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「アースインテリジェンス」とは?地球観測データ×AIで実現する新たな意思決定の方法

「アースインテリジェンス」とは?地球観測データ×AIで実現する新たな意思決定の方法

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新規事業やオープンイノベーションのプレイヤー、そしてそれらを実践・検討する企業の経営者は、常に最新トレンドをキャッチしておかなければなりません。そんなビジネスパーソンが知っておきたいトレンドキーワードをサクッと理解できる連載が「5分で知るビジネストレンド」です。キーワードを「雑学」としてではなく、今日から使える「知識」としてお届けしていきます。

今回取り上げるのは「アースインテリジェンス」です。これは、衛星やセンサーなどを通じて地球規模で得られるデータを、AIや分析技術を駆使して意思決定や新規事業に活用するアプローチであり、環境・防災・インフラ・物流・農業など幅広い分野で注目を集めています。

アースインテリジェンスとは地球観測データ×AIを駆使した意思決定の仕組み

「アースインテリジェンス(Earth Intelligence)」とは、地球の観測データを活用して、人類の意思決定をより正確・迅速に支援する仕組みを指します。具体的には、人工衛星、ドローン、地上センサー、IoTなどの観測装置から取得されるデータをもとに、地球規模の環境変化、土地利用、災害、資源の動向などを可視化・予測し、公共・民間問わず活用するものです。

従来のGIS(地理情報システム)やリモートセンシングの延長線上にある概念ですが、近年のAI解析技術の発展や、商用衛星データの取得コスト低下を背景に、ビジネスや社会課題解決のための「インテリジェンス=知的資源」として再定義されつつあります。

アースインテリジェンスが注目される3つの背景

近年、アースインテリジェンスが注目を集めている背景には、3つの大きな潮流があります。

1つ目は気候変動や自然災害リスクの高まりです。台風や豪雨、森林火災などの災害予測・モニタリングへのニーズが世界的に増しており、リアルタイムかつ高精度な地球観測データの活用が求められています。

2つ目は衛星技術やAIの進化です。低軌道の小型衛星群による観測や、AIによる画像認識技術が格段に進化し、地球全体の動きを以前より安価に、かつ精緻に把握できるようになりました。

3つ目はESG投資やカーボンニュートラル政策の後押しです。企業や政府がサステナビリティに配慮した意思決定を求められる中で、森林の減少状況や温室効果ガスの排出トレンドを「見える化」する手段として、アースインテリジェンスが不可欠になっています。

アースインテリジェンスの市場規模は2030年に42億ドル規模に

調査会社Gartnerによれば、アースインテリジェンス分野の年間直接収益は、2025年の約38億ドルから2030年には42億ドルを超えると予測されています。

この成長を牽引するのは、政府機関ではなく民間企業です。現在、アースインテリジェンスのデータ収集と分析は主に政府や軍事機関が担っていますが、Gartnerは2030年には企業の支出がこれら公的機関を上回り、全体の50%以上を占めると予測しています。これは、企業が自社での解析能力を持たずとも、民間の技術・サービスプロバイダーからデータや分析ツールを購入する動きが加速していることを示しています。

また、超低軌道(VLEO)衛星の普及により、地球観測データの取得コストは大幅に下がり、解像度は10cmレベルに達するなど、より詳細でリアルタイムな地球データが収集可能となっています。これにAIを掛け合わせることで、これまで見えなかった情報を可視化し、新たな産業的価値を生み出すことが可能となるのです。

このように、アースインテリジェンスは民間市場の拡大と技術革新を背景に、今後数年で大きなビジネスチャンスを生み出す分野として注目されています。

参照ページ:Gartner Says Earth Intelligence is a $20 Billion New Revenue Growth Opportunity for Technology and Service Providers Through 2030

活用が進む分野とユースケース

アースインテリジェンスの活用分野は多岐にわたります。代表的なものを以下に紹介します。

・農業

衛星からのNDVI(植生指数)を用いて作物の健康状態をモニタリングし、施肥や散水の最適化を図る「精密農業」が普及しつつあります。天候データとの組み合わせにより、収量予測や害虫リスクの分析も可能となっています。

・保険

自然災害に関する損害予測や保険金支払いの迅速化に衛星データが活用されています。たとえば、洪水や山火事の発生エリアを自動的に特定し、被害状況を可視化することで、アンダーライティング業務を効率化する事例があります。

・エネルギー・資源開発

再生可能エネルギーの設置適地の選定、太陽光発電の発電効率予測、鉱物資源の埋蔵調査など、リモートセンシングと機械学習の組み合わせで精度が向上。海外では風力発電設備のメンテナンス予測にも応用されています。

・都市インフラ・物流

都市のヒートアイランド現象の解析、交通量の把握、建築物の劣化検知、港湾の混雑状況分析などに用いられ、都市設計や物流最適化に寄与しています。

注目される国内外の企業・プロジェクト

アースインテリジェンスを軸に事業を展開する企業やプロジェクトを紹介します。

・Privateer(米)

PrivateerはAIと衛星データを融合させて都市の人流解析や商業施設の稼働状況を提供するスタートアップです。投資判断支援や政府の政策立案支援にも活用されています。

参照ページ:Privateer

・Synspective(日本)

Synspectiveは小型SAR衛星を開発・運用し、都市インフラや災害予測向けのソリューションを提供する企業です。アジア圏を中心に事業を展開し、日本の宇宙ベンチャーとして注目されています。

参照ページ:TOP - Synspective-JP

・UP42(独)

UP42は地球観測データをAPI経由で取得・活用できるプラットフォームを提供する企業です。顧客は地理データ分析を容易に組み込むことができ、企業のデータ利活用を促進しています。

参照ページ:UP42

アースインテリジェンスの今後の課題と可能性

アースインテリジェンスは、まだ黎明期の市場といえますが、今後数年で急成長が見込まれています。とはいえ、以下のような課題も指摘されています。

・データ取得コストや精度のばらつき

・個人情報や国家安全保障にかかわる情報の取り扱い

・分析人材・技術の不足

一方で、これらの課題に対して、民間企業によるSaaS型プラットフォームの整備や、政府・自治体との連携による防災・減災システムの高度化が進めば、気候・社会・経済の変化に対応した「地球規模のインフラ」としての役割を担う可能性があります。

編集後記

AI、IoT、衛星など、かつては別々に語られていたテクノロジーが、「地球を理解し、守る」という大きな目的のもとで融合し始めています。アースインテリジェンスは、単なる宇宙産業の話ではなく、私たちの生活・社会課題に深く関わるテーマです。都市開発、農業、災害対策、環境ビジネスといった多様な領域で、新しい事業の起点となるヒントが眠っているのではないでしょうか。

(TOMORUBA編集部 久野太一)

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