【トークセッション】富士通×スタートアップの共創が活発化。アクセラレータプログラムをきっかけに新たな価値が創造される。
オープンイノベーションの取り組みを活発に進める富士通。スタートアップの革新的技術と富士通グループのアセットの相乗効果で新たな価値の創造を目指す、独自のアクセラレータプログラムを展開。現在第5期を実施中で回を増すごとに応募数はうなぎのぼりだ。
これまでに既に多くのスタートアップとの協業も実施され、成果も出てきているという。今回は、同プログラムの第4期で採択された株式会社アジラ・株式会社アプトポッド両社と富士通サイドのプログラム担当者に、共創の仕方や具体的な事業展開についてトークセッションを開催した。
●トークセッション① 【アジラ×富士通】
【写真左】株式会社アジラ 代表取締役社長 木村大介氏
【写真右】富士通株式会社 ネットワークサービス事業本部 IoTビジネス推進室 ソリューション部
富士通総研 実践知研究センター研究員 黒瀬義敏氏
誰かを助けたいと思う気持ちをITの力で後押しする。
――まずはお二人の会社と事業について紹介をお願いします。
アジラ・木村 : 当社はAIサービスとAIソリューションの2つを軸に事業を展開しています。研究開発拠点がベトナムにあることが一つの特徴となっています。
富士通・黒瀬 : 当部門はクラウドとネットワークを中心とした分野のIoTを専門に扱っています。私の本業としてはクルマのネットワーク化ですが、これとは別に新領域の事業へのチャレンジも行っています。テーマは高齢社会向けやスポーツファン向けで、今回アジラさんと組ませていただいたのは、私が高齢社会向けの新事業を模索しているということが大きいです。
――お二人が知り合ったのは、アクセラレータプログラムを通じてですね。
アジラ・木村 : そうです。富士通さんのアクセラレータプログラムは、eiiconの仲介で紹介いただきました。マッチングや事業展開などについて、たくさんのサポートをいただいて、本当にありがたいです。
――オープンイノベーションを活性化させるのはeiiconの使命です。共創が生まれることは、私たちにとってもとても大きな喜びです。では、協業されている事業についてご紹介ください。
富士通・黒瀬 : 高齢者の認知症の課題解決に取り組んでいます。現在、外出した高齢者が帰宅できずに困るということが多くなっています。いわゆる徘徊老人、私たちはご本人やご家族の要望で帰宅困難者と言っているのですが、この課題の解決を図っています。
対処法として、現在は高齢者に無線バッチをつけるという試みも行われていますが、私たちは、高齢者に何かを負わせるのではなく、周りの人が助ける社会を実現したいと考えています。困っている人を助けたいと思うのは、当たり前の感情だと思うのですが、行動につなげるのは簡単ではないでしょう。助けたいと思う気持ちを、どうITの力で後押しするかを考えたのです。
アジラ・木村 : その解決策として生み出したのが、AIによる画像認識アプリです。スマホで帰宅困難者の写真を撮ることで、家族や保護者に情報が伝えられます。写真は顔を写す必要はなく、服装などから識別可能です。日本には帰宅困難者をサポートする認知症サポーターが900万人いるのですが、その方たちにアプリを活用頂きたいと考えております。
帰宅困難の課題を本気で解決したいという思いが、2社を結びつけた。
――この共創はどのようにして生まれたのでしょうか。
アジラ・木村 : 当社はAIの技術を持っており、この技術で高齢社会の課題を解決したいという思いを持っていました。そうした思いをアクセラレータプログラムでプレゼンさせてもらったところ、黒瀬さんからお声がけいただいたのです。
富士通・黒瀬 : 私は帰宅困難の課題解決について3年ほど取り組んでいますが、なかなかビジネスとして成立させられませんでした。しかし、今回アジラさんにビジョンを共感していただき、一緒にやりましょうという言葉をもらえたんですね。これまで良いビジョンだ、と言われることは多々ありましたが、一緒にやりましょうと言ってくれたのは、アジラさんが初めてです。
アジラ・木村 : 一緒にやりましょうとなって、その翌週には富士通さんを訪問させてもらいました。
富士通・黒瀬 : ただ、予算がなかったんですね。そこで当社の戦略投資部門に投資の応募をしました。アジラさんと組んでいることも効果があったのか、幸いにも予算がおりて、共創が本格始動したのです。
