
スタートアップ×地域の共創がもたらす変化とは?11のプロジェクトが事業の進捗を披露!――静岡市が共創の力で社会課題の解決を目指す『知・地域共創コンテスト』レポート
2024年、静岡市はスタートアップの力を活用し、市が抱える社会課題の解決を目指す「スタートアップと地域の共働による新社会システム共創コンテスト『知・地域共創コンテスト』」をスタートさせた。同コンテストの最大の特徴は、行政課題発信型の『UNITE2024』と、スタートアップ提案型の『BRIDGE2024』という、異なる2タイプのコンテストが同時開催されている点だろう。
UNITE2024・BRIDGE2024共に、昨年6月にスタートアップの募集を開始。一次審査を通過した21社(UNITE2024:12社、BRIDGE2024:9社)は、その後、行政職員や地域団体(UNITE2024)、または、市内企業・団体(BRIDGE2024)とチームを組成。それぞれ共創プロジェクトの具体化を進め、昨年11月には二次審査会が行われた(※レポート記事:UNITE二次審査会/BRIDGE二次審査会)。
それから約4ヶ月の期間を経た3月11日、UNITE2024・BRIDGE2024それぞれの事業で取組を進めてきた計11チームによる成果発表会が開催。実証実験や調査が進められ各チームの事業がどのように展開し、静岡市をフィールドにしながら今後どのような展開を目指すのだろうか?――各コンテストで組成された「スタートアップ×地域・行政や市内企業」による共創チームが発表した内容をレポートする。

▲成果発表会は「静岡理工科大学グループ 静岡駅前キャンパス 4F 学生ホール」で開催された。会場はほぼ満員となり、熱気のこもったピッチが繰り広げられた。
5つの共創チームが登壇――行政課題発信型『UNITE2024』成果発表ピッチ
『UNITE2024』は、静岡市が抱える20の社会課題にアプローチする共創アイデアを募集する事業コンテスト。現在、二次審査会で選定された5つの共創チームが、事業化に向けた取り組みを進めている。以下、各チームによるピッチの内容を登壇順に紹介していく。
●発表タイトル 【世界とつながる静岡のお茶ツーリズム】
(株式会社そふと研究室 × 観光政策課)

静岡の特産品と聞けば、真っ先にお茶が思い浮かぶ。だが近年、茶の価格は低迷しており、茶農家も減少傾向にあるという。その中でも、一部の茶農家は積極的に観光客を受け入れているが、「もっとも観光ニーズの高い新茶シーズンに茶農家も繁忙期となる」というジレンマやインバウンド対応が難しいという問題があった。
そこで、本チームでは、インバウンド対応も可能な茶畑ガイドの育成や、ツアーの予約から実施まで一元的に担える窓口の設置などにより、お茶ツーリズムの確立を企図している。現在まで、5軒の茶農家と、15名の茶畑ガイド候補者などが参画して、ブランディングに向けた取り組みを進めている。
●発表タイトル 【郊外・山間地域における「公共ライドシェア」の推進】
(株式会社パブリックテクノロジーズ × 交通政策課)

静岡市内でも、郊外や山間地域では人口減少による利用者減少やドライバー不足から、路線バスの維持が困難となるエリアが増えている。それを補う対策の1つとして公共ライドシェアの推進を図るのが本プロジェクトだ。
公共ライドシェアの導入においてハードルとなるノウハウの不足や人材不足を解決するために、運行主体となる団体の設立や運営、ドライバーの確保などをサポートする。これまでに、市内の宍原地区(清水区)を対象とし、もっとも困難な人材確保のために、地域住民のドライバー体験会(ドライバーの講習会や試走会)などに取り組んできた。来年度以降、団体設立や運行開始を目指す。
●発表タイトル 【大谷・小鹿地区から始める公民連携で目指すカーボンニュートラル】
(株式会社LEALIAN・nicomobi株式会社・静岡ガス株式会社 × 大谷・小鹿まちづくり推進課)

