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山梨県の共創プログラムが3期目突入──製造、人材、建設、医療・保健衛生の県内有力企業4社・団体が挑む共創事業と、加速する行政の支援を深掘りする

山梨県の共創プログラムが3期目突入──製造、人材、建設、医療・保健衛生の県内有力企業4社・団体が挑む共創事業と、加速する行政の支援を深掘りする

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リニア中央新幹線の開通が実現した際には、東京(品川)から約25分で結ばれる山梨県。産業構造の大きな転換期を迎える同県では、県内企業の高付加価値化とスタートアップの事業定着・拡大を目指し、県内企業とパートナー企業による共創プログラム『STARTUP YAMANASHI OPEN INNOVATION PROGRAM』を開催している。新たなビジネスを創出し、地域産業の未来を切り拓く取り組みだ。

令和5年度(2023年度)から始まった本プログラムは、今年度で3年目を迎える。過去2年間で計8件の共創プロジェクトが生まれ、実証実験から社会実装へと成果が広がってきた。3期目となる今回も、山梨県内で高い知名度を持つ以下4社・団体がホスト企業として参加。事業課題を提示して共創パートナーの募集を開始した。

<ホスト企業4社・団体と募集テーマ>

●株式会社ササキ(製造業)

『ワイヤーハーネス生産で培った技術と品質管理の知見で実現する、中小ものづくり産業の競争力強化への挑戦』

●株式会社アシストエンジニアリング(人材派遣業)

『人と企業をつなぎ、持続可能な人材確保と成長を共に創る未来』

●湯澤工業株式会社(建設業)

『AI・IoTが拓く建設業の未来~災害予兆と資材管理の実現~』

●山梨県厚生農業協同組合連合会(山梨県厚生連健康管理センター:医療・保健衛生業)

『ヘルステックで創造する、個人と地域を支える次世代健康・生活改善モデルの実現』

そこで今回TOMORUBAでは、主催者である山梨県の担当者と、共創に挑むホスト企業4社の代表者や担当者に話を聞いた。スタートアップ支援拠点のオープンも控え、熱気を帯びる山梨県で、どのような新規事業が生まれようとしているのか。――プログラムの全貌とともに、山梨県で進むオープンイノベーションの取り組みを掘り下げる。

【山梨県】3期目突入の共創ビジネス創出プログラム、11月新拠点オープンで高まる挑戦の熱

▲【左】山梨県 産業政策部 スタートアップ・経営支援課 スタートアップ支援担当 主任 スタートアップ創出・誘致マネージャー 山田雄太 氏

東京都が運営するスタートアップ支援拠点『Tokyo Innovation Base(TIB)』での1年間の出向を経て、今年度より山梨県に戻り本プログラムを担当。

――今年度で3期目となる『STARTUP YAMANASHI OPEN INNOVATION PROGRAM』ですが、これまでのプログラムの振り返りと今年度にかける思いを教えてください。

山田氏 : 過去2年間で合計8件の共創プロジェクトが生まれました(※)。県内企業の課題解決や新規事業開発、製品への付加価値付けなど、幅広い取り組みが進められています。参加企業だけでなく、山梨県内の他の企業にも良い影響を与えていると感じます。また、このプログラムを通じて、着実にオープンイノベーションの機運が高まってきていると思います。

※関連記事:第1期プログラム成果発表会第2期プログラム成果発表会 

――8つの共創プロジェクトが誕生したとのことですが、その後の進捗はいかがですか。

山田氏 : 一例ではありますが、サービスエリアの飲食の無人化・省人化、半導体製造装置の価値向上、スポーツギフティング、ビルメンテナンスの効率化といったテーマで共創プロジェクトが生まれました。いずれも継続しており、特にスポーツギフティング(山梨放送×エンゲート)はサービスとして定着しています。ビルメンテナンスの効率化(甲府ビルサービス×キャリアサバイバル)では、当初2社で始まった共創が3社体制へと拡大する検討も進んでおり、単年度で終わらず、長期的な活動へと発展していますね。

――今年度で3期目となりますが、特に力を入れている点は?