――大手とスタートアップの協業ということで、壁などはありませんでしたか。
富士通・黒瀬 : ビジョンは共感できて事業を進めるのには何の問題もなかったのですが、取引口座開設など契約上の決まりなどで、アジラさんにはご足労いただいた面もあります。
アジラ・木村 : 当社には独立した管理部門がなかったので、事務的な手続きなどは大変なところはありました。ただ、基本的にどの方も協力的で、多くのバックアップをいただいています。特に富士通のクラウドサービスK5(※)の提供を受けたのは、非常にありがたかったですね。
※FUJITSU Cloud Service K5 / http://jp.fujitsu.com/solutions/cloud/k5/
富士通・黒瀬 : 木村さんの持つ人脈に助けられたところも多くあります。今回、町田市で実証実験を行っているのですが(※)、それは木村さんが町田市のトップとつながっていたということが大きいのです。先ほど、認知症サポーターにアプリを使っていただいたと話しましたが、それが実現できたのは町田市と共創できたからです。
※プレスリリース / http://pr.fujitsu.com/jp/news/2017/09/21-1.html
――高齢社会向けサービスはビジネスとして成立させるのは難しいという話もありましたが、その点は解消できそうですか。
富士通・黒瀬 : 簡単ではありませんが、マネタイズについても歩みを進めています。認知症サポーターは全国に900万人いるのです。マーケットとして決して小さくはないでしょう。全国の皆様に利用していただき、その対価をいただく。ビジネスとして成立させるのが、一つの使命でもあります。
――技術的には「ここを改善したい」などありますか。
アジラ・木村 : 認識率の精度をより高めるが、当面の課題です。例えば、太陽の強さによって服装の色味が変わります。それをどう正確に認識するかなど、技術的に解決すべきことはいくつかあります。まだまだ道半ばのところもありますので、ぜひ黒瀬さんたちと力を合わせ、高齢社会の課題解決を図っていきたいと思っています。
●トークセッション② 【アプトポッド×富士通アドバンストエンジニアリング(FAE)】
【写真右】株式会社アプトポッド 代表取締役 坂元淳一氏
【写真左】株式会社富士通アドバンストエンジニアリング デジタルエンジニアリング本部 先進技術センター イノベーション推進室 マネージャー 山村国広氏
データの大量・高速通信で、新たな価値の創造を目指す。
――株式会社アプトポッドさんは12期目の会社で、スタートアップの中でも既に十分な実績を持っています。今回はアクセラレータプログラムを通じ富士通グループの富士通アドバンストエンジニアリング(FAE)さんと協業することになりました。まずは貴社の紹介をお願いします。
アプトポッド・坂元 : 当社はIoTやM2Mと言われる分野に携わっています。センサーネットワークや制御ネットワークにおける高速データをエンドツーエンドの双方向で超リアルタイムに伝送し、蓄積される膨大な時系列データの活用を可能にする高速IoT/M2Mフレームワークを提供しています。
――少し詳しくご説明ください。
アプトポッド・坂元 : 例えば、ロボティクスの開発用の遠隔データ収集や監視、管制を行うことが可能です。さらにはインターネットを介して遠隔地からリアルタイムに直接制御を行うことも可能です。今回は遠隔制御化の部分を中心にFAEさんと事業を作っていこうということになりました。
FAE・山村 : 当社はいわゆるシステム会社ですが、ソフトとハードの両方を扱い、金融やヘルスケア、物流、製造などにシステムインテグレーションを行っています。中でも、私が所属しているイノベーション推進室は、IoT、AI、機械学習、ロボティクスを手がけており、この分野で新しい技術を使って新しい価値を創造することを目指しています。
――今回はロボティクスで協業を行うとのことですが、具体的にはどのようなことを手がけるお考えですか。
FAE・山村 : ロボットの無人化での運用を想定しています。その際、ロボットの監視ということが欠かせません。というのも、例えば、何か事故につながりそうなことが起こった場合、すぐに止める必要があるからです。この課題をどう解決するかと模索していたところ、アプトポッドさんのリアルタイムにデータを収集し、かつすぐに指示を出せる技術と出会ったのです。
