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【AICHI INNOVATION DAYレポート<後編>】 愛知県企業とスタートアップの化学反応で生まれた新たな事業とは?3チームが披露したビジネスモデルを紹介

【AICHI INNOVATION DAYレポート<後編>】 愛知県企業とスタートアップの化学反応で生まれた新たな事業とは?3チームが披露したビジネスモデルを紹介

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愛知県は3月23日、イノベーション創出に関わる多様なプロジェクトの成果を発表する大規模イベント「AICHI INNOVATION DAY」を、オンライン・オフラインのハイブリッドで開催した。オフラインの会場となったのは、名古屋コンベンションホール。スタートアップ支援拠点「PRE-STATION Ai」も入居する高層ビル、グローバルゲート内にある。

当日は現地から全国に向けて、合計11ものセッションや成果発表会が配信され、愛知で高まるスタートアップ・エコシステムの勢いを強く印象づけるイベントとなった。そこで今回、「AICHI INNOVATION DAY」で繰り広げられた注目のプログラムの様子を前編・後編に分けてお届けする。後編となる本記事では、「AICHI MATCHING 2022 DEMODAY」に焦点をあて、レポートしていく。

「AICHI MATCHING」(あいちマッチング)は、愛知県企業の高い技術力・ノウハウと、全国のスタートアップの新しい技術・サービスの掛け合わせで、新規事業創出を目指したプログラムだ。2022年度は過去最多の21社がホスト企業として参画した。それぞれが抱える課題や新たなプロダクト・サービス開発に向けて、全国のスタートアップからエントリーを募り、マッチングを果たした上で共創を進め、新たな価値を創造するのが狙いだ。

そして、この日、共創ビジネスの進捗を発表するデモデイを開催。130件のマッチングがあったうち、「株式会社FUJI×株式会社Roxy」、「名古屋鉄道株式会社×株式会社ユカシカド」「三菱電機株式会社×トランスミット株式会社」の3チームが登壇し、プレゼンテーションを行った。愛知県に根差した企業とスタートアップで、どのような新規事業が生まれているのだろうか?各チームの発表内容を紹介していく。

【01】FUJI×Roxy――産業用ロボットの老舗企業とスタートアップが「がれきリサイクルロボット」を開発

<登壇者>

■株式会社FUJI イノベーション推進部 課長 神谷 一光 氏

■株式会社Roxy 代表取締役社長 石黒 貴之 氏

FUJIは1959年創業の知立市に本社を置くグローバルメーカーだ。電子部品向けなど自動装着装置でトップクラスの実績を持つ。事業は、産業用ロボットを展開するロボットソリューション、金属部品の加工機械を手がけるマシンツール、これら2つの事業から得た知見を活用した新規事業の開発の3つの領域を中心としている。さらに、介護向けロボットやスマートロッカー、児童向けに科学を英語で教えるアフタースクールなども運営している。

こうした事業とまったく切り離された出島として誕生したのが、神谷氏の所属する「イノベーション推進部」だ。同部は社長、取締役直下のもとで素早い意思決定を行いながら、新しい事業の芽を探索して価値創造に取り組んでいる。これまでに小売業向け自動搬送ロボットや、バスの子ども置き去り防止システムを開発するなどしてきた。

同社とマッチングをしたRoxy(ロクシー)は2020年に創業し、AIを使った外観検査の製品などを開発している。高速・高精度なのはもちろんのこと、「現場のスタッフにとって使い勝手が良いことに重きを置いている」と石黒氏。製造業の大部分を支える中小企業では、AIに詳しい技術者を確保することが困難であり、また、少量多品種の生産を進める現場でAI開発を外部に委託するのも非現実的と言える。他方、同社のAIは導入において必ずしもエンジニアを必要としないのが大きな特徴の一つだ。

例えば、AIに正解や不良を教えるアノテーションは、通常は高度な専門性を要求されるが、Roxyではクリック一つで簡単に、専門知識のないスタッフでも実施することができる。加えて、AIの精度が上がったことを視覚的にも捉えることを可能にした。同社では不良品をはじめ、異物や残留物の検出に強みを持っており、積極的な事業展開を見据えている。

▲株式会社Roxy 代表取締役社長 石黒 貴之 氏

●ロボットとAIでベルトコンベア上に紛れる不要物を除去する

こうした2社が今回テーマに掲げて取り組んだのが、「持続可能な社会の実現にロボットとAIで貢献」だ。具体的にはベルトコンベア上を流れるがれきに紛れる不要物(木片・布・樹脂・鉄骨など)をAIによって高速で検出・認識する「がれきのリサイクルロボット」を作り上げる。

