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日本は「海洋エネルギー」のポテンシャルが世界トップクラス。再エネの宝庫である海のパワーとは

日本は「海洋エネルギー」のポテンシャルが世界トップクラス。再エネの宝庫である海のパワーとは

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パリ協定で定められた「世界の気温上昇を産業革命前に比べ1.5度までに抑える」を達成するための指標として、先進国では「2050年までにCO2排出量をゼロにする」ことが目標になっています。これがいわゆるカーボンニュートラルですが、日本でも段階的な目標として2030年までにCO2排出量を46%削減することを目指しています。TOMORUBAの連載「カーボンニュートラル達成への道」では、各業界がどのように脱炭素に向けた取り組みをしているのか追いかけていきます。

今回注目するのは『海洋エネルギー』です。その名の通り海の力のことを指しますが、どのように海洋エネルギーがカーボンニュートラルに貢献するのでしょうか。また、海洋エネルギーを上手に使いこなしている事例や、最新の技術にも触れていきます。

急成長を遂げる海洋エネルギーは再エネの宝庫

本記事における「海洋エネルギー」とは、海の力を有効活用することで得られる、化石燃料に代わる環境にやさしいエネルギーを指します。海洋エネルギー発電は下記のようにさまざまな種類があります。

・海洋温度差発電

・波力発電

・潮流発電

・洋上風力発電

・潮汐力発電

・海洋濃度差発電

これらの発電はいずれも再生可能エネルギーであり、持続可能性に期待がかかっています。

調査会社のグローバルインフォメーションが2022年10月に公開したレポートでは、世界の海洋エネルギー(潮流・波力)の市場規模は、2020年から2027年の間に35.4%の年平均成長率(CAGR)で成長する見通しで、発電量は2022年の8万6200キロワットから、2026年までに34万8100キロワットに達すると予測されています。

参照ページ:海洋エネルギー(潮流・波力)の世界市場

洋上風力発電が欧州では主力に

海洋エネルギーによる発電は、日本ではまだそれほど実績のない領域です。世界に目を向けると、代表的な取り組みとして欧州での洋上風力発電が挙げられます。

欧州では洋上風力発電の導入量が急増していて、再エネの電力の中では主力の位置付けです。2017年には累計導入量が15,780MWに達し、2012年の5,000MWから3倍以上に増加しています。これにはいくつか理由があります。まず、ヨーロッパの洋上は風況が良いだけでなく遠浅であり、風車の基礎を海底に固定する着床式の風車の設置が容易です。また、政府が洋上風力のルールを整備したため、参入する事業者のリスクが低減されたことも後押しになっています。

日本でも洋上風力は有力な手段として検討されていますが、ルールが整備されていないことや、事業者間の利害の調整ができていないことなどから、社会実装までのマイルストーンが明確になっていません。

関連記事:ポテンシャルの高い洋上風力発電がヨーロッパで主流でも日本で出遅れている理由は

海に囲まれた日本は海洋エネルギーのポテンシャルが高い

日本は四方を海に囲まれた島国なので、海洋エネルギーのポテンシャルは高く、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は海洋エネルギーの実証実験を2018年度〜2021年度に実施しています。

想定する用途として実証実験のドキュメントには「地域分散型の電源としての役割を担うものとして期待されています」と記載されています。ただ洋上風力発電以外の海洋エネルギー発電は世界でも商用化の例は少ない状況です。

NEDOはこの実証実験を通じて、海洋エネルギー発電技術の事業化実現を目指し、2030年以降、海洋エネルギー発電技術の実用化への迅速な移行を目指すとしています。

参照ページ:海洋エネルギー発電実証等研究開発 | 事業 | NEDO

海洋エネルギーに挑む国内企業

国内にも海洋エネルギー発電の商用化を目指している有望なベンチャー企業は数多くあります。

慶應大学発のベンチャー企業グローバルエナジーハーベストは波の力を利用して発電する波力発電技術を持っています。同社が手がける「循環型波力発電」とは、海面に設置した装置に波が打ち付けると、装置内を海水が循環して、その力を利用して発電するというものです。NEDO、総務省、国土交通省から受託研究を受けており、国内の波力発電研究において期待されていることがわかります。


出典:循環型波力揚水発電 | 株式会社グローバルエナジーハーベスト

また、海洋温度差発電を研究する老舗ベンチャー、ゼネシスは海洋温度差発電の(2013年当時で)世界唯一となる実用実証プラントを久米島で稼働させています。海洋温度差発電とは、海面近くの暖かい海水と深海の冷たい海水の温度差を使って発電する技術です。


