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静岡市が初開催する共創コンテスト『UNITE』&『BRIDGE』――「スタートアップと地域の共働」で社会課題解決に挑む

静岡市が初開催する共創コンテスト『UNITE』&『BRIDGE』――「スタートアップと地域の共働」で社会課題解決に挑む

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温暖な気候に恵まれ、南アルプスや駿河湾など、豊かな自然環境を有しながら、独自の文化や産業を育む静岡市。しかし一方で、複雑化・多様化する課題も山積している。そこで同市は、革新的な技術・サービス・アイデアを有するスタートアップなどとの共創を図り、さまざまな課題の解決を目指すべく、知・地域共創コンテストを2024年7月から開催する。同コンテストでは、スタートアップ・地域関係者・行政などで共創チームを形成し、新しい社会システムづくりの促進を試みる。

コンテストには、二種類のアプローチ方法が用意されている。一つ目が、『UNITE2024』(行政課題発信型)だ。これは、静岡市より20の社会課題のテーマを発信し、課題解決案をもつ企業から共創アイデアを募るというもの。2024年秋に行われる二次審査会(ピッチ審査)の通過チームには、1チームあたり500万円程度の実証支援金(総額5,000万円)を交付するなど、金銭面でのバックアップも心強いコンテストとなっている。二つ目が『BRIDGE2024』(スタートアップ提案型)で、提案企業が考える「静岡市が抱える課題」とその解決につながる社会システムの提案を募集する。こちらもコンテスト総額500万円の賞金が用意されている。

今回TOMORUBAでは、『UNITE2024』と『BRIDGE2024』の開催を受け、静岡市経済局 商工部 産業政策課 創業・イノベーション推進係 杉村氏・木下氏の二名に取材を実施。同コンテストの狙いや特徴、募集テーマなどと共に、コンテストにかける思いなどを詳しく聞いた。

【写真右】 静岡市 経済局 商工部 産業政策課 創業・イノベーション推進係 係長 杉村一行 氏

【写真左】 静岡市 経済局 商工部 産業政策課 創業・イノベーション推進係 主任主事 木下裕香子 氏

産業のバランスもが良い一方、固定化してしまうという課題も

――本年度、静岡市では初の試みとなる共創コンテストを実施されます。まずは静岡市の地域特性や産業の特徴をご紹介ください。

杉村氏 : 静岡市は海や山に囲まれており、自然豊かなのが大きな特徴の一つです。気候は温暖で、1年を通してとても過ごしやすいまちです。そのせいか、人も穏やかと評されることが多いです。他方、人口分布や物価などが平均的で関東・関西とも適度に距離が離れているなどの理由で、テストマーケティングに最適な場所と言われています。サービスやプロダクトが全国で一番に導入されたのは静岡というケースは少なからずあり、そうしたことを考えると、新しいものを受け入れるマインドは一定程度、形成されていると推測されます。

産業に目を転じますと、市の総生産額は、製造業が全体の25%を占めており、市内の産業を牽引していると言えるでしょう。卸売・小売業、不動産業、運輸・郵便業もそれぞれ10%ほどで、特定の産業に依存しないバランスのよい産業構造になっていることがわかります。市の総生産額は2011年以降、増加傾向にあり、伸び率は全国平均を上回っています。

――静岡市が課題を感じているところはあるでしょうか。

木下氏 : 全国どこでも同じだと思いますが、人口減少が大きな課題です。高校を卒業した若者が首都圏の大学に進学し、そのまま首都圏で就職するケースが多く、市内の若者は減る一方となっています。

杉村氏 : 産業面では、開業率は他の政令指定都市と比較して低くなっており、産業の固定化についても、課題だと捉えています。同じ静岡県でも、浜松市はチャレンジ精神が豊富で、「やらまいか(とにかくやってみよう)」というマインドが根付いているのとは対照的と言えるかもしれません。

昨年度からアクセラを実施、スタートアップとの連携も徐々に進む

――次に静岡市のスタートアップ支援事業についてお聞きしたいと思います。静岡市は昨年度、アクセラレーションプログラム(Shizuoka City Acceleration Program 2023)を実施されました。

木下氏 : 静岡市は昨年度、スタートアップに特化した事業をスタートさせました。これは国の「スタートアップ育成5か年計画」に流れに乗った施策です。当市としては初めての試みであり、どのような支援が適しているのかを探る意味でも、PoC型とインキュベーション型のアクセラレーションプログラムを並行して実施しました。

同プログラムは、スタートアップの事業成長を大きな目的としました。同時に、当市では「スタートアップ」という言葉がまだ十分に浸透していない面もあり、意識醸成の狙いもありました。プログラムには60件の応募があり、PoC型で2社、インキュベーション型で3社、採択しています。

