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【ディープテック基礎知識⑬】食糧問題・環境問題の救世主「植物工場」の可能性と問題点

【ディープテック基礎知識⑬】食糧問題・環境問題の救世主「植物工場」の可能性と問題点

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今や世界中で問題視されている食糧問題と環境問題。その大きな2つの問題の解決策として注目されているのが「植物工場」です。工場で農作物を育てることで、安定した食料を供給できるだけでなく、環境への負担も減らせるため多くの企業が参入しています。

新規事業やオープンイノベーションに関わるビジネスパーソンなら知っておきたい【ディープテック基礎知識】の第13弾では、この植物工場について取り上げます。植物工場のメリットやデメリットや、植物工場に取り組む国内外の企業について紹介していきます。

植物工場とは

植物工場とは、内部環境を人工的に制御した閉鎖的または半閉鎖的な空間で、野菜などの植物を計画的に生産するシステムのこと。人工光を用いることもできるため、天候や気候に左右されず、年間を通して安定的に高品質な農産物を栽培できます。

また、土壌を使わずに養液栽培を行うため、病害虫の発生が少なく、農薬の使用量を減らせるのも大きなメリットです。近年、食料安全保障や環境問題への関心の高まりから、大きな注目を集めています。

植物工場には、主に太陽光を光源として利用する「太陽光型」と、人工光を光源として利用する「人工光型」の2種類があります。太陽光型はランニングコストが低いものの、大規模な施設が必要になる一方で、人工光型は天候や気候に左右されないメリットがある反面、ランニングコストが高くなるのが課題です。

植物工場が注目されている背景

近年、植物工場が注目されている背景には、主に以下の5つの要因があります。

1.食料安全保障への懸念

世界人口の増加や気候変動の影響により、将来的に食料不足が深刻化する可能性が懸念されています。

植物工場は人工光や温度、湿度などを精密に制御することで、年間を通して一定の環境を維持できます。そのため、天候や病害虫の影響を受けずに、安定的な農作物の栽培が可能です。これは、気候変動による異常気象の頻発や、人口増加による食料需要の増加など、食料供給の不安定化要因が懸念される現代社会において、大きな利点となります。

2.安全・安心な農作物の需要

近年、消費者の間で安全・安心な農作物に対する需要が高まっています。

植物工場は、化学肥料を使用せずに栽培できるため、安全性の高い農作物を生産できます。消費者の健康志向の高まりや、環境問題への関心の高まりを背景に、ますます重要な課題になっていくでしょう。

3.環境問題への意識の高まり

農業は、水資源の浪費や温室効果ガスの排出など、環境問題を引き起こす要因の一つとされています。

植物工場は、水資源の使用量を削減したり、太陽光発電などの再生可能エネルギーを利用したりすることで、環境負荷を低減できます。また、土壌を使わない栽培方式を採用することで、土壌の流出や汚染を防ぐことができ、LED照明などの省エネ技術を用いることで、エネルギー消費量削減も可能です。

4.技術革新

近年、センサー技術や情報通信技術 (ICT) の進歩により、より高度な環境制御システムが開発されています。これらのシステムは、AIや機械学習などを活用することで、植物の生育状況をリアルタイムに監視し、最適な環境を自動的に調整することが可能です。

また、ロボット技術の進歩により、植物の播種、収穫、搬送などの作業も自動化できます。これにより、人件費の削減や労働環境の改善につながるだけでなく、栽培の精度や効率性の向上にも繋がるでしょう。

5.消費者のニーズの多様化

消費者は、希少価値の高い農産物や季節に関係なく手に入る農産物など、多様なニーズを求めています。

植物工場は、年間を通して安定的に高品質な農産物を栽培できるため、消費者のニーズに応えられます。また、栽培条件を調整することで、栄養価の高い農作物を生産できます。

例えば、光の種類や強さを調整することで、ビタミンやミネラルの含有量を増やせます。さらに、二酸化炭素濃度を調整することで、光合成を促進し、糖度やアミノ酸などの栄養素の増加も可能です。

