果たすはずです。このような背景から「渋沢MIX」のコンセプトの一つに「オープンイノベーションの創出・促進」を掲げています。

オープンイノベーションの取り組みが、県内経済の持続的成長につながる

――埼玉県として解決していきたい地域課題や取り組みたい事柄、オープンイノベーションを推進していく際に重要視していることはありますか?

大野知事 : 埼玉県の強みである輸送用機器や食品関係の企業との共創、さらには埼玉県が推進しているサーキュラーエコノミーやロボティクスに関する共創を積極的に推進していきたいという思いはあります。

ただし、「渋沢MIX」は、さまざまな業種や規模の企業同士の交流によってイノベーションを創出していく施設です。そのため、特定のジャンルなどに絞ることなく、多種多様な企業が有するそれぞれの技術・アイデアを持ち寄ってもらうことが重要になります。そのためにも、まずは「渋沢MIX」という場に来ていただき、互いに意見を交わしてもらうことが必要です。私たちとしてはできるだけ多くの企業に来ていただけるよう、さまざまな形での仕掛け作りやサポートを行っていくつもりです。

また、オープンイノベーションの推進に関しては、『Canvas』などでの取り組みを一過性のもので終わらせることなく、未来につながるような持続性のあるものにしていくことを重要視しています。そのような持続的な取り組みこそが、結果的には県内経済の持続的成長につながっていくと考えています。

――「渋沢MIX」では「スタートアップの創出・成長支援」というコンセプトも掲げられています。実際に知事は、農作業ロボット・IoTデバイスの研究開発を行うレグミン社や、ドローン関連の事業を展開するLiberaware社など、スタートアップとの対話等も活発に行われている印象があります。社会課題解決のプレイヤーとしてのスタートアップの有用性については、どのように考えていますか?

大野知事 : 深谷市のレグミンさんは農業の高齢化や人手不足を解決するロボットなどの開発を手掛けられており、Liberawareさんのドローンは八潮市における陥没事故の現場調査で力を発揮していただくなど、いずれも大きな社会課題の解決に資する事業を展開されている優れたスタートアップです。

私は「社会課題のあるところに新たな事業のニーズがある」と考えていますが、このようなスタートアップの方々の事業や活動を通じてさまざまな社会課題が見えてくる側面もあります。

また、こうした優れたスタートアップが他の業種や他の企業とつながることで、さらに新たな社会課題を解決していくというポジティブなスパイラルを生み出すこともできると考えています。そのような意味でも、スタートアップが社会課題解決において重要な役割を担うプレイヤーであることは間違いないと感じています。

――最後に、「渋沢MIX」が掲げる「オープンイノベーションの創出・促進」事業としてスタートしたプログラム『Canvas』に参加する埼玉県内のホスト企業や、パートナー企業としての参加を検討されている方々へのメッセージをお願いします。

大野知事 : ホスト企業として参加される企業の皆様には、オープンイノベーションプログラム『Canvas』の第一期生として、埼玉県内から多くのイノベーションを生み出していただくためにも、本プログラムや共創の場としての「渋沢MIX」を最大限にご活用いただきたいと思います。

また、今回さまざまな業界・業種のホスト企業を採択させていただいたので、それぞれの持つ技術やスキルなどの強みを活かしつつ、パートナー企業の方々との共創を通じて、私たちが思いもしないような多彩なプロジェクトや事業を生み出していただくことを期待しています。

また、これからパートナーとしてご応募いただく企業の皆様には、ホスト企業が有する優位性やポテンシャルをしっかりと見極めていただいた上で、既存のビジネス・商品・サービスに捉われない自由な発想での共創をご提案いただきたいと思っています。そのようなスタンスで臨んでいただくことで、お互いにとってWin-Winな取り組みになると考えていますので、ぜひ多くの方々からご応募いただきたいと思っています。

取材後記

冒頭でお伝えしたように、すでに『Canvas』では「大企業テーマ提示型」(4社)と「中小企業プロジェクト提案型」(11社)のホスト企業が決定している。全15社の業種や企業規模は多種多様であり、共創やプロジェクトのテーマもバラエティに富んでいるため、多くの企業にパートナー企業としての参画チャンスがあることは間違いない。

また、今回のインタビューからも分かるように、本プログラムは埼玉県知事肝いりの取り組みであり、県が主催者であるため、サポート体制も非常に充実している。1プロジェクト最大500万円の支援金や専門家によるメンタリング等の伴走支援のほか、オープンイノベーション拠点として開設された「渋沢MIX」館内の充実したハード面も魅力的である。埼玉県の持つ交通の要衝としての優位性や産業の多様性を活かし、新たなイノベーション創出にチャレンジしたい方々は、ぜひ積極的にエントリーを検討いただきたい。

※『Canvas』の詳細はこちらをご確認ください。

※パートナー企業のエントリー締切は2025年10月10日となります。

(編集:眞田幸剛、文:佐藤直己、撮影:齊木恵太)

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  • 眞田幸剛

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