再生可能エネルギーの中心である太陽光発電は、定置型蓄電池が普及していないため昼間の余剰電力が有効活用されていない。そこで、可搬型バッテリーに余剰電力を貯蔵しておき、モビリティ電源や、その他のバッテリーとして利用できる再生エネルギー電力ネットワークを構築。カーボンニュートラルに資する取り組みの推進を、本チームは目指している。
具体的には、可搬型バッテリーシステムを運用するサービスプロバイダーが中心となり、太陽光発電設備の所有者と電力の利用者を結びつける。蓄電池の利用者はサブスク形式でサービスプロバイダーに料金を支払い、プロバイダーはその一部を、設備所有者に支払う。現在、市内大谷・小鹿地区で実証運用を実施しており、ビジネスモデルとして成立するかを検証している。
●発表タイトル 【次世代のスマート自治地域団体の負担軽減&活性化】
(ジャパンベストレスキューシステム株式会社・株式会社グッドライフ × 市民自治推進課)

地域住民の高齢化や核家族化の進展により、各地の自治会では、活動負担や担い手の不足、住民参加の減少という課題に直面し、将来的な存続が懸念される状況にある。本プロジェクトは、デジタルシステムの活用によるDXと、自治会が行う草刈りなどの実働作業の外部委託支援という2つの側面からのアプローチにより課題を解決し、自治会をサステナブルにしていくことを目指す取り組みだ。すでに、2つの自治会において、自治会・町内会管理システム「ジチカン」を実際の自治会活動に活用する実証実験をスタートしている。
登壇した自治会長からは、回覧板や役員会の案内などの電子化により、作業時間が短縮され、送付コストの削減が期待できるといった効果が報告された。システムの導入や運用にかかるコストなどでの課題があり、今後も行政と連携しながら取り組んでいく。
●発表タイトル 【シェアリングムーバーで、高齢者が移動に困らない暮らしを実現】
(Fracti合同会社 × 交通政策課・高齢者福祉課)

高齢により車の運転ができなくなる住民が増える一方で、公共交通はドライバー不足により減少しており、移動問題が顕在化している。シェアリングムーバーは、以前から地域でスクールを運営する企業や病院などが用いている送迎バスを住民の移動にも利用することで、この問題を解決しようという取り組みだ。
実証実験では、住民の利用は好調であるものの、集客手段として好意的に捉えられると想定していた協力企業の参画がスムーズにいかないケースもあった。今後の課題として、企業の参画を促すためには、売上増大など、より直接的な企業メリットを示し、マーケティング施策としての有効性を示す必要性が認識された。また、展開エリアを郊外とすることで、実現可能性が高まる手応えが感じられると述べられた。
6チームが共創事業を披露!――スタートアップ提案型『BRIDGE2024』成果発表ピッチ
『BRIDGE2024』は、静岡市が抱える社会課題の解決に資する共創アイデア、海洋資源の持続的活用や海洋産業の高度化・高付加価値化などにつながる共創アイデアを、スタートアップが提案するコンテストだ。共創事業の社会実装を目指して取り組みを進めている6チームのピッチ内容をまとめた。
●発表タイトル 【『住まいと繋がり』提供スキームの静岡モデルの開発】
(株式会社LivEQuality大家さん)

LivEQuality大家さんは、「住まいから母子の尊厳を取り戻す」をコンセプトに、賃貸住宅を借りにくい傾向がある母子家庭に、駅近くの優良アパートなどを、相場賃料よりも30%割り引いた価格で提供している。賃料を下げても稼働率が高くなるため、総収入は確保でき、社会性と事業性を兼ね備えた事業となっている。
以前は、名古屋市でこの事業を展開してきたが、静岡市では、行政、Will for Japan、日本承継寄付協会などのNPOと連携し、市に対して遺贈寄付された不動産を活用して住宅を確保する「静岡モデル」の開発に取り組んでいる。行政と連携したイベントや勉強会を開催しており、2034年までに70世帯以上の母子に住まいとつながりを届けることを目標としている。
●発表タイトル 【食がつなぐ、聴くでつながる心身の健康増進プロジェクト】
(株式会社Lively × 株式会社天神屋)

