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モビリティが牽引する「ベルリン」のスタートアップシーン。横浜との共創事例もーー「アジアベルリンサミット2021」レポート

モビリティが牽引する「ベルリン」のスタートアップシーン。横浜との共創事例もーー「アジアベルリンサミット2021」レポート

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1997年からドイツの首都ベルリンで開催されているビジネスイベント「AsiaBerlin Summit」(アジアベルリンサミット:以下同)。アジアとベルリンの最新の技術動向や国境を超えたコラボレーション創出についてディスカッションする場で、両地域の国際的なスタートアップエコシステムの確立を目指す。

10月4日〜10日まで7日間にわたって開催された「アジアベルリンサミット2021」は、政府の支援により参加無料。2020年同様、現地とオンラインのハイブリッド開催となった。同イベントでは、横浜市をはじめ、京都府や山形大学などから日本人ゲストが多数登壇。

世界のスタートアップが取り組むイノベーションの"タネ"を紹介する連載企画【Global Innovation Seeds】第10弾では、「グローバルハブ」を目指すベルリンのスタートアップエコシステム、及びモビリティ分野でベルリンとの共創を目指す横浜市の事例を紹介したい。

180カ国から人材が集まる国際都市「ベルリン」の魅力

ヨーロッパで機能性の高いスタートアップエコシステムというと、パリ、ロンドン、アムステルダム、ベルリン、ストックホルム等の名前があがる。世界40カ国にスタートアップエコシステム戦略をアドバイスする「Startup Genome」のThe Global Startup Ecosystem Report(グローバルスタートアップ・エコシステム・レポート)によれば、シリコンバレーには及ばないものの、ヨーロッパの各都市が毎年上位にランクインしている。2021年には東京が躍進し、9位にランクインしているのも私たちにとって、見逃せないポイントだ。


▲Global Startup Ecosystem Ranking(2017〜2021)の上位国。Startup Genomeの公式HPより

毎年約4万人が移住、180を超える国々から人材が集まる国際都市ベルリン。言語の壁が低く、移民でも住みやすいダイバーシティであり、英語で行われるミートアップなどが盛ん。

行政によるスタートアップ、イノベーション創出支援も手厚い。政府支援のもと、参加費無料で提供されている「アジアベルリンサミット」も、一つの好例だろう。スタートアップへの資金調達支援のほか、創業当初の企業に毎月2,000ユーロ(約26万円)の補助金の支給、コワー キングスペースの無料提供、メンターやパートナー候補の紹介など、幅広い支援がある。

こういった背景が関連してか、2019年にはドイツのスタートアップ全体で合計69億米ドルの投資を受け、過去最高を記録。そのうちの60%に当たる41億米ドルは、ベルリンのスタートアップに投資されている。また、ベルリンのスタートアップの評価額は、2020年〜21年にかけて急上昇、21年はその合計が、4346億ユーロに達している。


▲ベルリンのスタートアップの評価額の推移。ベルリンが運営するポータルサイト「Explore the Berlin Ecosystem」より

German Startups Association(ドイツ連邦スタートアップ協会)の年次調査「スタートアップモニター2020(DSM2020)」によれば、コロナ禍でもベルリンのスタートアップは前向きに対処しているようだ。74.2%のスタートアップが、「新型コロナ危機がビジネスに悪影響を及ぼした」と回答する一方で、調査実施時(2020年5月11日~6月21日)のビジネス環境については、32.3%が「良好」、49.9%が「変化なし」と回答、「悪い」は17.8%にとどまった。

ドイツ連邦政府は2020年4月30日、新型コロナ禍に対応する経済対策の一環として、総額20億ユーロのスタートアップ向けの経済支援策を発表。直接的、あるいは間接的にスタートアップの資金調達をサポートしているそうだ。

