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共創文化が浸透し、スタートアップエコシステムが生まれつつある愛知県―各社の事例とピッチを披露する「AICHI MATCHING 2021 オープンイノベーションセミナー」を詳細レポート!

共創文化が浸透し、スタートアップエコシステムが生まれつつある愛知県―各社の事例とピッチを披露する「AICHI MATCHING 2021 オープンイノベーションセミナー」を詳細レポート!

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スタートアップ・エコシステムの形成・充実を図る愛知県。2018年10月に策定した「Aichi-Startup戦略」に基づき、急ピッチで数多くの施策を実行中だ。

その一環として去る7月30日、愛知県内の企業向けに、オープンイノベーションの最前線を体感できるイベント「AICHI MATCHING 2021」を開催。コロナ禍中であることから、バーチャル空間「oVice(オヴィス)」上で行った。

本イベントの主なコンテンツは以下の3つ。

(1)基調講演(東レ株式会社 技術センター企画室 主幹 尾関雄治氏)

(2)共創セッション(新日本法規出版株式会社×ミドルマン株式会社)

(3)スタートアップ ピッチ(プレ・ステーションAiに入居する3社)

基調講演では、大手素材メーカーである東レで15年以上にわたってオープンイノベーション活動に取り組んできた尾関氏が、オープンイノベーションの最前線を紹介。続いて、「あいちマッチング」イベントで出会った愛知県内企業(新日本法規出版)と県外スタートアップ(ミドルマン)の2社が登壇し、共創事例を共有した。最後に、愛知県が展開するスタートアップ支援施設「プレ・ステーションAi」に入居するスタートアップ3社(ふれAI、どんぐりピット、senscom)が登壇。視聴者に向けて熱のこもったピッチを披露した。

本記事では、本イベントの様子を3つのパートに分けて、ダイジェストでお届けする。

「オープンイノベーションを活用した新商品、新事業の創出」―東レ・尾関氏

尾関氏からは「オープンイノベーションを活用した新商品、新事業の創出」という表題で講演が行われた。


▲東レ株式会社 技術センター企画室 主幹 尾関 雄治氏

1993年、東レ株式会社に入社。研究・開発、事業化に従事。その後、研究・開発企画部、内閣府 総合科学技術会議等にて、2005年より15年以上にわたり、産学連携(オープンイノベーション)の発展に寄与。欧州自動車メーカーとの協業実現など、自動車産業のオープンイノベーションにおいても深い知見を有する。愛知県出身。名古屋大学理学部卒業 修士(理学)。

尾関氏によると、東レのオープンイノベーション活動は、ITバブル崩壊後の2001年頃からスタート。業績の悪化により、現状維持のままでは「2年9カ月後」に倒産するところまで追い込まれたからだという。2002年より改革を開始。最初に掲げたのが「自前主義からの脱却」だった。その後、2011年には全社の方針として「オープンイノベーションの推進」を掲げ、取り組みを強化したという。尾関氏は、2005年にR&D部門のオープンイノベーション担当に就任し、技術スカウティングなどに注力してきたと話す。

技術スカウティングとは、自社のみでは解決が困難な技術課題に対し、世界中の研究者・技術者に打診をし、最適な解決策を求めることをいう。尾関氏は、国内における先駆的なサービス提供者として「ナインシグマ社」を紹介。同社は、Webやメールを使って広く世界から技術を公募するサービスを展開している。

実際に、同社の指紋の付着しにくいフィルム開発において、ナインシグマ社を通じて世界中から技術を公募したところ、約20件の提案があったと話す。それらを組み合わせることで、早期に耐指紋コーティング技術を開発できたそうだ。自社内では3年近く進捗のなかった案件だが、外部に技術を求めることで、わずか半年程度で開発品を作ることができたとし、改めてオープンイノベーションには、圧倒的なスピードで課題解決ができるメリットがあると伝えた。


続いて尾関氏は、オープンイノベーション導入の初期段階で直面した課題を紹介。具体的には、「知財の扱い」「ミスコミュニケーションによる誤解の頻発」「社内の抵抗」「資金拠出の判断」「オープン/クローズの判断」の5点を挙げる。そのうち「オープン/クローズの判断」の考え方について、次のように説明する。

