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アジア−ドイツの“共創”を加速する「アジアベルリンサミット2021」が開催。スタートアップピッチの優勝者は?

アジア−ドイツの“共創”を加速する「アジアベルリンサミット2021」が開催。スタートアップピッチの優勝者は?

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1997年からドイツの首都ベルリンで開催されているビジネスイベント「AsiaBerlin Summit」(アジアベルリンサミット:以下同)。アジアとベルリンの最新の技術動向や国境を超えたコラボレーション創出についてディスカッションする場で、両地域の国際的なスタートアップエコシステムの確立を目指す。

10月4日〜10日まで7日間にわたって開催された同イベントは、政府の支援により参加無料。デンマークの「TechBBQ」やフィンランドの「Slush」といったスタートアップイベントと比較すると小規模ではあるが、これらは2日間の参加で10万円前後の参加費がかかることを考えると参加しやすいイベントだ。

2021年も昨年同様、現地とオンラインのハイブリッド開催となり、筆者はいくつかのプログラムにオンラインで参加した。世界のスタートアップが取り組むイノベーションの"タネ"を紹介する連載企画【Global Innovation Seeds】第9弾では、6つのスタートアップがプレゼンテーションを繰り広げた「スタートアップピッチ」の様子をレポートする。将来の活躍が期待される彼らのストーリーに、ぜひ触れてみてほしい。


非接触でバイタルサインを測定する「PanopticAI」

トップバッターの香港発「PanopticAI」は、流ちょうな英語で、次世代のヘルスモニタリングサービスについて見応えのあるプレゼンテーションを披露した。現在、日本でも空港や施設等にカメラによる検温が導入されているが、同社の技術はそれを著しく進化させたもので、非接触で複数のバイタルサインを測定できる。


▲カメラを使ったヘルスモニタリングのイメージ。「PanopticAI」のHPより

上記写真のとおり、スマートフォン、パソコン、タブレットのカメラで笑顔を写すことで、「心拍数」「心拍変動」「ストレスレベル」「血圧」「呼吸数」「酸素飽和度」の6つのバイタルサインが測定可能だ。医療グレードのデバイスに匹敵する精度で複数のバイタルサインを検出することができ、一般的なカメラと互換性があるメリットも。パンデミックにより遠隔医療の市場は急拡大しているため、グローバルでの活躍が期待される。

同社は、このサービスを2021年末に発売する予定とのこと。特に遠隔医療プロバイダーと保険業界に焦点を当て、BtoBのSaaSで同社独自のSDKを統合することにより、遠隔でのヘルスモニタリングを実現したいと語った。


▲具体的、かつわかりやすいプレゼンテーションが評価されていたCEOのKyle Wong氏

香港内では高く評価され、空港で同社の検温・発熱検知サービスが活用されているほか、テレビ等のマスコミでも注目を浴びている。2020年に創業したばかりだが、メンバーは同技術を2015年から研究しており、高いポテンシャルが感じられた。

10分でloTシステムを構築する小さなコンピューター「Magicbit」

続いて登場したのは、スリランカ初「Magicbit」。3人のエンジニアによって設立された同社は、誰でも簡単にアプリケーションをつくることができる小さなコンピューターを提供する。エンジニアリングに明るくない人にとっては、「一体何ができるのか?」と思われるかもしれないが、「誰でも10分でIoTシステムを構築できる」という。


▲「Magicbit」が立ち上げたKickstarterのキャンペーンページより

彼らが提供する「Magicbit」は手のひらサイズのコンピューターで、USBケーブルでパソコンに接続して使用する。「Magicblocks」と呼ばれるクラウドベースのIoTプラットフォームと、シームレスに接続して革新的なソリューションを作成できるモバイルアプリを備え、Arduino (C、C++)、Python、Scratch、C# 、Javascriptの言語が使用できる。


▲「Magicbit」のYouTube動画より

この技術を使うことで、例えば、植物に遠隔で水やりをするシステムや手を差し出すと自動で液体が出る「スマートボトル」などが作成できるとか。Kickstarterで行ったクラウドファンディングでは、約370万円を集め、30ヵ国以上に1000人のユーザーがいるそうだ。

