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リニア開通により転換期を迎える相模原市が共創プログラムを始動!独自性の高い技術を持つ製造業4社をホストに迎えたプログラムの全貌に迫る<前編>

リニア開通により転換期を迎える相模原市が共創プログラムを始動!独自性の高い技術を持つ製造業4社をホストに迎えたプログラムの全貌に迫る<前編>

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神奈川県北部に位置し、県内では横浜市・川崎市に次いで第3位の人口規模(約70万人)を持つ政令指定都市・相模原市。リニア中央新幹線の新駅の開業にともない、新たなまちづくりも計画されている。そんな同市が今年度、初となる伴走型オープンイノベーションプログラム『Sagamihara Innovation Gate』をスタートさせた(応募締切:10/25)。

同プログラムでは、相模原市内に拠点を持つ製造業4社(富士工業/SWCC/カヤバ(KYB)/大和製罐)がホスト企業となり、新規事業の共創テーマを提示し、共創パートナーを募る。選出されたパートナー企業と、2日間のBUSINESS BUILD(11/30〜12/1)で事業アイデアの骨子をブラッシュアップし、その後は実装に向けたインキュベーション・実証実験に進む。2024年3月には成果発表会も開催予定だ。

TOMORUBAでは共創パートナーの募集開始に際し、プログラム主催者である相模原市、およびホスト企業の担当者にインタビューを実施。『Sagamihara Innovation Gate』を通じて実現したいことや、プログラムにかける想いを聞いた。前編となる本記事では、相模原市および、家庭用レンジフード分野で高いシェアを誇る「富士工業」と電線業界における大手「SWCC」(旧社名・昭和電線ホールディングス)の2社へのインタビュー内容を紹介する。

【相模原市役所】 工場誘致をきっかけに製造業が発展、近年はリニア中央新幹線の開通に向け、新たなまちづくりを推進

最初に『Sagamihara Innovation Gate』を主催する相模原市役所の担当者2名(諏訪氏・多良氏)にインタビューを実施。相模原市の産業特性や本プログラムの狙いを聞いた。

――まず、相模原市の産業特性について教えてください。

相模原市役所・諏訪氏: 相模原市は、戦時中に実施された軍都計画の一環で、大規模な軍事関係の工場などが設置された歴史があり、それが現在の市の発展のきっかけの一つとなっています。1954年には市制が施行されましたが、その際、市の成長方針が議論され、「工業立市」を掲げることに。1955年には工場誘致条例が制定され、工場誘致施策を強化。景気後退期には補助金制度なども導入し、産業空洞化を抑制する施策を実施してきました。

こうした経緯により、中小から大手まで規模を問わず様々な企業の研究所や工場が多数立地しています。また、相模原市は神奈川県の「さがみロボット産業特区」に指定されており、元県立新磯高校を活用した実証フィールドが市内に整備されています。実証環境は民間企業などが保有されているものも含めると非常に数が多く、試作開発や実証実験により新規事業を生み出し、推進する場としてのポテンシャルが高いと感じています。

▲相模原市 環境経済局 創業支援・企業誘致推進課 主任 諏訪靖典 氏

――古くから製造業が発展してきたエリアだということですね。市内にある橋本駅付近では、リニア中央新幹線の新駅建設が進んでいます。

相模原市役所・諏訪氏: リニア中央新幹線が開通すると、品川駅から橋本駅までわずか10分程、名古屋駅までは最短40分程で移動ができるようになります。東京や愛知から訪れる人の数が増える可能性もありますし、人流も含めて様々な変化が起こるでしょう。歴史的に見ても今、相模原市は大きな変革期を迎えていると言えます。

――相模原市はスタートアップ支援にも積極的だと聞いています。背景にはどのような考えがあるのでしょうか。

相模原市役所・諏訪氏: 橋本駅周辺のまち全体が変化していくことを踏まえ、これまでにない切り口で企業誘致に取り組んでいくべきだと考えています。従来のように製造業だけに限らず、幅広い業種の企業やスタートアップ企業との関係性を構築し、誘致するとともに、市内企業との企業間交流を促し、共創による事業開発を通して新たな発想やイノベーションが生まれる知識創造環境を築くことが重要だと考え、本年度より新たに「イノベーションハブ形成事業」「オープンイノベーション事業」「スタートアップ企業進出補助金制度」の3つの事業を開始しました。イノベーションの創出においては、スタートアップ企業との関わりも重要なポイントであると考えていますが、昨年度より市内にスタートアップ企業を増やし、IPOを狙う企業を育成することを目的とした、アクセラレーションプログラムも開始しています。