PoC型で採択した株式会社ジャパンサイクルリーグは東京都、リッパー株式会社は静岡県富士市のスタートアップです。いずれも市内の企業と連携する動きも出ています。

――確かな成果が出ていますね。意識醸成という面ではいかがでしたか。

木下氏 : プログラムでは、19の市内企業・団体が支援チームとして参加しました。プログラム期間中に交流会を3~4回するなど、盛り上がりを見せ、参加企業・団体からは新しい発見があったなどの声も挙がりました。

先ほど応募が60件あったとお伝えしましたが、そのうち市内のスタートアップからの応募はわずか1件です。この点は大きな課題であり、今あるスタートアップの支援はもちろん、起業に向けた意識醸成も必要と考え、プログラムとは別に中高生向けにアントレプレナーシップを学ぶ講座などを実施しています。

――昨年度はガバメントピッチも行っていますね。

木下氏 : 今年の2月に、静岡市が抱える社会課題について解決を図っていただくべく、市内外の企業の方々に向けて市からピッチをさせていただきました。

――ガバメントピッチの目的を教えてください。

杉村氏 : 静岡市では昨年4月に就任した難波市長が「地域社会には大きな『力』があり、世界には大きな『知』がある。その『大きな力』と『大きな知』が静岡市に集まりつながることで、社会問題を解決し、新しい魅力を生み出す」と発言してきました。行政だけで施策を企画・実行するのは限界がありますので、市の職員にも積極的に外の知を活用することを推奨しています。ガバメントピッチはそうした流れを受けたものです。

――ピッチの手応えは感じられましたか。

木下氏 : 80社ほどの参加があり、課題についてピッチした課にも多くの問い合わせや提案が寄せられています。

コンテストを通じ、スタートアップと地域の共働で新社会システムの創造を目指す

――難波市長の強い後押しを受け、静岡市では今年度、知・地域共創コンテストを実施します。ぜひ特徴や狙いをお聞かせください。

杉村氏 : コンテストは、スタートアップと地域の共働で新社会システムの創造を目指しています。新社会システムというのは、特定の誰かだからできるというものではなく、誰がやっても同じような結果が出る。そうした仕組みを創り上げていきたいと考えているのです。

コンテストの大きな特徴としては、スタートアップからの提案を検証して、共創チームを形成することです。提案をそのまま受け入れて、実施を丸投げするのではありません。スタートアップの提案を行政や地域と共に静岡市に合ったものにしていきます。先ほど、市長は世界の知と地域の力を掛け合わせると話しましたが、今回はスタートアップの知と地域の力で、スピード感を持って新社会システムを作り出すのが狙いです。

――プログラムでは、行政課題発信型『UNITE』とスタートアップ提案型『BRIDGE』の、2つのアプローチを用意していますね。

杉村氏 : はい。行政課題発信型である『UNITE』は、行政から地域活動、子育て、教育、防災などに関する20のテーマを提示しています(※1)。スタートアップ提案型である『BRIDGE』は一般部門と海洋産業(BX※2)部門に大別しており、スタートアップからの提案を募集します。

『UNITE』はテーマをやや細かく設定しているため、一つひとつの取り組みは小さくなるかもしれません。しかし、その分、さまざまな角度から静岡市がスタートアップと一緒に課題解決に取り組んでいる、ということが発信できるのではないかと考えています。当市はスタートアップに関する事業については取組みはじめたばかりです。浜松市や静岡県は先んじて意欲的な取り組みを進めており、追いつけ追い越せの気持ちでコンテスト開催に挑んでいます。

※1 : 地域自治(2テーマ)、子ども・教育(3テーマ)、防災(2テーマ)、交通(3テーマ)、環境(1テーマ)、観光(3テーマ)、まちづくり(2テーマ)、健康・福祉(3テーマ)、土木・建築(1テーマ)の合計20テーマ。詳細は、『UNITE2024』特設ページに記載。

※2 : BX(ブルートランスフォーメーション)静岡市では、海洋産業に関する革新的技術に関する世界的拠点を目指して取組を進めている。

――テーマの話がありました。特に注力している分野はあるでしょうか。

木下氏 : そうですね。どの分野も当市にとって重要な課題になっていますが、「特に注力している」という点では、子育てが挙げられます。静岡市の人口減少の大きな原因の一つが出生率や婚姻率の低さであり、働く世帯の子育ての難しさも増しており、早期に解決を図りたいところです。

――子育てにおけるテーマのひとつには、「子どもの急病時の保護者負担を軽減し、仕事と育児の両立を実現」というものが設定しています。

杉村氏 : 子どもの急病時には、保護者が送迎や病院の受診の対応をするため仕事を休まざるを得ず、仕事と育児の両立を実現するには大きな課題があります。保護者の負担を代替するサービスやシームレスな情報伝達手段などといったスタートアップのサービスを地域のネットワークの中で運用し、子育てを支える仕組みを作り上げていくのが理想です。

