静岡市主催『知・地域共創コンテスト』二次審査会に密着!――『UNITE2024』&『BRIDGE2024』スタートアップ×行政・地域企業による地域課題解決のアイデアとは?【前編】
2024年、静岡市は「スタートアップと地域の共働による新社会システム共創コンテスト『知・地域共創コンテスト』」を始動させた。これは、市内の様々な社会課題の解決を目指し、スタートアップと地域の共働による新社会システム共創コンテストだ。
近年、行政がスタートアップ事業のコンテストを主催することは徐々に増えているが、この「知・地域共創コンテスト」がユニークなのは、行政課題発信型の『UNITE2024』、スタートアップ提案型という『BRIDGE2024』という異なる2タイプのコンテストが同時開催され、それぞれに別々のスタートアップが参加していることだ。
どちらのコンテストも2024年6月に募集が開始され、書類や面談による一次審査が実施された。審査を通過した21社(UNITE2024:12社、BRIDGE2024:9社)は、その後、行政職員や地域団体(UNITE2024)、または、市内企業・団体(BRIDGE2024)とチームを組んで、それぞれ共創プロジェクトの具体化を進めてきた。
そして、二次審査会として、各チームがその成果をプレゼンテーションして競うピッチコンテストが11月13、14日の両日、静岡市のクーポール会館で開催された。会場には約100名の観客が集まったほか、イベントの様子はオンラインでも配信され、多くの視聴者が注目した。――本記事は【前編】として、1日目に実施された『行政課題発信型 UNITE2024』のコンテストの模様を紹介する。
静岡市が提起する20の社会課題に挑む共創チーム
『UNITE2024』の参加企業に求められていたのは、静岡市が抱える20の社会課題にアプローチする共創アイデアだ。コンテスト当日は、一次審査を通過したスタートアップと行政職員や地域団体などがタッグを組んだ12チームが、練り上げた共創アイデアを披露した。
厳正なる審査の結果、社会課題解決に向けて実証フェーズに進む5つの共創チームが選定。チームあたり500万円程度の実証支援金を活用し、MVP(Minimum Viable Product)の構築と実証実験を進め、来年3月に開催されるデモデイ(成果報告会)での報告を経て事業化を目指すことになる。なお、本イベントの審査員は、以下の4名が務めた。
<審査員:写真右から左>
●山田栄子氏(静岡市総合政策局DX政策監)
●篠原豊氏(一般社団法人静岡ベンチャースタートアップ協会理事長、エバーコネクト株式会社代表取締役)
●川崎浩充氏(一般社団法人官民共創未来コンソーシアム理事)
●古市奏文氏(一般財団法人社会変革推進財団インパクト・エコノミー・ラボ インパクト・カタリスト)
イベントの冒頭には、静岡市長の難波喬司氏が登壇し、開催の挨拶があった。コンテストの名称に、「スタートアップと地域の共働による」という言葉が入っているように、単にスタートアップのアイデアを募るだけではなく、市の職員や地域団体との共同でプロジェクトを進める点が、本コンテストの特徴であるという点が語られた。
一次審査へは220件を超える応募があり、その中には、そのまま社会実装できそうなアイデアの提案もあったという。しかし、そこに共働が必要とされないようなアイデアであれば、そのような実現性の高いアイデアでも不採用とされている。それは、地域の課題は、多くの人が関係する複雑なものが多いため、行政や自治会などの地域住民代表が参加しながら解決することが必須だと考えられるためだ。
「本日はこの後、いくつかのチームが審査で選ばれますが、そのチームだけが勝者で、審査を通らなかったチームは落選ということではありません。この12チームの皆さんは全員、次の段階に進んでいただきたいと思っています」と、全参加チームへのエールが送られ、挨拶が締めくくられた。
ユニークなアイデアで静岡市の将来を見据えた、二次審査通過チームのピッチ
市長挨拶の後、12チームが各7分の持ち時間でピッチを行った。ここからは、実証フェーズに進む、5チームのピッチ内容をご紹介する。
●発表タイトル 【シェアリングムーバーで、高齢者が移動に困らない暮らしを実現】
(Fracti合同会社 × 交通政策課 次世代交通推進係・高齢者福祉課・生活安全安心課)
地域における高齢者の移動問題は、今後ますます深刻化していく。ライドシェアなども検討されているが、それだけですべての移動問題が解決するわけではない。そこで、例えば、スイミングスクールなどが生徒を送迎しているバスなど、企業が顧客の送迎のために用いているバスの輸送力を活用しようというのが、本チームのアイデアだ。
現状でも、企業が送迎バスを用意するのはコスト負担が大きい。そこで、複数の企業が共同で送迎バスをシェアしながら運営することで企業の利用コストを下げる。そうすれば、今まではコスト的な問題から送迎バスの利用に二の足を踏んでいた企業も、利用できるようになり、企業の顧客獲得につながる。実際の運行システムの運用はFractiが担う。運営費用は企業が共同で負担するので、高齢者などの地域住民は、無料でバスを利用でき、高齢者の移動問題の解決にもつながる。
