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『SAF』なら燃焼しても実質CO2排出ゼロ?廃食油をリサイクルして製造する次世代型航空燃料とは

『SAF』なら燃焼しても実質CO2排出ゼロ?廃食油をリサイクルして製造する次世代型航空燃料とは

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パリ協定で定められた「世界の気温上昇を産業革命前に比べ1.5度までに抑える」を達成するための指標として、先進国では「2050年までにCO2排出量をゼロにする」ことが目標になっています。これがいわゆるカーボンニュートラルですが、日本でも段階的な目標として2030年までにCO2排出量を46%削減することを目指しています。TOMORUBAの連載「カーボンニュートラル達成への道」では、各業界がどのように脱炭素に向けた取り組みをしているのか追いかけていきます。

今回取り上げるテーマは廃食油を原料とした燃料『SAF』です。化石燃料は効率が良く安定的で安価な燃料として重宝されていますが、CO2を多く排出するためカーボンニュートラルを実現するためには乗り越えなければならない壁となっています。この現状を踏まえ、SAFはどのような形でカーボンニュートラルに貢献することが期待されているのでしょうか。

SAFは廃食油を再利用して作る航空燃料

SAF(Sustainable Aviation Fuel)は、廃食油を原料とする燃料であり、航空機に使用される次世代の燃料の1つです。一般的な燃料と異なり、SAFは温室効果ガスの排出量が大幅に減少しているため、環境に優しい選択肢として注目されています。さらに、SAFは廃食油を原料とすることによって、再利用やリサイクルの促進にも貢献しています。

また、SAFは既存の化石燃料と混合して利用することもできるため、航空機の設備をリプレイスすることなく導入できる点にも期待が集まっています。

SAFは廃食油以外にもゴミから出たプラスチックや、木質系バイオマス、微細藻類なども原料になります。

SAFの製造プロセスはざっくり4つの工程に分けられます。

1.家庭や飲食店から原料を回収する

2.原料の清掃をする。廃食油は食品のゴミや、酸化した油が含まれているためこれらを取り除く

3.廃食油を生物炭素燃料に変換する。廃食油を高温で炭化させることで、廃食油からガスや液体燃料を生産できるようになる

4.生物炭素燃料からSAFを製造する。SAFを製造するには、生物炭素燃料をさらに加工する必要があるが、加工することで航空機に使用できるようになる


出典:バイオジェット燃料生産技術開発事業 

SAFは植物由来ならば実質的なCO2排出量がゼロに

SAFのメリットとして最も大きいのはCO"排出量を大幅に削減できる点です。前述したとおり、SAFの原料は木質系バイオマスや微細藻類、廃食油などで、植物由来のものが多くなっています。そのため、SAFの燃焼時に排出されるCO2は原料の植物が生育時に光合成で吸収したCO2であるため、実質的なCO2排出量はゼロに近くなります。

また、リサイクルの観点からもSAFは優れています。通常、廃食油は産業廃棄物として処理されます。日本の場合、産廃として回収された廃食油の処理方法は「再生利用」「減量化」「最終処分」のいずれかになります。このうち、再利用されるのは4割程度にとどまっているため、SAFが普及することで廃食油の再利用率が上がり、リサイクルの促進につながります。

一方でSAFには課題もあります。ネックになっているのは、いかに廃食油を回収するかです。廃食油はあらゆる家庭や飲食店で発生するため、全てを回収することは困難です。

次に、生産量とコストの問題があります。SAFはまだまだ生産量が少なく、コストも高いため商業化にはハードルがあります。日本政府は2030年までに国内航空会社の航空燃料需要の1割にあたる130万キロリットルをSAFにする方針を固めていますが、2020年度の“世界の”SAF供給量は6.3万キロリットルであり、目標と現状には大きな乖離があります。SAFの生産コストについても、現状では1リットルあたり200〜1600円となっており、これはジェット燃料の2〜16倍の価格です。

SAF事業に乗り出す日本企業

SAF製造については欧米企業が先行しており、日本企業はそのあとを追いかけている形ですが、近年日本でもSAF事業に乗り出すプレイヤーが増えています。日揮ホールディングスは三菱商事や小田急グループと連携して原料となる廃食油の回収を推進していたり、同じく日揮ホールディングスとコスモ石油は共同出資した会社で2024年からSAF生産を開始する計画です。


