【ビジネストレンドまとめ】話題となった「社会課題」トレンド6選
新規事業やオープンイノベーションのプレイヤーやそれらを実践・検討する企業の経営者はTOMORUBAの主な読者層ですが、こうした人々は常に最新トレンドをキャッチしておかなければなりません。そんなビジネスパーソンが知っておきたいトレンドキーワードをサクッと理解できる連載が「5分で知るビジネストレンド」です。キーワードを「雑学」としてではなく、今日から使える「知識」としてお届けしていきます。
本連載開始から1年経ちました。そこで今回は、過去に登場したビジネストレンドの中から「社会課題」をテーマにしたものをピックアップしてまとめて紹介します。この1年の社会課題のトレンドを一気におさらいしていきましょう。
SDGsやCSRとも異なる「ESG投資」
ESG投資とは、Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス)の3つの観点から投資先を選別する投資手法です。リーマンショックなどの反省から、短期的な利益を追求せずESGの観点を投資プロセスに組み入れるべく、「PRI(国連責任投資原則)」というコンセンサスが2006年に国連で提唱されました。PRIに賛同した投資機関は、遵守状況を開示・報告する義務が発生します。
似たような言葉としてSDGsやCSRがありますが、SDGsは「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略で、国連で採択された2030年までのアジェンダです。CSRは「Corporate Social Responsibility(企業の社会的責任)」の略で、言葉の通り企業が担う責任のことです。ESG投資、SDGs、CSRはそれぞれ密接に関わっていますが、全く別の意味を持っています。
参照記事:世界的なトレンドとなっている「ESG投資」が、スタートアップにとってチャンスである理由
国内ではプラゴミが6トン流出し、漂着ゴミは30万トンを超える「マイクロスラスチック」問題
マイクロプラスチック問題とは、主に海洋中のプラスチックゴミによって発生する問題のことを指しています。環境省の発表している資料「海洋プラスチック問題について」を見ると、想定される被害は4点挙げられています。
1.生態系を含めた海洋環境への影響
2.船舶航行への障害
3.観光・漁業への影響
4.沿岸域居住環境への影響
同資料に掲載された国別のプラスチックゴミ発生量ランキング(2010年推計)によると、日本では年間6万トンのプラごみが発生しています。また、国内に漂着する海洋ゴミの量は年間31万〜58万トン(平成25年度データ)に及びます。
この問題を解決するアプローチは「流出プラごみの減少」「代替素材開発」「プラごみの回収」の3つです。環境省では、企業のマイクロプラスチック対策の良い事例を「グッド・プラクティス集」として公開しています。
参照記事:課題山積のマイクロプラスチック。成功事例から読みとくスタートアップの勝ち筋は
子供が家族の介護をサポートする「ヤングケアラー」
ヤングケアラーという言葉には法令上の定義はありませんが、日本ケアラー連盟は「家事や家族の世話、介護、感情面のサポートなどを行っている、18歳未満の子どものこと」と表現しています。要するにヤングケアラーとは、本来は大人が担うべきケアの責任を子供が引き受けている状態を指しています。
ヤングケアラーが社会課題となっている要因はいくつかありますが、「欠席・学力低下など学校生活への影響」「進路・就職のサポートが必要」といった点が特に問題視されています。
参照記事:子供が家族の介護をサポートする「ヤングケアラー」の実態と、その問題とは?
