
旭化成が取り組む“対話型オープンイノベーション”――4期目を迎える共創プログラムのテーマ、「CNFによる3Dプリンターの進化」、「部品製造の最適化」、「医療グレードの分離・吸着技術」を深掘りする
1922年の創業以来、多様なパートナーとつながりながら事業ポートフォリオを変え、社会や環境の変化に対応しつつ、世界にない価値を提供し続けてきた旭化成グループ。現在は、「マテリアル」「住宅」「ヘルスケア」の3領域を中心に事業を展開している。
同社が2022年より始動させたのが、「次世代のサステナブル」をパートナー企業と共に切り開くプログラム『Value Co-Creation Table』だ。旭化成グループが取り組みたいテーマを提示し、それに応募した外部企業と、アイデア段階からディスカッションを重ねていくことが特徴となる。また、本プログラムには、旭化成グループの事業部門/研究開発部門で深い知見を持つ社員がコミット。さらに、旭化成グループが有するさまざまなアセットを活用することも可能だ。
今年度で4期目を迎える『Value Co-Creation Table 2025』では、次の3つのテーマで募集を開始している。
【テーマ1】 「3Dプリンター=試作品」の壁を超える――CNFを用いて実用に耐えうる部品を共に開発する
【テーマ2】 より軽く!よりエコに!部品製造の最適化――トポロジー最適化で素早い最適設計+CO₂排出量の見える化
【テーマ3】 先端医療を多くの人に届ける――医療グレードの分離・吸着技術で先端医療の普及・発展を支えたい
そこで今回、TOMORUBAでは、3つのテーマの担当者とプログラム事務局担当者へのインタビューを実施。各テーマで扱う素材・技術を紐解きながら、『Value Co-Creation Table 2025』の全体像を紹介する。
【テーマ1】 独自のCNF配合樹脂と3Dプリンターで、実用に耐えうる部品を共に開発する
――まず、今回の共創で活用する御社のセルロースナノファイバー(CNF)配合樹脂について、原料や特徴を教えてください。
前川氏: 当社が使う原料は、コットンリンターと呼ばれる綿実の外側の殻に付着する産毛です。その産毛を細かく加工したものを、当社のセルロースと呼んでおり、これをポリマー中に分散させる技術を開発しました。
このCNF配合樹脂の特徴は高いチキソトロピー性で、静止時は固いが動かすと一気に流れ出す性質です。ケチャップやマヨネーズをイメージすると分かりやすいでしょう。この特性が3Dプリンターでの造形で優位に働くと考えています。

▲旭化成株式会社 マテリアル新事業開発センター サステナブルポリマー研究所 XRP開発プロジェクト プロジェクト長 前川知文 氏
――CNF配合樹脂の開発や3Dプリンターでの活用を考えるに至った背景は?
前川氏: 2017年頃からCNF配合樹脂の技術開発に取り組み、2023年頃からは3Dプリンターでの活用に向けた検討を始めました。3Dプリンター業界は勃興期にある成長分野ですが、一般家庭への普及はまだ進んでいません。造形には一定のノウハウが必要で、誰もが簡単に扱えるわけではありませんし、従来の射出成形に比べてコストも高いことが普及の妨げになっています。
そこで当社は、高性能・低コスト、かつ使いやすい材料を提供することで、3Dプリンターの実用化を一歩前に進めたいと考え、研究開発に取り組んできました。
――今回、パートナー募集を行うことになった理由を教えてください。
大塚氏: 現在、3Dプリンターの用途を模索している段階にあります。そこで、私たちがまだ気づいていない可能性を探るため、パートナー募集を行うことにしました。
当社材料の強みは、エンプラ(エンジニアリング・プラスチック)でありながら造形性が非常に高い点です。これまでは「造形しやすいが強度や耐熱性に課題がある」といった材料が多かった中で、私たちはそれらの両立を目指してきました。こうした特性を活かし、新たな用途につながるヒントが得られればと考え、パートナー募集を行うことにしました。

