【ディープテック基礎知識⑮】建設業界の環境問題を解決する「グリーンコンクリート」の魅力
地球温暖化対策が急務となる中、建設業界でも環境負荷低減への取り組みが加速しています。その中心となるのが「グリーンコンクリート」です。従来のコンクリートの製造工程における問題点を解決し、環境性能と建設性能の両立を目指しています。
新規事業やオープンイノベーションに関わるビジネスパーソンなら知っておきたい【ディープテック基礎知識】の第15弾では、このグリーンコンクリートについて取り上げます。メリット、課題、そして世界と日本の最新動向について詳しく解説するので参考にしてください。
グリーンコンクリートとは
グリーンコンクリートは、環境への負荷を最小限に抑えつつ、従来のコンクリートと同等以上の性能を実現する革新的な建設材料のこと。持続可能な開発と気候変動対策の重要性が高まる中で生まれた新しい概念です。
従来のコンクリート製造過程では、大量のCO2が排出され、膨大な天然資源が消費されていました。グリーンコンクリートは、これらの問題に正面から取り組み、建設業界の環境負荷を大幅に軽減することを目指し開発されています。
具体的には、セメント使用量の削減や再生可能な原材料の活用、廃棄物の有効利用などを通じて環境性能を向上させています。同時に、強度や耐久性といった基本的な性能も確保し、時には従来のコンクリート以上の特性を発揮することもあります。
このバランスの取れたアプローチにより、グリーンコンクリートは環境保護と建設業界の発展を両立させる重要な存在として注目されているのです。
グリーンコンクリートの種類
グリーンコンクリートは、その製造工程の違いで、いくつかの種類にわけられます。それぞれどのような特徴があるのか見ていきましょう。
低炭素セメントコンクリート
低炭素セメントコンクリートは、製造方法の改良や原料の見直しにより、CO2排出量を大幅に削減しつつ、必要な強度と耐久性を維持したコンクリートです。
従来のポルトランドセメントの製造過程では、大量のCO2が排出されることが問題視されてきました。低炭素セメントは、この課題に対応するために開発された素材です。たとえば、クリンカー(セメントの主原料)の焼成温度を下げる技術を用いたり、代替燃料の使用、CO2を吸収する特殊な添加物を利用するなど、様々な手法が採用されています。
これらの取り組みにより、低炭素セメントコンクリートは従来のコンクリートと比較して、最大で50%以上のCO2排出量削減を実現しました。また、一部の低炭素セメントは、硬化過程でCO2を吸収する特性を持ち、カーボンネガティブな建材としての可能性も秘めています。
混和材コンクリート
混和材コンクリートは、セメントの一部を産業副産物や廃棄物で置き換えることで、環境負荷を低減させた素材です。主な混和材には、フライアッシュ(石炭火力発電所の副産物)、高炉スラグ(製鉄所の副産物)、シリカフューム(シリコン製造時の副産物)などがあります。
これらの混和材を適切に配合することで、セメント使用量を減らしつつ、コンクリートの性能を維持または向上を実現しました。たとえば、フライアッシュを使用したコンクリートは、長期強度の向上や耐久性の増加が期待できますし、高炉スラグを用いたコンクリートは、塩害に対する抵抗性が高まります。
混和材の使用は、産業廃棄物の有効利用にもつながり、循環型社会の構築にも貢献すると期待が高まっているのです。また、セメント製造時のCO2排出量削減だけでなく、廃棄物の埋め立て処分量も減少させるため、総合的な環境負荷の低減に寄与しています。
再生骨材コンクリート
再生骨材コンクリートは、解体された建築物やインフラ施設から回収されたコンクリート廃材を再利用して製造される建設材料です。この手法は、天然骨材の採取による環境破壊を抑制し、廃棄物の削減にも貢献する循環型素材として注目を集めています。
再生骨材の製造過程では、回収されたコンクリート廃材を粉砕、分級し、不純物を除去した上で、新しいコンクリートの骨材として再利用されるのです。技術の進歩により、再生骨材コンクリートの品質は向上し、一部の用途では従来の天然骨材を使用したコンクリートと同等の性能を発揮できるようになりました。
