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海水をCO2回収タンクにする「海のカーボンニュートラル」の新技術とは?

海水をCO2回収タンクにする「海のカーボンニュートラル」の新技術とは?

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パリ協定で定められた「世界の気温上昇を産業革命前に比べ1.5度までに抑える」を達成するための指標として、先進国では「2050年までにCO2排出量をゼロにする」ことが目標になっています。これがいわゆるカーボンニュートラルですが、日本でも段階的な目標として2030年までにCO2排出量を46%削減することを目指しています。TOMORUBAの連載「カーボンニュートラル達成への道」では、各業界がどのように脱炭素に向けた取り組みをしているのか追いかけていきます。

今回は「海のカーボンニュートラル新技術」について紹介していきます。あまり馴染みのない分野ですが、海は大気のカーボンニュートラルと密接に関わっていて、ポテンシャルが大きいことがわかっています。新技術が確立されるとどのような恩恵が受けられるのでしょうか。

海は二酸化炭素を吸収するタンクの役割を担う

新技術の紹介をする前に、なぜ海がカーボンニュートラルにおいて重要な役割を果たすのか、海とCO2の関係について解説します。

海水はCO2を吸収する性質を持ち、単位体積当たりで大気の約150倍もの二酸化炭素を保持していると言われています。そして、大気と海の保持するCO2の量は平衡状態にあるため、大気中のCO2が増えれば海水のCO2は増えますし、逆に海水のCO2が減ると平衡を保つために海は大気中のCO2を吸収します。

では、海水は毎年どのくらいのCO2を吸収しているのでしょうか。気象庁は以下のように解説しています。

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第5次評価報告書(2013年)では、化石燃料の燃焼及びセメント製造により排出される二酸化炭素と、農地拡大等による土地利用変化(森林破壊)により排出される二酸化炭素をあわせて、人為起源二酸化炭素と呼んでいます。2000年代の平均で、1年あたりおよそ90億トン炭素の人為起源二酸化炭素が排出されており(中略)海洋は大気から二酸化炭素を吸収するようになりました。その量は、産業革命前からの増加量でおよそ23億トン炭素(2000年代平均)とされています。

引用:海洋の炭素循環


要するに、年間90億トンの人為起源二酸化炭素が排出され、そのうち23億トンが海水に吸収されています。海水のCO2吸収がどれほど大きなインパクトかがわかる数値です。


出典:海洋の炭素循環

海水からCO2回収、海底でCO2を貯留・隔離できればイノベーションとなる

海水と大気中のCO2は平衡状態だということは、海水からCO2を回収するまたは海底でCO2を貯留・隔離できれば海水のCO2量が減るため、大気中から吸収できるCO2の量が増えることになります。

海水がより多くのCO2を吸収することができる技術が確立されれば、大量のCO2を大気中から吸い取ってくれるタンクを手に入れることに等しいため、こうした技術はイノベーションへの期待がかかっています。

経済産業省が公開している国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)の資料「海のカーボンニュートラル新技術開発」では、これらの技術を実現する手段が紹介されています。

海からCO2を回収する技術として、2種類の技術が紹介されています。ひとつは海水のpHを下げてCO2を回収する「電気透析型手法」、もうひとつは海の圧力と触媒を利用してCO2を回収する「低エネルギー型手法」です。

さらに同資料では、海底でCO2を貯留・隔離する手段にも言及されています。海洋底の堆積物の下には玄武岩層(海洋地殻)が広がっていますが、玄武岩層にCO2が融解した海水を注入して化学反応を発生させることでCO2を鉱物化させることが理論上は可能であるとしています。


出典:海のカーボンニュートラル 新技術開発

日本の排他的経済水域には玄武岩を基盤とする海山が複数あることから、大規模なCO2貯留・隔離に係るイノベーションにつながると期待されています。

スタートアップや大学でも「海のカーボンニュートラル」ソリューションが開発されている

海のカーボンニュートラルの実用化に向けて開発を進めているスタートアップや大学を紹介します。

米国のスタートアップEbb Carbonでは、独自の電気化学的手法により海から酸を除去する取り組みを進めています。海水はCO2濃度が高まるほど酸化する性質があります。Edd Carbonの技術によって、海水を水酸化ナトリウム(NaOH)と塩酸(HCl)に分離します。その後、NaOHだけを海に戻すことで海水の酸性化を抑制し、海水が新たにCO2を吸収できるようになるという仕組みです。