▲旭化成株式会社 マテリアル新事業開発センター サステナブルポリマー研究所 新事業創出部 新事業創育グループ 大塚直也 氏
――御社のCNF配合樹脂を用いることで、3Dプリンターの可能性はどのように広がりそうですか。
大塚氏: 例えば、よく使われるPLA (ポリ乳酸)という材料は、造形しやすい反面、強度や耐熱性には限界があり、「ある程度の形は作れても実用には向かない」といった認識があったと思います。それに対して、私たちの材料は造形性に加えて、強度や耐熱性も備えており、これまで難しかった実用的なものづくりが可能になります。結果として、新たな使い方や市場が生まれ、3Dプリンター活用のステージを一段引き上げられるのではないかと考えています。
前川氏: 私たちの材料は、高価な装置だけでなく、比較的安価な3Dプリンターでも使えます。そのため、コストを抑えられ、導入のハードルも下げられると考えています。
大塚氏: 数十万円クラスの安価な3Dプリンターで同様の造形ができるようになると、高価な装置1台で作るのではなく、安価な装置を複数台並べて大量生産することもできるでしょう。こうした選択肢が広がる点も、今回の大きなポイントです。
――共創パートナーと実現したい価値創出や課題解決のイメージを教えてください。
前川氏: 当社の材料は、大きく分けて2種類あります。ひとつは硬いポリアミド系、もうひとつは従来にない柔らかさを持つエラストマー系です。エラストマー系は、身体に装着する製品などと特に相性が良いと思います。近年は、大量生産・大量消費の時代から、個別ニーズに応じたオーダーメイド製品が求められる流れもあります。当社の材料と3Dプリンターを使えば、そうしたニーズにも応えられると考えています。
大塚氏: カスタマイズ性は今回の重要なポイントです。射出成形の場合、金型を作れば同じ製品を安価に大量生産できますが、個別の形状に合わせた製品をつくるとなると、金型の数も増えて大変です。3Dプリンターならデータさえあれば、個々の形状をそのまま出力できるため、カスタマイズ性が求められる製品には適していると思います。

▲CNFを配合した優れた表面外観と高強度が特徴の「ポリアミド樹脂」と、幅広く柔らかさを調整できる軟資材「エラストマー」。
――具体的な製品の例は?
大塚氏: 柔らかいエラストマー系の材料なら、靴のインソールや義肢装具など人の身体に直接触れる製品のほか、緩衝材や工場内の物を掴む際の部品などが考えられます。硬いポリアミド系は、工場の治具やドローンなど機械の部品にも使える可能性があります。
前川氏: 保守部品の分野でも活用できるのではないでしょうか。金型や部品の在庫を持たず、必要なときに3Dプリンターで製造ができれば、無駄を減らすことができます。データだけが動いていくような仕組みを作ることができると思います。
大塚氏: ただ、今回のプログラムではこれらにとどまらず、私たちの想像を超える新しい用途が見つかることを期待しています。
――共創パートナーに提供できるリソースには、どのようなものがありますか。
前川氏: フィラメントやペレット、粉体など多様な形態の材料を揃えており、それらを提供できます。また、CAEによるシミュレーション技術も保有しており、部品設計時に最適な形状を解析できます。設計面でのデザイン提案も可能です。
大塚氏: 当社は長年、エンジニアリングプラスチックや汎用樹脂を製造してきたため、樹脂に関するノウハウや物性評価設備が豊富です。これらは当部署だけでなく社内各部署にもあり、多方面からのサポートを得ることもできると思います。
――エントリーを考えている企業に向けてメッセージをお願いします。
大塚氏: エンジニアリングプラスチックの中でも造形しやすく、柔らかい材料をお探しの方は、ぜひご応募ください。「何ができるか」も含めてディスカッションできればと思います。既存の製品を変える可能性が大いにあるので、ご参加をお待ちしています。
前川氏: 「3Dプリンターには欠点がある」というイメージをお持ちの方も多いかと思います。これまで造形で困っていた方や、実用に向かないと感じていた方にも、当社の材料を使っていただければ「意外と使える」と実感してもらえるはずです。まずはぜひ、ディスカッションからご一緒できればと思います。
【テーマ2】 トポロジー最適化で素早い最適設計+CO₂排出量の見える化を目指す
――御社では長くトポロジー最適化技術に取り組まれていると伺いました。その概要や御社の強みについて教えていただけますか。
高村氏: トポロジー最適化は、設計空間の中で材料をどう配置すれば効率的に強度を保てるのかを、コンピュータが自動で計算して、最適な形状を提案する技術です。この技術自体はすでに一般的になっており、当社も商用ソフトを使って計算を行っています。
では、当社の強みはどこにあるかというと、樹脂部品の設計で製造可能な形状を提案できる点です。というのも、トポロジー最適化では「これでは作れない」という結果が出ることが多く、部品設計に活用しにくいと思われている傾向があります。ですが、当社ではトポロジー最適化の結果を活用し、最終的に射出成形で製造可能な形状を提案できます。