アプトポッド・坂元 : 当社ではエッジ・サーバー・UIなどのマルチレイヤのフレームワークを自社開発していますが、すべてのレイヤーをまたいだシームレスな双方向データストリームを実現するために、独自のプロトコルを開発しています。汎用的な通信プロトコルに比べ、大幅な伝送効率化と低遅延化を実現しています。さらに、データは欠損補完も行った上でクラウドに保存されます。
FAE・山村 : こうした技術があれば、ロボティクスに活かせるのではないかと考えたのです。
――アクセラレータプログラムのDemo Dayの時は、小売業の人手不足を解消する、をテーマにしていましたね。
アプトポッド・坂元 : はい。リモート制御の最大のメリットは遠隔で動かせるということです。例えば小売業はもちろんのこと、人手不足の現場オペレーターを時差を使ってグローバルから調達することが可能になります。
――どういうことでしょうか。
アプトポッド・坂元 : 例えば、操作に人間の判断が必要な機械装置の操作を海外にいる人に任すこともできるでしょう。海外にいながら、日本にある機械装置を動かすのです。これが実現すれば、例えば8時間の時差のある地域3箇所のオペレーターを組織し24時間シフトを組むことも可能となります。
このほか、少し別の視点から話をすれば、機械装置にエラーが起きた場合、現状ではエラー信号を遠隔通知するシステムが主流です。その際、エラーだけでは障害特定ができない場合はエンジニアが現地に行って調査しなければならなかったのですが、当社のシステムを使えば、細かな制御信号を直接確認できるので現地調査に行く必要がないのです。また、ヘルスケア分野で心電や脳波などの非常に細かいデータを取得し、精密な遠隔診断をするという利用も可能です。
近い将来、現状では想定していないほど細かなデータを扱うようになる。
――協業して何か進んでいる事業はありますか。
FAE・山村 : まだ始まったばかりで、まさにこれから創り上げるという段階です。現段階では、試験的に店舗の棚チェックを遠隔で行うなどしています。今年度中に試作品を作り、来年度、再来年度を目途に事業を作りたいと考えています。ただ、小売業というのはあくまでターゲットの一つです。ロボティクスが活かせる分野は広いので、新たなサービスを創り上げていければと思っています。
――アプトポッドさんとしては、協業するうえで、FAEさんにどのようなことを期待しているでしょうか。
アプトポッド・坂元 : そうですね、ロボティクスを扱う場合、エンドユーザーの分野もシナリオも多岐にわたります。当社はあくまでインフラ技術を提供する存在ですので、エンドユーザーに精通したFAEさんのようなインテグレーターの力は欠かせません。物流や製造分野のお客様に広く当社技術を利用いただけることを期待しています。また、当社の手がける新しい技術は、新しいがゆえにお客様自身が課題に気づいていないことも多くあります。FAEさんには課題を吸い上げてきてもらえればと思っています。
――なるほど。
アプトポッド・坂元 : 近い将来、現状では想定していないほど細かなデータをリアルタイム性をもって扱わなければいけない場面がたくさん出てきます。自動車の自動運転一つとってみても、自動車単体にとどまらず交通システム全体として協調システムを構築しなければならず、これまででは考えられないほどのデータ量がリアルタイムに行き交うことになるでしょう。その上で、あらゆる状況に対応できるように準備しておくのが当社の役割とも言えると考えています。
FAE・山村 : この分野では今後、新たなビジネスが多く生まれることは間違いないと思っています。また、当社は今年、40周年の節目を迎えました。これまで培った現場力をベースに現状に留まることなく、新しい分野にさらに積極的に挑戦し続けていきます。アプトポッドさんをはじめ、多くのスタートアップと協業しながら、これまでにない新たな価値を提供していきたいと思います。
取材後記
互いの技術やリソースを持ち合い、理想とする未来に向けて邁進する――。話を聞きながら、これぞまさにオープンイノベーションという実感がした。近年、アクセラレータプログラムは多発傾向にあるが、うまくいっていない例もあると耳にする。そうしたところは、「富士通アクセラレータプログラム」から学ぶところは多くあるだろうし、また、スタートアップにはぜひ同プログラムへの参加を呼び掛けたい。アジラとアプトポッド、両社との協業は新しい未来を予感させる。今後の展開に注目したいと思う。