事業化の実現にあたってのポイントは、道路運送法上の実現可能かという問題と、多くの参加企業が集まるかどうかだ。前者についてはすでに静岡運輸支局に話をしており、また、後者については実証実験に協力してもらえる企業をすでに3社集めており、実証実験の目処も立っているという。最後にFractiの船本氏は、「高齢者が移動に困らない暮らしを、ここ静岡市から発信していきたい」と締めくくった。
●発表タイトル 【次世代のスマート自治地域団体の負担軽減&活性化】
(ジャパンベストレスキューシステム株式会社 ×株式会社グッドライフ × 市民自治推進課)
本ピッチの冒頭、実際に地域で活動している2名の自治会長から、高齢化や、役員のなり手不足など、自治会が抱えている課題が説明された。地域のお祭りの開催なども困難になりつつあるという。しかし、例えば防災、防犯など、地域住民の暮らしの安全を守るためにも自治会の役割は重要だ。そこで、「誰でも地域団体の活動に負担を感じることなく参加でき、活動を通じて信頼や繋がりを深めていく仕組みづくりを目的とした静岡モデルを構築していきたい」と、ジャパンベストレスキューシステムの奥間氏はいう。
それを実現するための提案の1つ目が、自治会業務を軽減するためのシステム活用とDX、そして2つ目が町の美化や防犯活動に外部委託を活用することだ。実証実験では、回覧板などの連絡業務から、防災訓練など、自治会業務の負担軽減機能を軸に実験を進める。
事業化の際、当面は自治会費や補助金によってシステム運用費や外部委託費をまかなうが、将来的には地元の企業や店舗などと連携して広告費で補うことも視野に入れているという。最後に、自治会の活動は、地域住民はもちろん市にとっても重要なパートナーでありその存続は、全国のどこにおいても重要な課題であることから、事業の全国展開も可能であると強調された。
●共創事業テーマ 【大谷・小鹿地区から始める公民連携で目指すカーボンニュートラル】
(株式会社LEALIAN、nicomobi株式会社、静岡ガス株式会社 × 大谷・小鹿まちづくり推進課)
一般的に「再生エネルギー」(再エネ)やカーボンニュートラルと聞くと、環境対策がイメージされる。しかし、LEALIANの佐藤氏によると、それだけではなく、再エネ導入は地域経済の成長や地域雇用創出への貢献効果が大きいという。反面、太陽光発電には、日中に太陽光で発電した余剰電力が破棄されている一方で、夜間は不足しているため外部調達にたよるという時間によるミスマッチの問題がある。大型の蓄電設備を導入すれば解決はできるが、コストが非常に高い。
そこで、バッテリーとモビリティをパッケージングしたシェアリングサービスにより「はこべて広がる再エネ電力ネットワーク」の実現を目指すのが本テーマだ。EVにも利用されるバッテリーを用いた低コストの移動型蓄電設備でフレキシブルな電力ネットワークが構築でき、さらにその電力を小型モビリティに活用して余剰電力を有効活用するという。
具体的には、太陽光発電などに取り組んで余剰電力を生んでいるオーナーに無償でバッテリー装置を貸し出し蓄電量に応じて対価を支払う。蓄えられた電力はクラウドで管理され、モビリティの移動にも利用される。そして、電力を利用したいユーザーには、バッテリーをシェアする形で電力を融通してサービス料を受け取る。
このようにして余剰電力を抱える再エネオーナーと、フレキシブルで安価な電力のニーズがある電力利用者を結びつけることで、環境対策にとどまらない地域振興や防災力強化に結びつけていきたいと結ばれた。なお、本チームは、審査の結果、「最優秀賞」を獲得した。
●共創事業テーマ 【郊外・山間地域における「公共ライドシェア」の推進】
(株式会社パブリックテクノロジーズ × 交通政策課 生活交通係)
パブリックテクノロジーズは「暮らし続けたいまちを作る」とのミッションを掲げ、自治体向けDX支援や公共交通の維持活性化支援を行っている創業5年目のスタートアップだ。全国の他の地域と同様、市内の人口が少ない郊外エリアや山間部における公共交通の維持確保は、重大な課題になっている。
それに対して同社が提案するソリューションは、「公共ライドシェア」の推進だ。「公共」とついているのは、公的団体が運営主体になるため。ライドシェアのメリットは2種免許を持たない、1種免許のドライバーでも業務をおこなえることで、ドライバー不足を補えることだ。
具体的には、鉄道や路線バスがないエリアにおいて、自治会やNPO法人などの公的団体にライドシェアサービスを提供してもらう。しかし、そういった団体は、ライドシェアの導入・運営方法がわからなかったり、ドライバー確保ができなかったりする。そこで、同社と静岡市がタッグを組んで、地域の公的団体が主体となるライドシェアサービスの導入・運営に必要なソフトウェアや配車システムを提供する。
また、運営ノウハウ、法令遵守、ドライバー人材の確保や管理など、ライドシェア業務のフロー全般を支援する。