――相模原市のアクセラレーションプログラムはどのような特徴があるのでしょうか。

相模原市役所・多良氏: 昨年度はシード期のスタートアップを対象としたシード編、今年度はシード編に加えてアーリー編も開催中です。シード編は一般的な座学中心のプログラムと異なり、市内の実証フィールドを活用した実証実験を行うことを条件としています。

実証フィールドは自治体の持つものだけではなく、レジャー施設や物流拠点施設などの民間企業が持つフィールドも活用できる点が特徴です。アーリー編は、シード編参加企業のさらなる成長支援を行うという位置づけで実施しています。これら事業を通して相模原市版のスタートアップ・エコシステムの構築を目指しています。

▲相模原市 環境経済局 創業支援・企業誘致推進課 主任 多良幸人 氏

――「イノベーションハブの形成」は、どのようなイメージなのでしょうか。

相模原市役所・諏訪氏: 現在準備中ですが、具体的なコンテンツとしては、交流イベントの開催や市内・市外企業の出会える場の提供などを検討しており、オープンイノベーションや共同研究、新規事業開発などが活発化するような仕組みを構築する予定です。将来的には、リニア中央新幹線新駅の設置される橋本駅を中心に、スタートアップ・エコシステムと連携した大きなエコシステムを構築することを目指しています。

――今回、相模原市内のホスト企業4社と、全国の企業とをマッチングする伴走型オープンイノベーションプログラム『Sagamihara Innovation Gate』を実施されます。開催意図についてお聞かせください。

相模原市役所・諏訪氏: 先ほどお話しした通り、相模原市には中小から大手まで幅広く製造業が集積し、製造や研究開発を通して多様なビジネスアイデア・シーズが蓄積されていると感じています。

一方、近年、新事業を生み出すアプローチとして異業種連携や外部連携の取り組みが増えている状況下で、製造業が集積している相模原市においては、製造業に限らない多様な業種や市外企業との連携による事業開発機会を創出することが必要なのではないかと考え、市内企業と全国の企業をマッチングさせるプログラムを考えました。相模原市外の様々なプレイヤーと連携し、事業を加速させるという発想で『Sagamihara Innovation Gate』を企画しています。

――本プログラム内でオープンイノベーションを活性化させるために、相模原市役所としてはどのようなバックアップが可能ですか。

相模原市役所・諏訪氏: まず、実証に必要な費用に対する支援があります(上限112万円/税込を支給)。また、実証環境や協力パートナーの探索などのサポートも可能です。相模原市の保有する施設などで実証実験を行いたい場合は、可能な限り調整をしていく考えです。

相模原市役所・多良氏: 加えて、周辺の支援機関や企業との連携を強めています。今回、サポーターとして複数の企業・機関にご参画いただいており、本プログラムに関する様々なご協力をいただけることになりました。

また、東京都や神奈川県のスタートアップ支援機関とも関係を強化しているので、本プログラムで私たちと関わりを持っていただければ、様々な支援機関をご紹介することができます。

――最後に本プログラムにかける期待や、応募企業に向けたメッセージをお願いします。

相模原市役所・諏訪氏: 我々もホスト企業4社のキックオフ、テーマ策定のヒアリングに同席しましたが、いずれの企業も高い技術力をお持ちであることに加え、自社ビジネスのためだけではなく、社会課題の解決も見据えて新規事業に取り組もうとされておられ、非常に感銘を受けました。

私たちとしては、それらの新規事業を軌道に乗せるお手伝いをさせていただき、その成果を相模原市で実現・実装するところまで、ホスト企業4社・パートナー企業の皆様と一緒に汗をかいていきたいと思っています。本プログラムを通して生まれた新事業が、将来的に、全国や海外へ展開するような動きに繋がっていくと嬉しいですね。