山田氏 : 1期目と2期目では、新規事業に意欲のある企業が、ホスト企業として参加されました。3期目以降はさらに参加企業の裾野を広げることが課題だと考えています。そのため、今年度のプログラムや過年度の実績を積極的に発信し、県全体でのオープンイノベーションの理解をさらに広げることに注力したいです。

――2025年11月には、山梨県甲府市にスタートアップの支援拠点が誕生します。どのような場づくりを目指しておられますか。

山田氏 : 支援拠点は県内のどの地域からも車で1時間程度でアクセスでき、山梨県内のスタートアップや新規事業に関心のある方々が集まりやすい場所です。ここを拠点に、現地とオンラインの両方でコミュニティを育てていきたいと考えています。そして、県内企業とスタートアップが共創するオープンイノベーションの“聖地”のような場を目指していきたいです。

――新拠点の特徴や今後の予定についても教えていただけますか。

山田氏 : 新拠点は5階建ての大型施設で、入居可能なオフィスも備えています。入居費は周辺より低めの設定で、シャワー室も完備。夜遅くまで働きたいスタートアップのニーズにも対応しました。さらに、コミュニティマネージャーと県職員が常駐し、県内企業とスタートアップの橋渡し役としてサポートします。11月のオープニングイベントには、県知事も出席予定で、華々しくスタートを切る予定です。

▲スタートアップ支援拠点は5階建で、コワーキングスペース、イベントスペース、ものづくりスペースなどが備わっている。2025年11月にオープン予定だ。

――本プログラムと新拠点はどのように連携しますか。また、プログラムに対する県のサポート内容もお伺いしたいです。

山田氏 : 新拠点は、本プログラムの成果報告会やビジネスプランのブラッシュアップの場として活用します。私たちの課では、各プロジェクトを全力で支援。例えば、県庁内の特定部署を紹介してほしい要望があれば紹介しますし、ビジネスプランのブラッシュアップにも加わり、アイデア出しから実行まで一緒に汗をかきながら進めていく考えです。

――最後に、ホスト企業とパートナー企業に向けて一言ずつメッセージをお願いします。

山田氏 : ホスト企業4社には、県内全域へ波及する形で今回の取り組みを発信してほしいと思っています。同時に、自社にとっても、プログラムを通じて将来の事業の柱につながる出会いや気づきが生まれることを願っています。

パートナー企業には、同じ熱量で取り組んでくださる方を求めています。プログラムを通じて山梨県内企業と関わり、県内マーケットに入り込むきっかけにしていただければ嬉しいです。移転に至らなくても、山梨での事業展開につなげてほしいと思っています。

今年度のホスト企業4社はいずれも地域になくてはならない有力企業ですから、共創することで確実にプラスになるでしょう。まずはプログラムに参加して山梨県に触れ、進出先の選択肢として検討してみてください。県内で事業展開が決まれば、私たちも全力で支援します。

【ササキ】「ワイヤーハーネス生産で培った技術と品質管理の知見で実現する、中小ものづくり産業の競争力強化への挑戦」

▲株式会社ササキ 代表取締役 佐々木啓二 氏

――まず、御社の事業概要と特徴をご紹介ください。

佐々木氏 : 当社は1995年に設立され、ワイヤーハーネスの製造・加工を主な事業としています。本社は、半導体製造装置産業を中心に発展してきた山梨県韮崎市にあり、お客様は大手半導体製造装置メーカーが中心で、長年にわたり育てられてきました。私は、当社の二代目代表を務めています。

――本プログラムに参画を決めた背景は?