ライドシェアサービスは、関わるステークホルダーが多いため、合意形成が非常に重要だ。今後、市内各地域での合意形成やNPO/団体設立・ドライバー募集等に取り組む。試走会の実施までを実証事業内で行う見込みで、翌年度以降に本格的な運行開始を目指す。
●共創事業テーマ 【世界とつながる静岡のお茶ツーリズム】
(株式会社そふと研究室 × 観光政策課)
最初に、静岡市観光政策課の武馬氏から、コロナ禍収束以降、静岡市のインバウンド観光客は伸び続けており、静岡のイメージを代表する産業である「お茶」を観光コンテンツとして活用できないかが考えられていたと説明された。一方で、お茶産業の現状としては、産出額や茶農家数が、20年で80パーセント近く減少しているという。それを受けてそふと研究室の坂野氏は、「いつでも誰でも「お茶のまち静岡市」ならではのお茶体験ができるお茶ツーリズムの仕組みづくり」を目指すと語った。
観光資源として見ると、お茶は、絶景巡り、産業観光、歴史探訪、食ツーリズムなど多く可能性を持つ。そして、すでに坂野氏たちと連携して、ティー・ツーリズムへの取り組みを始める茶農家は増えており、収益化も実現しているという。しかし、観光客のニーズがもっとも高い新茶の時期は、繁忙期になるため農家が対応できなくなること、また、ほとんどの農家は外国語での対応ができないことなどが、ティー・ツーリズムの広がりの障壁になっている。
そこで、本テーマでは3つの提案がなされた。1つめは、茶農家に代わってゲストをもてなすお茶ツーリズムガイドの育成、2つめは受入茶農家の顕在化とプログラムの改良、3つめが観光客に配布できるような資料の作成だ。それらの実現のため、実証実験では茶農家のグループとツーリズムガイドのグループなどをまとめるお茶ツーリズムネットワークの構築・運用を目指していく。
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また、惜しくも二次審査は通過しなかったものの、以下の7チームによるピッチも審査員より高い評価を得た。今後は各チームでコンセプトやビジネスプランを再度練り上げ、共創コンテストへの再チャレンジに期待したい。
●データドリブン商店街~DXを活用した商店街活性化プロジェクト~(ピーディーシー株式会社 × 商業労務課)
●町内活動をスマートに繋げる:町内リンク360(株式会社コサウェル × 市民自治推進課)
●大谷・小鹿地区を拠点とする新たな交通サービス(産電工業株式会社 × 大谷・小鹿まちづくり推進課)
●商店街情報発信力強化プロジェクト(ジオ・マーク株式会社 × 商業労務課)
●安心安全な「子どもの遊び場商店街」から始める笑顔のまち~子どもの見守りDX化による「見える」安心の提供へ~(株式会社TOKAIケーブルネットワーク × 子ども未来課)
●AIを活用したSNS施策による食のブランディング化構築基盤(AIQ株式会社× 商業労務課)
●地域福祉の未来を創る、次世代の民生委員・児童委員の活動方法の実現(ためま株式会社 × 福祉総務課)
【トークセッション】市職員が実感したスタートアップとの共創の"リアル"
全ピッチの終了後、市職員によるトークセッションが開催された。登壇者は、静岡市 交通政策課の鈴掛氏、市民自治推進課の長澤氏、大谷・小鹿まちづくり推進課の遠藤氏の3名だ。なお、モデレーターは『UNITE2024』の運営支援を手がける株式会社eiiconの寺田圭孝氏が務めた。
市長の言葉にもあったように、『UNITE2024』は、スタートアップと市職員などがチームを組んでプロジェクトを進めるという珍しいタイプの取り組みだ。それまで行ってきた業務とはまったく違った仕事にチャレンジし、実際に共創を進めていた現場の職員が、この取り組みをどのように進め、なにを感じてきたのか、リアルな思いが語られた。
●取り組みにあたって意識したポイント
まず、今回の取り組みで意識したポイントについて、遠藤氏は、「大谷・小鹿地区では、土地区画整理事業が進んでいる一方で、地区内では既存の計画があり、活動されている事業者さんがいます。そういった既存事業とのすりあわせや、それをより促進できるような形とすることは意識しました」と述べた。関係する事業者にはコンテストの書類選考の段階から入ってもらって、巻き込みながら進めることができたのが成功のポイントだったという。
▲静岡市 大谷・小鹿まちづくり推進課 遠藤氏
また、長澤氏は、3名の自治会長とプロジェクトを進めた。その際に注意したのが、「スタートアップが何かを実現するための手段として自治会の協力を得るとなると、難しく感じられることがあるので、市として地域をどうしていきたいのかという点を前面に出す」ということだったという。それによって、スムーズな協力が得られた。
一方、鈴掛氏は、実証実験への協力を求める市内の民間事業者に対して、どんなコストやメリットがあるのかを明確にするということを意識したという。
▲静岡市 交通政策課 鈴掛氏
●スタートアップと市職員との役割分担は?