世界的に注目されるベルリン発スタートアップ

世界進出を目指すスタートアップにとって、十分なスタートアップエコシステムが存在する国際都市ベルリンは、格好の拠点になりえるだろう。ここでは、どのようなスタートアップが誕生しているのか。日本進出を果たした2社を含む3社を紹介したい。

・e−スクーターで世界を牽引。成長目覚ましい「TIER」


▲ドイツ、フィンランドをはじめ、ヨーロッパ各国で導入されている「TIER」のe−スクーター(筆者撮影)

2020年からフィンランドに長期滞在している筆者にとって、「TIER」(ティア)は非常になじみのある企業のひとつ。というのも、ヘルシンキの街中で同社が開発した電動キックボードを多く見かけるからだ。

2018年にベルリンで創業した同社は、ヨーロッパのe−スクーター(電動キックボード)事業において、大きな存在感を見せる。資金調達の総額は5億8400万ユーロで、社員数は約900人、企業評価額は18億ユーロにのぼる。

強豪は、スウェーデンのvoi、米国のBird、Limeなど。海外メディアでは、2020年11月の資金調達によりLimeを抜き、米国のBirdに次いで世界2位のe−スクーター企業になったと報じられている。同業界において、世界ナンバー1シェアにのぼりつめる可能性もありそうだ。

・環境にやさしい水耕栽培。日本進出も果たした「Infarm」


▲店内でも目を引く「Infarm」の水耕栽培。筆者はデンマーク・コペンハーゲンのスーパーで目撃した(筆者撮影)

2013年に創業した「Infarm」(インファーム)は、グローバルGAP認証を取得した水耕栽培事業を展開。スーパーマーケットなどの店内でハーブや野菜を栽培・収穫し、リアルタイムで販売できる独自技術を提供する。

同社のプレスリリースによれば、この手法は「次世代型屋内垂直農法」と呼ばれ、高効率の垂直農法ユニットと最新のIoT技術、機械学習を組み合わせ、最適な量の光、空気、栄養素を備えるエコシステムを実現するそうだ。各ファーム(畑)は、クラウドベースのプラットフォームに接続され、遠隔でコントロールされている。このプラットフォームは、ハーブ・野菜が常に最良な状態で成長するように、継続的に学習・調整・改善しているとのこと。

すでに世界10ヵ国、30都市に進出しており、2021年1月にはアジア初として、日本に導入。紀ノ国屋インターナショナル(青山店)やサミットストア五反野店などで、店内に設置された「ファーム」で栽培されたハーブ・葉物野菜を販売している。

土壌ベースの農業よりも99.5%減の土地、95%減の水、90%減の輸送距離で、化学農薬を使用せずに、毎月50万本以上のハーブ・野菜を収穫。2021年3月時点で、4,000万リットル以上の水、50,000平方メートルの土地を節減することに成功したそうだ。

・世界40カ国で導入!電気と水を水素に変える「Enapter」


▲「Enapter」は業界で10年の実績があり、独自の低コスト・コンパクトな基盤を提供。同社のプレスキットより。

2017年に創業した「Enapter」(エナプター)は、ベルリンのスタートアップエコシステムから生まれた企業だ。電気と水からグリーン水素をつくり出す、特許取得済みのAEM(陰イオン交換膜)式水電解装置を提供している。グリーン水素は、化石燃料の代替として、さまざまな用途に柔軟に活用できるという。

水素は、化学工業、鉄鋼、輸送、エネルギー貯蔵、研究などの分野で広く利用されており、同社は40カ国の70以上のインテグレーターやプロジェクトデベロッパーに、サービスを提供しているそうだ。日本進出も叶えており、HPは日本語でも閲覧できる。

例えば、フランス初のエネルギー自給型オフィスビル「Deltagreen」では、同社の水電解装置2台を用いて、ピークシェービング(※)用の水素を貯蔵。太陽光、地熱、水素貯蔵によるエネルギーを活用し、エネルギー生成量がユーザー消費量を上回る状態をつくり出している。同ビルは、Green Solutions Awards 2018を受賞した。