ただし、再生骨材の品質管理や、長期的な耐久性の確保には課題も残されています。そのため、用途に応じた適切な品質基準の設定や、製造技術の更なる向上が求められています。再生骨材コンクリートの普及は、建設業界の持続可能性を高め、資源の有効活用と環境保護の両立に大きく寄与するでしょう。
グリーンコンクリートのメリット
グリーンコンクリートを利用することで、どのような社会的、環境的メリットがあるのか見ていきましょう。
二酸化炭素排出量の削減
グリーンコンクリートの最大のメリットは、従来のコンクリートと比較して大幅な二酸化炭素(CO2)排出量の削減を実現できる点です。セメント製造過程の改善、混和材の使用、再生材料の活用など、様々な手法を組み合わせることで、CO2排出量を30%から80%程度の削減を可能にしました。
たとえば低炭素セメントの使用により、クリンカー製造時のCO2排出を抑制できます。さらにフライアッシュや高炉スラグなどの産業副産物を混和材として利用することで、セメント使用量そのものを減らせるのです。また、一部のグリーンコンクリートでは、硬化過程でCO2を吸収する特殊な添加物を使用することで、カーボンネガティブな性質を持たせることも可能にしました。
このCO2排出量の大幅な削減は、建設業界全体の環境負荷低減に大きく貢献するでしょう。建築物やインフラ整備におけるカーボンフットプリントを抑制し、各国が掲げる温室効果ガス削減目標の達成を支援する重要な技術として注目されています。
再生可能資源の活用
グリーンコンクリートのもう一つの大きなメリットは、再生可能資源や産業副産物を積極的に活用できる点です。これにより、天然資源の消費を抑制し、持続可能な建設材料を供給できます。
たとえばフライアッシュや高炉スラグなどの産業副産物を混和材として使用することで、廃棄物の削減を実現しました。また、再生骨材の使用は、コンクリート廃材の再利用を促進し、天然骨材の採取による環境破壊を最小限に抑えます。
さらに、一部のグリーンコンクリートでは、農業廃棄物や木質バイオマスなどのバイオ由来の材料を活用する研究も進んでいます。これらの再生可能資源の活用は、資源の循環利用を促進し、持続可能な社会の構築を促進するでしょう。
再生可能資源の活用は、単に環境負荷を低減するだけでなく、地域の産業と連携した新たな価値創造にもつながる可能性があります。たとえば地域特有の産業副産物や農業廃棄物を活用したグリーンコンクリートの開発は、地域経済の活性化と環境保護の両立を図る取り組みとしても注目されています。
耐久性と品質
グリーンコンクリートの開発において、環境性能の向上だけでなく、耐久性と品質の確保も重要な課題となっています。実際、多くのグリーンコンクリート製品は、長年の研究によって従来のコンクリートと同等以上の耐久性と品質を実現してきました。
たとえばフライアッシュや高炉スラグを混和材として使用したコンクリートは、長期的な強度発現や耐久性の向上が期待できます。また、低炭素セメントを用いたコンクリートでは、製造プロセスの最適化や新しい材料技術の導入により、従来のコンクリートと遜色ない性能を発揮します。一部の製品では、特殊な添加物や製造技術により、耐久性や強度がさらに向上しているケースも。
これらの耐久性と品質の向上は、建築物やインフラの長寿命化につながり、結果として資源消費の抑制とライフサイクルCO2排出量の削減に寄与するとして評価されています。
低発熱性
低発熱性もグリーンコンクリートの重要な特徴の一つです。従来のコンクリートでは、セメントの水和反応に伴う発熱が大きな課題で、特に大型構造物では内部温度の上昇によるひび割れのリスクが高く対策が求められていました。
グリーンコンクリートでは、低熱セメントの使用や混和材の適切な配合により、この問題を大幅に軽減しています。たとえば、高炉スラグやフライアッシュなどの混和材は、セメントの水和熱を低減させる効果があります。これらの材料を適切に配合することで、コンクリートの発熱を抑制し、温度ひび割れのリスクを低減できます。
低発熱性のメリットは、単にひび割れのリスク軽減だけではありません。温度応力の低減により、養生期間の短縮や型枠の早期取り外しが可能になるケースもあります。これは工期の短縮や施工効率の向上につながり、結果として全体的なエネルギー消費も削減できるでしょう。