「何をオープンとし、何をクローズとするか」の判断に際して、まずは自社の「コア領域」を明確にすることが重要だという。コア領域に関してはクローズとし、クロスライセンスさえも排除する方針を、東レではとっている。同社の場合、繊維やフィルム、樹脂、炭素繊維などがコア領域に該当する。また、コア領域の周辺部にある「自社と他社の境界領域」については、知的財産や契約の仕組みでしっかりと守る必要があると話す。


逆に、自社にリソースのない領域に関しては、オープンイノベーションで世界中の技術や材料を幅広く求める方針をとっている。技術や材料の探索に関しては、先ほど例にあげたナインシグマ社などを活用しているという。

さらに、川下にあたる自社が事業を行わない領域に関しても、オープンイノベーションによって世界中で商品化を加速する。具体的には、有力顧客との戦略的連携などを行っているという。有力顧客とは東レの場合、ユニクロやBMW、ボーイング社などだ。

ユニクロとは、2006年に戦略的パートナーシップを締結。現在、企画・開発・生産・物流に至るまで一体的に事業を行っている。両社の年間取引額は、東レの総売上の約1割にあたる約2000億円にも及んでいると明かす。

また、BMWをはじめとする自動車メーカーとの共同開発案件も豊富だ。同社はオートモーティブセンター(AMC)というオープンイノベーション拠点を設け、メーカーと近い距離で共同開発を行っている。現在、拠点は日本(愛知)、中国(上海)、ドイツ(ミュンヘン)の3カ所にあり、アメリカも検討中だという。

尾関氏は、こうした長年のオープンイノベーション活動から、新たな課題も顕在化しはじめていると話す。1つ目は「属人化しやすい」こと。担当者変更により取り組みが減速してしまうことが多い。これに対しては、見える化(標準化)、オープンイノベーション人材育成などの対策が必要だと話す。

2つ目は「革新的新事業創出に結びつかない」こと。小規模な技術移管や従来ビジネスの延長程度の活動にとどまっていることが多く、これに関しては経営トップがコミットする仕掛け作りが必要だと語った。


「あいちマッチング」で生まれた2社の共創セッション―新日本法規出版×ミドルマン

続いて、新日本法規出版株式会社(所在地:愛知)で新規事業の責任者を務める本多誠氏と河合嘉之氏(司会)、ミドルマン株式会社(所在地:東京)代表の三澤透氏が登壇。両社は、昨年度の「あいちマッチング」イベントを契機に共創を開始した。

共創セッションは、各社の事業概要の紹介からスタート。本多氏によると、新日本法規出版の主な事業は法律関係書籍の発行で、600種類にも及ぶ加除式書籍(法改正などにともない差し替えを行える書籍)を強みとしている。1948年の創業だが、時代の変化にあわせ2000年代に入ってからは、電子書籍化・オンライン化も推進。2018年頃より、リーガルテックにも参入し、コンテンツの電子化だけではなく、スタートアップとの共創により新たなサービス創出にも取り組んでいるという。


▲新日本法規出版・本多氏

一方、ミドルマンは2012年の設立で、オンライン紛争解決プラットフォーム「Teuci(テウチ)」を開発・運営中だ。オンライン紛争解決プラットフォームといえば、一般的にODR(Online Dispute Resolution)とも呼ばれるが、デジタル時代のバーチャル裁判所のようなものだという。企業間・個人間・企業対個人などさまざまな紛争に対して、オンライン上で調停人をマッチングし、交渉から調停・合意までをチャット上で行う仕組みを提供する。これにより紛争に要する期間と費用を削減し、「2割司法(※1)」の解消を目指す。

※1:「2割司法」とは、社会にある紛争のうち、2割の人しか満足のいく司法サービスや法的支援を受けられていないこと。

両社の共創は、昨年2020年11月に開催された「あいちマッチング」イベントをきっかけにスタート。共創を決めた背景について、本多氏は、日本の法曹業界のIT化やDXが非常に遅れていることに課題感を持っていたとし、紛争解決のオンライン化に挑むミドルマンと出会い、自社とのシナジー・事業の将来性を感じて共創に至ったと話す。

