少子化でも力強く成長を続ける“子育Tech”【AI×子育て・見守り】の共創事例
多くのビジネスパーソンが注目するAIビジネスですが、AIには多用に細分化された用途があります。ですから「どの領域のAI活用がアツいか?」に注目するのが正しいビジネス洞察眼と言えるでしょう。TOMORUBAの連載「Break Down AI」では、期待される【AI×○○】の実態を深堀りし、どのような共創が行われているかに迫ります。
今回は、子育てや見守りにまつわる領域でのAI活用にフォーカスします。子育てのあり方は多様性を広げていて、「子育てはこうするべき」という固定概念は少しずつですが無くなっているようです。子育てにテクノロジーを活用することで、子育て世代やその周辺の事業者にどのようなメリットがあるのでしょうか。
少子化でも子育て市場は力強く成長。“子育Tech”にも注目集まる
日本は長きにわたって少子化傾向が続いていますが、その動きと反比例するように子育て市場は近年、力強く成長しています。矢野経済研究所が2020年3月に公開した「国内のベビー用品・関連サービス市場調査」では、2019年の市場規模は前年比4.5%増の4兆1,210億円と推計しています。
出典:ベビー用品・関連サービス市場に関する調査を実施(2019年) | 市場調査とマーケティングの矢野経済研究所
また、子育て関連事業にテクノロジーを活用する「子育Tech(こそだテック)」という分野も誕生しており、さまざまなプレイヤーが参入して盛り上がりを見せています。
出典:「子育Techサービスカオスマップ2020年版」を公開ーー子育Tech委員会
AI×子育て・見守りの共創事例
ここからは子育て・見守り関連事業でAIを活用している事例を紹介します。
【ひろしまサンドボックス×アイグラン】「午睡センサー」導入でスマート保育を推進
「イノベーション立県」をかかげる広島県が施策の柱として運営している実証プロジェクト「ひろしまサンドボックス」は、保育園を運営するアイグランが代表を務めるスマート保育のコンソーシアムとともに実証実験をスタートしています。
このコンソーシアムはアイグランの他に、ユニファ、ヘルスケアマネジメント協会、パシオンと、いずれも育児Tech事業を展開する組織で形成されています。コンソーシアムはひろしまサンドボックスとの実証実験で、保育士が抱える大切な命をあずかることへの不安感やストレスがきっかけとなる離職率の高さを課題としています。
この課題を解決すべく、保育の現場で「午睡センサー」を導入し睡眠中の体の向きや呼吸の状態を自動的に記録し、呼吸停止など異常があればタブレットで警告するという仕組みを取り入れました。広島県内の25の保育園に午睡センサーを合計100程度導入し、導入前後の離職率を比較すると、導入後の方が減少しているという結果を得ています。
参考記事:保育現場のスマート化で保育士を支え、「待機児童問題」に挑むプロジェクト―「ひろしまサンドボックス」を軸に産学官による9つの実証実験を随時公開中
【ビースポーク×城ヶ倉観光】保育施設の省人化を実現する「子育て支援チャットボット」の実証実験
ビースポークは、2021年1月より、AIが学習支援を行うサービス「子育て支援チャットボット」を、城ヶ倉観光が運営する企業主導型保育事業所ひまわりにて導入・実証実験を開始しています。
実証実験では、①園児に利用されるかどうか、利用される場合、実際の利用傾向はどのようなものか、②実際に学習支援に役に立ちそうかの2点を検証します。
両社は引き続き、時間が足りない共働き家庭・ひとり親家庭ならびに深刻な保育士不足に直面している保育施設においてチャットボットを活用したこども向け学習支援を提供することで、日本の教育レベルの向上に貢献していくとのことです。
参考ページ:AIチャットボット「Bebot」に子育て支援機能が追加。青森県企業主導型保育事業所ひまわりにて実証実験開始
【エボラニ×オンライン子育てひろば】イベント・予約管理を自動化し従業員の残業ゼロを目指すチャットボット活用
ミニアプリやチャットボット、電話IVR(自動音声応答)などの自動接客ツール「anybot(エニーボット)」を運営するエボラニは2021年2月、オンライン子育てひろば協会が運営するオンラインサロンへサービスを導入しています。
乳幼児子育て中のママ向けのオンライン型の子育て支援サービス「ママこぺる」は、子育て中の親子が気軽に集い、相互交流や子育ての不安・悩みを相談できる場を提供しており、当初は別の予約システムサービスを使って予約管理を行っていました。
これらの対応のためにスタッフ2名体制で1日6時間チャット対応を人力で行っていたところ、エニーボットを導入することで、対応時間を2時間以下に圧縮することに成功しています。
参考ページ:チャットボットで働き方改革、お客様のイベント・予約管理を自動化し従業員の残業をゼロに
【ミックナイン×Alerteenz×ジャコーレ】子供をサイバー犯罪から守る「子供見守りアプリBosco」の日本展開する新会社設立
WEBシステムの企画・開発やソフトウェアの販売等を手掛けるミックナインは2021年5月、イスラエルのシステム開発会社 Alerteenz Ltd.とジャコーレと共同で合弁会社となりケアリングを設立しました。
Alerteenzが開発したスマートフォン向けアプリ「子供見守りアプリBosco」は、AIを活用しデジタルと実生活の両面での子供の心理状態を解読し、サイバー犯罪が起きるのを未然に予測することの出来る技術です。声のトーンやスマートフォン画面を検知しながら心理状態を学習する独自のAI技術が、子供のプライバシーを侵害する事なく保護者に潜在的な危険を教えることができます。
設立された新会社ではBoscoを日本国内における独占販売権を獲得しています。今後はシニアに向けた見守りアプリの構築も計画しているとのこと。
参考ページ:イスラエル発AI技術を用いた「子供見守りアプリBosco」の日本展開!ミックナイン、Alerteenz、ジャコーレが共同でケアリング株式会社を設立!
【編集後記】子育て・見守りをより安全に、さらに人手不足を解消
「子育て・見守りをより安全にする」というのは永遠のテーマです。テクノロジーの発達によって精度が上がっていけば少子化にも貢献するはずです。さらに、子育て・見守りの現場には人手不足が蔓延っています。
人手不足の象徴として、保育士の資格を持っているけど保育の仕事に就いていない「潜在保育士」が95万人にも及ぶと言われています。AIで保育・見守りを省人化することも有効ですが、潜在保育士が現場に復帰するための道筋を作ることもテクノロジーが一役になえるかもしれません。いずれにせよ、子育て・見守りは課題は多くそして課題が尽きることのない分野なのかもしれません。