さらに、低発熱性は夏季の施工における作業環境を改善できるのも大きなメリットです。コンクリート打設時の温度上昇が抑えられるため、作業者の熱中症リスクを下げ、品質管理を容易にするといった副次的な効果も期待できます。
省エネルギー
グリーンコンクリートの利用は、建設プロセス全体を通じた省エネルギー化も実現します。この省エネルギー効果は、材料製造から施工、さらには建築物の使用段階に至るまで、多岐にわたります。
材料製造段階では、低炭素セメントの使用や混和材の活用により、従来のセメント製造に比べて大幅なエネルギー削減が可能です。セメントクリンカーの焼成温度を下げる技術や産業副産物の有効利用は、製造時のエネルギー消費を抑制します。
施工段階では、前述の低発熱性による養生期間の短縮や、自己充填性の向上による締固め作業の省力化など、様々な面で省エネルギー化が可能です。また、一部のグリーンコンクリート製品では、早期強度発現性が向上しているため、工期短縮によるエネルギー消費の削減も期待できるでしょう。
建築物の使用段階においても、高性能な断熱性を持つグリーンコンクリート製品を外壁に使用することで、建物の冷暖房効率が向上し、長期的なエネルギー消費を削減できます。このように、グリーンコンクリートの省エネルギー効果は、持続可能な建設産業の実現と、社会全体のエネルギー効率向上に大きく貢献する重要な特徴といえます。
グリーンコンクリートの課題
様々なメリットのあるグリーンコンクリートですが、その裏側に多くの課題も残っています。どのような課題があるのか見ていきましょう。
コスト高
グリーンコンクリートの普及における最大の障壁の一つが、従来のコンクリートと比較した場合のコスト高です。この課題は、材料調達から製造プロセス、品質管理に至るまで、様々な要因が絡み合っています。
まず、低炭素セメントや特殊な混和材の製造には、高度な技術と設備投資が必要です。これらの新しい材料の生産規模がまだ小さいことも、コスト高の一因となっています。また、再生骨材の製造においても、品質確保のための処理工程が増えることで、コストが上昇してしまうのです。
品質管理の面では、グリーンコンクリートの性能を確保するために、より厳密な配合管理や品質検査が求められます。これらの追加的な管理コストも、全体の価格上昇につながるでしょう。
一方で、長期的な視点では、グリーンコンクリートの使用によるライフサイクルコストの削減や、環境負荷低減による社会的コストの抑制といったメリットも考慮しなければなりません。また、技術の進歩や生産規模の拡大に伴い、徐々にコストが低下していくことも期待されています。
長期的な耐久性評価
長期的な耐久性の評価も解決しなければならない課題の一つです。従来のコンクリートは、数十年にわたる使用実績があり、その長期的な性能や劣化特性が十分に理解されています。一方、グリーンコンクリートは比較的新しい技術であり、実環境での長期的な挙動に関するデータが限られています。
特に、新しい混和材や再生材料を使用したグリーンコンクリートの場合、従来のコンクリートとは異なる劣化メカニズムが存在する可能性があります。たとえば再生骨材を使用したコンクリートでは、骨材中の不純物が長期的な耐久性に影響を与える可能性が指摘されています。
これらの課題に対応するため、現在、世界各地の研究機関や企業が長期耐久性評価のための実験や実環境モニタリングを進めています。しかし、これらの評価には長い時間を要するため、短期間での性能保証が難しいというのも問題の一つです。そのため、一部のプロジェクトでは、グリーンコンクリートの採用に慎重にならざるを得ない状況も生じています。
長期的な耐久性評価の確立は、グリーンコンクリートの信頼性向上と普及促進に欠かせません。今後、産学官の連携強化や国際的な研究ネットワークの構築を通じて、より迅速かつ信頼性の高い評価手法の開発が期待されています。
普及のための制度整備
グリーンコンクリートの普及には、適切な制度整備も不可欠です。現状では、多くの国や地域で、グリーンコンクリートに特化した規格や基準が十分に整備されていないことが課題となっています。
まず必要となるのが、グリーンコンクリートの定義や性能基準の標準化。従来のコンクリートとは異なる材料や製造プロセスを使用するため、既存の規格をそのまま適用することはできません。
