「ワーケーション」は全ての在宅勤務社員がターゲットに!5年で5倍に成長する急成長市場の実態
新規事業やオープンイノベーションのプレイヤーやそれらを実践・検討する企業の経営者はTOMORUBAの主な読者層ですが、こうした人々は常に最新トレンドをキャッチしておかなければなりません。そんなビジネスパーソンが知っておきたいトレンドキーワードをサクッと理解できる連載が「5分で知るビジネストレンド」です。キーワードを「雑学」としてではなく、今日から使える「知識」としてお届けしていきます。
今回はコロナ禍で一気に需要が顕在化したワーケーションを特集します。多くの人にとっては「あこがれの働き方」にすぎないワーケーションですが、潮流が変わっており数年のうちに自分ごとになるかもしれません。福利厚生や人事制度などの担当者にとっても注目のトピックではないでしょうか。
ノマドワーカーだけでなく在宅勤務社員の選択肢に
ワーケーションとはワーク(Work)とバケーション(Vacation)を組み合わせた造語です。場所を選ばずに働くことを指していますが、こうした働き方はこれまで、コワーキングスペースや喫茶店などで働くいわゆるノマドワーカーに限定された小さい市場でした。
しかし、コロナ禍で従業員が出勤できなくなる企業が増え、在宅勤務やテレワークの需要が一気に顕在化しました。そのためテレワークをしている従業員が宿泊施設やコワーキングスペースを利用するケースが急増し、ワーケーションは注目を集める市場となった経緯があります。
2020年は699億円、市場規模は5年で5倍になる予測
矢野経済研究所のレポートによると、ワーケーション市場は2020年には699億円、2025年の市場規模は3622億円、2020年から2025年までの5年の平均成長率は40%と予測しています。
出典:ワーケーション市場に関する調査を実施(2020年) | 市場調査とマーケティングの矢野経済研究所
ワーケーションのインパクトの内訳は、宿泊施設などのサービス利用、それにともなう飲食店などのインパクト、企業の研修、そして各省庁の国家予算が含まれています。
ワーケーションで注目を集める企業・自治体・取り組み
ここからはワーケーションの波を巧みにキャッチして注目を集めている企業・自治体・取り組みを紹介していきます。
まず、ワーケーションを語る上で外せないのはADDressとHafHではないでしょうか。両者とも国内に複数のコリビング(コワーキングスペースと宿泊施設がセットになった施設)拠点を運営しており、月額利用料を支払うことで利用し放題となるサブスクプランが人気です。
仕事をすることを前提に施設が作られているため、ワーケーション需要とフィットし、プレゼンスを高めています。ADDressもHafHも共創を取り入れた戦略を得意としており、例えばADDressはANAと提携し、HafHはPeachと提携、オプションとして格安で飛行機を利用できるプランを導入しています。
参照記事:ANA×ADDress|航空券サブスクリプションの実証実験を開始、多拠点生活推進により地域活性化を目指す
参照記事:「HafH」を提供するKabuK Style×Peach | 業務提携により、Peach国内線全路線1ヵ月間乗り放題の共同キャンペーン
ワーケーションに注力している自治体も多くあります。先駆けてワーケーションの招致に取り組んできた和歌山県は、数多くの共創・提携を実現しています。和歌山県はワーケーションプロジェクト「Wakayama Workation Project(WWP)」を立ち上げて、ウェブサイトにワークプレイス、宿泊施設、アクティビティ、コーディネートといった情報を集約してネットワークを構築しています。さらに、ワーケーションを推進する企業と提携することで関係人口の増加にもつなげています。
参照ページ:Wakayama Workation Project | WWP | 和歌山ワーケーションプロジェクト
また、企業のワーケーション事業の場を自治体が提供する共創型の事例も出てきています。LIFULLグループは不動産・住宅に関する知見をもとに、「LIFULL地域創生ファンド」による投資事業、国土交通省の採択事業でもある「LIFULL HOME'S空き家バンク」の運営を行っています。そこに空き家や遊休資産といった課題を抱える下田市が事業展開の場を提供すべく地域活性化連携協定を締結しています。
参照記事:下田市×LIFULL | 空き家等の利活用を通じた地域活性化連携協定を締結
【編集後記】企業は在宅勤務制度をさらにブラッシュアップする必要がある
コロナ禍で在宅勤務を導入した企業は急増したでしょうが、在宅勤務中の社員が本当に在宅しているのかは把握できていないのではないでしょうか。「仕事に支障はないから旅行先から仕事をしよう」と社員が独断でワーケーションをしてしまうと、在宅勤務の制度だけでは不備が出てきそうです。
ワーケーションが多くの会社で有効であることはわかってきているので、「在宅勤務制度」とは別に「ワーケーション制度」も整備しておくことが、人事担当者には求められていきそうです。
(TOMORUBA編集部 久野太一)
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