【ディープテック基礎知識⑦】スマート農業に欠かせない「ロボット農機」の未来とは
世界的に人口が増加しているなか、大規模な食料危機問題を抱える私たち。その解決策として農業を効率化する「スマート農業」に注目が集まっています。様々な技術で構成されているスマート農業ですが、その中でも中核となる存在と言えるのがロボット農機。農作業そのものをロボットに行ってもらうことで、無人もしくは少人数で大規模な農業を可能にしてくれます。
新規事業やオープンイノベーションに関わるビジネスパーソンなら知っておきたい【ディープテック基礎知識】の第7弾では、このロボット農機を取り上げます。ロボット農機にどのような種類があり、どのような企業が開発しているのか紹介します。
ロボット農機とは
ロボット農機とは、無人で圃場(ほじょう)内を自動走行する農業機械のこと。使用者は、自動走行するロボット農機を圃場内もしくはその周辺から常時監視し、危険の判断、非常時の操作を実施します。全自動だけでなく、人との協調システムによって、作業時間の短縮や一人で複数の作業を同時で進められるメリットがあります。
国内では井関農機株式会社、株式会社クボタ、ヤンマーアグリジャパン株式会社といった農機メーカーが無人トラクターを販売しており、価格帯は1,000万円~1,500万円。2018年には世界の生産台数が6万台でしたが、2025年には72万7000台にまで増加すると言われています。
また、富士経済のレポート「先進テクノロジーが変える!!農林水産ビジネス最前線と将来展望2019」によると、市場規模は2018年の1.3億円から2030年には67億円にまで成長すると予想されています。
ロボット農機の種類
ロボット農機には、どのような種類があるのか見ていきましょう。
無人トラクター/オートトラクター
無人トラクターは、専用のタブレットPCで登録した作業エリアと走行モードに基づき、自動で走行するトラクターのこと。無人走行に対応するため、レーザーや超音波ソナーで障害物を検知するしくみや、圃場の外周に合わせて旋回できる自動操舵機能も搭載しています。
また、各動作を自動で行ってくれるオートトラクターというロボット農機もあります。オペレーターは緊急時のブレーキ操作のみで、誰でも熟練者並みの作業ができるほか、作業の疲労も軽減できます。
自動収穫機
自動収穫機は、カメラやAIによる画像解析により、収穫の要否を判断し、アームなどで農産物を収穫・運搬するロボットのこと。レールや白線などのガイド式が多いですが、自走式・吊り下げ式・ドローン式などもあります。
人間よりも効率的に収穫できるほか、昼夜問わず作業が可能なため、農業の人手不足や高齢化問題を解決すると期待されています。また、AI技術によって適した作物だけを収穫できるので、誰でも熟練者並みの作業が可能です。
可変施肥田植機
可変施肥田植機は、土壌センサーにより、施肥量を瞬時に調整する田植機のこと。センサーによって「作土深」や「SFV (Soil Fertility Value)=土壌肥沃度」を作業中に検知し、圃場内の作土深の深い箇所、肥沃度の高い箇所では、自動で減肥制御などを行います。
また、過剰施肥になりやすい場所へピンポイントな減肥をすることで、圃場内の生育を均一化し、部分的な倒伏を防ぐ機能も。システムによって可変施肥の結果を確認することができ、センサー値とGPS情報を利用し、圃場1枚ごとのくせ(=深さ、肥沃度バラつき)を見える化も可能です。
収量コンバイン
収量コンバインは、収穫作業(稲の刈り取りと脱穀)をしながらコメの食味に関わるたんぱく含有率・水分率、および収量(収穫量)を計測することができるコンバインのこと。収穫と同時に収量・食味 (タンパク値) ・水分量等を測定し、ほ場ごとの収量・食味等のばらつきを把握できます。
これにより圃場ごとの収量・食味のばらつきに応じて、翌年の施肥設計等に役立てることが可能です。また、自動運転アシスト機能・乾燥調整機との連携可能な製品も存在します。
ロボット農機のメリット
ロボット農機を使うことで、どのようなメリットがあるのか紹介します。
作業時間の短縮
ロボット農機を活用することで、作業効率が上がるだけでなく、人の手を介さずに作業ができるため、同時に様々な作業を進められます。たとえば無人機で耕耘・整地をしている間に、有人機で施肥・播種などの作業を進められるでしょう。
また、ロボット農機の有人-無人協調システムを使えば、作業時間を短縮することができます。例えば、無人機で耕耘・整地、有人機で施肥・播種など、1人で複数の作業が可能です。
大規模化への貢献