出典:持続可能な航空燃料(SAF) | 資源循環 | 日揮ホールディングス株式会社

また、フィンランドの再生可能燃料メーカーのネステはJAL、ANAとそれぞれ提携して輸入による調達を進めています。まだまだ国内だけでのSAF供給量だけでは必要量がまかなえないため、輸入に頼らざるを得ないのが現状です。

【編集後記】回収とコスト減にはイノベーションが必要

原料となる廃食油の回収率が上がれば、製造できるSAFの量も増えるので当然生産コストは下がるでしょう。ただ、ほぼ全ての廃食油を回収するとなるとイノベーションが必須となるはずです。日本が商業化で欧米企業にリードされているSAFの領域で巻き返しを狙うには回収技術に大胆な投資をする必要があるかもしれません。

(TOMORUBA編集部 久野太一)


■連載一覧

第1回:地球の持続可能性を占うカーボンニュートラル達成への道。各国の目標や関連分野などの基礎知識

第2回:カーボンニュートラルに「全力チャレンジ」する自動車業界のマイルストーンとイノベーションの種

第3回:もう改善余地がない?カーボンニュートラル達成のために産業部門に課された高いハードルとは

第4回:カーボンニュートラル実現のために、家庭や業務はどう変わる?キーワードは省エネ・エネルギー転換・データ駆動型社会

第5回:圧倒的なCO2排出量かつ電力構成比トップの火力発電。カーボンニュートラルに向けた戦略とは

第6回:カーボンニュートラルに向けた原子力をめぐる政策と、日本独自の事情を加味した落とし所とは

第7回:カーボンニュートラルに欠かせない再生可能エネルギー。国内で主軸になる二つの発電方法

第8回:必ずCO2を排出してしまうコンクリート・セメントを代替する「カーボンネガティブコンクリート」とは?

第9回:ポテンシャルの高い洋上風力発電がヨーロッパで主流でも日本で出遅れている理由は?

第10回:成長スピードが課題。太陽光・風力発電の効果を最大化する「蓄電池」の現状とは

第11回:ロシアのエネルギー資源と経済制裁はカーボンニュートラルにどのような影響を与えるか?

第12回:水素燃料電池車(FCV)は“失敗”ではなく急成長中!水素バス・水素電車はどのように社会実装が進んでいる?

第13回:国内CO2排出量の14%を占める鉄鋼業。カーボンニュートラル実現に向けた課題と期待の新技術「COURSE50」とは

第14回:プラスチックのリサイクルで出遅れる日本。知られていない国内基準と国際基準の違いとは

第15回:カーボンニュートラルを実現したらガス業界はどうなる?ガス業界が描く3つのシナリオとは

第16回:実は世界3位の地熱発電資源を保有する日本!優秀なベースロード電源としてのポテンシャルとは

第17回:牛の“げっぷ”が畜産で最大の課題。CO2の28倍の温室効果を持つメタン削減の道筋は?

第18回:回収したCO2を資源にする「メタネーション」が火力発電やガス業界に与える影響は?

第19回:カーボンニュートラル達成に向け、なぜ「政策」が重要なのか?米・独・英の特徴的な政策とは【各国の政策:前編】

第20回:カーボンニュートラル達成に向け、なぜ「政策」が重要なのか?仏・中・ポーランドの特徴的な政策とは【各国の政策:後編】

第21回:海水をCO2回収タンクにする「海のカーボンニュートラル」の新技術とは?

第22回:ビル・ゲイツ氏が提唱する「グリーンプレミアム」とは?カーボンニュートラルを理解するための重要な指標

第23回:内閣府が初公表し注目される、環境対策を考慮した「グリーンGDP」はGDPに代わる指標となるか?

第24回:カーボンニュートラルの「知財」はなぜ重要か?日本が知財競争力1位となった4分野とは

第25回:再エネ資源の宝庫であるアフリカ。カーボンニュートラルの現状とポテンシャルは?

第26回:「ゼロ・エミッション火力プラント」の巨大なインパクト。圧倒的なCO2排出を占める火力発電をどうやって“ゼロ”にするのか?

第27回:消費者の行動変容を促す「カーボンフットプリント」は、なぜカーボンニュートラル達成のために重要なのか

第28回:脱炭素ドミノを目指す「地域脱炭素ロードマップ」と「脱炭素先行地域」の戦略とは?

第29回:次世代原発の『小型原子炉』はなぜ低コストで非常時の安全性が高いのか?

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