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カーボンニュートラル達成に向け、なぜ「政策」が重要なのか?仏・中・ポーランドの特徴的な政策とは【各国の政策:後編】

カーボンニュートラル達成に向け、なぜ「政策」が重要なのか?仏・中・ポーランドの特徴的な政策とは【各国の政策:後編】

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パリ協定で定められた「世界の気温上昇を産業革命前に比べ1.5度までに抑える」を達成するための指標として、先進国では「2050年までにCO2排出量をゼロにする」ことが目標になっています。これがいわゆるカーボンニュートラルですが、日本でも段階的な目標として2030年までにCO2排出量を46%削減することを目指しています。TOMORUBAの連載「カーボンニュートラル達成への道」では、各業界がどのように脱炭素に向けた取り組みをしているのか追いかけていきます。

今回はカーボンニュートラル達成を目指す「各国の政策」の後編です。前編では米・英・独の特徴的な政策を紹介しましたが、後編では仏・中・ポーランドの政策に注目していきます。

政策の重要性と各国のカーボンニュートラル実現の表明

環境問題の成果と政策は密接に関わっています。環境問題を解決するために政策を実施することで大幅な成果をあげた事例は多くありますし、逆に言えば間違った政策を行うと環境は悪化し続けてしまいます。


出典:第2節 諸外国における脱炭素化の動向


そして、2021年4月時点で、125カ国と1の地域が2050年までのカーボンニュートラルの実現を目指すと表明しています。今回取り上げる中国やロシア、サウジアラビアなどは2060年までにカーボンニュートラルを達成する計画です。

カーボンニュートラル達成を表明したからといって、当然なんの政策もなしに成し遂げられるものではありません。国と地域によって事情はことなりますから、それぞれにさまざまな政策が生まれています。中でもユニークな政策が目立つフランス・中国・ポーランドの政策を見てみましょう。

【フランス】カーボンニュートラルに関する市民からの政策提言を法案化

フランスは2019年に「エネルギー・気候法」を制定し、2050年にカーボンニュートラルを実現するためのマイルストーンとして、2030年に温室効果ガスを40%削減することを明示しています。

さらに2021年8月には40%削減の具体的な施策を盛り込んだ「気候変動対策・レジリエンス強化法」が公布されました。この法案はマクロン大統領が設置した「気候変動市民評議会」がまとめた政策提言を基にして作られたものですが、同評議会はその名の通り抽選で選ばれた市民150人から構成されています。

同評議会は149項目の政策提言を政府に提出し、マクロン大統領はそのうち146項目を実現することを公約としました。「気候変動対策・レジリエンス強化法」では、146項目のうち46項目が盛り込まれています。

参照ページ:市民からの政策提言を基に環境法を策定・施行(フランス) | 地域・分析レポート - 海外ビジネス情報 - ジェトロ

【中国】2030年にピークアウトし、2060年に実質ゼロを達成する厳しいタイムライン

世界最大の温室効果ガス排出国である中国は、2020年時点で世界全体の排出量の約31%を占めています。2020年9月に、国連総会の一般討論にオンラインで参加した習近平国家主席は、国内のCO2排出量を2030年までにピークアウトさせ、2060年にカーボンニュートラルを達成を目指すと表明しています。

その他の先進国はすでに温室効果ガスの排出量がピークアウトしていることを考えると、中国は2030年のピークアウトから30年でカーボンニュートラルを達成しなければならない厳しいタイムラインとなっています。


引用:中国におけるカーボンニュートラルの動向

中国では、2021年3月に全国人民代表大会としては初めてカーボンニュートラルの目標を中国経済及び社会発展の5ヶ年計画に盛り込み、国家戦略の重要な目標としました。具体的には、生産エネルギーの国内総消費量を13.5%削減、二酸化炭素排出量を18%削減するという2030年までのカーボンピークアウト政策を制定しています。

中国が長期目標として定めている「第14次5カ年計画」(2021年~2025年)及び「第15次5カ年計画」(2026年~2030年)ではカーボンピークアウトに焦点を当て、非化石エネルギーの消費比重の向上、エネルギーの利用効率の向上、二酸化炭素の排出レベルの低下等の主要な目標を表明しており、全国民参加でこの目標を達成することを提案し、行動を開始しています。