出典:海洋温度差発電のしくみ

このように、海洋エネルギーはまだまだ再エネの中でもニッチな存在ですが、社会実装に向けて着実に前進している分野と言えます。

【編集後記】国内に海洋エネルギーの実証実験のフィールドは広い

海洋エネルギーはカーボンニュートラル達成に向けたソリューションとしてはまだまだニッチな分野です。しかし、本文でも述べたように、国内のアドバンテージは島国であるということです。日本は海岸の長さが世界6位ということもあり、海洋エネルギーの実証実験のフィールドとしては申し分ない広さがあります。ルールを整備し、社会実装までのスピードを早めれば、輸出できる技術になるはずです。

(TOMORUBA編集部 久野太一)


■連載一覧

第1回:地球の持続可能性を占うカーボンニュートラル達成への道。各国の目標や関連分野などの基礎知識

第2回:カーボンニュートラルに「全力チャレンジ」する自動車業界のマイルストーンとイノベーションの種

第3回:もう改善余地がない?カーボンニュートラル達成のために産業部門に課された高いハードルとは

第4回:カーボンニュートラル実現のために、家庭や業務はどう変わる?キーワードは省エネ・エネルギー転換・データ駆動型社会

第5回:圧倒的なCO2排出量かつ電力構成比トップの火力発電。カーボンニュートラルに向けた戦略とは

第6回:カーボンニュートラルに向けた原子力をめぐる政策と、日本独自の事情を加味した落とし所とは

第7回:カーボンニュートラルに欠かせない再生可能エネルギー。国内で主軸になる二つの発電方法

第8回:必ずCO2を排出してしまうコンクリート・セメントを代替する「カーボンネガティブコンクリート」とは?

第9回:ポテンシャルの高い洋上風力発電がヨーロッパで主流でも日本で出遅れている理由は?

第10回:成長スピードが課題。太陽光・風力発電の効果を最大化する「蓄電池」の現状とは

第11回:ロシアのエネルギー資源と経済制裁はカーボンニュートラルにどのような影響を与えるか?

第12回:水素燃料電池車(FCV)は“失敗”ではなく急成長中!水素バス・水素電車はどのように社会実装が進んでいる?

第13回:国内CO2排出量の14%を占める鉄鋼業。カーボンニュートラル実現に向けた課題と期待の新技術「COURSE50」とは

第14回:プラスチックのリサイクルで出遅れる日本。知られていない国内基準と国際基準の違いとは

第15回:カーボンニュートラルを実現したらガス業界はどうなる?ガス業界が描く3つのシナリオとは

第16回:実は世界3位の地熱発電資源を保有する日本!優秀なベースロード電源としてのポテンシャルとは

第17回:牛の“げっぷ”が畜産で最大の課題。CO2の28倍の温室効果を持つメタン削減の道筋は?

第18回:回収したCO2を資源にする「メタネーション」が火力発電やガス業界に与える影響は?

第19回:カーボンニュートラル達成に向け、なぜ「政策」が重要なのか?米・独・英の特徴的な政策とは【各国の政策:前編】

第20回:カーボンニュートラル達成に向け、なぜ「政策」が重要なのか?仏・中・ポーランドの特徴的な政策とは【各国の政策:後編】

第21回:海水をCO2回収タンクにする「海のカーボンニュートラル」の新技術とは?

第22回:ビル・ゲイツ氏が提唱する「グリーンプレミアム」とは?カーボンニュートラルを理解するための重要な指標

第23回:内閣府が初公表し注目される、環境対策を考慮した「グリーンGDP」はGDPに代わる指標となるか?

第24回:カーボンニュートラルの「知財」はなぜ重要か?日本が知財競争力1位となった4分野とは

第25回:再エネ資源の宝庫であるアフリカ。カーボンニュートラルの現状とポテンシャルは?

第26回:「ゼロ・エミッション火力プラント」の巨大なインパクト。圧倒的なCO2排出を占める火力発電をどうやって“ゼロ”にするのか?

第27回:消費者の行動変容を促す「カーボンフットプリント」は、なぜカーボンニュートラル達成のために重要なのか

第28回:脱炭素ドミノを目指す「地域脱炭素ロードマップ」と「脱炭素先行地域」の戦略とは?

第29回:次世代原発の『小型原子炉』はなぜ低コストで非常時の安全性が高いのか?

第30回:『SAF』なら燃焼しても実質CO2排出ゼロ?廃食油をリサイクルして製造する次世代型航空燃料とは

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