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排出されるCO2を捕捉して貯蔵する技術『CCS』はカーボンニュートラルの救世主となるか?

排出されるCO2を捕捉して貯蔵する技術『CCS』はカーボンニュートラルの救世主となるか?

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パリ協定で定められた「世界の気温上昇を産業革命前に比べ1.5度までに抑える」を達成するための指標として、先進国では「2050年までにCO2排出量をゼロにする」ことが目標になっています。これがいわゆるカーボンニュートラルですが、日本でも段階的な目標として2030年までにCO2排出量を46%削減することを目指しています。TOMORUBAの連載「カーボンニュートラル達成への道」では、各業界がどのように脱炭素に向けた取り組みをしているのか追いかけていきます。

今回ピックアップするテーマは『CCS(Carbon Capture and Storage)』です。カーボンニュートラルにはさまざまなアプローチがありますが、CCSは大気中の二酸化炭素を人工的に吸収し、地中や海洋、森林などに「隔離」するプロセスを指します。CCSとはいったいどのような技術なのか、解説していきます。

CCSは自然界で行われるCO2の吸収・隔離を人工的に再現するアプローチ

CCS(Carbon Capture and Storage)は大気または工業的な排出源からCO2を捕捉し、それを長期的に安全に貯蔵するプロセスを指します。

CCSと似たような言葉に「炭素隔離(Carbon Sequestration)」があります。炭素隔離とは、大気中のCO2を何らかの方法で吸収・捕捉して貯蔵するプロセスを指します。このプロセスは基本的には自然界で行われているものと同じです。自然界では植物や海洋生物などが光合成を通じて大気中のCO2を吸収し、炭素を生物体内や土壌、海洋に蓄積することで、自然の炭素循環が維持されていますが、これも炭素隔離にあたります。

要するに、CCSは炭素隔離の一部と考えることができますが、炭素隔離はより広範なプロセスであり、自然的な炭素隔離も含まれます。

CCSの主要な3ステップは「捕捉」「輸送」「貯蔵」

具体的に、CCSを行うには「捕捉」「輸送」「貯蔵」の3つのステップが主にあります。

「捕捉」のステップでは、石炭や天然ガス発電所、製鉄所などといった大規模なCO2の排出源からCO2を分離・回収します。捕捉は、燃焼前捕捉、燃焼後捕捉、酸化的変換など、いくつか方法があります。

「輸送」のステップでは、捕捉したCO2をパイプラインや船舶を使用して貯蔵場所まで運びます。

そして「貯蔵」のステップでは、CO2は地下の地質層、例えば使い果たされた石油・ガス田や塩水層に圧入され、長期的に隔離されます。

日本でもこの3つのステップを社会実装するために大規模な実証実験が完了しています。北海道の苫小牧にあるCCS実証試験センターでは、製油所の水素製造設備から供給されるCO2を含むガスを、隣接するCO2分離・回収/圧入設備までパイプラインで輸送し、その後、そのガスからCO2を分離・回収して、海岸から3~4km離れた海底下の貯留層へ圧入・貯留しました。

この実証実験は2020年に完了しており、①30万トンの累計圧入量を達成、②安全性の証明、③情報を公開しCCSの理解を促進、といった成果をあげています。

参照:知っておきたいエネルギーの基礎用語 ~CO2を集めて埋めて役立てる「CCUS」

大気中からCO2回収する「DAC」、回収したCO2有効活用するCCUSなどの次世代技術

CCSは大規模な排出源からCO2を回収・貯蔵する技術ですが、CCSと似たコンセプトの新技術は他にもあります。

ひとつ

は、大気中からCO2を回収するDAC(Direct Air Capture)です。DACは吸収液や吸着材といった固体や液体を用いて大気中のCO2を吸収・吸着させます。その後、加熱や減圧などの操作で吸収液や吸着材からCO2を分離・回収する「化学吸収・吸着法」という方法が一般的です。回収したCO2を地下に貯蔵する場合はCCSの貯蔵技術を使いますが、これをDACとCCSを合わせた「DACCS」と呼ぶ場合もあります。

出典:大気中からのCO2直接回収と地中貯留でネガティブエミッションを達成するコンセプトを構築! | 研究成果 | 九州大学(KYUSHU UNIVERSITY)

また、DACやCCSで捕捉したCO2を有効活用するのがCCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)です。例えば、米国では古い油田にCO2を注入することで油田に残った原油を圧力で押し出しつつ、CO2を地中に貯留するというCCUSがおこなわれています。CO2削減できてなおかつ、石油の増産にもつながるとして、ビジネスとして活用できないか期待がかかっています。

国際エネルギー機関(IEA)のレポートでは、CCUSは2070年までの累積CO2削減量の15%を担い、カーボンニュートラル達成時に約69億トン/年の削減貢献をすることが期待されています。