若年層を中心に消費者の行動を変容させる「エシカル消費」「サステナブル消費」
「エシカル消費」は一般的に地球や社会にとって倫理的な消費として語られることが多く、同様にサステナブル消費は「地球にとって持続可能な消費」という文脈で多くの場合語られます。
企業がエシカルやサステナブルなサービスや商品を展開することで、その影響が消費者に波及し、消費者にとってサービスや商品を選ぶ際に「エシカル・サステナブルであるか」が新たな基準となりつつあります。
ただ、エシカル・サステナブル消費についての調査を見ると、環境問題に興味関心があるのは若年層が中心で、「環境価格プレミアムを受容する」と回答した人は2~3割程度となっています。
参照記事:若年層は先進層と無関心層が二極化!エシカル消費・サステナブル消費のリアルとは
コロナ以前を上回る「リベンジ消費」の見通しは
リベンジ消費(報復性消費)とは、非常時において抑制された消費(強制貯蓄)が、正常化と共に一気に取り崩されて消費が爆発的に回復することを意味します。つまり、コロナ禍が収束し、withコロナ / afterコロナへ向かいつつある昨今でも、リベンジ消費に対する期待が高まっています。
2021〜2022年の年末年始の消費を分析した調査では、「リベンジ消費をしようとする消費者は1割程度」にとどまっており、「正常化の過渡期」という評価になっています。
分野ごとに見てみると、「飲酒代」「宿泊料」などでリベンジ消費の傾向が見られる結果となりました。
参照記事:withコロナに「リベンジ消費」は訪れるか?消費者の“意向”と実際の“動向”からわかること
社会にとってどのような存在価値があるかを示す「パーパス」
パーパス(Purpose)とは「目的」「存在価値」といった意味がありますが、ここ数年では「企業が社会にとってどのような存在価値があるか」を示すことをパーパス(経営)と呼び、新たな概念として注目を浴びています。
企業の「目的」については長年議論されており、かつては「株主至上主義」と「経営主義」の二項対立だったところに、近年「CSR」「ESG投資」「SDGs」といった概念も加味されるようになっています。
2021年には、ドイツ銀行の研究でCSRやESGで高い評価を受けた企業は市場平均を上回る成績を残しているとの結果が出たことから、企業がパーパスを策定する動きが広まっています。
参照記事:「パーパス」とはなぜ注目されるのか?誰のためのものか?5分でわかる基礎知識
【編集後記】大きな枠組みを変革して持続可能性を追求
今回ピックアップした6つのビジネストレンドのうち、「ESG投資」「エシカル・サステナブル消費」「パーパス」の3つは大きな枠組みとして企業の行動を変革する仕組みです。こうした大きな仕組みが機能することで、「マイクロプラスチック」「ヤングケアラー」「リベンジ消費」といった喫緊の課題を解決する糸口になってくれるはずです。
(TOMORUBA編集部 久野太一)
■連載一覧
第1回:なぜ価格が高騰し話題となったのか?5分でわかる「NFT」
第2回:話題の「ノーコード」はなぜ、スタートアップや新規事業担当者にとって有力な手段となるのか?
第3回:世界的なトレンドとなっている「ESG投資」が、スタートアップにとってチャンスである理由
第4回:課題山積のマイクロプラスチック。成功事例から読みとくスタートアップの勝ち筋は
第5回:電力自由化でいまだに新規参入が増えるのはなぜ?スタートアップにとってのチャンスとは
第6回:「46%削減」修正で話題の脱炭素。46%という目標が生まれた経緯と、潜むビジネスチャンスとは
第7回:小売大手がこぞって舵を切る店舗決済の省人化。「無人レジ」の社会実装はいつ来るか?
第8回:実は歴史の深い「地域通貨」が、挑戦と反省を経て花ひらこうとしているワケ
第9回:音声配信ビジネスが日本でもブレイクする予兆。世界の動向から見える耳の争奪戦
第10回:FIREブームはなぜ始まった?「利回り4%」「生活費の25倍の元本」など、出回るノウハウと実現可能性は
第11回:若年層は先進層と無関心層が二極化!エシカル消費・サステナブル消費のリアルとは
第12回:「ワーケーション」は全ての在宅勤務社員がターゲットに!5年で5倍に成長する急成長市場の実態
第13回:なぜいま「Z世代」が流行語に?Z世代の基礎知識とブレイクしたきっかけを分析
第14回:量子コンピュータの用途は?「スパコン超え報道」の読み解き方はなど基礎知識を解説
第15回:市場規模1兆ドルも射程の『メタバース』で何が起こる?すでに始まっている仮想空間での経済活動とは
第16回:『TikTok売れ』はなぜ起こった?ビジネスパーソンが知っておきたい国内のTikTok事情
第17回:パンデミックが追い風に。マルチハビテーションが新しいライフスタイルと地方の課題解決を実現できる理由
第18回:Web3(Web3.0)とは何なのか?Web1.0とWeb2.0の振り返り&話題が爆発したきっかけを解説
第19回:フェムテックで先行する欧米と追従する日本。市場が活気づいている背景とは?
第20回:withコロナに「リベンジ消費」は訪れるか?消費者の“意向”と実際の“動向”からわかること
第21回:子供が家族の介護をサポートする「ヤングケアラー」の実態と、その問題とは?
第22回:半導体不足はなぜ起きた?米中貿易摩擦、巣ごもり需要、台湾への依存などを解説
第23回:【ビジネストレンドまとめ】注目を集めた5つの事業ドメインとは?
第24回:長引くコロナ禍で顕著になる“K字経済”とは?格差が拡大する「ヒト」と「企業」
第25回:「パーパス」とはなぜ注目されるのか?誰のためのものか?5分でわかる基礎知識
第26回:NFT・メタバース・Web3はどう違う?注目を集める「新しいエコシステム」5選
第27回:サステナブルのさらに先いく「リジェネラティブ」とは?実践企業や背景を解説