ロボット農機を使用することで、1人当たりの作業可能面積が拡大すれば、大規模化も可能です 。これにより、より効率的な農業経営が可能になるため、農家の経営状況も良くなり、農家として生計を立てるハードルも下がるでしょう。
品質の向上
ロボット農機の中には、他のITシステムと連携しながら、最適な作業を学習する機能を持つものもあります。適切に作物を育てられることで品質を向上させ、収穫までの期間を短くすることも可能です。
また、AIにベテランの技術を学習させることで、誰でも熟練者のような農作業が可能になります。トラクターの操作や収穫に適した作物の見極めも、ベテランと同じように行うことが可能です。
ロボット農機の技術
ロボット農機には、様々な技術が使われています。例えば自動走行を可能にするため、ハンドル操作、発進・停止、作業機制御や、位置情報に合わせて走るルートを計算する機能などもその一部です。
それらの機能はメーカーだけでなく、大学が研究しているケースもあります。たとえば北海道大学は、2022年にスマート農業技術の研究・教育をするための「スマート農業教育研究センター(仮称)」を立ち上げました。
ロボットだけでなくビッグデータやIoTを活用したスマート農業の発展に貢献しています。無人のロボット農機で、作物の病気や害虫の4K画像を撮影し、第5世代通信(5G)で遅延なく送信して人工知能(AI)で分析、ロボット農機で農薬や肥料をまくといったシステム開発を行っています。
ロボット農機の課題
ロボット農機の普及については、いくつかの課題があります。特に注目されているのは導入コストの高さとスマート農業活用のための人材確保が難しいこと。
先述した通り、現在国内で販売されている無人トラクターの価格帯は1,000万円~1,500万円。それだけの投資をできる農家は限られているため、今後技術の発展によってコストを削減したり、従量課金などビジネスモデルの転換が求められるでしょう。
また、ロボット農機を扱える人材の確保も問題です。日本は農業従事者の高齢化が進んでおり、65歳以上の高齢者の割合は約70%で、その割合はさらに増えていくでしょう。高齢の農業従事者を救うためのロボット農機ですが、使い方を覚えるのが難しければ普及させるのは難しいです。
さらに、日本では地域ごとに生産している作物の種類が多く、一つの作物に対しては最適な機械やサービスであっても、他の作物には転用しにくいのも問題です。それぞれの作物に対して、専用のロボット農機が必要となると、農家の負担も大きいため普及の妨げになるでしょう。
ロボット農機スタートアップ
ロボット農機を開発しているのは大手の農機メーカーだけではありません。どんなスタートアップがロボット農機を開発しているのか見ていきましょう。
AGRIST株式会社
AGRIST株式会社は、2019年設立アグリテックスタートアップ。平均年齢が67歳という農業の高齢化問題と、農産物の収穫の担い手不足の課題を、自動収穫ロボットで解決することを目指しています
2022年には、プレシリーズBラウンドで資金調達を実施し、自動収穫ロボットを活用した「儲かる農業モデル」を確立するため、自ら営農を開始しました。2023年4月下旬には、アグリストとマクニカ、宮崎県とピーマン収穫ロボットによる持続可能な農業の実現に向けた次世代農業事業における連携協定を締結しています。
inaho株式会社
inaho株式会社は、2017年に設立された、農業の自動化と農業参入支援を行う企業です。同社は、自動野菜収穫ロボットをRaaS(Robot as a Service)モデルで展開し、日本の農業における人手不足と経営課題の解決に取り組んでいます
inaho株式会社の自動野菜収穫ロボットは、AIを搭載しており、画像認識により収穫適期の作物を判断して自動収穫します。ビニールハウス間に白い線を設置するだけで自動走行が可能で、夜間でも作業が可能に。また、充電式で連続稼働が可能で、夜間収穫が可能なため、収穫作業の負担が大きく減少します。
株式会社トクイテン
株式会社トクイテンは、持続可能な農業へのシフトを加速することをミッションに掲げ、AIとロボットによる有機農業の自動化を目指すスタートアップ。AIや遠隔制御で農作業を自動化する農業ロボット「ティターン」を開発しており、現在はミニトマトの収穫に対応していますが、今後はアタッチメントを変えることで様々な野菜に対応する予定です。
現在は愛知県に取得した農地で自社実験施設(20a程度の栽培施設)の建設を進めており、ロボットやAIで栽培の自動化を進めて2ha、4haと農場の規模を拡大しています。将来的には国内最大規模を目指し、海外へも進出していく計画です。
(TOMORUBA編集部 鈴木光平)
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