オープンイノベーションを牽引する存在感を放つ「AI×鉄道会社」の共創事例
多くのビジネスパーソンが注目するAIビジネスですが、AIには多用に細分化された用途があります。ですから「どの領域のAI活用がアツいか?」に注目するのが正しいビジネス洞察眼と言えるでしょう。TOMORUBAの連載「Break Down AI」では、期待される【AI×○○】の実態を深堀りし、どのような共創が行われているかに迫ります。
今回は、鉄道会社がAIを活用して挑戦する共創事例にフォーカスをあてます。言わずもがなですが、鉄道会社は今や「人を運ぶ」ことだけがミッションではありません。まちづくりや小売、飲食まで、人の生活に結びつく課題ならばあらゆる分野で課題解決を模索しています。
こうした背景から、幅広い分野での課題解決に対応する手段として、多くの鉄道会社はオープンイノベーションに注力しています。加えて、人の生活に関するデータが豊富なため、鉄道会社はAIを活用したオープンイノベーションのプレイヤーとしての条件を高い水準で満たしていると言えます。具体的にどのような共創が生まれているのでしょうか。
鉄道各社はアクセラレータプログラムに注力
冒頭でも述べた通り、鉄道各社は豊富なリソースとアセットがあるため、オープンイノベーションのプレイヤーとしての素養は抜群です。現に、各社の動きは早く、そして大胆に展開しています。
特にアクセラレータプログラムは話題に事欠きません。AUBAやTOMORUBAが関わったプログラムだけでも、JR東日本スタートアップの「JR東日本スタートアッププログラム」、東急電鉄の「東急アクセラレートプログラム(TAP)」、東京メトロの「Tokyo Metro ACCELERATOR」、京急電鉄の「KEIKYU ACCELERATOR PROGRAM」などがあります。
すでに数々の有力なプロジェクトが採択され、事業化に向けて動いています。鉄道会社による共創は、オープンイノベーションシーンを牽引するムーブメントのひとつと言えるでしょう。
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AI×鉄道会社の共創事例
アクセラレータプログラムから採択されたプロジェクトをはじめ、ここからはAIを活用している共創事例を紹介します。
【JR東日本×サインポスト】高輪ゲートウェイ駅の無人AI店舗「TOUCH TO GO」
JR東日本グループのCVC であるJR東日本スタートアップとサインポストによる合弁会社、TOUCH TO GOは2020年3月、JR山手線49年ぶりの新駅となる「高輪ゲートウェイ駅」に、無人AI決済店舗「TOUCH TO GO」をオープンしました。
TOUCH TO GOは2017年度の「JR東日本スタートアッププログラム」で採択されたこの事業で、この1号店をモデル店舗と位置づけています。この無人AI決済店舗システムを、人材不足に悩む小売業界にサブスクリプションで販売する計画で、5年で100店舗への導入を視野に、省人化ソリューションとして拡販していく狙いがあります。
関連記事:JR東日本グループの「ビジネス実装力」―共創で生まれた無人AI決済店舗「TOUCH TO GO」 高輪GW駅に開業
【JR東日本×AIトラベル】出張手配・管理サービスのAIトラベルと資本業務提携
もうひとつJR東日本スタートアップから。JR東日本スタートアップと、クラウド出張手配・管理サービス「AI Travel」を運営するAIトラベルは2019年8月、シームレスな移動社会の実現に向けて、資本業務提携しました。
AIトラベルのサービス「AI Travel」は、乗換案内アプリのように出張の要件を入力するだけで、最適なホテルや新幹線、レンタカー等を最低限の手間で予約することができるほか、多くの情報を一元管理することが可能なサービスで、両社の取り組みにより、JR東日本グループの旅行商品やレンタカーサービスと連携できるようになります。
今後は、この提携を通じて、JR東日本グループ内のWEBサービスの連携など、シームレスな移動社会の実現に向けた協業を推進し、出張を含むビジネス旅行の需要を創出していくとのことです。
関連記事:JR東日本スタートアップ、出張手配・管理サービスのAIトラベルと資本業務提携
【近鉄×空】高速バスの運賃設定にAIダイナミックプライシングの「MagicPrice」を導入
ダイナミックプライシングサービス「MagicPrice」を提供する空と近鉄グループのCVCである近鉄ベンチャーパートナーズは2020年5月の運行便より、空の価格戦略サービス「MagicPrice」を近鉄バスの高速バス運賃に試験導入しました。
空は主にホテルや旅館に対して価格設定を効率化するダイナミックプライシングサービスを提供してきましたが、他の事業領域にもサービスを広げるため近鉄グループをパートナーとしています。
今後は、空の需要予測や価格データ分析に関する知見を活用し、AIを用いたダイナミックプライシングや近鉄バスの高速バス運賃最適化やダイナミックプライングの導入も目指していくとのことです。
関連記事:空×近鉄グループ――高速バスの運賃設定にPriceTechを導入。大企業内のハードルをどう乗り越えたか?
【小田急×ノキア】 AIを用いた踏切異常状態検知に関する実証実験
小田急電鉄は2020年2月から3月にかけて、ノキアソリューションズ&ネットワークスが販売している「カメラ映像とAIによる異常状態検知システム」を用いて、踏切内の安全性向上を目的とした実証実験を実施しました。
今回の実証実験では、踏切内における様々な動作を収集し、AIによる分析を行いました。目的は踏切監視カメラの映像を「スペースタイムシーンアナリティクス」を活用して解析することで、踏切内での異常状態の検知をより強化するもの。
実証実験をふまえ、将来的にはAIによる解析結果を用いて、付近を走行する列車を自動で停止させるなど踏切での事故を未然防止できる監視体制の構築を目指します。
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【編集後記】オープンイノベーションのアイコンとなりつつある鉄道各社
共創の現場にいる人や新規事業に携わる人に対して、鉄道会社は大きなプレゼンスを発揮しています。鉄道会社が実証実験で提供するアセットは他分野のプレイヤーでは真似しにくい部分でもありますし、昨今のオープンイノベーション活発化の火付け役としても一役買っているほど、動きも大胆です。
今では大手インフラ事業者が共創に取り組むことは珍しくなくなっているので、鉄道各社は国内のオープンイノベーションを象徴する存在として、日本産業を押し上げる存在となりつつあります。