相模原市としてもホスト企業4社・パートナー企業の皆様への協力を惜しみません。何かご相談があれば迅速に対応をしていきますので、ぜひ本プログラムにご参加ください。

相模原市役所・多良氏: 国も推進している通り、オープンイノベーションは重要なアプローチ方法です。製造業が集積する相模原市において、さらなる飛躍を目指すには必要な手段だと思っています。

私自身、コミュニティが強くなればなるほど相乗的にイノベーションも進むと信じていますし、イノベーションハブの形成は人流が変わるこのエリアが注力すべきことだと考えています。ですから、市外からお越しになる企業の皆様も、ぜひ相模原市で共創に取り組んでいただければと思います。それらに対して、私たちも自分事として全力でサポートしますし、こうした活動を市の産業の成長につなげていきたいです。

――続いて『Sagamihara Innovation Gate』のホスト企業(富士工業・SWCC)に、事業概要や本プログラムでの募集テーマについて詳しく話を聞いた。

【富士工業】 一般家庭用レンジフードで国内シェアNo.1(※)、厨房機器メーカーが目指す、空気制御による本物の快適さ

※富士工業グループは、一般家庭用レンジフード供給台数国内シェアNo.1。(2021年4月 東京商工リサーチ調べ ODM生産品含む)

――まず、御社の事業概要や特徴をご紹介ください。

富士工業・丸川氏: 富士工業は1941年に設立されて以来、徹底的なものづくりを実践してきた企業です。主軸製品は一般家庭用のレンジフードで、企画から設計・開発・製造・販売までを一貫して手がけています。相模原市には約50年前から拠点を置き、福島とともに2拠点で事業を展開してきました。

▲富士工業株式会社 イノベーション推進部 丸川 雄一 氏

富士工業・市川氏: 一般家庭用のレンジフードにおいては約50年の歴史があり、国内のシェアNo.1を占めています。戸建て住宅や賃貸マンションのキッチンに多く導入されていることが特徴です。ただ、直接消費者に販売するビジネスモデルではないため、当社の名前をご存知の方は少ないかもしれません。

▲富士工業株式会社 テクノイノベーション本部 イノベーション推進部 部長 市川 智浩 氏

――シェアも高く強固な経営基盤をお持ちの御社ですが、昨今は新規事業の開発にも積極的に取り組んでおられます。

富士工業・丸川氏: 長い間、一般家庭用レンジフードを主力としてきましたが、レンジフード以外でも社会に提供できる価値があると考え、既存事業を少しずらした領域での新たな展開を模索しています。実際、大手コンビニエンスストアさま向けにフライヤー用フードを提案し、採用されるなど成果も生まれています。

また、オープンイノベーションを用いての価値創造にも積極的に取り組んでいます。オープンイノベーションに取り組む理由は、意図的に外部と連携することにより社会と接点を広げやすくなると考えているからです。同時に、会社のブランディングや採用面での効果にも期待しています。

――本プログラムに参画を決めた理由は?

富士工業・丸川氏: すでに当社では、神奈川県主催のビジネスアクセラレータープログラム(BAK)に参加するなど、積極的に外部と連携を深めてきました。これらの活動から素晴らしい出会いがありましたし、クローズドイノベーションでは味わえない刺激も感じています。すでに外部との連携に手応えを得ていることから、相模原市の担当者より本プログラムをご紹介いただいた際、喜んで参加を申し出ました。

――今回は『最適な空気コントロールによる”安心・安全でエコロジーな本物の快適さ”の実現』を募集テーマに掲げられました。背景にある考えをお聞かせください。

富士工業・丸川氏: 当社はビジョンのなかで「空気」にフォーカスしていますし、人の暮らしや社会に本物の快適さを提供することを使命としています。新規事業を開発する際も、できれば既存製品とリンクした事業を生みたいと考えてきました。

既存技術を活用すれば、迅速に課題解決策を見出すことができます。先ほどご紹介したコンビニエンスストアさま向けの提案も、過剰な換気を抑えるというアプローチで受け入れられました。ですから、本プログラムでも、空気に対する課題意識を高め、過剰または過少な換気を改善し、本当の快適さや省エネルギーを実現したいと考え、本テーマを設定しました。