現状、現場の作業では不純物は人の手で取り除かれているが、粉砕機の騒音や振動、粉塵が巻き起こる中で行われるため、危険で過酷な環境と言える。「そうした環境から働き手を開放したい」と神谷氏は力を込める。加えて、「国内の再生路盤材は99%がリサイクル品。ロボットを使ってがれきのリサイクルを行うことができれば、持続可能な社会の実現にロボットとAIで貢献することになる」と力説した。

がれきのリサイクルロボットの開発に際しては、FUJIはロボット制御、Roxyは物体認識と、それぞれの得意分野を活かした上で、効果的なソリューションの構築を目指す。さらには単に役割分担をするだけにとどまらず、PoCを通じ製品を発展させ、付加価値の高いものに仕上げていく方針だ。現在までに、ベルトコンベヤーに流れているがれきから、「上々の精度でロボットが不純物をピッキングできている」と神谷氏は言い、製品の完成が近づいていることをうかがわせた。がれきリサイクルロボットは今後、他の産業にも応用していきたい考えだ。

神谷氏は「産業廃棄物の分野では、仕分けや不純物の取り除きなど、人の手で行われていることがまだまだ多くある。がれきリサイクルロボットが社会実装され、その価値が証明されたら、まずは産業廃棄物に応用したい。その上で、より大きなインパクトを生み出し、持続可能な社会に向けて貢献していければと思う」と熱弁を振るった。

▲株式会社FUJI イノベーション推進部 課長 神谷 一光 氏

【02】名古屋鉄道×ユカシカド――東海地区に根付く私鉄が、栄養改善のスタートアップと新規事業創出に挑む

<登壇者>

■名古屋鉄道株式会社 経営戦略部 チーフ 堀場 萌美 氏(現在は事業創造部)

■株式会社ユカシカド 経営企画室 ゼネラルマネージャー 井上 皓史 氏

東海地区でおなじみの名古屋鉄道(名鉄)は愛知県のほぼ全域と岐阜に路線を持つ私鉄だ。沿線総距離は444キロメートルで275駅を設置。堀場氏によれば「私鉄3位の沿線距離」という。グループは約120社で構成され、鉄道をはじめ、運輸、不動産、観光、ホテル、流通、情報など多様な事業を展開している。近年はパーパス「地域を創る、社会を支える」を掲げ、地域連携の強化や新規事業創出で豊かなまちづくりを推進している。

意欲的に新規事業創出を目指す同社では、AICHI MATCHINGを通じ複数の成果を生み出している。1つめの事例として取り上げられたのは、名鉄グループでITコンサルティングやシステム開発・運用などを担う株式会社メイテツコムと、スマホアプリやLINE公式アカウントなどを開発する株式会社INJUSとの協業だ。共同で開発されたLINEを活用したメモアプリ「MEMOLIN」は、ベータ版を4月にリリース予定となっている。2つめの事例が今回のデモデイで紹介するユカシカドとの共創だ。

ユカシカドは栄養改善に特化した、2013年に創業したスタートアップである。創業者のCEOとCTOが途上国に赴いた時に環境と栄養の問題に直面したのをきっかけに起業した。井上氏によれば、グローバルで約20億人が栄養問題を抱え、一見縁がなさそうに感じる日本でも約5000万人が栄養不足またはリスクがあると言われている。栄養状態を正しく改善するためには可視化が必要との観点で立ち上げたサービスが栄養検査「VitaNote」だ。

約20項目の栄養素を尿から評価できるのは「世界初」と井上氏は胸を張る。検査結果から一人ひとりの栄養状態にあわせて、パーソナライズされたサプリメントや食品を提案する。その場で栄養バランスがわかる簡易型の検査キットもあるとのこと。また、スタートアップでありながら自社の検査センターと工場を持ち、開発から販売までワンストップで展開できるのが、特徴であり強みである。

▲株式会社ユカシカド 経営企画室 ゼネラルマネージャー 井上 皓史 氏

●オフラインとオンラインで、地域の健康増進を狙う

名鉄とユカシカドが取り組んだのが、「沿線・地域の健康寿命を延伸するパーソナライズ栄養改善構想」だ。名鉄の駅には空き区画もしくは空き区画になるだろうというスペースがあり、有効活用を模索している。そうしたスペースの活用を通じ、地域活性化につなげたいとの思いがあった。一方、ユカシカドはアセットを活用しながらより多くの人に楽しく手軽な栄養改善を届けていきたいと考えており、オフラインの活用を視野に入れていた。2社の方向性が合致し、マッチングに至った。