一方、ミドルマンの三澤氏は、イベントに参加した当初は、率直に資金とブランドを欲していたと明かす。同社の事業領域と親和性が高そうな新日本法規出版を見つけ、「ここしかない」との思いから、急遽イベントへの参加を決めたという。


▲ミドルマン・三澤氏

老舗出版社とスタートアップという文化の違う企業同士の連携で、苦労することはなかったのかという問いに対し、本多氏と三澤氏は、ミーティングの参加人数や開始時間(ミドルマンの場合は夜)などに、文化の差を感じたこともあったと振り返る。

差を埋めるため、ミドルマンの三澤氏が、新日本法規出版の役員会でプレゼンを行ったり、逆に新日本法規出版のメンバーが、ミドルマンの開発ミーティングに参加したりと、相互理解を図ってきたという。また本多氏は、ミドルマンの考え方や方針が、変わっていくことに戸惑ったこともあったが、自社の柔軟性を高めることで対応してきたことも共有した。

今後の展開について、新日本法規出版は、引き続き法曹業界のIT化やDXを強力にサポートしていく考えだという。ミドルマンは、スマホひとつで紛争が解決する社会を標榜しているとし、現状、紛争解決にあたっては調停人が介在するが、将来的にはアルゴリズムによる解決も目指していきたいと述べた。また、ODRと裁判がシームレスに連携することで、社会の安定性を保つような世界を実現していきたいと展望を語った。

スタートアップピッチ―「ふれAI」「どんぐりピット」「senscom」

共創セッション後は、現在、愛知県にて新規事業の立ち上げに邁進するスタートアップ3社が登場。それぞれが手がけるプロダクトを、視聴者に向けて提案した。

■家族の声のアルバム「ふれAI」

トップバッターは、愛知県瀬戸市出身で陶芸家の家系であったことから、ものづくりが大好きだと語る加納健良氏だ。加納氏らのチームは、思い出を共有し家族の絆を強くする「ふれAIレコーダー」を開発している。「ふれAIレコーダー」とは、喜怒哀楽の起きた前後の音声を自動で記録できるウサギ型のIoTデバイスで、AIが会話の中の喜怒哀楽を判定し録音、アプリに通知、音声を再生することができるものだ。子どもの声を成長記録として残すなどの活用方法を見込んでいる。


使い方は簡単だ。リビングに「ふれAIレコーダー」を置くだけで、デバイスが自動で会話の録音を開始する。デバイス内で、瞬時に音声を波形へと変換し、ディープラーニングにより感情(喜怒哀楽)とマッチングさせる。感情が強いと推定されればデバイス内のSDカードに保存するという流れだ。家庭のWi-Fiでスマホアプリへと送り、ユーザーはスマホで再生・保存することができる。


チームメンバーは全員が、株式会社デンソーに在籍中だという。チーム発足のきっかけは、名古屋市主催のビジネスコンテストにて入賞したこと。その後、愛知県の支援で開発を継続してきたという。こうした活動を続ける根本には、自動車業界が100年に一度の大変革期を迎えているという危機感があると話す。そのため、有志コミュニティを運営し、湧き上がる思いを高めあって新規事業の創出などに挑戦している。最後に加納氏は「オープンイノベーションで新しい価値を生み出すことを文化にして、愛知県を元気にしていきたい」と語り、プレゼンを締めくくった。

■シェア冷蔵庫「どんぐりピット」

続いて登壇したのは、どんぐりピット合同会社代表である鶴田彩乃氏だ。どんぐりピットは、トヨタ自動車株式会社等の現役エンジニアで構成されたチームでフードロスゼロの世界を目指して活動している。現在、世界では約9人に1人が食糧不足に苦しむ一方で、日本では年間約500万トンもの食糧が廃棄されている。こうした課題感から、鶴田氏のチームは廃棄食糧を売買する仕組みとして、『シェア冷蔵庫』を開発した。賞味期限の近い食材を売買する類似のサイトは存在するが、同チームは、地域コミュニティーの中にあえて物理的に冷蔵庫を地域の中に設置する方法をとる。