参照ページ:2022-3-2 中国における新たなカーボンニュートラル政策

【ポーランド】水素技術を政策に盛り込み「水素経済」で成長戦略を狙う

ユニークかつアグレッシブな事例としてポーランドのカーボンニュートラル戦略を紹介します。ポーランドは2020年3月に「2040年までのエネルギー政策の改定案」を提示し以下の5つの目標を示しています。

・2030年に石炭が発電電力量に占める割合を56〜60%まで削減

・2030年に総最終エネルギー消費に占める再生可能エネルギーの割合を21〜23%まで引き上げ

・2033年に原子力発電を開始(現在所有なし)

・2030年までに二酸化炭素排出量を30%削減(1990年比)

・2030年までにエネルギー効率を23%向上(2007年時点の予測比)

これらの目標は環境への貢献だけでなく経済の競争力も底上げする狙いのあるアグレッシブな政策となっています。

特に、再エネの資源として水素技術の開発を政策に盛り込んでおり、水素を新たな輸出産業にする「水素経済」を目指しています。実はポーランドは欧州でドイツ、オランダに次ぐ水素生産量があります。

現状では水素生成のために化石燃料を使うケースが多く、再エネで水素を生成できる水電解への以降は課題です。

ポーランドは今後3つの戦略目標として「エネルギー・暖房分野における水素技術の導入」「輸送用の代替燃料としての水素の利用」「産業界の脱炭素化への支援」を軸に水素経済の発展を目指すとのことです。

参照ページ:2030年までのポーランド水素戦略 ―2040年に向けて(PDF)

【編集後記】各国がカーボンニュートラルをどう捉えているかが政策に現れる

仏・中・ポーランドの事例を紹介してきました。市民の関心の高さがうかがえるフランス、国家戦略となるとスピードが出そうな中国、成長のエンジンと捉え新技術を磨くポーランド、いずれも国としての考え方がよく出ているように思います。

(TOMORUBA編集部 久野太一)


■連載一覧

第1回:地球の持続可能性を占うカーボンニュートラル達成への道。各国の目標や関連分野などの基礎知識

第2回:カーボンニュートラルに「全力チャレンジ」する自動車業界のマイルストーンとイノベーションの種

第3回:もう改善余地がない?カーボンニュートラル達成のために産業部門に課された高いハードルとは

第4回:カーボンニュートラル実現のために、家庭や業務はどう変わる?キーワードは省エネ・エネルギー転換・データ駆動型社会

第5回:圧倒的なCO2排出量かつ電力構成比トップの火力発電。カーボンニュートラルに向けた戦略とは

第6回:カーボンニュートラルに向けた原子力をめぐる政策と、日本独自の事情を加味した落とし所とは

第7回:カーボンニュートラルに欠かせない再生可能エネルギー。国内で主軸になる二つの発電方法

第8回:必ずCO2を排出してしまうコンクリート・セメントを代替する「カーボンネガティブコンクリート」とは?

第9回:ポテンシャルの高い洋上風力発電がヨーロッパで主流でも日本で出遅れている理由は?

第10回:成長スピードが課題。太陽光・風力発電の効果を最大化する「蓄電池」の現状とは

第11回:ロシアのエネルギー資源と経済制裁はカーボンニュートラルにどのような影響を与えるか?

第12回:水素燃料電池車(FCV)は“失敗”ではなく急成長中!水素バス・水素電車はどのように社会実装が進んでいる?

第13回:国内CO2排出量の14%を占める鉄鋼業。カーボンニュートラル実現に向けた課題と期待の新技術「COURSE50」とは

第14回:プラスチックのリサイクルで出遅れる日本。知られていない国内基準と国際基準の違いとは

第15回:カーボンニュートラルを実現したらガス業界はどうなる?ガス業界が描く3つのシナリオとは

第16回:実は世界3位の地熱発電資源を保有する日本!優秀なベースロード電源としてのポテンシャルとは

第17回:牛の“げっぷ”が畜産で最大の課題。CO2の28倍の温室効果を持つメタン削減の道筋は?

第18回:回収したCO2を資源にする「メタネーション」が火力発電やガス業界に与える影響は?

第19回:カーボンニュートラル達成に向け、なぜ「政策」が重要なのか?米・独・英の特徴的な政策とは【各国の政策:前編】

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