佐々木氏 : 半導体業界の波は非常に大きく、好調なときは業務が逼迫し、落ち込むと急激に減少します。その波に対応するため、当社はケーブル製造という領域を維持しつつ、異なる作業にも取り組んできました。おかげさまで、ワイヤーハーネス製造という1つの事業を約30年間継続しています。ただ、「1事業30年説」を考えると、このまま続けられるかという不安は常にあります。

当社はOEM中心で自社ブランドは持っていません。しかし、設備は整っていますし、お客様にも恵まれています。そこで、資金やファブ(製造設備)に課題を持つスタートアップと共創し、第2の事業の柱を築くパートナーシップを作りたいと考え、本プログラムに参加しました。

――今回は「ワイヤーハーネス生産で培った技術と品質管理の知見で実現する、中小ものづくり産業の競争力強化への挑戦」という募集テーマを設定されました。その中でいくつかの共創イメージを挙げていただいていますが、具体的にどのような共創を目指しておられますか。

佐々木氏 : 1つ目は、有機フッ素化合物(PFAS)に関する共創です。PFASは世界的な環境基準で規制が進んでおり、私たちの製品(ワイヤーハーネス)にも含まれているため、規制が強化されれば事業にも大きな影響が出るでしょう。そこで、この課題に一緒に取り組んでいただけるパートナーを探しています。規制が本格化する前に「PFAS規制への対応ができている」と示したり、特許を取得したりするだけでも将来、ビジネスにつながると考えています。

2つ目は、自社開発したワイヤーハーネスの生産管理・工程設計システムに関する共創です。このシステムは約13年前にオリジナルで開発したもので、外部にも展開できる可能性があると考えています。ただ、私たちにはシステムを改良したり販売していくためのノウハウがありません。そこで、プログラミングや開発に強みを持つ企業と連携し、製品として市場に出せるレベルを目指していきたいと思っています。

▲2輪・4輪用ワイヤーハーネス加工も得意とするササキ。同社の高品質ワイヤーハーネスは、ロードレースにも採用されている。

――御社から提供できるリソースについてもお伺いしたいです。

佐々木氏 : 当社は自社設備を保有しており、ケーブルメーカーをはじめ幅広い企業とのネットワークも持っています。そのため、取引先と連携して新たな取り組みを進めることが十分可能です。実際、先日も大手電線メーカーに「当社だけで対応できない場合、1ラインだけ加工に使わせてもらえるか」と相談したところ、前向きな回答を得ました。半導体、自動車、重工業など多様な業界と取引があるため、そうしたコネクションを活かせます。

――応募を検討しているパートナー企業に向けてメッセージをお願いします。

佐々木氏 : 父が会社を興して以来、「信頼される企業になろう」という目標を掲げ、常に挑戦する姿勢を大事にしてきました。実際にこれまで、半導体装置だけでなく、自動車や防衛といった領域など、ワイヤーハーネス製造を強みに多領域に展開しています。ただ、本業のワイヤーハーネス事業以外への挑戦には踏み出せていません。今回のプログラムでは、スタートアップの皆さんの力を借りて、本業以外に踏み出していくきっかけを作りたいと思っています。

【アシストエンジニアリング】「人と企業をつなぎ、持続可能な人材確保と成長を共に創る未来」

▲株式会社アシストエンジニアリング 専務取締役 三井英史 氏

――まずは御社の事業概要からお聞かせください。2002年創業で、人材ビジネスを中心に展開されているそうですね。

三井氏 : 当社は人材派遣・人材紹介事業から始まり、その後、モノづくり事業部を立ち上げ、自社工場での人材育成や製造そのものを請け負うアウトソーシング事業に取り組んできました。その後、障害者雇用にお困りのお客さまからの要望に応じる形で、就労継続支援B型の事業所を開設。保育園が決まらなくて困っているお母さん方の希望に応じて、企業内保育園を開設しました。

さらに、IT関連事業やふるさと納税の中間管理を手がける地方創生推進事業など、幅広い事業を展開しています。現在、山梨県内では、人材ビジネス領域でトップクラスの売上を誇るまでに成長しています。

――本プログラムでは募集テーマに「人と企業をつなぎ、持続可能な人材確保と成長を共に創る未来」を掲げられました。具体的にどのような共創に取り組みたいとお考えですか。

三井氏 : 今回のプログラムにおいて重点的に取り組みたいことは、企業の採用のスコアリングです。山梨県内の中小企業では、採用できる企業とできない企業の格差が広がっています。私たちが「時給を上げましょう」「福利厚生を手厚くしましょう」と提案しても、多くの企業はそう簡単に見直していただけません。

そこで、労働市場や県内の求職者動向を踏まえた採点を行い、客観的なデータをもとに「ここを変えましょう」と提案できるようにしたいと考えています。AIに強い企業などとの共創を通じて、こうしたスコアリングの仕組みを構築していきたいのです。

――イメージされているスコアリングの仕組みは?