※ピークシェービング‥‥電力や石油・天然ガスの供給事業において、季節や時間帯によって高まる需要に応じるための対策。

ベルリン×横浜「モビリティ分野」での共創を目指す

ベルリンは、MaaS実験都市としても注目されており、ベルリン市交通局がMaaSアプリ「Jelbi」を提供しているほか、モビリティ分野のスタートアップへの投資が伸びている傾向がある。欧州最大のモビリティ・イノベーションエコシステム「The Drivery」も存在し、モビリティ分野のメーカー、起業家、関係者などを対象に、月額50ユーロから会員になれる仕組みだ。オフィスとしての空間利用だけでなく、幅広いネットワーキングの機会やコミュニティへのアクセス等も提供する。

現在、130を超えるスタートアップと700人以上のメンバーがおり、中にはホンダの名前も。盛り上がっている業界だけに各社の熱量も高く、さまざまなシナジー効果が生まれるかもしれない。

2021年5月、The Driveryは、横浜市に拠点を置くCROSSBIE JAPAN 株式会社をパートナーとして、日本国内企業とのビジネスマッチングプログラム「The Drivery Japan | Go to Japan⇄Germany Program」を開始。横浜市経済局の協力のもと、6月と8月の2回にわたってキックオフイベントを開催した。まだプログラム参加企業名などは公開されていないようだが、今後の展開に期待したい。


▲アジアベルリンサミットで紹介された、横浜市で展開する「Easy Ride」(プレスリリースより)

アジアベルリンサミットでは、横浜市から数名のゲストが登壇し、同市のモビリティ分野のイノベーションについても発表された。例えば、2018年から横浜みなとみらい地区で実施されている「Easy Ride」は、日産とDeNAが共同で取り組む、無人運転車両を活用した新しい交通サービスだ。

2021年9月〜10月に実施された最新の実証実験では、NTTドコモのAIを活用したオンデマンド交通システム「AI運行バス」を使用して実施。選ばれたユーザーが、アプリ上でバスを予約、乗車ポイントで乗車し、車内の「Goボタン」を押すと、降車ポイントまで自動で車が走行するという内容だ。

今回の実証実験ではセーフティドライバー1名が同乗しており、技術としては自動運転レベル2となる。ただ、日産によれば、レベル4〜5に近い感覚を味わえるとのこと。将来は無人で運行することを想定しており、AIの活用により、リアルタイムに発生する「乗降リクエスト」から、最適な乗り合わせ(乗り合せる組合せ)を判断し、「車両配車+運行の指示」を行うことにより、効率的な移動を実現できるという。


▲横浜市内をめぐる「横浜セグウェイツアー」(プレスリリースより)

また、セグウェイを活用して観光スポットをめぐる「横浜セグウェイツアー」の紹介も。2019年7月から通年での一般向け有料ツアーが開催され、事前のオリエンテーションも含め、約2時間30分のツアーが1名1万円(税込)で提供されている。

観光資源が豊富で、気候変動対策や新規事業の創出にも意欲的な横浜市。ベルリンとの共創の発展にも注目したい。

編集後記

本記事を執筆するにあたり、初めてベルリンのスタートアップシーンを本格的にリサーチしたわけだが、政府の支援体制、情報の露出、スタートアップの将来性、どれをとっても魅力的だった。まず感激したのは、本文でも紹介したベルリンのスタートアップや関連情報がまとまっているプラットフォーム「Explore the Berlin Ecosystem」。驚くほど見やすく、欲しい情報にリーチできる。モビリティ分野の発展も見逃せない。日本進出しているスタートアップの新展開を中心に、引き続きベルリンのスタートアップ、イノベーションを追っていきたい。

(取材・文:小林香織) 

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  • 眞田 幸剛

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世界のスタートアップが取り組むイノベーションのシーズを紹介する連載企画。