日本の5人に2人が孤独を感じているという調査結果があるが、人に話を聞いてもらえば孤独感は軽減できる。Livelyが開発した、誰でも気軽に相談できる傾聴AIチャット「ウェルモン」により、孤独に陥りがちな高齢者を人や情報とつなげていくことができる。
本プロジェクトでは、静岡県内で32店舗を展開する老舗弁当店である天神屋が、そのシステム活用を広める舞台となる。孤食の顧客が多く、また顧客との会話もある弁当屋の店頭で告知することで、「ウェルモン」の活用をうながす。同システムではAIとの会話を通じて、その人の嗜好や生活パターンなどを分析し、的確なタイミングでウェルビーイング情報や企業情報などを届けることも可能。この3月からベータテストが開始される。
●発表タイトル 【しずまえアップサイクル 釣りの地域資源化】
(株式会社ウミゴー × Marine Sweeper)

ウミゴーは、日本初の漁港の釣り場予約システムを開発し、漁業者と釣り人の共存をサポートしてきた。また、Marine Sweeperは海底の清掃や、海中ゴミのリサイクル資源化に取り組んでいる。今回、2社が提供を目指すのは「ぼくらの藻場」と名付けられた藻場再生を軸とした複数のサービス提供だ。
藻場再生など海洋保全事業は、多額の費用をかけ公共事業として取り組まれているものの、それを享受する釣り人などの市民の認知が進んでいないことを課題ととらえた。藻場再生自体をレジャーと捉え、市民が参画できるサービスに仕立てることで、漁港周辺の活性化を促し、参加者に対して地域優待を適用する。さらに、しらす漁など地域の伝統漁業をテーマとした「漁業体験GO」、ダイビングにより再生する藻場の観察ができる「海遊びGO」といったコンテンツも用意される予定だ。地域を巻き込んだサービスを作り込んでいくため、社会実装に向けた協力者も募集している。
●発表タイトル 【若者のシビックプライドを醸成し人口80万人を目指すプロジェクト】
(特定非営利活動法人 静岡ビジネスサポートセンター)

冒頭、静岡市の重要課題である人口減少の軽減を図るために、市民のシビックプライドの醸成が重要だと指摘された。シビックプライドとは、街に対する誇りや愛着、さらには、街をより良くするためにコミットする意志などを表す言葉だ。その醸成のために、街に対する市民の意見やアイデアを募り行政に届けるための掲示板サイト「だもんで静岡」の運営が本プロジェクトの主軸となる。
掲示板は2024年4月に運用が開始され登録会員は600人を超えた。市民の声を市に届けるだけではなく、会員同士の共助にも活用されている。今後は、1,000件のアイデアを集め、その3割の解決を目指すことやフィードバックを市民に届ける仕組みの構築を目指す。
●発表タイトル 【持続可能な観光交通と生活交通の共存】
(株式会社NearMe × 静鉄タクシー株式会社)

本プロジェクトで目指しているのは、観光交通と生活交通それぞれの利便性を高めるための新たな仕組み作りだ。具体的には、AIマッチングシステムを活用した、タクシーのシェア乗りによる交通の最適化、効率化を図るとされている。
現在取り組まれているのは、終電や終バスが終わったあとに、同じ方面に帰宅する人たちをシェア乗りさせる「ミッドナイトシェア乗りタクシー」の運行だ。これにより、車両の利用効率が上がるだけではなく、利用者あたりの運賃も下げられるメリットがある。今後は、スポーツイベント開催などによる突発的なタクシー需要増時のシェアリングや、交通空白地帯でのライドシェア、また、観光客と生活利用客とのシェア乗りなどを実現したいと、展望が語られた。
●発表タイトル 【経血検査システムの開発】
(株式会社asai)