三井氏 : スコアリング実現のイメージとしては、Web上の労働市場データや職種ごとの情報をまるごとクローリングし、当社が蓄積してきたデータやクライアントからいただく情報と統合して解析する、というものです。今のAIであれば、こうした仕組みを構築し、採用のスコアリングを実現できるのではないかと思っています。

――採用のスコアリングの狙いは何ですか。

三井氏 : 採用がうまくいかない原因を正確に把握し、滞っている部分を特定することが狙いです。企業の中には、採用強化のために福利厚生に多額の資金を投じる場合もありますが、それが必ずしも最適とは限りません。今回の取り組みでは、課題を可視化し、必要な部分に適切なリソースを集中させる仕組みを作ることを目指しています。

――御社から提供できるリソースについてもお伺いしたいです。

三井氏 : 当社は人材派遣・紹介事業などを通じて山梨県内の多くの企業と取引があります。これまで累計で約1,000社との取引実績があり、現在も常時200社ほどと取引しています。クライアント数は今も急速に増えており、検証を行いたい際にはクライアント先への実証実験の協力依頼や、情報提供なども行えると考えています。クライアント先で多い業種は、製造、サービス、福祉などです。また、個人情報の問題はありますが、何万人もの登録スタッフがいることも強みと言えます。

▲人材派遣・紹介、採用代行、教育研修、外国人雇用支援などの豊富なノウハウなどを有するアシストエンジニアリング。

――応募を検討しているパートナー企業に向けてメッセージをお願いします。

三井氏 : 地方創生は今後ますます重要なキーワードになると考えています。山梨で上手くいけば、他の地域でも応用できるはずです。今回のシステム開発は直接的に地方創生につながるわけではありませんが、ゆくゆくは地方を助けるような活動へと発展させていきたいと思っています。こうした想いに共感してくれるパートナーと一緒に取り組みたいと思っています。

【湯澤工業】「AI・IoTが拓く建設業の未来~災害予兆と資材管理の実現~」

▲湯澤工業株式会社 代表取締役社長 湯沢信 氏

――まずは、御社の事業概要と特徴からお聞かせください。1958年創業で、湯沢さんが3代目だそうですね。

湯沢氏 : 当社の事業は、祖父が2tダンプ1台で建材運搬を始めたことから始まります。その後、重機の導入によって土木工事の下請けへと事業を広げ、産業廃棄物処理場の建設にも取り組んできました。元請け企業の倒産を機に同社から社員を採用し、自ら案件を受注できる体制を整備。現在では国交省関連で県内トップクラスの受注実績を誇ります。公共工事の自由参加化やデジタル化の波にもいち早く対応し、社会の変化を柔軟に取り入れながら成長を続けている会社です。

――本プログラムに参画を決めた理由は?

湯沢氏 : オープンイノベーションに取り組む理由は、「時間を買いたい」という感覚からです。他業界と同様、建設業界も進歩していく必要がありますが、自社のノウハウや凝り固まった考えだけでは成長のスピードが遅くなってしまいます。そこで、外部からの情報や刺激を社内に取り入れ、一秒でも早く進化することが重要だと考え、このプログラムへの参加を決めました。

――今回、「AI・IoTが拓く建設業の未来~災害予兆と資材管理の実現~」という募集テーマを設定され、その中で3つの共創アイデアをご提示いただきました。それぞれについてお伺いしたいです。

湯沢氏 : 1つ目ですが、建設業に関わる立場として、災害時の安全確保は大きな課題です。私たちは急峻な地形で作業することも多く、ゲリラ豪雨などが突然起こると作業員に危険が及ぶ可能性があります。そこで、気象データやAI・IoTなどの先進技術を組み合わせて防災ソリューションを開発したいと考えています。この防災ソリューションが上手くいけば、地域防災へも応用していけるのではないかと思っています。