植物工場のメリット

植物工場は、従来の農業と比べて以下のようなメリットがあります。

天候や気候に左右されない

植物工場は人工光で栽培できるため、天候や気候に左右されることなく、年間を通して安定的に農作物を生産できます。干ばつや洪水、台風などの自然災害の影響を受けず、計画的な生産が可能です。

農薬の使用量が少ない

植物工場は病害虫の発生が少ないため、農薬の使用量を大幅に減らせます。農薬は様々な面で環境負荷の原因になるため、農薬を減らすことで環境に優しい栽培が可能です。また、健康面でのデメリットも減らせるので、消費者に安心して購入してもらえます。

安定的に高品質な農作物を栽培できる

植物工場は、温度、湿度、光量、二酸化炭素濃度などを精密に制御することで、植物の生育に最適な環境を維持できます。そのため、安定的に高品質な農作物の生産が可能です。

省資源・省エネルギー

植物工場は、水資源やエネルギーを効率的に利用できます。土壌を使わずに養液栽培を行うため、水資源の使用量を大幅に削減できます。また、人工光は従来の照明器具よりも省エネ性が高く、エネルギー効率を向上できるでしょう。

労働環境の改善

植物工場は自動化やロボット化が進んでいるため、重労働や危険な作業を減らせます。また、空調設備が整っているため、過酷な天候の影響を受けずに快適な作業環境で働くことが可能です。作業者の負担を大きく減らせるでしょう。

都市部での農業が可能

植物工場は屋内で栽培するため、都市部でも農業を行えます。従来の地方で育てた野菜を都市部に運ぶには、輸送コストやCO2の排出量が増え課題とされてきました。都市で野菜を栽培できれば地産地消を促進し、フードマイレージの削減にも貢献できます。

希少価値の高い農作物の生産

植物工場は、温度や湿度を精密に制御することで、通常では栽培が難しい希少価値の高い農作物を生産できます。高級食材の生産や、新たな品種の開発にも役立てられるでしょう。

研究開発の促進

植物工場は、栽培環境を厳密に制御できるため、植物の生育に関する研究開発を促進できます。新品種の開発や、栽培技術の向上に役立つため、より革新的な農作物の栽培が可能になるでしょう。

宇宙空間や火星での農業

植物工場は、密閉空間で栽培するため、宇宙空間や火星などの過酷な環境でも農業を行えます。将来、宇宙旅行や火星移住が実現した際に、宇宙での食料生産に大きく貢献すると期待されています。

植物工場のデメリットと課題

植物工場には、多くのメリットがある一方で、デメリットや課題も存在します。

コストが高い

植物工場は、建設や設備投資に多額の費用がかかります。その初期コストの高さから、中小企業などの参入が難しく、大企業が中心となって運営されています。

また、植物工場は人工光や空調設備などの維持管理に、多くの費用がかかります。ランニングコストは、販売価格にも影響されるため、従来の農作物よりも高価になる傾向があります。今後はいかに植物工場を低コストで運営できるかが課題になっていくでしょう。

技術力が必要

植物工場を運営するには、植物の栽培に関する専門知識だけでなく、人工光や環境制御に関する技術力も必要となります。そのような知識やノウハウを持つ人材はまだまだ少なく、人材確保のハードルが高いのも大きな課題です。

ノウハウの蓄積が少ない

植物工場は比較的新しい技術であり、ノウハウがまだ十分に蓄積されていません。自社で研究できるリソースがなければ、事業の成功は難しいでしょう。現在は急速に栽培品種や栽培方法の研究開発が進んでおり、今後さらに技術の向上が期待されます。

消費者の理解不足

植物工場で栽培された農作物に対する消費者の理解がまだ十分ではありません。工場で作られた食品に対する不安があるため、安全性や味に関する不安を解消するための情報発信やPR活動が重要です。