また、グリーンコンクリートの環境性能を適切に評価し、認証する仕組みも重要です。CO2排出量削減効果や資源循環への貢献度など、環境面での優位性を客観的に示すことができれば、採用の促進に繋がるでしょう。
制度整備の課題に対しては、国際的な協調も重要です。グリーンコンクリートの基準や認証制度の国際的な調和を図ることで、技術開発の効率化や市場拡大につながることが期待されています。
材料の安定供給
グリーンコンクリートの普及のためには、原材料の安定供給も考えなければなりません。従来のコンクリートと異なり、グリーンコンクリートでは産業副産物や再生材料を多用します。
たとえば、フライアッシュは脱炭素化の流れの中で石炭火力発電所の稼働が減少すると供給量も減少する可能性があります。同様に、高炉スラグも製鉄業の生産量に依存するため、鉄鋼需要の変動が供給に影響を与える可能性があるのです。
これらの課題に対応するため、材料のストックヤードの整備や、広域的な材料流通ネットワークの構築などが進められています。また、代替材料の開発や、複数の材料を組み合わせて使用する技術の研究も行われています。
さらに、材料の品質管理技術の向上も重要な課題です。特に再生材料や産業副産物の場合、品質のばらつきが大きいため、より高度な品質管理システムの導入が求められています。今後、材料供給のリスク評価や、新たな供給源の開拓など、多角的なアプローチが必要となるでしょう。
技術者の育成
グリーンコンクリートの普及には、従来のコンクリートとは異なる材料特性や施工方法を理解し、適切に活用できる人材が求められています。
グリーンコンクリートの配合設計には、従来のコンクリートよりも複雑な知識が必要となります。施工面でも、グリーンコンクリート特有の注意点があり、従来のコンクリートとは異なる養生方法が必要となる場合があります。また、低発熱性や自己充填性といった特性を活かした効率的な施工方法の習得も重要です。
これらの課題に対応するため、大学や技術者協会などで、グリーンコンクリートに特化した教育プログラムの開発が進められています。さらに、グリーンコンクリートの技術は日々進化しているため、継続的な学習と情報更新が欠かせません。
そのため、オンライン学習プラットフォームの構築や、定期的な技術セミナーの開催など、継続教育の仕組みづくりも重要な課題となるでしょう。今後、産学官の連携を強化し、実践的かつ体系的な人材育成システムの構築が期待されています。
世界のグリーンコンクリートスタートアップ
世界には革新的なグリーンコンクリートを生み出したスタートアップがいくつもあります。今回はその一部を見ていきましょう。
Sublime Systems (アメリカ)
Sublime Systemsは、マサチューセッツ工科大学(MIT)発のスタートアップで、革新的な電気化学プロセスを用いて低炭素セメントを製造する技術を開発しています。同社の技術は、従来のセメント製造プロセスで必要とされる高温焼成を排除し、代わりに室温で動作する電気化学セルを使用していたもの。
この独自のプロセスにより、Sublime Systemsは従来のポルトランドセメント製造と比較して、CO2排出量を最大90%削減することを目指しています。さらに、この技術は既存のセメント工場に比較的容易に統合できる可能性があり、業界全体の迅速な脱炭素化に貢献することでしょう。
2021年に設立されたSublime Systemsは、既に複数のベンチャーキャピタルから資金調達に成功し、技術の実用化に向けて急ピッチで開発を進めています。同社の技術が実用化されれば、セメント産業の脱炭素化に大きく貢献することが期待されています。
CarbonCure Technologies (カナダ)
CarbonCure Technologiesは、カナダに本社を置く企業で、コンクリート製造過程でCO2を有効活用する革新的な技術を開発しています。同社の技術は、捕捉されたCO2をフレッシュコンクリートに注入し、炭酸カルシウムとして固定化するというもの。
CarbonCureの技術は、コンクリート製造時のCO2排出量を削減するだけでなく、大気中のCO2を固定化することで、カーボンネガティブなコンクリート製造の可能性を開きました。この技術は、既に北米を中心に300以上のコンクリート製造工場に導入されており、急速に普及が進んでいます。