2つ目は、建設現場における資材管理の見える化と行動変容の実現です。国内の人手不足が深刻化する中、少人数で効率的に作業を進めるためには、資材などを無駄なく管理することが重要で、それができてこそ、利益を高めて従業員に還元することができます。AIやIoTを活用して現場の進捗や作業動作を解析・視覚化することで、無駄な動きや危険な動きを減らせるようにしたいです。さらに、「積み込みができる」「掘削ができる」などの作業スキルを可視化し、トークンなどで報酬に反映させる仕組みも導入できれば面白いと考えています。

3つ目は、コンクリート廃材や木くずの新しい用途と加工技術の探索です。従来のリサイクル方法にとらわれず、これらをより効果的に社会に還元できる方法を模索しています。これは、SDGsへの貢献はもちろん、新しい事業展開の可能性を広げることにもつながると思います。

▲土木工事を中心に地域インフラの整備や災害復旧を担う湯澤工業。近年はICT施工やドローン測量、BIM/CIMなどデジタル技術の導入などにも積極的に取り組んでいる。

――共創の実現に向けて、御社から提供できるリソースについてもお聞かせください。

湯沢氏 : まず、重機が複数稼働する土木工事現場や急傾斜地など、さまざまなフィールドを実証の場として提供できます。長年の経験から得た知見やデータ、技術者のスキルも活用可能です。さらに、意思決定のスピードも強みで、面白いと感じたものに関しては、すぐに取り入れていきたいと思います。

――応募を検討しているパートナー企業に向けてメッセージをお願いします。

湯沢氏 : デジタル化は今の建設業に不可欠であり、深めていく必要があると考えています。建設現場はどうしても危険が伴いますが、そこで働く仲間を大事にするからこそ、デジタルを活用したい。一緒に働く人たちが安心して楽しく働ける環境を作るためにも、ぜひスタートアップの皆さんと力を合わせ、建設業をより魅力的な業界にしていきたいと思っています。

【JA山梨厚生連】「ヘルステックで創造する、個人と地域を支える次世代健康・生活改善モデルの実現」

<写真左→右>

・山梨県厚生農業協同組合連合会 経営戦略部 事業企画課 臨床検査技師 大柴 一希 氏

・山梨県厚生農業協同組合連合会 経営戦略部 事業企画課 調査役 沓間玄樹 氏

・山梨県厚生農業協同組合連合会 経営戦略部長 兼 事業企画課長 櫻田一哉 氏

――JA山梨厚生連の事業概要からお伺いしたいです。

沓間氏 : 私たち山梨県厚生農業協同組合連合会(JA山梨厚生連)は、1977年に設立されました。「山梨県厚生連健康管理センター」を拠点に、人間ドックや巡回健診、外来診療、健康教育などを展開し、多様な活動を通じて地域住民の健康維持をサポートしています。

2001年以降は施設の拡張や最新機器・システムの導入を進め、受診者の体験向上にも取り組んでいます。「つなげる、やさしさ。」をスローガンに、SDGsの推進や食育、栄養指導などにも力を入れており、「地域に欠かせない健康の拠点」を目指している組織です。

櫻田氏 : 当センターでは、ただ健診を受けに来る場所ではなく、「心身を整える時間を過ごす場所」と感じていただけるような空間づくりを大切にしています。

健康診断は多くの方にとって義務的になりがちですが、受診そのものが心地よく、また訪れたくなるような施設づくりを目指しています。

――今回のプログラムでは、募集テーマに「ヘルステックで創造する、個人と地域を支える次世代健康・生活改善モデルの実現」を掲げておられます。本プログラムに参画を決めた背景は?

