『モーダルシフト』が担う3つの重責。環境問題、人手不足、コスト削減をどうやって実現するのか?
新規事業やオープンイノベーションのプレイヤーやそれらを実践・検討する企業の経営者はTOMORUBAの主な読者層ですが、こうした人々は常に最新トレンドをキャッチしておかなければなりません。そんなビジネスパーソンが知っておきたいトレンドキーワードをサクッと理解できる連載が「5分で知るビジネストレンド」です。キーワードを「雑学」としてではなく、今日から使える「知識」としてお届けしていきます。
今回のテーマは『モーダルシフト』です。モーダルシフトは、輸送分野が抱える環境問題や人材不足、物流コスト削減といった、クリティカルな課題を解決するためのアプローチとして近年注目を集めています。モーダルシフトとはどういったアプローチで、どんなメリットがあり、乗り越えるべきハードルがどう存在しているのでしょうか。解説していきます。
モーダルシフトとは輸送手段をトラックから鉄道や船舶に切り替えるアプローチ
モーダルシフトは、輸送手段をトラックなどから鉄道や船舶などに切り替えて、輸送分野におけるさまざまな課題を解決しようとするアプローチです。
出典:国土交通省
特に注目されている点は、環境問題への対応として、モーダルシフトが二酸化炭素排出量を削減し、地球温暖化の防止に貢献することです。トラックに比べて鉄道や船舶は一度に多くの貨物を輸送でき、燃料効率が高いため、排出量の削減が期待されます。
次に、物流業界における人手不足の解消にも寄与します。国内ではトラック運転手の不足は深刻な問題であり、効率的な輸送手段への切り替えにより、労働力の負担を軽減することが可能です。
さらに、物流のコスト削減にも繋がります。燃料消費の効率化はもちろんですが、トラックドライバーには連続運転時間や平均運転時間など、運転時間に関する規制が多くあるため、長距離輸送にはドライバーが2人以上必要なケースが多くコストを圧迫しています。モーダルシフトが実現することで、全体的な物流コストの削減を図ることができるのです。
これらの観点から、モーダルシフトは単に輸送手段の変更ではなく、経済、環境、社会全体に対してポジティブな影響を与える重要な取り組みとして位置づけられています。
モーダルシフトの変遷と、喫緊の課題である「2024年問題」
モーダルシフトの概念は1981年の運輸政策審議会の答申において、省エネ対策の文脈で初めて登場したとされています。その後、1990年12月の運輸政策審議会物流部会で物流業の労働力不足対策としてモーダルシフトの推進が提言されています。そして1997年に政府は温暖化対策として、2010年までにモーダルシフト化率を40%から50%に引き上げる方針を決定しています。
このようにモーダルシフトは、80年代から90年代初頭までは労働力不足への対策として、90年代中頃以降は温暖化対策として、推進されてきた経緯があります。
近年では、物流業界は2024年4月からトラックドライバーの時間外労働時間の上限規制が設けられることにより、人手不足の加速と、一度の輸送でより多くのドライバーの人件費が必要になるコスト増が避けられない状況になっています。これはいわゆる物流業界の「2024年問題」として社会問題となっており、早急に対策が必要な課題と言えます。
上図のように、時間外労働の上限規制は他業種ではすでに適応されていましたが、人手不足とEC市場の急拡大による業務量の圧迫などの観点から、自動車運転業務だけ上限規制が後回しにされてきた経緯があります。
このことから、モーダルシフトの推進は2024年問題の解決策にも寄与する期待がかかっています。
関連記事:物流の2024年問題とは?人手不足とECの急成長で物流企業とトラックドライバーが受けるリスクとその対策
モーダルシフトの市場規模は2030年に1.2超に。大企業を中心にビジネスにも影響
モーダルシフトは今後、急速に成長していく見込みです。KPMGが行った試算によると、2030年には物流DX(物流におけるワイヤレスネットワーク・IoT、ロボティクスオートメーション、ロボティクスファシリティ、ラストワンマイル配送ロボットオペレーションなどを含む)の国内市場規模が約1.2兆円に達すると予測されています。
市場規模の年間平均成長率は2022年から2030年の期間で15%となっており、この成長の背景として、レポートでは物流DXが加速することによる「従来からの取組みである物流のモーダルシフトや輸送手段のシェアリングなどによる輸送の最適化が拡大」すると要因を分析しています。
物流DXが加速することで、新たなビジネスの誕生にも影響があると考えられており、実際、モーダルシフトを導入する企業が増加しています。
モーダルシフト推進をミッションとしている業界団体のグリーン物流パートナーシップ会議は2022年度に、経済産業省からのべ32社が、国土交通省からのべ41社が、優良事業者として表彰しています。2019年度は優良事業者が7社だったことを考えると、大企業を中心に広くモーダルシフトの普及が進んでいることがわかります。
具体的に企業がどのようなモーダルシフトを通じてどのようなビジネスを展開しているのか、事例を紹介します。
【日本郵便×佐川×東京九州フェリー】関東〜九州間の幹線共同輸送を開始
東京九州フェリー、日本郵政、佐川急便の3社は2022年8月より、関東〜九州間の幹線共同輸送を開始しています。
もともと東京九州フェリーと佐川急便は2021年7月から関東〜9週間の長距離幹線輸送の一部を横須賀〜新門司航路の海上輸送に切り替えるモーダルシフトを導入していましたが、このスキームに日本郵政も参画し、さらなる輸送の効率化とCO2排出量の削減を目指しています。
参照ページ:日本郵便と佐川急便が東京九州フェリーを活用した幹線共同輸送を開始 | PRTIMES
【ヤマト×JAL】2024年から長距離輸送に貨物専用機の運航を開始
ヤマトHDと日本航空は、持続的で強靭な物流ネットワークの構築に向けて、首都圏から北海道、九州、沖縄地域への長距離輸送に貨物専用機(フレイター)の運航を2024年4月から開始する予定です。
この取り組みは環境への配慮に加え、2024年問題への対応、さらに自然災害によるリスクへの対応強化など、複数の課題に対処する目的を持っています。
参照ページ:持続的な物流ネットワークの構築に向けてフレイターの運航を2024年4月から開始
編集後記
モーダルシフトは環境への配慮、人手不足、コスト削減という待ったなしの大きな課題を解決する策として注目を集めています。特に物流業界の2024年問題はすぐそこまで迫っている問題ですから、モーダルシフトの取り組みは単に物流手段の変更に留まらず、社会全体の持続可能性を高める重要なステップとなっています。
(TOMORUBA編集部 久野太一)
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