▲一般家庭用レンジフードで国内No.1シェアを誇っている富士工業。ディスクが高速回転することで油の侵入をブロックする”オイルスマッシャー”など高い技術を有している。

――共創イメージとして3つ挙げていただきましたが、どのようなことを目指しているかご提示ください。

富士工業・丸川氏: 1つ目の『空気環境を意識したこれまでにない快適な空間の実現』ですが、デザイン性の高い空間に対して空気質を付加価値としてつけ、差別化を図る事業を展開したいとの意図があります。たとえば、部屋のリフォームでは、壁紙やインテリアなどの見た目に多くの費用をかける傾向があります。しかし、空気質はあまり注目されていません。

当社の提供するソリューションで空気質を向上させ、その結果として「仕事の効率が向上する」「会議が活性化する」「リフレッシュできる」といった付加価値を提供していきたい。快適な空気環境を実現できれば、インテリア業界にイノベーションを起こすことができるのではないかと思っています。ですから、インテリア業界などと連携し、オフィスなどの空間提供者に共同で提案していくことをイメージしています。

富士工業・市川氏: 高級ホテルや高級車メーカーは、空間デザインに加えて香りのデザインも行っていると聞きます。ただ、その香りがお客さまに届いているかまでは把握されていないようです。空気の流れをコントロールすることに長けている当社が関わることで、本当に快適な空間づくりが実現できると思います。

――2つ目、3つ目についてはいかがでしょうか。

富士工業・丸川氏: 『空間状況を簡易的にデジタル化する』『飲食店における空気の流れや換気状況を簡易的に可視化』の2つについては、当社の業務効率化を目指すものです。

当社では顧客に提案をする際、部屋の空気状況をデジタル化し、空気の滞留や流れを表現して問題点を指摘しています。その業務プロセスにおいて、まず店舗といった建物の図面をいただき、パソコンで3Dデータを作成。そのなかにエアコンの位置や風量などを盛り込み、流体解析ソフトで演算をさせて、換気扇の配置や風量の提案を行います。このフローを行う際、多くの場合はお客さまから紙の図面をいただき、3Dデータ化をしているのですが、新築の際の図面しかないことも多々あります。

そうすると、現場に出向いて実際に計測をするという作業が発生します。この現場調査を簡略化したいのです。たとえば動画撮影だけで3Dの図面が生成でき、エアコンも自動で図面上に配置できるようにするようなイメージです。したがって、共創パートナーとしては、空間を簡単に3Dモデル化できる技術や、空調設備を自動認識して学習させることのできる技術などをお持ちの企業などをイメージしています。最終的には、お客さまご自身で現場の計測ができるようになるまで簡易化したいと思っています。

――本プログラムを通して、御社から提供できるリソースやアセットについてお聞かせください。

富士工業・丸川氏: 既存事業で持つ顧客網は活用可能です。たとえば、住宅設備会社や飲食店、コンビニエンスストアなどとのネットワークがあります。また、試作品をつくりたい場合にはつくれる環境が整っています。実証を行いたい場合も、社内の空気環境に関わる設備を使用できます。

加えて、レンジフード開発で培った高い金属加工技術から生まれた『Demold(ディモールド)』というブランドも有していますから、そのチームと連携してより高品質で快適な空間を提案していくこともできるでしょう。

▲『Demold』は少数精鋭/板金のスペシャリストチーム。素材のテクスチャーをそのまま金属に転写する”自在成形”など、高度な技術を誇る。

――本プログラムにかける期待や、パートナー企業に向けたメッセージをお願いします。

富士工業・市川氏: 現時点で存在しないサービスを創り出そうとしているので、来年3月の成果発表会までに具体化できるか分かりませんが、今年度中に何らかの金脈は見つけたいと思っています。そのうえで実証に進み、数年先には金脈を獲得して、パートナー企業とともに当社が認知されている状態を目指したいですね。

富士工業・丸川氏: 私たちは「空気」という分野で新たな事業を創出したいと考えています。それに向けて、汗も涙も一緒に流せるようなパートナーと出会いたいので、少しでも興味をお持ちいただけましたら、ぜひご応募ください。