沓間氏 : 私たちが直面している課題が2つあります。1つ目は、生活習慣病の増加や高齢化に伴う医療・介護負担の拡大といった、地域の健康課題です。2つ目は、企業として既存事業の枠を超えた新しい価値を創造する必要があるという課題です。この2つを解決する糸口を探るために、今回のプログラムに参画しました。

――それぞれについて、どのような共創をイメージされていますか。

沓間氏 : 1つ目は、これまで蓄積してきたデータの活用です。保有データを生かせば新しい価値を生み出せる可能性がありますが、私たちだけでよいアイデアを導き出すことは容易ではありません。そこで、他企業の視点や発想を取り入れ、地域の健康課題解決につなげたいと考えています。

2つ目は、データ活用とは全く異なるアプローチで、私たちの事業を理解してもらった上で、「こんなこともできるのでは」という提案を、異なる分野の方々からいただきたいと考えています。また、外部の方々の考え方や発想を学び、本会に取り入れることで、新たな価値を一緒に創造していきたいと思っています。

大柴氏 : 長年同じ職場で働くと固定観念に縛られがちです。私も検査の部署から事業企画に異動して、新たに見えることがありました。今回も同様に、異なる視点のアイデアに自分たちの考えを重ね、発想を広げたいと思います。

――共創に向けて提供できるリソースは何ですか。

沓間氏 : 大きく3つあります。1つ目は、山梨県全域の年間約10万人分の健診データです。過去10年以上にわたり蓄積された累計150万人分のデータがあります。特に、10年以上継続して受診している方が約2万2,000人に達し、一人の長期的な健康情報を追える点が強みです。また、健診を通じて築いた自治体や企業とのネットワークも活用可能です。

2つ目は、人間ドック等の健診受診者や契約先を対象とした実証実験フィールドです。人間ドック受診者数は毎日100人以上、健康診断受診者はバスで訪問するものも含めると500人以上で、大規模かつ迅速な実証実験が可能だと思います。

3つ目は、医師、保健師、看護師、管理栄養士、診療放射線技師、臨床検査技師が在籍しており、医療職から科学的エビデンスに基づく意見を得られること。これらも共創を進めるうえで、大きな推進力になると考えています。

櫻田氏 : 1つ目のデータに関して補足すると、受診者の多くが山梨県民であるため、データは山梨県民の特徴を強く反映しています。このデータを活用することで、県民により効果的なサービスの提供が可能になります。山梨県では全国的に見て塩分摂取量が多い傾向があることから、この地域特有の食生活や健康課題に基づいた独自のモデルを構築し、健康寿命の延伸に貢献することを目指しています。さらに、これらの成果を県外へ展開するアイデアにも期待しています。

▲JA山梨厚生連が運営する「山梨県厚生連健康管理センター」。JA組合員および地域住民に対し、人間ドックや健康診断など多岐にわたる保健・医療サービスを提供している。

――応募を検討しているパートナー企業に向けてメッセージをお願いします。

沓間氏 : 初めてのオープンイノベーションに期待しています。異なる得意分野を組み合わせ、新しい価値を生みだすような活動したいと考えています。

大柴氏 : 今回は、医療とはまったく異なる領域の方々とセッションできることを楽しみにしています。

櫻田氏 : 私たちは、持てるリソースを最大限に活用し、スタートアップの皆さんと、win-win となる結果を出せるよう取り組んでいきたいです。健診事業が主力ですが、一見関係のない分野からの提案も歓迎します。多くの方のご応募をお待ちしています。

取材後記

山梨県庁とホスト企業4社への取材を通じ、次世代に向けたイノベーション創出に挑む熱気を肌で感じた取材だった。各社が抱える課題に対して、スタートアップの斬新な発想が重なり、どのような化学反応を起こすのか、期待が膨らむ。11月には5階建てのスタートアップ支援拠点もオープン予定で、新たな出会いや挑戦がさらに加速しそうだ。関係者の熱意と現場の空気から、山梨のオープンイノベーション活動は地域産業の未来を切り拓く大きなうねりになりつつあることを実感した。

※『STARTUP YAMANASHI OPEN INNOVATION PROGRAM 2025』の詳細はこちらをご覧ください。

(編集:眞田幸剛、文:林和歌子、撮影:齊木恵太)

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  • 谷口靖弥

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  • 三木雅晴

    三木雅晴

    • 総合商社
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