次に、スタートアップと市職員との役割分担をどうしていたのかが話された。これについては、協力を要請する地域企業のリストアップや協力要請といった地域企業との調整、町内の関係する課や、自治会、民生委員などとの行政内での調整は、職員が担い、それを踏まえた上での内容の深掘りはスタートアップが担うという役割分担がなされているという声が多かった。
●スタートアップとの共創をどう感じたか
次に、今回のコンテストを通じてスタートアップとの共創について、率直にいってどう感じているかという話題に移った。「委託業務だと、特定の業者さんや民間企業さんと一緒に事業を推進することが多いのですが、今回、私たちのチームでは市を含めて4者の共同でプロジェクトを進めたので、1社だけだと生み出せない価値があるというのは強く感じました」と語ったのは遠藤氏。
また、鈴掛氏は「これまで事業者になにかをお願いする際は『委託してやってもらう』というイメージだったのですが、今回は、一緒に考えて行動して、本当にパートナーとしてタッグを組んで進めていると感じました」という。
長澤氏は、スタートアップの人たちと、行政や会社という枠を超えて、深いコミュニケーションをしながら、チームの一員としてプロジェクトを進められたことで、「共創とはこういうことか」と実感できたと述べた。
▲静岡市 市民自治推進課 長澤氏
●今後に向けて
最後に、3名の今後に向けた希望や意気込みを語ってもらった。遠藤氏は、まずは今回の事業の社会実装に向けて、効果が発揮できるように動いていきたいとした。その上で、今回非常に多くのスタートアップから幅広い内容の応募があったことを踏まえて、今後も市で行き詰まっている課題があるときは、スタートアップとの提携により打開策を見いだすことが増えるのではないかと語った。
長澤氏は、協力を得た自治会からも今回のプロジェクトに対する期待が高まっているとして、今の取り組みを成功させることで、多くの自治体に横展開して広げていきたいと抱負を述べた。鈴掛氏は、この取り組みは単年度で終わるものではなく、継続して取り組んでいかなければならないこと、また、多くの市職員にも関わってもらいたいことなどが会場に向けても伝えられた。
難波市長からの期待と感謝の言葉で、『UNITE2024』二次審査会の幕が閉じる
トークセッションの後、審査発表があり、上述の通り5チームが選ばれ、審査員各人からの講評があった。そして最後に再び難波市長が登壇。本日の参加チームへのねぎらいと期待の言葉がかけられるともに、220を超える応募企業、多くの関係者、審査員などの尽力によってコンテストが成功裏に進められたことに対する感謝の言葉で、『UNITE2024』の二次審査会が締めくくられた。
取材後記
市の職員が共創プロジェクトのチームメンバーになって、スタートアップと一緒に事業化を進める取り組みは全国でも珍しいものだろう。自治体の職員といえば、住民に対して公正で安定した業務を提供することが第一であり、スタートアップ的なチャレンジに対しては、水と油のように離反するイメージがある。だからこそ、両者がひとつの混ざり合ったチームがプロジェクトを遂行することで、化学反応にも似た変化が生じて、スタートアップだけでも、自治体職員だけでも実現できない、新しい価値が生み出せるのではないかと期待を抱かせるコンテストだった。
――後日、TOMORUBAでは、11月14日に開催された『BRIDGE2024』二次審査会のレポート記事を掲載する。本記事と併せてお読みいただきたい。
(編集:眞田幸剛、文:椎原よしき、撮影:加藤武俊)