【ディープテック基礎知識⑪】高齢者ケアの未来を変えるーー進化する「介護ロボット」とは?
超高齢化が進み、介護現場でのハードワークが問題視されている日本。介護施設だけでなく自宅での介護も、介護者に大きな負担がかかります。そのような負担を減らす手段として注目を集めているのが「介護ロボット」です。
新規事業やオープンイノベーションに関わるビジネスパーソンなら知っておきたい【ディープテック基礎知識】の第11弾では、この介護ロボットについて取り上げます。どのような種類の介護ロボットがあるのか、国内外でどのような企業が参入しているのか紹介するので参考にしてください。
介護ロボットとは
介護ロボットとは、介護現場で使われる機器やシステムのことを指します。介護される人、する人の双方をサポートすることを目的としており、以下のような3つの要素技術を有する機械システムを指します。
・情報を感知(センサー系)
・判断する(知能・制御系)
・動作する(駆動系)
これらの技術が応用され、利用者の自立支援や介護者の負担の軽減に役立つ介護機器を「介護ロボット」と呼んでいます。
また、介護ロボットは、経済産業省と厚生労働省が進めている「ロボット技術の介護利用における重点分野」において、その開発・導入が支援されています。これらの取り組みにより、介護現場での生産性向上、利用者の自立支援、介護者の負担の軽減が期待されています。
介護ロボットの種類と機能
介護ロボットは大きく分けて、以下の6種類があります
移乗介助
ベッドや車いす、便器の間の移乗に用いる介護ロボットです。装着型と非装着型の2つに分類され、装着型は介助者がロボットスーツなどを装着して介助を行います。これにより、介助者の身体的負担が軽減され、一人での介助が可能になります。
非装着型は、介助者による抱え上げ動作のパワーアシストを行います。移乗開始から終了まで一人で使用でき、ベッドと車椅子間の移乗に使用可能です。これらのロボットは、介護者の腰痛予防と防止、業務負担軽減に繋がり、女性や高齢の職員が、利用者の体格や体重など関係なく介助作業が行えるのが、大きなメリットといえます。
移動支援
移動支援の介護ロボットは、自力で移動できない高齢者などを移動できるようにしたり、移動が可能な人の負担を減らし、移動しやすくしたりする介護ロボットです。屋外用、屋内用、装着型の3つに大きく分けることができます。
屋外型のロボットは、利用者が一人で使用できる歩行器やシルバーカーなどの機器で、高齢者などが買い物や通院、趣味の散歩など、長い距離を歩くときに使用することが推奨されています。
屋内型のロボットは、利用者が自立して屋内での移動やトイレでの姿勢保持ができるように支援する機器で、ロボット技術を使用しています。これらのロボットは、トイレへの移動を一人でできるだけでなく、排泄中も姿勢維持をサポートしてくれるため、介護者の負担を軽減でき、トイレを見られるという利用者の精神的負担も解消することが可能です。
装着型のロボットは、利用者が身につけて使う機器で、外出を支援したり転倒を防ぐことができます。これらのロボットは、下半身の筋力に不安がある方や日常生活での転倒に不安がある方などの利用が推奨されています。
排泄介助
排泄介助の介護ロボットは、高齢者や身体に障害を持つ人々の排泄を支援するためのロボットで、大きく分けると、トイレ誘導・排泄物の処理・排泄動作支援の3つに分類されます。
トイレ誘導は、排泄のタイミングを予測し、トイレへの誘導を行うロボットです。例えば、「DFree」は、超音波センサーを使用して膀胱の膨らみを感知し、連動しているスマートフォンなどに尿がたまったときや尿が出たときを知らせる画期的なロボットです。
排泄物の処理は、移動可能なトイレや自動で排泄物を処理するロボットです。例えば、TOTOの「ベッドサイド水洗トイレ」は、排泄物の処理を自動で行い、おむつ交換が不要になります。
動作支援は、トイレ内で排泄に関わる動作を支援するロボットです。例えば、「トイレでふんばる君」は、利用者がリラックスして排便できるように支援します。これらのロボットは、利用者が可能な限り自立した排泄を行うことを目指し、介護者の負担を軽減するのに加え、排泄の自立は利用者の尊厳を保つのに役立ちます。
見守り・コミュニケーション
見守り・コミュニケーションの介護ロボットは、高齢者や身体に障害を持つ人々とのコミュニケーションを支援し、彼らの安全を確保するためのロボットです。たとえば見守り支援ロボットは、利用者の心拍や呼吸、転倒などの非常事態を含めて状態を認識し、PCやスマートフォンなどに通知したりする機能を持っています。
また、コミュニケーションロボットは、言葉や身振り手振りなどの動作で人とコミュニケーションを取ることができます。介護現場では、見守りやレクリエーションなどを目的にコミュニケーションロボットを導入する施設が増えています。