【SWCC】 電線・ケーブルの老舗が、無線のワイヤレス給電で新しい価値の創造に挑戦

――今年の4月に昭和電線からSWCCへと社名変更し、リブランドされた御社ですが、現在、どのような事業を展開されているのでしょうか。

SWCC・広長氏: 当社の事業は3つのセグメントに分かれています。1つ目は、創業当初から続く基盤事業でもある「エネルギー・インフラ事業」です。この事業では、発電所から家庭までをつなぐ電力ケーブルなどを製造し、生活の根幹となる電力インフラを支えています。

2つ目は「電装・コンポーネンツ事業」で、銅線の加工技術を活かして製品開発を行っています。ディップ・フォーミングという当社独自の技術を有している点が強みで、主に自動車用巻き線を製造。電気自動車(EV)にも貢献することが見込まれている技術です。

3つ目の「通信・産業用デバイス事業」では、通信分野のケーブルを製造しています。LANケーブルや光ファイバーケーブルが当たり前の時代になりましたが、そうしたケーブルを主軸に事業を展開中です。ケーブル以外にも家電・電子機器内のワイヤハーネス、複写機用部品なども取り扱っています。

▲SWCC株式会社 技術開発本部 新領域開発センター 基盤技術開発課 広長隆介 氏

――どのような理由から、本プログラムに参画することになったのでしょうか。

SWCC・森下氏: 私たちは技術開発本部の新領域開発センターに所属しており、新しい領域に進出する方法を見つけることがミッションです。既存事業とは異なる分野に挑戦するため、どうしても自社の力だけでは難しい部分も生じてきます。

そこで、以前よりスタートアップをはじめ外部の方々と連携したいと考えてきました。今回のプログラムは私たちの希望に合致する内容でしたし、長く相模原市に拠点を置く企業としてぜひ挑戦したいと考え、参画を決めました。

▲SWCC株式会社 技術開発本部 兼 新領域開発センター長 森下裕一 氏(工学博士)

――これまで外部との共創に取り組んだ実績はあるのでしょうか。

SWCC・森下氏: 約5年前から新たな分野での共創に取り組んでいます。具体的な事例として、バーチャルリアリティー(VR)の技術を持つスタートアップと協力し、電力事業における施工技術を、人の手を使わずに伝承するシステムを共同開発しました。既存事業を発展させることができたと感じています。

――本プログラムでは、『ワイヤレス給電分野での新しい価値創造』を募集テーマに掲げられ、とくに医療分野への進出を目指しておられます。その理由をお伺いしたいです。

SWCC・森下氏: 当社はインフラ領域で事業を展開していますが、インフラ領域だけではなく新しい領域への進出も検討しています。当社の手がける電力や通信は重要な社会基盤であり、人々の生活には欠かせません。医療も生活に不可欠だという点で共通点があります。そうした重要な分野で当社の技術を活用したいと考え、医療分野への進出を目指すようになりました。

――共創イメージとして3つ挙げていただきましたが、それぞれについてご紹介ください。

SWCC・広長氏: 1つ目が『ワイヤレス給電範囲が広がるような技術やアイデア』です。現在、当社ではワイヤレス給電式の点滴スタンドを開発中ですが、病室のどこに置いても給電できるわけではなく、特定のスポットでのみ給電ができる形になっています。それを、どこでも給電できるような製品に改良していきたいと考えています。

▲ワイヤレス給電式の点滴スタンド

――ワイヤレス給電にはいくつかの方式がありますが、どれを採用しておられるのですか。また、医療現場ならではの留意点などはありますか。

SWCC・広長氏: 開発中の点滴スタンドは、スマートフォンのワイヤレス給電でも用いられている「磁界結合方式」を採用しています。医療現場の留意点は、他の機器に影響を与えてはならない点です。給電に高周波を用いているため、電磁波が漏洩してしまいます。現行方式ではスポット形状ですが、給電範囲を床全体などに拡大すると他の機器に影響を及ぼす可能性があります。加えて、医療機器の種類によっては高出力を要する場合もあります。こうした課題をうまく解決できる技術をお持ちの企業とぜひお会いしたいです。