米国の大学米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)では、「シングルステップ炭素隔離貯留(single-step carbon sequestration and storage:sCS2)」というコンセプトによって海水からCO2を除去する技術を開発しています。海水に電荷を帯びさせることでアルカリ性化し化学変化を引き起こします。最終的にはCO2とカルシウムやマグネシウムが結合して石灰石やマグネサイト(菱苦土石)が生成されるので、海水のCO2を除去することが可能になります。


出典:Could the ocean hold the key to reducing carbon dioxide in the atmosphere? | UCLA

これらの技術が社会実装されれば、数十億トンの規模でCO2を回収できる可能性を持っているとのことです。

【編集後記】CO2回収のためにコストをかける決断ができるかどうか

紹介したいずれの技術も、社会実装されればインパクトの大きなCO2回収手段になりそうです。しかし、利益を生み出すかわからないCO2の回収に大きなコストをかけることができるのでしょうか。そこが今後のポイントになりそうです。

例えば最後に紹介したUCLAの研究では、毎年100億トンのCO2を回収するには数兆ドルのコストがかかると試算されています。年間の温室効果ガスの排出量が510億トンであることを考えるとインパクトは絶大ですが、事業として採算がとれるのか注目が集まります。

(TOMORUBA編集部 久野太一)


■連載一覧

第1回:地球の持続可能性を占うカーボンニュートラル達成への道。各国の目標や関連分野などの基礎知識

第2回:カーボンニュートラルに「全力チャレンジ」する自動車業界のマイルストーンとイノベーションの種

第3回:もう改善余地がない?カーボンニュートラル達成のために産業部門に課された高いハードルとは

第4回:カーボンニュートラル実現のために、家庭や業務はどう変わる?キーワードは省エネ・エネルギー転換・データ駆動型社会

第5回:圧倒的なCO2排出量かつ電力構成比トップの火力発電。カーボンニュートラルに向けた戦略とは

第6回:カーボンニュートラルに向けた原子力をめぐる政策と、日本独自の事情を加味した落とし所とは

第7回:カーボンニュートラルに欠かせない再生可能エネルギー。国内で主軸になる二つの発電方法

第8回:必ずCO2を排出してしまうコンクリート・セメントを代替する「カーボンネガティブコンクリート」とは?

第9回:ポテンシャルの高い洋上風力発電がヨーロッパで主流でも日本で出遅れている理由は?

第10回:成長スピードが課題。太陽光・風力発電の効果を最大化する「蓄電池」の現状とは

第11回:ロシアのエネルギー資源と経済制裁はカーボンニュートラルにどのような影響を与えるか?

第12回:水素燃料電池車(FCV)は“失敗”ではなく急成長中!水素バス・水素電車はどのように社会実装が進んでいる?

第13回:国内CO2排出量の14%を占める鉄鋼業。カーボンニュートラル実現に向けた課題と期待の新技術「COURSE50」とは

第14回:プラスチックのリサイクルで出遅れる日本。知られていない国内基準と国際基準の違いとは

第15回:カーボンニュートラルを実現したらガス業界はどうなる?ガス業界が描く3つのシナリオとは

第16回:実は世界3位の地熱発電資源を保有する日本!優秀なベースロード電源としてのポテンシャルとは

第17回:牛の“げっぷ”が畜産で最大の課題。CO2の28倍の温室効果を持つメタン削減の道筋は?

第18回:回収したCO2を資源にする「メタネーション」が火力発電やガス業界に与える影響は?

第19回:カーボンニュートラル達成に向け、なぜ「政策」が重要なのか?米・独・英の特徴的な政策とは【各国の政策:前編】

第20回:カーボンニュートラル達成に向け、なぜ「政策」が重要なのか?仏・中・ポーランドの特徴的な政策とは【各国の政策:後編】

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