▲旭化成株式会社 マテリアル新事業開発センター サステナブルポリマー研究所 CAE技術開発部 CAEグループ 高村兼司 氏
――従来の設計と、トポロジー最適化を活用した設計とでは、どのような違いがあるのでしょうか。
高村氏: これまでの設計は、専門知識を持つ設計者が手探りで図面を引いて検証し、うまくいかなければ修正するといった試行錯誤の繰り返しでした。そのため、最適な形状を探すために時間がかかっていたのです。一方で、トポロジー最適化はコンピュータが自動で最適な形状を導き出すため、従来の人の手による方法では思いつかない最適な解に、短時間で辿り着ける点が大きな強みと言えるでしょう。
この場に、人の手で設計した部品とトポロジー最適化後の部品を持参しましたが、人の手による部品は「トラス形状にすれば強度が出る」といった材料力学の知見に基づいて作られた形です(下写真左)。一方、トポロジー最適化後の部品(下写真右)は、人間の発想ではなかなか到達しえない複雑な形状をしています。

――今回はトポロジー最適化技術を活用して、材料使用量やCO₂排出量の削減を目指されていますが、具体的にはどの程度の削減が見込まれるのでしょうか。
高村氏: 材料の削減についてはケースバイケースのため一概には言えませんが、例えば、同じ材料で同等強度を保ちながら、重量を約20%削減できた例があります。また、金属から樹脂に置き換えた場合には、素材自体が大幅に軽くなり、重量を半分以下に抑えられた例もあります。
野本氏: CO₂排出量の削減についてですが、例えば、今お見せしている部品では、1個あたりの削減量は数キログラム程度にとどまります。ただ、こうした部品は数万点単位で量産されることが多いため、全体として見たときの削減量は、非常にインパクトのある数字になると考えています。

▲旭化成株式会社 マテリアル新事業開発センター サステナブルポリマー研究所 CAE技術開発部 CAEグループ 野本紫織 氏
山口氏: 材料使用量が減ることでCO₂排出量を抑えられるだけでなく、軽量化によって燃費が向上するなどの効果もあります。こうした要素をすべて含めて考えると、CO₂削減効果は非常に大きなものになるでしょう。
また、同じ材料を使う場合もありますが、CO₂排出量の少ない別素材に切り替えるケースもあります。素材を変えると強度が不足することがありますが、その場合もトポロジー最適化技術を用い、強度を満たす最適な形状を提案できます。

▲旭化成株式会社 マテリアル新事業開発センター サステナブルポリマー研究所 CAE技術開発部 CAEグループ 山口定彦 氏
――どのような企業とディスカッションを行い、どのような成果を共に創り出していきたいとお考えですか。
竹内氏: 当社はこれまで、自動車関連企業を中心に多くのお取引をいただき、当社の樹脂も多く採用されています。今回はその枠を超えて、自動車業界に限らず幅広い企業と、樹脂を使ったものづくりにフォーカスし、意見交換できればと考えています。
目指す成果については、樹脂使用量やCO₂排出量の削減も目標の一つですが、それだけではなく、樹脂を扱う企業の課題を分析し、設計工程でのCAE技術の利用ハードルを下げ、より簡単に設計ができる環境を作りたいと考えています。

▲旭化成株式会社 研究・開発本部 イノベーション戦略総部 事業創造推進部 事業開発第二グループ 竹内貴哉 氏
――CAE技術を使った外部企業との取り組みで、成果につながった事例があれば教えてください。
野本氏: いわゆる共創という形式ではありませんが、これまで多くのお客様に対して、CAE技術を活用した解析サービスを提供してきました。対応してきた企業数は、過去30年間で延べ数千社にのぼります。お客様の課題解決につながった事例も多く、例えば、自動車ドア内部部品では、材料はそのままで約20%の軽量化を達成。CO₂排出量の削減にもつながり、お客様から喜んでいただけました。
――共創パートナーに提供できるリソースには、どのようなものがありますか。
山口氏: 当社は30年以上にわたり、樹脂に特化したCAEに取り組んできました。CAEを扱う企業は他にもありますが、ここまで樹脂分野に特化して継続しているのは、樹脂メーカーである当社ならではの強みです。
特に、比較的早期からこの分野に注力してきたため、豊富な経験とノウハウを蓄積しており、これらを提供できます。また、この領域に詳しい人材や多様な解析ソフトが社内に揃っているほか、ベトナムに設立した当社専用の解析会社には約30名のスタッフが在籍しており、こうしたリソースも活用可能です。
――エントリーを考えている企業に向けてメッセージをお願いします。
野本氏: 当社は樹脂に関する知見と、それに付随したCAE技術を長年蓄積してきたと自負しています。業界にこだわらず、工程の見直しや最適化を考えているお客様と、当社の知見を活かしながら課題解決に取り組んでいきたいです。
山口氏: 当社の技術やノウハウを提供するだけでは共創とは言えません。一緒にCAEによるトポロジー最適化を用いて製造工程などを大きく変えるような、世の中にインパクトを与える挑戦を進めたいと思っています。ぜひご応募ください。
【テーマ3】医療グレードの分離・吸着技術で、先端医療の普及・発展を支えたい
――今回の共創の中心となる「中空糸膜」と「吸着ビーズ」は、それぞれどのような目的で開発され、これまでどのように活用されてきたのでしょうか。
丹羽氏: 最初に生まれたのが中空糸膜です。旭化成メディカル(当時:旭メディカル)は、日本で初めて、セルロース製の中空糸膜を用いた血液透析器を製品化しました。この血液透析器は、腎機能が低下した患者さんの血液中に蓄積される老廃物や余分な水分を、中空糸膜で取り除く製品です。膜の素材は変わっているものの、この技術を使った製品は現在も世界中で使われ続けています。
当初は血液透析器としての用途が中心でしたが、その後、中空糸膜の穴(膜孔)の大きさを変えた複数の製品ラインナップを開発することで、腎不全以外の治療用途にも対応してきました。例えば、血液を血漿成分と血球成分に分離するフィルターや、血漿中に含まれる分子量の大きな物質のみを除去するフィルターなどがあります。免疫が自分の体を攻撃する自己免疫性疾患や、遺伝的にコレステロール値が高いといった疾患において、抗体やコレステロールなどの病因物質を除去できるよう、用途に応じた製品ラインナップの拡充を進めています。