asaiは「Redefine the Future.」をミッションに掲げ、経血から婦人科系疾患を見つける検査システムを開発しているフェムテックスタートアップだ。同社によると、静岡市内だけで月経不調の女性は約6.4万人存在する。辛い月経症状の裏には、子宮内膜症などの婦人科系疾患が隠れていることもあるが、我慢してしまう女性が多いことで、早期発見の機会を逸することが多くなる。
そこで、女性自身が経血から月経不調の原因を検出できるように開発しているのが、「reanne kit」(リアンネキット)だ。将来的には、海外展開や複数の婦人科系疾患への展開も目指していくという。なお、同社のプロジェクトは、『BRIDGE2024』にてファイナリストに選出され、これをきっかけに2名のエンジェル投資家からの資金調達を実現した。
「静岡が持つポテンシャル・共創で創る未来の静岡」――常盤木龍治氏による基調講演
今回の成果発表会では、パラレルキャリアエバンジェリストとして活躍する常盤木龍治氏による基調講演が行われ、新規事業に挑む機運を醸成する熱量あるメッセージが届けられた。講演の前半では、常盤木氏がこれまでに手がけた数々の新規事業や、地域と企業との共創事例などを紹介。――具体的には、以下のような事例となる。
まず、沖縄県沖縄市コザでシャッター通り化しつつあった商店街を、スタートアップが多く集まる勢いある街としてよみがえらせたプロジェクト。コロナ禍のピークだった2020年後半から取り組まれた、長崎県のハウステンボスを地域と企業の共創により再生した成功事例。
さらに、発電所向け高温高圧バルブ製造の岡野バルブで、自社でのDX成功経験をベースに、同業他社へのDX支援事業を新規事業として展開した事例。徳島県上勝町で、高齢女性が植物の葉を高付加価値商品として販売している「葉っぱビジネス」の事例。AIによる需要予測や原価管理で効率経営を実現した伊勢のゑびや食堂の事例、などが紹介された。

▲パラレルキャリアエバンジェリスト
株式会社EBILAB取締役ファウンダーCTO CSO
岡野バルブ製造株式会社 取締役 DX推進本部長
常盤木 龍治 氏
そして成功事例で重要なポイントとして、突出した武器を持つ「異能の人材」を否定しない環境づくりがある点が強調された。すべてにおいて平均的に優秀な人材は、伝統的な大企業が囲い込んでしまうため、地方企業では、異なる部分が突出した人材たちをうまく組み合わせることがポイントだという。
今後進行する人口減少で、従業員も顧客も減っていく中、効率的な経営を基盤とし、有給休暇の取得率向上などの待遇改善への取り組みを重視する必要性が述べられた。そして経営者は事業停滞の要因を外部環境のせいにするのではなく、自分事としてイノベーションに取り組まなければないとして、「本日発表の成果事例についても、皆さんならどうするか、という視点を持って聞いてほしい」と強調された。

さらに、静岡市が持つポテンシャルとして、製造業の出荷額が浜松を超えており、しかも食品製造から電気、機械部品まで幅広い業種が存在していることが挙げられた。市内である程度の事業が完結するサプライチェーン上の強みは、他ではあまり見られないという。
さらに、第4次静岡市総合計画の商工・物流分野の政策で1番目に、「共創によるイノベーション創出の推進」を掲げている行政の意欲的な姿勢も評価した。そのような状況を踏まえて、静岡市ではオープンイノベーションに取り組みやすく、勝ちやすい環境があるとして、「乗ろうぜ、このビックウェーブ」というエールが常盤木氏から発せられ講演は締めくくられた。
「今後も共創に取り組み、新たな価値を想像したい」――難波市長による閉会の挨拶
すべてのピッチ終了後に、難波喬司静岡市長による閉会の挨拶があった。難波市長は、参加各社の労をねぎらい、このような取り組みを今年度で終わらせることなく、今後も長い時間をかけて共創を進めて新たな価値を創造していきたいと述べた。

取材後記
登壇した各社は、昨年11月に開催された二次審査でのピッチ内容を踏まえて、その後の実証実験により得られた知見により、事業化に向けて着実に歩みを進めていることが伝わる報告会であった。中には、その後の実地調査を踏まえて、事業内容を大きくピボットしたチームもあった。そのように初期のアイデアに固執することなく、検証の結果、必要があれば臨機応変にピボットできる変わり身の速さも、スタートアップならではのアドバンテージであろう。
(編集:眞田幸剛、文:椎原よしき、撮影:加藤武俊)