――2つ目の共創イメージについてはいかがですか。

SWCC・広長氏: 2つ目の『様々なワイヤレス医療機器の開発』に関してですが、点滴スタンド以外にも多様な医療機器にワイヤレス給電を導入していきたいと思っています。そのために、医療機器メーカーや医療機器分野で事業展開されている皆さんと議論をさせていただき、一緒に医療現場のワイヤレス化を実現できればと思います。

――医療現場のどのような場所や場面で、ワイヤレス給電は価値を発揮しそうですか。

SWCC・広長氏: 医療関係者にお話を聞くと、医療機器が複数台設置されている場所のほうが、電線が乱雑で事故のリスクが高まるため、ワイヤレス給電の需要が高そうだと感じます。とくに手術室がその一例で、配線がスパゲッティ状態になっているため危険です。こうした場所をワイヤレス化することで、現場の安全確保につなげていきたいと考えています。

3つ目の『ワイヤレス給電での新たな価値創造』についてですが、医療現場以外の分野でもワイヤレス給電の需要が存在すると思っています。近いところであれば、介護分野なども人手不足が深刻ですから、需要があるかもしれません。色々な分野にワイヤレス給電は応用できるはずなので、私たちの想像しないような領域からのお声がけに期待しています。

――有線のケーブルを主力とする御社にとって無線給電は、既存事業の市場と競合することにはならないのですか。

SWCC・森下氏: 無線機器の手前までは電線が必ず必要となります。手前まではしっかりと有線で構築をして、コンセントの部分を無線にするため、競合することにはならないでしょう。

現状、ワイヤレス給電は電力の少ない情報系の領域から普及が進んでいますが、私たちはもう少し電力の大きな領域にもチャレンジしていこうとしています。その最初のターゲットとして検討しているのが医療分野なのです。

――本プログラムを通して、御社から提供できるリソースやアセットについてお聞かせください。

SWCC・広長氏: まず、既存事業で培ってきた銅などの金属やゴム・プラスチックの部分での素材開発力が挙げられます。また、相模原工場には試作設備が揃っており、アイデアをすぐに試作で検証できるのが強みです。何らかの製品が完成した後には、その性能を評価できる体制も整っています。

さらに、東京女子医科大学と岡山大学病院と共同開発を行っているため、実証フィールドも保有していますし、既存事業の営業網も活用できます。

――最後に、パートナー企業に向けたメッセージをお願いします。

SWCC・広長氏: 当社では今年4月の社名変更に伴い、新たにパーパスが策定されました。そのなかで「いま、あたらしいことを。いつか、あたりまえになることへ。」を掲げています。

私はこれまで技術開発に携わり続けてきましたが、新しいことに挑戦できる環境に身を置けて嬉しいと感じています。いつかは自分の開発したものを世の中に出し「これは自分が携わったものだ」と誇りを持って言えるような未来を目指しているので、ぜひ一緒に新しい価値を生み出しましょう。

SWCC・森下氏: 今回は医療現場のワイヤレス給電という非常に難しい領域に挑戦しようとしています。先ほど性能の評価体制が整っていると申しあげましたが、医療機器の領域は非常に特殊で、当社だけでは難しいと感じる部分もあります。パートナー企業と互いに足りない部分を補いあいながら、この難しいテーマにチャレンジしていきたいと思っているので、ぜひご応募ください。

取材後記

相模原市初となる伴走型オープンイノベーションプログラム『Sagamihara Innovation Gate』では、長い歴史と実績を持つ製造業4社がホスト企業に名乗りをあげた。いずれも独自性の高い技術と、試作開発や性能評価ができる潤沢な設備を持つことが特徴だ。インタビューからは、担当者らの新規事業開発に向けた強い熱意も感じられた。行政主催のプログラムであることから、市職員のサポートも期待できる。少しでも募集テーマに関連するようであれば、ぜひ応募をしてほしい。

※続く後編記事では、残るホスト企業2社(カヤバ(KYB)/大和製罐)へのインタビュー内容を紹介する。

(編集:眞田幸剛、取材・文:林和歌子、撮影:齊木恵太)

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