子ども向けのプログラミング学習やSTEAM教育のための教材として教育機関にアプローチしており、教員などと一緒に「Magicbit」を使ったアクティブプログラムの開発をしているという。STEAM教育とは、科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)、アート(Art)、数学(Mathematics)の5つの英単語の頭文字を組み合わせた造語で、5つの領域を対象とした理数教育に創造性教育を加えた教育理念だ。

現在、大量生産の準備が整っており、ドイツをはじめとしたヨーロッパでの事業拡大を見込む。

AIが生成した音楽でアスリートを支える「LAIFE」

3番手は、音楽とスポーツをかけ合わせた独自プロダクトを展開するドイツの「LAIFE」。彼らは、ウェアラブル端末などで収集したアスリートのデータを機械学習システムに送り、アスリートが必要としているであろう音楽や精神的な問題を解決するための音楽を瞬時に自動生成する。


▲「LAIFE」の使用イメージ。同社のYouTubeより

朝目覚めてから眠りにいたるところまでの音楽が提供され、各アスリートの現在のコンディションに合わせて、音楽がリアルタイムで進化していくという。例えば、アスリートがランニングを始めると、そのテンポに合わせて速度や音が変化。休憩すると音楽もスローテンポになるといった具合だ。これらの音楽が、アスリートのメンタルに好影響を与えるそうだ。

CEOのBilly Mello氏は「私たちは年間620億ドルの巨大な市場に参入しており、今後5年〜7年の間に、この市場の少なくとも5%を獲得するつもりです。チームは、音楽家、技術者、医師、ウェアラブルの専門家などで構成されており、少数精鋭の意欲的なチームです」と語った。


▲ピッチでは高性能のマイクを活用している点も評価されていた

現在はプロのアスリートのみを対象にしているが、将来的には広くヨーロッパ地域を対象に、アマチュアのアスリートにも提供を拡大したいと意気込みを見せた。

製造業のスマートなエネルギー供給を実現する「Endeema」

設立からわずか4ヵ月だというドイツ発の「Endeema」は、エネルギー需要と再生可能エネルギーの供給を一致させ、CO2とエネルギーコストの削減、安定した生産を実現するソフトウェアをBtoBで提供する。


▲プロダクトのデモ。「Endeema」のYouTubeより

同社のソフトウェアは、エネルギー消費にまつわる広範囲のケーススタディにより、クライアントごとにパーソナライズされた分析を提供する。その結果、「ある企業の生産ラインで使われている10台の機械のうち、15%を再生可能エネルギーにシフトすると良い」といった推奨事項が提示され、それをもとに、一部のエネルギーを再生可能エネルギーにシフトすることで、CO2とコストの削減になるという。

COOのFlorian Stark氏は、「エネルギー供給と価格の予測により、生産がよりスマートに、より環境にやさしく、コスト効率に優れたものになる」と主張した。


▲会場で直接プレゼンテーションしたFlorian Stark氏

同社はEUに焦点を当てており、2450万社あるEU企業のうち、エネルギーを大量に消費する630社を4〜5つのカテゴリーに分け、シフト可能な負荷とプロセスを特定。1150テラワット時のシフト可能なプロセスを持つ企業をターゲットとし、ギガワット時あたり169ユーロの月額ライセンス料を徴収するのがビジネスモデルだという。ただ、「ビジネスモデルはまだ検討段階だ」と後のQ&Aセッションで明かしていた。

現在までに120社の製造業にコンタクトを取り、そのうち25%の企業が興味を示したとのこと。今回のピッチで惜しくも優勝は逃したものの準優勝となり、審査員から高い評価を得ていた。審査員のひとりは、「もっとも規制の厳しい市場の一つに参入しようとする勇気を持ったこと、エネルギー価格が上昇している時期に、より安価なエネルギーを提供しようとしたことにお祝いを述べたい」と語った。

AIとロジスティクス自動化システムを提供する「ROVIGOS」


▲韓国スタートアップ「ROVIGOS」が提供するソリューションイメージ。HPより

地元韓国での実績があり、ドイツ市場にも参入している「ROVIGOS」。現在は物流業界に焦点を当て、AIによる分析とロボットベースのロジスティクス自動化システムで、物流企業の複雑なシステムをスマートに変えるサポートを提供する。同社のシステムはSaaSをベースとしており、サブスクリプションでクライアントから月々の使用料を得るビジネスモデルとのこと。