出典:CO2を回収して埋める「CCS」、実証試験を経て、いよいよ実現も間近に(前編)

【編集後記】コストの問題をクリアすれば大きな前進

CCSはカーボンニュートラル達成に向けて大きな期待がかかっています。なにしろ排出されたCO2が大気に放出される前に捕捉して貯蔵するという夢のような技術ですから、社会実装されればインパクトは大きいです。現時点では技術は確立されているものの、コストが高いことが課題となっていますが、そこをクリアすればカーボンニュートラルは大きく前進できるでしょう。

(TOMORUBA編集部 久野太一)

■連載一覧

第1回:地球の持続可能性を占うカーボンニュートラル達成への道。各国の目標や関連分野などの基礎知識

第2回:カーボンニュートラルに「全力チャレンジ」する自動車業界のマイルストーンとイノベーションの種

第3回:もう改善余地がない?カーボンニュートラル達成のために産業部門に課された高いハードルとは

第4回:カーボンニュートラル実現のために、家庭や業務はどう変わる?キーワードは省エネ・エネルギー転換・データ駆動型社会

第5回:圧倒的なCO2排出量かつ電力構成比トップの火力発電。カーボンニュートラルに向けた戦略とは

第6回:カーボンニュートラルに向けた原子力をめぐる政策と、日本独自の事情を加味した落とし所とは

第7回:カーボンニュートラルに欠かせない再生可能エネルギー。国内で主軸になる二つの発電方法

第8回:必ずCO2を排出してしまうコンクリート・セメントを代替する「カーボンネガティブコンクリート」とは?

第9回:ポテンシャルの高い洋上風力発電がヨーロッパで主流でも日本で出遅れている理由は?

第10回:成長スピードが課題。太陽光・風力発電の効果を最大化する「蓄電池」の現状とは

第11回:ロシアのエネルギー資源と経済制裁はカーボンニュートラルにどのような影響を与えるか?

第12回:水素燃料電池車(FCV)は“失敗”ではなく急成長中!水素バス・水素電車はどのように社会実装が進んでいる?

第13回:国内CO2排出量の14%を占める鉄鋼業。カーボンニュートラル実現に向けた課題と期待の新技術「COURSE50」とは

第14回:プラスチックのリサイクルで出遅れる日本。知られていない国内基準と国際基準の違いとは

第15回:カーボンニュートラルを実現したらガス業界はどうなる?ガス業界が描く3つのシナリオとは

第16回:実は世界3位の地熱発電資源を保有する日本!優秀なベースロード電源としてのポテンシャルとは

第17回:牛の“げっぷ”が畜産で最大の課題。CO2の28倍の温室効果を持つメタン削減の道筋は?

第18回:回収したCO2を資源にする「メタネーション」が火力発電やガス業界に与える影響は?

第19回:カーボンニュートラル達成に向け、なぜ「政策」が重要なのか?米・独・英の特徴的な政策とは【各国の政策:前編】

第20回:カーボンニュートラル達成に向け、なぜ「政策」が重要なのか?仏・中・ポーランドの特徴的な政策とは【各国の政策:後編】

第21回:海水をCO2回収タンクにする「海のカーボンニュートラル」の新技術とは?

第22回:ビル・ゲイツ氏が提唱する「グリーンプレミアム」とは?カーボンニュートラルを理解するための重要な指標

第23回:内閣府が初公表し注目される、環境対策を考慮した「グリーンGDP」はGDPに代わる指標となるか?

第24回:カーボンニュートラルの「知財」はなぜ重要か?日本が知財競争力1位となった4分野とは

第25回:再エネ資源の宝庫であるアフリカ。カーボンニュートラルの現状とポテンシャルは?

第26回:「ゼロ・エミッション火力プラント」の巨大なインパクト。圧倒的なCO2排出を占める火力発電をどうやって“ゼロ”にするのか?

第27回:消費者の行動変容を促す「カーボンフットプリント」は、なぜカーボンニュートラル達成のために重要なのか

第28回:脱炭素ドミノを目指す「地域脱炭素ロードマップ」と「脱炭素先行地域」の戦略とは?

第29回:次世代原発の『小型原子炉』はなぜ低コストで非常時の安全性が高いのか?

第30回:『SAF』なら燃焼しても実質CO2排出ゼロ?廃食油をリサイクルして製造する次世代型航空燃料とは

第31回:日本は「海洋エネルギー」のポテンシャルが世界トップクラス。再エネの宝庫である海のパワーとは

第32回:80年代から途上国に輸出される『福岡方式』とは?温暖化防止にもつながる再現性の高いゴミ問題の解決策

第33回:カーボンニュートラル必達を掲げ『GI基金』に2兆円を造成。支援する分野や採択されたプロジェクトとは

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