▲旭化成メディカル株式会社 戦略本部 市場戦略部 マーケティング戦略グループ 丹羽達也 氏
――「吸着ビーズ」についてはいかがですか。
丹羽氏: 吸着ビーズも、「血液から不要成分を除去する」という点では中空糸膜と同じです。中空糸膜による膜分離は、分子サイズで物質を分けるため、幅広い物質をまとめて除去できます。その一方で、不要成分以外を除去してしまう側面もあります。
吸着ビーズは特定の物質を選択的に吸着できるように設計しています。目的の物質を選択的に吸着して除去することで、膜分離の性質を補完するような製品になっています。
――技術的な特徴や強みは、どういった点にあるのですか。
丹羽氏: 中空糸膜の一般的な特徴として、大きな表面積に基づく大量処理が可能であることが挙げられます。それに加えて、当社の中空糸膜の最大の強みは、医療用途での長い使用実績に裏付けられた高い生体適合性です。
細胞や生体分子との相互作用に配慮した設計を行っている点は、例えば、水処理や工業用途で使われている中空糸膜にはない、医療機器ならではの特徴です。患者さんの血液を流すことになるため、直接、血液との接触を考慮した表面設計が施されています。

▲中空糸膜と吸着ビーズのイメージ
――この技術を活用できそうな市場や企業のイメージと、具体的な活用の方向性についてお聞かせください。
丹羽氏: まず一つは医療分野での活用です。私たち旭化成メディカルは医療を主軸に事業を展開しているため、パートナー企業も医療ニーズに取り組むヘルスケア関連企業を想定しています。例えば、近年注目されている再生医療や細胞医療の分野です。
これらの分野では、細胞の採取・培養・精製・濃縮など多様なプロセスがあり、こういったプロセスでは物質の交換や除去といった工程が必要になります。こうした場面では、細胞や生体分子を扱うため、無菌的に使用でき、細胞へのダメージを抑えられる当社の技術が活かせると考えています。
他にも当社の技術を活用できるさまざまな臨床ニーズがあると考えています。当社では把握できていない臨床ニーズと組み合わせることで新たなバリューを創出したいと考えています。
――共創パートナーに提供できるリソースには、どのようなものがありますか。
丹羽氏: まず、技術やモノといった観点では、医療用途で培ってきた高品質な中空糸膜や吸着ビーズそのもの、あるいはそれらを組み込んだモジュール、そして関連する技術的知見を提供することが可能です。また、内容次第ではありますが、既存事業での顧客とのネットワークやグローバルなサプライチェーンも活用できる可能性があります。
――エントリーを考えている企業に向けてメッセージをお願いします。
丹羽氏: 私たち旭化成メディカルは、「Along with Life “生きる”に寄り添う。」というミッションのもと医療分野にフォーカスし、患者さんとご家族のQOL向上を目標にして、日々取り組んでいます。世の中には今この瞬間にも、自分自身やご家族の病気や健康上の問題に苦しんでいる方々がいます。私たちは、そうした方々を応援するような形で、何か価値を提供できないかを常に考えています。
各企業の皆様が、それぞれに優れた技術やノウハウ、そして臨床ニーズへの深い理解をお持ちだと思います。一方で、単独の企業だけでは解決が難しい課題も少なくありません。ぜひ、当社の技術や知見と組み合わせることで、患者さんやご家族の苦しみを軽減し、病と戦った先の未来を応援するような取り組みにつなげていければと思っています。
【プログラム事務局インタビュー】 アイデア段階のものでも、まずは気軽に応募してほしい
――4期目となる本プログラムですが、これまでの成果や手応えについて教えてください。
稲川氏: 過去3年間を振り返ると、当社製品のさらなる改良や研究所発技術の製品化など、幅広いステージで共創が実現できたと感じています。当社としても、「何となくこの領域が良さそう」といった感覚で進めているわけではなく、事前に調査して仮説を立て、「これならWin-Winの関係を築ける」と見立てたうえで進めてきました。しかし、実際に始めてみると、まったく予想もしなかった企業からの提案もあり、そうした偶然の出会いがこの手法の大きな魅力だと感じます。
また、我々事務局にとっては社内にオープンイノベーションの文化を根づかせることも、重要なミッションです。このプログラムを始めてから「自分たちも公募をしたい」「オープンイノベーションはどう進めればよいか」といった声が社内からあがるようになりました。こうした反応を見ると、社外に向けた取り組みであると同時に、社内へのメッセージとしても強い意味を持っていると感じており、その点にも手応えや期待を感じています。