入浴支援
入浴支援の介護ロボットは、高齢者や身体に障害を持つ人々が入浴する際の一連の動作を支援する機器です。利用者が一人で使用できるか、あるいは一人の介助者の支援の下で使用できます。具体的には、「利用者の浴室から浴槽への出入り動作」「浴槽をまたぎ湯船につかるまでの一連の動作」を支援します。
介護ロボットのメリット
介護ロボットを使用するメリットについて紹介していきます。
身体的負担の軽減
介護ロボットは、移動や移乗支援など、介護者の身体に負担をかける業務を支援します。これにより、介護者は長く健康的に働き続けることが可能になります。
心理的負担の軽減
排泄支援や入浴支援などの介護ロボットは、利用者の「恥ずかしい」「申し訳ない」といった心理的負担を軽減します。ロボットを介してオートマチックに対応することで、利用者は気遣いや遠慮することなく身体を委ねることができます。
人手不足の解消
見守りスタッフの人員不足を解消することができます。介護ロボットは、介護業界の人手不足によって滞る可能性のある業務の一部を補うことができます。
介護ロボの課題
介護ロボットは、高齢者や介護者を支援するための非常に有用なツールですが、いくつかの課題も存在します。
導入コスト
介護ロボットの導入には高額な費用がかかることがあります。これは、特に小規模な介護施設や個人の介護者にとって大きな障壁となります。
操作の難易度
一部の介護ロボットは操作が難しく、介護者が新しい技術を学ぶのに時間と労力を必要とすることがあります。使いやすい操作性を追求すると同時に、誤作動を予防する機能も必要となるでしょう。
設置スペース
一部の介護ロボットは大きく、適切な設置スペースが必要です。これは、特にスペースが限られている施設や家庭での導入を困難にする可能性があります。
安全性への懸念
介護ロボットの安全性についての懸念もあります。ロボットが誤動作した場合、利用者に危害を及ぼす可能性があります。いかにして誤作動を防ぎ、安全に利用できるか重要な課題になります。
海外の介護ロボットスタートアップ
海外の介護ロボットスタートアップを紹介します。
Intuition Robotics
Intuition Roboticsは、イスラエルに本社を置くスタートアップで、高齢者の「友達」のような存在であるAIアシスタントロボットの「ElliQ」を開発しています。同社は2016年に設立され、現在ではサンフランシスコとアテネにもオフィスを構えています。
ElliQは、高齢者が利用するタイミングを見計らい、日々の健康状態を記録し、家族や医療機関にも共有できるロボットです。また、ElliQは、孤独を抱えがちな単身の高齢者を社会から取り残さないようにするさまざまな機能を有しています。
Keenon Robotics
Keenon Roboticsは、上海に本社を置く企業で、サービスロボットの製品とソリューションを提供しています。同社が開発した「DINERBOT T10」は、次世代多機能配膳・配送ロボットで、介護現場で高齢者や身体障害者の生活を助けることが期待されています。
国内の介護ロボットスタートアップ
続いて、日本国内の介護ロボットに関連するスタートアップを紹介します。
トリプル・ダブリュー・ジャパン
排泄予測ウェアラブルデバイス「DFree」を開発・提供しています。DFreeを被介護者の下腹部に装着すると、超音波センサーで膀胱の大きさの変化を読み取って排尿前後のタイミングを予測します。「そろそろ排尿しそう」「すでに排尿した」という情報をスマホ経由で介護者に通知します。
aba
介護負担を軽減するプロダクト開発を行うabaは、排泄センシングおよびパターン解析によって、要介護者の排泄状態を検知・記録できるデバイスを開発しています。世界に先駆けて「においセンサ」で便と尿を検知し、要介護者に負担を与えない形状のプロダクト『Helppad』を、大手ベッドメーカー・パラマウントベッドと共同開発し、販売を開始しています。
アックスロボティクス
睡眠の質をアップデートするプロダクト・サービスの開発に取り組むアックスロボティクスは2022年4月、要介護者の褥瘡(じょくそう、床ずれのこと)を予防するロボットベッド『Haxx:ハックス』を開発し、介護療養施設を運営する一燈会とともに実証実験を開始しています。
ugo
DXロボットの開発を手掛けるugoは、開発するアバターロボット『ugo Pro』を、ツクイグループが運営する介護付有料老人ホームで試験導入しています。アバターロボットは要介護者への声かけや目的地への誘導することが可能で、アバターロボットに搭載されたカメラを通じて、遠隔操作しているスタッフが要介護者の様子を確認することができます。
(TOMORUBA編集部 鈴木光平)
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