
海水アクアポニックスの商業化に向けた新たな一歩——アクポニ×エア・リキード、共同研究を開始
近年、持続可能な食料生産への関心が高まる中、水産業界に革新をもたらす技術が注目されている。それが、「海水アクアポニックス」である。この最先端の循環型農業技術を商業化するため、株式会社アクポニは、日本エア・リキード合同会社および株式会社エア・リキード・ラボラトリーズと共同研究を開始した。
海水アクアポニックスとは?
アクアポニックスとは、水耕栽培と陸上養殖を融合させた循環型の食料生産システムである。従来は淡水を利用した事例が多いが、今回の研究では「海水」を活用する点が革新的である。バナメイエビの養殖とともに、耐塩性の高いシーアスパラガスや海ブドウを栽培することで、食料生産の効率を飛躍的に向上させることを目指している。
この技術の最大の特徴は、エビの排泄物が微生物の働きによって分解され、植物の栄養として活用される点である。植物が浄化した水は再び水槽に戻されるため、廃棄物を減らしながら安定した生産が可能となる。

「海水アクアポニックス 未来ラボ」の設立
この共同研究の拠点となるのが、神奈川県藤沢市に新設された「海水アクアポニックス 未来ラボ 〜商業化モデル〜」である。研究は2025年4月から本格的に始動し、200㎡の施設内でバナメイエビやシーアスパラガス、海ブドウの栽培が行われる。
この研究では、日本エア・リキードが持つ産業ガス技術を活用し、酸素や二酸化炭素の溶解技術を組み合わせることで、水質を最適化し、エビの成長を促進する。さらに、同社の熱交換技術を応用し、工場排熱を有効活用する可能性についてもデータを蓄積する予定である。
共同研究の意義と今後の展望
このプロジェクトが持つ意義は大きく分けて3つある。
1. 世界初の商業規模の海水アクアポニックスの実証
淡水を利用したアクアポニックスはすでに実用化されているが、海水を活用した商業規模のシステムは世界的にも珍しい試みである。日本では水産物の輸入依存度が高まっており、国産の海水養殖技術の確立は、輸入コストの削減や環境負荷の低減につながる。
2. 産業ガス技術による生産効率向上
エア・リキードが開発した酸素溶解技術を導入することで、水中の酸素濃度を最適化し、エビの生存率や成長速度を向上させることができる。さらに、二酸化炭素溶解技術を活用したpH管理により、水質維持の手間を削減し、より安定した生産が可能となる。
3. 高付加価値作物の栽培
今回の研究では、バナメイエビに加えて、シーアスパラガスと海ブドウの栽培も行う。シーアスパラガスはヨーロッパやハワイなどで高級食材として人気があり、海ブドウは国内では沖縄の一部地域でしか生産されていない。これらの作物を安定的に供給できれば、新たな市場が生まれ、アクアポニックスの収益性向上にもつながる。
今回の共同研究は、持続可能な水産業の未来を切り開く重要な一歩だ。環境負荷を抑えながら効率的な生産を実現する「海水アクアポニックス」が広く普及すれば、日本の水産業は新たなビジネスモデルを確立し、食料自給率の向上にも貢献できる。
アクポニの濱田代表は、「本プロジェクトを成功させ、アクアポニックスで育てた美味しい魚を食卓に届けることで、持続可能な食料生産システムの魅力を広めたい」と語る。今後の研究成果に注目が集まる。
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(TOMORUBA編集部)