シェア冷蔵庫の仕組みはこうだ。従来、食品物流は生産者から消費者への「一方通行」で、農家・店舗・家庭の各段階においてフードロスが発生している。これに対し、同チームはシェア冷蔵庫を地域のコミュニティの中に配置することで、食品を「相互売買」できるようにする。農家・店舗・家庭それぞれが、シェア冷蔵庫を通じて販売も購入もできるという仕組みだ。フードロスを削減すると同時に、地域の交流拠点になることも目指す。実際、シェア冷蔵庫を集会所に置いてみたところ、自然に人が集まってきたという。


使い方はシンプルだ。売り手はスマホ上に売りたい野菜(食品)を登録する。買い手もスマホ上で選んで購入、決済までをすませる。売り手は、注文のあった野菜をシェア冷蔵庫に入れ、買い手はそれをQRコードで解錠し受け取る。市販の冷蔵庫とWi-Fi、電源だけで始められる。クラウドファンディングで資金を募ったところ、約200名からの支援を得られ、改めてフードロス問題の注目度の高さを実感したと話す。現在、市役所・郵便局、美容院、ディーラー、飲食店、社員食堂、シェアオフィスなどへの設置を検討中で、協業できるパートナーを探しているとのことだ。

■高解像度周波数解析による機械予知保全サービス「senscom」

続いて、愛知県立大学発のスタートアップ「senscom」(センスコム)より代表の神谷幸宏氏が登壇。同社は、機械の予知保全サービスを展開している。予知保全とは、機械が壊れてからではなく、壊れる前に修理することをいう。従来の予知保全は、ベテランの勘によるところが大きかったが、担い手の高齢化にともない、近年ではIoT化が進んでいる。たとえば、機械に振動センサを設置し、振動周波数の変化から故障を予知するサービスなどが先行する。しかし既存サービスの大半は、ベアリングや軸受など「高速回転体」に限られているという。

そこで同社は、新しい信号の解析法(STARS)を開発した。強みは、低い周波数で高い時間・周波数分解能を達成できることだ。この解析法を用いると、切削機械やプレス機といった「比較的低速で動作する工作機械」の予知保全も可能になる。すでに企業とのIoTに関する共同研究実績が2017年度以降でのべ18件。企業からの相談も100件以上寄せられていると話す。論文も発表済だ。


販売の仕方として、国内外の製造業やIoTサービス提供企業へのサービス提供を検討している。また、同社の強みである振動解析アルゴリズムを活かして、機械の振動取得による予知保全サービスだけではなく、心拍や呼吸といった生体データ計測による感情分析サービス、あるいは家屋の振動取得によるホームセキュリティサービスなどへの展開も検討中で、協業できるパートナーを求めているという。

取材後記

土壌豊かなエコシステムの形成を進める愛知県。直近では、海外の著名アクセラレーター「500 Startups」の招聘や、首都圏を含むベンチャーキャピタル(VC)との連携、世界最大級となるインキュベーション施設「ステーションAi」の運営者決定(ソフトバンク株式会社)など、コロナ禍においても減速することなく、むしろ加速しているように見える。火付け役となったのは愛知県(行政)だが、呼応するように県内外のスタートアップや起業家、支援パートナーも盛り上がっているようだ。TOMORUBAは引き続き、愛知県にエコシステムが形成されていく様子を追っていきたい。

(編集:眞田幸剛、取材・文:林和歌子)

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コメント5件

  • 田上 知美

    田上 知美

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  • 富田 直

    富田 直

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  • 岩井恵梨

    岩井恵梨

    • 日本特殊陶業株式会社 
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    先日のAICHI MATCHING 2021 オープンイノベーションセミナー参加させていただき、
    セミナーやoVice上での交流など、短い間ではありましたが有益な時間になりました。
    
    特に、東レ株式会社 尾関さまのお話は大変参考になり、なかなか検討が難しいオープンイノベーションを進める上で非常に刺激になりました。ありがとうございます。
  • 新田裕亮

    新田裕亮

    • 株式会社スタート
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  • 眞田 幸剛

    眞田 幸剛

    • eiicon company
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