同社は、技術の普及によるCO2削減量に応じて収益を得るビジネスモデルを採用しており、持続可能な成長を実現しています。また、大手テクノロジー企業や著名な投資家からの支援も受けており、今後のさらなる成長が期待されています。
Solidia Technologies (アメリカ)
Solidia Technologiesは、ニュージャージー州に本社を置くスタートアップで、低炭素セメントとCO2硬化技術を組み合わせたコンクリート製造プロセスを開発しています。同社の技術は、従来のセメントに代わる低炭素セメントの製造と、CO2を使用した硬化プロセスの2段階で構成されています。
同社の技術は、コンクリートのライフサイクル全体でCO2排出量を最大70%削減でき、硬化時間の大幅な短縮は、プレキャストコンクリート製品の製造効率を飛躍的に向上させる可能性があります。大手セメントメーカーのLafargeHolcimと提携し、技術の実用化と普及を進めるほか、米国運輸省連邦道路管理局(FHWA)との協力のもと、インフラ整備への適用も検討されています。
国内におけるグリーンコンクリートの取り組み
日本国内には、まだ大きな活躍を見せるスタートアップはないものの、大企業を中心にグリーンコンクリートの取り組みが広がりつつあります。どのようなプロジェクトが行われてきたのか見ていきましょう。
CARBON POOLコンクリートプロジェクト
CARBON POOLコンクリートプロジェクトは、日本の建設業界が中心となって推進している革新的なグリーンコンクリートの開発・普及プロジェクトです。このプロジェクトは、コンクリートをCO2の吸収源(カーボンプール)として活用することを目指しています。
CARBON POOLコンクリートは、従来のコンクリートと比較して、ライフサイクル全体で20%以上のCO2排出量削減が目標として定められました。また、コンクリート表面での藻類の光合成を促進する技術も併せて開発されており、都市部でのヒートアイランド現象の緩和にも貢献すると期待されています。
このプロジェクトは、日本のコンクリート産業の環境対応を加速させるだけでなく、グローバル市場での競争力強化にもつながる重要な取り組みとして注目されています。
大林組の「クリーンクリート®」
大林組が開発した「クリーンクリート®」は、日本の建設業界におけるグリーンコンクリートの先駆的な取り組みの一つです。この革新的なコンクリートは、CO2排出量の大幅な削減と高い環境性能を両立させることを目指して開発されました。
その高い環境性能により、CASBEE(建築環境総合性能評価システム)やLEED(米国グリーンビルディング協会の環境性能評価システム)などの建築物の環境評価において高い評価を得ています。
実際の適用事例として、大林組の技術研究所(東京都清瀬市)の新研究棟や、横浜市の大規模複合施設でも利用されました。これらのプロジェクトでは、クリーンクリート®の使用により、建物のライフサイクルCO2排出量の大幅な削減が実現されています。
脱炭素コンクリートのJIS化
日本では、グリーンコンクリートの普及促進と品質確保を目的として、脱炭素コンクリートのJIS(日本産業規格)化が進められています。この取り組みは、国土交通省を中心に、産業界や学術界と連携して推進されてきました。
JIS化のプロセスでは、産学官の専門家による委員会が設置され、技術的な検討や実証実験が行われています。また、既存のコンクリート関連JIS規格との整合性確保や、国際規格(ISO)との調和も考慮されています。
また、この取り組みは、2050年カーボンニュートラル実現に向けた日本の建設業界の具体的な行動の一つとして、国内外から注目されています。
編集後記
私たちの身近にある「コンクリート」が、実は地球環境を守る重要な役割を担っていると言えます。従来のコンクリートからの大きな転換点であるグリーンコンクリートは、技術革新と持続可能性の象徴といえるでしょう。まだ多くの課題や問題点も残っていますが、これから産学官が連携し、よりグリーンコンクリートが普及していくのを期待しています。
(TOMORUBA編集部 鈴木光平)
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