ユカシカドでは通常、オンラインでサプリメントの販売などを行っている。他方、オフラインには、即時性や宣伝効果のメリットがある。体調管理のために駅でさっと必要な栄養を摂取できれば大きな価値となる。また、駅でたまたま栄養管理の新商品を見つけて興味を持つこともあるだろう。そのことがきっかけでオンラインで継続的な商品購入につながることもある。オフラインとオンライン、それぞれのメリットを活かしながら、栄養改善を提供していきたいとしている。

最終的には、オンラインオフライン問わず、さまざまな手段・場所で必要な栄養を取り、健康を実現する状況を目指す。井上氏は「名鉄さんの持つ駅の空き区画と、当社が保有する栄養に関連する技術を組み合わせることで、一般の売店とは異なる価値が出せるのではないか。また、地域の方を健康にすることで移動や施設の利用が増え、活性化につながるはず」と強調した。

●栄養不足など、社会課題の解決に挑む

さらに井上氏は「この取り組みは社会課題の解決のチャレンジでもある」と伝える。「よく言われているように、日本は総人口が減り、高齢化がますます進む。この流れを食い止めるのは難しいが、一人ひとりの健康を長く維持できる状態を作ることができれば、より良い人生につながる」と語った。

健康状態を維持するには「運動、栄養、休養」の3原則があるとされる。井上氏は「普段食べるものや飲むものを整えることで、行動変容が起きるきっかけになる」と説いた。井上氏によれば、健常・未病を維持する目的で栄養は重要な鍵になるということだ。

「子どもの基礎栄養不足、高齢者の低栄養、若年女性の新型栄養失調なども、普段の飲食を整えることで解決が可能になる。パーソナライズされた栄養改善ステーションを展開して、より地域の方が健康になれるインフラを作っていきたい」と意気込みを見せた。なお、名鉄とユカシカドでは、3月に「名鉄一宮駅」に店舗を出店してPoCを実施し、電車利用者の反応を探った。

●「名鉄オープンイノベーションLab」が始動

最後に名鉄グループ横断の「名鉄オープンイノベーションLab」が始動することが伝えられた。堀場氏は「さらなる新規事業開発やスタートアップへの出資などをグループ一体となって推進する。スタートアップとの共創で地域をより活性化して社会を支える事業を展開していきたい。STATION Ai設立など新たな風が吹く愛知で、新たな価値創造に共に挑戦しよう」と力強く呼び掛けた。

▲名古屋鉄道株式会社 経営戦略部 チーフ 堀場 萌美 氏

【03】三菱電機×トランスミット――総合電機メーカーとものづくり系IT関連スタートアップが「FUNな工場」を模索

<登壇者>

■三菱電機株式会社 開発部事業戦略グループ 専任 岡根 正裕 氏

■トランスミット株式会社 代表取締役 実川 大海 氏

三菱電機は充電システム、産業メカトロニクス、情報通信システム、電子デバイス、家庭電器などを手がける総合電機メーカーである。「AICHI MATCHING」には同社の名古屋製作所がエントリーした。名古屋製作所では産業メカトロニクス事業を中心に行っており、その中でも今回はFAシステムにフォーカスした。

募集内容について、岡根氏は「”こうなるかもしれない”という将来像からバックキャスト視点で新しい事業の種を生み出すことを目的とした」と話す。「これからのものづくり業界を考えると、消費者ニーズの多様化やコロナ禍に起因した省人化ニーズの加速など、さまざまな変化が予想される。これらの変化に対応するために、FA関連事業にはこれまでとは違った視点をプラスすることが求められるはず」と強調した。

「新たな価値を生み出す未来工場」を構想した時に浮かび上がってきたのが、「生産現場作業者が楽しみながらやりがいと誇りを持って働くことができる、人にやさしいFUNな工場」と、「CO2排出0を目指した環境に優しいグリーンな工場」だ。この2つに絞って募集したところ、トランスミットがエントリーした。

トランスミットは2018年に創業したスタートアップで、1期目からSTATION Aiの前身となるPRE- STATION Aiに入居している。「ものづくりをかっこよくスマートな事業領域に」をミッションに掲げ、「ものづくりをITの力でサポートすることで工場をオープン化し、製造業に変革を起こす。超かっこいいものづくりを、超スマートにする」ことを目指している。