▲旭化成株式会社 研究・開発本部 イノベーション戦略総部 R&D戦略部 オープンイノベーション推進グループ 稲川雄一郎 氏
西岡氏: 私は約半年前に現在の部場に異動してきたのですが、それまではオープンイノベーションとは「自分たちから他社に声をかけて進めるもの」という印象を持っていました。しかしこのプログラムでは、当社の技術に対して相手から評価や提案をいただけます。マッチング後は、私たちが思ってもいなかったアプローチで開発が進むこともあり、双方向でコミュニケーションが生まれる点が、この公募型プログラムの魅力だと感じます。

▲旭化成株式会社 研究・開発本部 イノベーション戦略総部 R&D戦略部 オープンイノベーション推進グループ 西岡祐介 氏
――アイデア段階からディスカッションを進められる点が、このプログラムの特徴です。事務局として応募企業にはどのような姿勢で臨んでほしいですか。
稲川氏: アイデア段階のものでも、まずは気軽に応募していただきたいです。「それはまだアイデアに過ぎないのでは」「実現性が低いのでは」「事業性や顧客はどうなのか」といった懸念を持たれるかもしれませんし、会社同士の取り組みとなると、なおさらハードルが高く感じられるかもしれません。
しかし、そうしたご提案にも各社が培ってきた専門性が背景にあるはずです。一方で、私たちはその分野の門外漢ですから、その専門性に裏付けされたご提案は非常に貴重だと考えています。当社からも技術のプロが関わります。事務局やテーマ担当も全員が技術者としての経験を持っています。どのような形で共創していけるのかを、一緒に悩んでいければと思っています。
――最後に、今年度のプログラムに向けての意気込みや応募を検討している企業へのメッセージをお願いします。
稲川氏: 過去の公募は、比較的ビジネスモデルが分かりやすい案件が多かった印象です。一方で今回は、複数の要素やプレイヤーが関わることで、やや複雑なビジネスモデルになると予想しています。そのため、どのようにお客様やパートナー企業と組むのが最適か、事務局も応募企業やテーマ担当者と一緒に相談しながら形をつくっていければと考えています。今回は、やや挑戦的な取り組みになると感じており、しっかり走り切りたいです。
西岡氏: 私たちが想像もしていなかったようなアイデアを持ち込んでいただけることを期待しています。単なる一部門とのマッチングにとどまらず、当社の多様なアセットを最大限に活かし、より広がりのある取り組みへと発展させていきたいと思っていますので、ぜひご応募をご検討ください。

取材後記
旭化成グループが長年かけて培ってきた独自性の高い材料や技術が、今年は3つ提示された。共創のアイデアがうまくかみ合えば、革新的な価値を生み出す可能性がある。また、このプログラムはディスカッションから始まるため、応募のハードルが低いのも魅力だ。すぐに共創ビジネスを形にできるアイデアでなくても、一緒に取り組める余地があるなら、応募をしてみてはどうだろうか。この機会を、新たな挑戦や成長の足がかりにしてほしい。
※『Value Co-Creation Table 2025』の詳細はこちらをご覧ください。
(編集:眞田幸剛、文:林和歌子、撮影:齊木恵太)