5年で市場規模が10倍に。コロナ禍で注目が集まる【AI×接客】の共創事例
多くのビジネスパーソンが注目するAIビジネスですが、AIには多用に細分化された用途があります。ですから「どの領域のAI活用がアツいか?」に注目するのが正しいビジネス洞察眼と言えるでしょう。TOMORUBAの連載「Break Down AI」では、期待される【AI×○○】の実態に迫り、どのような共創が行われているかに迫ります。
今回フォーカスするのは「接客」です。現在、コロナ禍の影響もあり、接客のあり方にもニューノーマルが求められています。接客は顧客体験を向上させるための手段ですが、接客の内容を細分化していくと、人が担うべき接客と、AIでもできる接客に分けられます。より本質的な接客を追い求めた結果、AI接客は実用化に耐えうるクオリティにまで発達しました。先進的なAI×接客の共創事例を紹介していきます。
5年で10倍の成長が見込まれるAIチャットボット市場
AI接客に活用される技術として、「AIチャットボット」が挙げられます。ウェブサービスのFAQなどで導入されているのを見かけた人も多いはずです。AIチャットボットは日々、技術的に進歩していますが、それ以上に市場規模の急成長が目覚ましい分野です。まさに市場が形成されている最中と言えるでしょう。
矢野経済研究所の調査では、対話型AIシステムの市場規模は2017年が11億円なのに対して、2022年の予測は132億円となっており、なんと5年で10倍以上の伸び率です。
※出典:矢野経済研究所/対話型AIシステム市場に関する調査を実施(2018年)
この流れに加えて、コロナ禍の影響で非接触による接客が増加する可能性が高くなっています。
AI×接客の共創事例
ここからはAI×接客を実践している企業の共創事例を紹介していきます。
【JAL×パナソニック】アバター式リモート案内サービスの共同実証実験を開始
JALとパナソニックは2020年9月、非接触・非対面でも高品質な接客を実現するため、パナソニックが提供するアバター式リモート案内サービス(AIチャットボット)を用いた共同実証実験を開始すると発表しました。なお、この取り組みは2018年にJALがオープンイノベーションの拠点として開設した「JAL Innovation Lab」発のプロジェクトとなっています。
実証実験のフィールドは羽田空港第1旅客ターミナルビル内JAL国内線搭乗口の一部で、導入されるデバイスは4台。JALではこの取り組みにおいて空港での安全・安心な環境づくりを強化し、安心してご利用いただけるサービスの実現を目指しています。同時に、社員の働き方の選択肢を増やすことによる持続可能な職場環境も構築中とのことです。
関連記事:JAL×パナソニック | アバター式リモート案内サービスの共同実証実験を開始
【EGGS 'N THINGS×ウェルヴィル】飲食業界のDXを実現する“Customer Along Service”の構想にAIアバターレジ導入
ハワイアンカジュアルレストラン「Eggs'n Things」などを展開するエッグスンシングスは2020年7月、Withコロナ時代の飲食業界におけるDXとして、“Customer Along Service”の構想を発表し、構想内でウェルヴィルと共同開発したAIアバターレジを導入することが明らかになっています。
“Customer Along Service”構想は大きく4つのソリューションで構成されています。
1.オンラインで完結する事前注文システム
2.入店後にQRコードで注文・決済するテーブルオーダーシステム
3.顧客にコイン型デバイスを渡すことで座席を把握するトラッキングシステム
4.モニターに映るアバターと会話することで注文できるAIアバターレジ
4つ目のAIアバターレジはウェルヴィルと共同開発した対話エンジンを搭載しており、モニターのAIアバターと会話をすることで、注文ができます。また、店舗スタッフとAIアバターが会話することで店舗ごとに異なる対応を学習させることも可能です。将来的にはスーパーの無人レジのように、自動支払い機能も搭載する予定とのこと。
関連記事:EGGS 'N THINGS JAPAN| 飲食業界のDXを実現する“Customer Along Service”の構想を発表
【空色】WEB接客やAIチャットBOTソリューションを提供する「空色」総額約6.5億円の資金調達を実施
WEB接客ソリューションやAIチャットボットを提供する空色は2019年8月、既存株主に加えてWiL, LLC、NTTドコモ・ベンチャーズ、S5(エスファイブ)1号投資事業有限責任組合、みずほキャピタル株式会社、三菱UFJキャピタル株式会社を引受先とした第三者割当増資により総額約6.5億円の資金調達を決定したことを発表しています。
空色は接客人員不足の課題解決をミッションとし、2013年の設立以来、小売業界を中心にAIと人を組み合わせたソリューションの開発を通じて、リアル店舗で実現されてきた接客体験をデジタル上においても再現することを目指しています。
この資金調達によって、今後は人材採用および事業投資を強化することで、2020年度末をめどに累計導入企業数500社を目指していくとのことです。
関連記事:WEB接客やAIチャットBOTソリューションを提供する「空色」、総額約6.5億円の資金調達を実施
【HIS×Zeals】無人接客と有人接客をシームレスにつなぐ、新たなデジタル接客空間の提供を開始
HISは2020年10月、Zealsの「接客DX(デジタルトランスフォーメーション)」を、旅行予約サイトのスマートフォン版に導入すると発表しました。WEBサイトからはAIチャットボットが接客対応する他、有人チャットや有人ビデオ接客にも対応。デジタル空間での接客体験を遠隔でもきめ細やかに対応できる体制を整備していくとのこと。
これまでのAIチャットボットはユーザーの質問にAIが対話しながら、旅行の質問に答えたり、予約につなげたりすることができますが、その一方で個々のきめ細やかな相談に対応するには不向きな側面もありました。
今回、HISが導入する「接客DX」は、このチャット機能に有人対応をシームレスに対応させることで、チャットでの会話で得られたデータをもとに、パーソナライズ化したコンテンツを配信し、より深くコミュニケーションを図ることを可能にするとのことです。
旅行を検討している顧客はWEBサイトに訪れることで、まずAIチャットボットによるヒアリングの接客を受けます。次に、より深い悩み解決・不安払拭を担う有人チャットが対応。さらに、対面での接客が必要であればビデオ通話での接客をシームレスに受けることができるようになります。
接客DXを通じて、顧客がより効率的かつパーソナライズされたオペレーションを提供することを目指すとのことです。
関連記事:HIS×Zeals | 無人接客と有人接客をシームレスにつなぐ、新たなデジタル接客空間の提供を開始
【編集後記】チャットボットでできること、チャットボットにして欲しいこと
事例を見ているとわかるように、AIができる接客の幅がどんどん広がっています。だからといって、チャットボットができることを全てチャットボットに任せてしまっては、顧客の体験を損ねてしまう可能性もあります。
オンラインでのチャットボット対応を経験したことがある人は多いと思いますが、自分の悩みをチャットボットが解決できない場合、さっさと人間のオペレーターと通話したくな理ますよね。それでもなかなかオペレーターにアクセスできないと、むしろチャットボットの接客が顧客体験を損ねることになります。
このように、AIが「できること」が増えると、サービス提供者が「どこまでAIに対応させるか」の線引きが難しくなります。急成長するAI×接客の分野ですが、UXファーストで発展して欲しいですね。