同社には製造業のサプライチェーンで経験し課題意識を持ったメンバーが集っており、お客様に寄り添いながらハードとソフト、両面のサービスを提供できるのが強みであり特徴だ。具体的なサービスとしては、monit(モニット)がある。これは工場現場の実績を簡単に集計・見える化することができるシステムだ。これまでデータ化できなかった紙帳票もデータ化して分析に活用できるなど、主に中小企業向けの製品となっている。

▲トランスミット株式会社 代表取締役 実川 大海 氏

●作業者がワクワク明るく働ける、生産性の高い未来工場を目指す

既に伝えたように、今回のテーマは課題解決型のものではなく、将来像を想像することからスタートする。では、どんな将来像を想定したのか。トランスミットと三菱電機では「人の流動性が高まり、作業者にとって魅力の少ない環境は敬遠されるようになり、作業者がイキイキとものづくりに参加できる環境がより求められるようになる」との仮説を立て、作業者のモチベーションをアップするソリューションを生み出すことを思案した。

岡根氏は「作業者のモチベーションがアップした結果、工場の生産性が上がったり、離職率が下がったり、エンゲージメントが向上したり、そんな副次効果が生み出されるのではないか」と話した。

▲三菱電機株式会社 名古屋製作所 開発部事業戦略グループ 専任 岡根 正裕 氏

具体的なソリューションは検討段階ではあるが、実川氏は「三菱電機の工場は、中小企業の観点からすれば既に十分にシステム化されており、データ活用も進んでいる。まずはそのシステムやデータを活用する」と伝えた。作業現場の課題としては、作業が単調で刺激がない、その日の結果が上下しても何も変わらない、むしろ上下しないほうがいいなど、モチベーションにはつながりにくい環境がある。

実川氏は「作業の成果に応じて報酬を提供するなど、意欲を高める仕組みが求められる。意欲、行動、成果、報酬をサイクルさせるため、ゲーミング要素を取り入れることを思案した」と説明した。現段階では、「コレクション系と育成系のゲーミング要素」を考慮しているとのことだ。

今後はPoCを順次進めていく。まずは主に大企業を対象にしたソリューションの検証として、三菱電機の持つ生産管理システムで得られるデータを元に作業者のモチベーションの評価を行う。続いて、FUNな工場というコンセプトに共感する中小企業を対象に、データの入手・蓄積などを行う。

最終的には、大企業向けと中小企業向けのソリューションを融合させて事業化に踏み込む。岡根氏は「作業者がワクワク明るくモチベーションを挙げるような未来工場を実現させたい」と未来へ思いを馳せた。

愛知県を日本のイノベーションの一大拠点としたい

最後に司会を務めたeiicon companyの伊藤達彰が登壇。「共創は発表のあった3件以外にも多数、進んでいる。伴走支援をしながら、事業の芽が生まれ育っていく過程に携われるのは、非常に光栄なこと。AICHI MATCHINGは毎年、参加する企業が増えている。新たな事業が生まれる場、機会になればこれ以上のことはない」と力を込めた。

全体のクロージングにはeiicon company代表の中村亜由子が登壇。「2022年に岸田首相が『スタートアップ育成5年計画』を発表したが、愛知県はその5年前の2018年に『Aichi-Startup戦略』を打ち出している。当初はスタートアップへの理解も薄かったが、現状が大きく変わっていることは肌で感じられると思う。自治体の方たちも熱心にオープンイノベーションに携わり、巧みなピッチを行っている場面は、これまでに見たことがない。全国的に見ても非常に珍しいこと。このことも、愛知県に共創が根付いている一端を示すのではないか。。愛知県をイノベーションが起こる場にするよう、ますます支援を強化したい」と決意を新たにし、「AICHI MATCHING 2022 DEMODAY」を締めくくった。

取材後記

愛知県を舞台に、大企業とスタートアップによる新事業創出が進んでいる。発表のあったプロジェクトは、いずれも目の付け所が鋭く、実現が期待されるものばかりだ。eiicon companyの伊藤氏によれば、このほかにも多くの共創が進んでいるという。また、名鉄グループからは、オープンイノベーションの取り組みが本格始動される旨も発表された。STATION Aiのオープンも目前に控えている。今後、愛知県が日本のイノベーション、産業を引っ張っていく存在になる可能性は十分にある。ますます目が離せない。

(編集:眞田幸剛、取材・文:中谷藤士、撮影:加藤武俊)

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