韓国では多くのユースケースがあり、クライアントは同サービスの導入により人件費と保管費の削減に成功しているという。


▲物流業界は、人件費で18〜25%、保管費で10〜20%を占めているという(ROVIGOSのプレゼンテーションスライドより)

クライアントは従来の注文システム等を変更する必要はなく、既存のシステムを利用しながら、分析を実行できるそうだ。同社には、韓国語、英語、中国語、日本語を話せるスタッフがいるため、アジア企業とコンタクトが取りやすいという強みも。

審査員に「GoogleやIBM、その他のプレイヤーとの違いは?」とたずねられると、「物流業界をターゲットとし、企業のローカルデータに焦点を当てて、問題を解決するように努めている」と回答した。ロボティクス分野の先駆者といわれるHyundai Robotics(ヒュンダイ・ロボティクス)のヨーロッパ支社にもアプローチ済で、シナジーを狙っているそうだ。

カップルセラピーアプリを開発する「LoveLane」


▲ハグをして喜びを表現していた「LoveLane」のメンバー

今回のピッチで見事優勝を勝ち取ったのがドイツの「LoveLane」だ。カップル向けのセラピーサービスアプリを開発しており、日々のマインドフルネスやカップルで行うアクティビティ、セラピストとの匿名チャット等により、カップルの良好な関係構築、あるいは関係維持を助けるという。正直、同社の優勝は予想外だったが、欧州、米国、カナダ、合計で6億6,800万ユーロ(約870億円)の巨大市場があり、説得力があったとのこと。

登壇したCEOのHeike Kraft氏は、あるカップルの例を用いながらプレゼンを進行。カップルの女性側は「相手に感謝されていないこと」に不満を持ち、男性側は「最近セックスの回数が減ったこと」を気にしているという設定だ。この場合、男性側に「ラブノートを書いて、相手に感謝の気持ちを表すように」とアドバイスが与えられたり、2人で問題解決を目指してアクティビティをしたりするとのこと。アプリは、カップルにとって「関係をサポートする友人」という設定らしい。


▲見えづらいが、画面に写った犬は「ルル」という名前でカップルの友達という設定。同社のプレゼンテーションより

お互いのパートナーシップに課題がある人がターゲットになりそうだが、同社は「問題を抱えていないカップルにもアプローチできる。恋愛をしている人は、誰でも自分の恋愛のためのインスピレーションを得たいと思っているから」と語った。同アプリは、コミュニケーションや身体的な課題だけでなく、経済的な懸念や子育ての悩みなど、幅広くカバーする。

現在、まだマネタイズはできておらず、年末までにアプリを完成させ、サブスクリプションでサービスを提供する予定だ。最初はドイツ語で提供するが、その後、英語圏にも進出したいと意気込む。

将来的には自社のプラットフォームの構築を見込む。そこでは、恋愛のコーチが自身のコミュニティをつくりコンテンツを発信したり、性具メーカーが自社プロダクトを宣伝したりといった活動ができる。これらのパートナーたちは、「LoveLane」にプラットフォーム使用料を支払うというビジネスモデルだ。

編集後記

視聴者だけでなく、参加者も一部がリモート出演となり、これからのイベントは、このようにハイブリッドでの実施がスタンダードになるのではないかと感じた。イベント中は視聴者の質問は拾われなかったが、イベント等でQ&Aや投票ができるプラットフォーム「slido」が使われていた。

個人的には、香港の「PanopticAI」が非常に気になっており、日本でも同様の技術が研究されていたが、実用化している例は見かけなかった。また、優勝した「LoveLane」も、日本展開がありえる気がした。検索してみると、意外にもカップル向けに気軽なセラピーを提供するサービスは多くなく、日本人にとってセラピーを受けること自体のハードルが高いものの、アプリであれば気楽に試すことができそうだ。

(取材・文:小林香織) 

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  • 植田雄輝

    植田雄輝

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  • 眞田 幸剛

    眞田 幸剛

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