植物工場に参入しているプレイヤー

植物工場を展開している事業者は、大きく分けて以下の3つのタイプがあります。それぞれ見ていきましょう。

1.農業法人

従来の農業事業を展開している企業が、新たに植物工場事業を展開しているケースです。農業のノウハウや技術基盤があるため、比較的参入しやすいというメリットがあります。

代表的な企業として、株式会社サラダコスモ株式会社アグリビジョンなどがあります。

サラダコスモは、全国に7つの工場を持ち、スプラウトやもやしなどを中心に栽培しています。LED照明や自動制御システムなど、最新の技術を積極的に導入し、年間を他お押して高品質な野菜を栽培しています。

アグリビジョンは、サラダボウル株式会社と三井物産株式会社が出資して設立した会社で、山梨県北杜市で国内最大級の太陽光利用型植物工場を運営しています。太陽光と人工光を併用した大規模な植物工場でトマトやきゅうりなどを栽培しています。

2.スタートアップ

スタートアップが革新的な技術で市場に参入し、成長するケースが増えています。ただし、植物工場事業を展開するには膨大な資金が必要なため、リソースが少なく経営基盤が弱いスタートアップにとって厳しい戦いになるケースも少なくありません。

代表的な企業として、日本グリーンファーム株式会社Oishii Farmなどがあります。日本グリーンファームは完全閉鎖制御型植物育成工場システム「グリーンシャトー」の開発を行うスタートアップ。温度、湿度、光量、CO2濃度などを精密に制御し、野菜の生育に最適な環境を維持する植物工場システムです。

Oishii Farmは、米国を拠点に世界展開する植物工場スタートアップで、ニュージャージー州ジャージーシティで世界最大かつ最新鋭のいちごの垂直型植物工場を運営しています。完全人工光照明と水耕栽培を採用し、農薬や化学肥料を一切使用しない、環境負荷の少ない持続可能な栽培を実現しました。

3.大手企業

食品メーカーや電機メーカーなどの大手企業が、新規事業として参入しているケースです。豊富な資金力や研究開発力、販売網などを活かして、大規模な植物工場を建設・運営しています。

代表的な企業として、パナソニック株式会社があります。パナソニックは、幅広い技術とノウハウを活かして、植物工場の設計・施工から運営までトータルにサポートする事業を展開しています。大規模な商業施設から家庭用まで、様々なニーズに対応した植物工場のシステムを提供しています。

海外の植物工場事業者

海外の植物工場事業者も見ていきましょう。

Plenty

Plenty社は垂直農法に特化した農業テクノロジー企業。2014年に設立され、AI、機械学習、ロボット工学などを活用した独自の技術で、屋内での高品質な植物栽培を実現しています。

サウスサンフランシスコとワシントン州シアトルで、大規模な植物工場を運営しています。ここで、ケール、リーフレタス、ハーブなどの葉物野菜を水耕栽培で育てています。植物工場の運営で培った技術を基に、センサー、照明、自動制御システムなどの植物工場向け技術を開発・販売しています。

https://www.plenty.ag/

Infarm

Infarm社は、2013年にドイツのベルリンで設立された、屋内垂直農法に特化した農業スタートアップ企業です。都市部における新鮮な野菜へのアクセスを可能にすることを目的とし、効率的なモジュール式農場(スマート栽培ユニット)を都市内に展開しています。

都市部を中心に、スーパーマーケットやレストランなどにスマート栽培ユニットを設置し、そこでハーブ、葉物野菜、マイクログリーンなどを栽培・販売しています。欧州を中心に、20以上の都市にスマート栽培ユニットを展開しており、年間数千トンもの野菜を生産しています。

https://www.infarm.com/

AeroFarms

AeroFarms社は、2013年にアメリカニューヨーク州ニューヨーク市で設立された、垂直農法に特化した農業テクノロジー企業です。都市部における新鮮な野菜へのアクセスを可能にすることを目的とし、独自の垂直農場を運営しています。

都市部で大規模な垂直農場を運営しており、そこで培った技術を基に、センサー、照明、自動制御システムなどの垂直農場向け技術を開発・販売しています。ニューヨーク州ニューヨーク市にある垂直農場は、世界最大級の規模を誇ります。年間約120万トンもの野菜を生産しており、都市部における新鮮な野菜へのアクセスを可能にしています。

https://www.aerofarms.com/

(TOMORUBA編集部 鈴木光平)

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