1件500万円、総額5,000万円の実証支援金を用意

――その他、テーマに関して伝えたいことはありますか。

杉村氏 : テーマに目を通すと、全体にテクノロジーの話が多くなっているのに気づくと思います。しかし、私たちが目指しているのは、単純に良いツールを導入することではありません。ツールの導入はあくまで手段であり、期待しているのはスタートアップの方が持つ斬新な視点やアイデアです。これまで私たちが持ち得なかった考えを提示していただくことこそが、今回のコンテストに取り組む意義だと捉えています。

――ツール導入やDXはあくまできっかけ。新しい視点やアイデアで、今までにないようなプロダクトやサービスを作っていきたいということですね。

杉村氏 : はい、おっしゃる通りです。

――UNITEでは、総額5,000万円の実証支援金を用意しています。この点も大きな特徴であり、参加のメリットと言えそうです。

杉村氏 : 昨年度はスタートアップの成長を目的にアクセラレータープログラムを実施しました。今年度は課題解決に繋げるのが目的です。よい提案があっても、予算的制約ですぐに動き出せないということもありますので、コンテストに併せて実証支援金を用意しました。仮に10件採択されれば、単純計算で1件あたり500万円の支援金を使えます。スタートアップの方も動きやすさを感じていただけると思います。

――そのほか、参加者の方に提供できるリソースなどはあるでしょうか。

杉村氏 : 静岡市はBXを推進しています。静岡市は、目の前に国内最深を誇る駿河湾や清水港を有するとともに、その周辺には東海大学海洋学部をはじめとする海洋研究機関や海洋関連産業が集積しており、世界有数の海洋実証フィールド、オープンイノベーションの拠点となり得るポテンシャルを持っていると考えています。静岡市はもちろん、県としてもさまざまなサポートが可能で、特にスタートアップ提案型『BRIDGE』のBX部門に応募される方にはメリットが大きいはずです。また、静岡市コ・クリエーションスペースもお使いいただけます。もとともオープンイノベーションを推進するために設置した施設で、現在の会員数は1,500人に上ります。

▲本取材は、静岡市コ・クリエーションスペースで実施した。静岡駅や新静岡駅から近く、緑が多いキャンピングオフィスで、コミュニケーションを親密化させる場づくりが特徴的だ。

コンテストをスタートアップ誘致のきっかけにしたい

――最後に、コンテストにかける思い、本事業を通して目指したいゴールについてお聞かせいただければと思います。

木下氏 : スタートアップと市内企業・団体、行政がチームを組み、来年度、再来年度中に一つでも二つでも具体的に事業化できればと考えています。コンテストは単発で終わらせるつもりはありません。コンテストを一つのきっかけとして、地域に共創のノウハウ、マインドを根付かせればと思っています。

杉村氏 : 少し長期的な話になるかもしれませんが、スタートアップ関連事業を推進することで、静岡市は面白いことができる場所だ、可能性を感じさせる場所だ、ということを伝えていきたいです。その結果、自然とスタートアップが集まってコミュニティが形成され、イノベーションも起こりやすくなるのではないでしょうか。

現状は、スタートアップも支援者も決して多いと言えません。今回の共創コンテストが、そうした状況を打破するきっかけの一つになればうれしく思います。私たち行政は市内の企業などと共に、受け入れ態勢を整えています。ぜひふるってご参加ください。

木下氏 : 市内、市外、いずれのスタートアップからの応募も大歓迎です。静岡市にゆかりがなくても、共に課題解決を目指していただける方を歓迎しています。静岡市に不案内でも必要なサポートは随時行いますので、その点はご安心いただければと思います。

取材後記

静岡市がいよいよ本格的にスタートアップとの共創に乗り出してきた。昨年度は静岡県が優勝賞金1,000万円のビジネスコンテストを実施し、大きな盛り上がりを見せた。そうしたことを考慮すると、静岡市内でもスタートアップと共創し、新たな価値を創出する準備がある程度、整えられているのではないかと思う。コンテストを担当する杉村氏と木下氏は、コンテストへの思いを熱く語っており、また、市長の強力な後押しもある。コンテストからどのような成果が生み出されるのだろうか。同市では全国のスタートアップに積極的な参加を呼び掛けている。今後の動きにも注目していただくと共に、少しでも興味を持ったらぜひ参加してほしい。

▼『UNITE2024』と『BRIDGE2024』の詳細は以下をご覧ください。

・行政課題発信型 『UNITE2024』 https://shizuoka-city.eiicon.net/unite2024

・スタートアップ提案型 『BRIDGE2024』 https://shizuoka-city-startup-bridge.com/  

(編集:眞田幸剛、文:中谷藤士、撮影:加藤武俊)

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  • 木元貴章

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