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経営戦略としての「本社移転」がなぜトレンドに?その背景や代表事例とその効果について解説

経営戦略としての「本社移転」がなぜトレンドに?その背景や代表事例とその効果について解説

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新規事業やオープンイノベーションのプレイヤーやそれらを実践・検討する企業の経営者はTOMORUBAの主な読者層ですが、こうした人々は常に最新トレンドをキャッチしておかなければなりません。そんなビジネスパーソンが知っておきたいトレンドキーワードをサクッと理解できる連載が「5分で知るビジネストレンド」です。キーワードを「雑学」としてではなく、今日から使える「知識」としてお届けしていきます。

今回取り上げるのは「本社移転」です。コロナ禍を経てオフィスのあり方や働き方が大きく変化する中、「本社移転」は単なる拠点変更にとどまらず、企業の成長戦略や地域創生と結びついた重要なキーワードとなっています。企業にとって本社移転は、都市集中からの分散やサテライト戦略、多拠点運用など新たな選択肢となりつつあります。本記事では、本社移転の意義やトレンドとなっている背景、国内事例、今後の展望について解説していきます。

本社移転は経営戦略の一環

本社移転とは、企業の中枢機能を担うオフィスや登記上の所在地を変更することを指します。企業にとって本社は経営意思決定の中心であり、ブランディングや採用戦略にも影響を及ぼす存在です。そのため、本社移転は単なる物理的な移動ではなく、経営戦略の一環と捉える必要があります。

移転には、実質的に経営機能を持つオフィスの移転(実質本社)と、登記上の所在地変更(登記本社)があります。多くの企業はこの両方をセットで行うことが多く、意思決定の迅速化や人材採用、業務効率化、そしてコスト削減などの観点から移転を検討します。

本社移転が注目される背景

近年、本社移転が注目される背景には複数の要因が存在します。PR TIMESが発表した「2025年のビジネストレンド予測」では、「本社移転」がピックアップされており、社会構造や企業文化の変革と結びついた動きとして捉えられています。

参照ページ:2025年のトレンド予想!約33万件プレスリリースの分析結果、急上昇のキーワードとは | PR TIMES MAGAZINE

・分散型オフィスと柔軟な働き方の定着

新型コロナウイルスの影響でテレワークが普及し、従来の一極集中型のオフィス体制に見直しが入りました。これにより、本社機能を都心から郊外や地方へと移転させる動きが加速しました。

NECソリューションイノベータのコラムによれば、テレワークの導入により、従業員の勤務実態を把握することが難しくなり、労働時間の適正管理や業務の進捗状況の可視化が課題となっています。同コラムでは帝国データバンクの調査を引用して、2021年1月から6月の半年間で、首都圏から地方へ本社を移転した企業数が186社と過去10年間で最多となっていることを紹介しています。

また、同社の調査によると、テレワークを導入した企業の多くが、社員のワークライフバランスの向上や通勤時間の削減による生産性の向上を実感しており、今後も柔軟な働き方を継続する意向を示しています。

これらのデータは、分散型オフィスと柔軟な働き方の定着が、企業の生産性向上や従業員満足度の向上に寄与していることを示しています。

参照ページ:コロナ禍で加速する企業の本社移転 その狙いとは? | NECソリューションイノベータ

・コスト構造の見直しと生産性向上

都心のオフィス賃料や維持費の高騰が、企業経営にとって負担になっています。よりコストパフォーマンスの高い場所への移転を図る企業が増えており、特にIT系企業を中心に郊外移転や地方拠点化の動きが見られます。

・人材確保とワークライフバランスの重視

都心部への通勤ストレスや住宅コストの高さを理由に、地方での勤務を希望する人材が増加傾向にあります。本社機能を地方に移すことで、より多様な人材を確保できる環境を整える企業も出てきました。

・政策的後押しと地域連携

企業の本社移転を促進するため、政府は多岐にわたる支援策を展開しています。特に、国土交通省が発行した『リモートワークの活用や本社機能の地方移転に向けた企業向けパンフレット』では、地方創生テレワークの推進や、企業の地方移転に関する相談対応、セミナーの実施などが紹介されています。

また、同資料では、地方への本社機能移転に際して、段階的な移転や試行的な取り組みが有効であるとされています。例えば、一部の機能を先行して移転し、業務運営が可能かを検証した上で、コア機能の移転を進めるといったステップが推奨されています。

さらに、地方移転に伴う従業員の転勤に関しては、希望の確認や丁寧な交渉が重要であると指摘されています。移転の決定はトップダウンで行われることが多いものの、実行に際しては社内の調整を丁寧に行うことが成功の鍵となります。

これらの政策的支援や地域との連携は、企業の本社移転を円滑に進めるための重要な要素となっています。今後も、政府と地域が一体となって、企業の地方移転を支援する取り組みが求められるでしょう。

参照ページ:リモートワークの活用や本社機能の地方移転に向けた企業向けパンフレット

本社移転の国内事例

・パソナグループ

人材サービス大手のパソナグループは、2020年に本社機能の一部を兵庫県・淡路島に移転しました。東京から地方への移転は象徴的な事例として注目を集め、自然環境の中での新しい働き方や、地域と共生するビジネスモデルの実証として評価されています。

参照ページ:淡路プロジェクト | プロジェクトストーリー | パソナの採用情報 | 株式会社パソナ(旧パソナテック)|ITエンジニア・ものづくりエンジニアの求人情報・転職情報

・ルピシア

世界のお茶専門店を展開するルピシアは、2020年に本社を東京都渋谷区から北海道虻田郡ニセコ町へ移転しました。代表の水口博喜氏は、自身もニセコに移住し、自然豊かな環境での新たなビジネス展開を進めています。新社屋は道産カラマツを使用した円形の建物で、オープンなオフィス空間を実現しています。

参照ページ:株式会社ルピシア 本社(本店所在地)移転のご案内

・ジャパネットホールディングス

通信販売大手のジャパネットホールディングスは、2021年に東京の主要機能を福岡市の天神ビジネスセンターに移転しました。移転の背景には、ウィズコロナ時代の新たな働き方の実践、人材採用の強化、地域創生事業の中核拠点としての位置づけがあります。新オフィスでは、フリーアドレス制や多様なコミュニケーションスペースを導入し、社員同士の交流を促進しています。

参照ページ:JAPANET@FUKUOKAプロジェクト始動のご案内 | ジャパネットグループサイト

今後の展望:拠点戦略と都市の再設計

今後、企業は本社を単一の場所に置くのではなく、分散型・ハイブリッド型の拠点運用を進めることが主流になっていくと考えられます。スマートシティとの連携、地方都市の都市機能強化、テクノロジーを活用したバーチャルオフィスなどが実現すれば、「本社」という概念そのものがアップデートされる可能性もあります。

企業にとっての本社移転は、単なる移動ではなく、社会・経済・技術の変化を前提とした構造的な意思決定です。これを機に、自社の働き方や組織体制、地域との関係性を見直す契機とすることが求められます。

編集後記

本社移転は、働き方の多様化や地方創生、コスト構造の変化など、複数の社会的課題と密接に関連する動きです。企業にとっては経営戦略の一部であり、地域にとっては経済活性化の希望ともなり得ます。今後も、柔軟性と持続可能性を備えた拠点戦略が重要になるでしょう。

(TOMORUBA編集部 久野太一)

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