ビューン×ハイファイブサラダ | 店舗向けサブスクサービスを共創、トラディショナルな業界に風穴をあける
ソフトバンクのグループ会社である株式会社ビューンが、2019年の5月に店舗向けサブスクリプションサービス「Sub.(サブ)」をローンチした。同サービスでは、飲食店や美容院・ネイルサロンなどを対象に、定額制を軸とした店舗とユーザーのプラットフォームを展開する。1回限りの予約サービスやクーポンサービスと異なり、長期継続して利用するユーザーを固定化できる点が特徴だ。
実はこのサービス、eiiconを経由して出会った2人の経営者が共創によりアイデアをカタチにしていったという背景がある。eiiconでは今回、2人の経営者がどのように出会い、どのようにサービスを形にしていったのか、その舞台裏を取材した。
▲株式会社 ビューン 代表取締役社長 大石隆行氏
携帯向けのコンテンツサービスを約15年にわたり経験。その後、J-PHONEグループへ転職し、統合を経てソフトバンク株式会社へ。2013年からは、ソフトバンクの仕事も兼務しながら、株式会社ビューンの代表取締役社長を務める。
▲株式会社ハイファイブ 最高経営責任者(CEO/Founder) 水野裕嗣氏
新卒で、中京テレビ映像企画に入社。「ズームイン!!朝!」のディレクターを担当。2006年に渡米しニューヨークを拠点にメジャーリーグなどの取材を行う。帰国後は日本テレビ「ZIP!」の立ち上げメンバーとして特集コーナーを演出。2016年、C Channel株式会社にジョイン。同社で働く傍ら、起業しパワーサラダ専門店「HIGH FIVE SALAD」を立ち上げる。現在、都内にて3店舗展開中。
■横展開で生まれた、新しいサブスクリプションの芽
――まず最初に、「Sub.」を立ち上げようと思った理由や背景について教えてください。
ビューン・大石氏 : ビューンの主力事業は、雑誌や漫画の読み放題です。このビジネスを、日本でiPadが発売された2010年から約9年にわたって続けてきました。コンシューマー向けだけではなく、法人向け、たとえば漫画喫茶やホテル、マンション・アパート向けにも展開してきたという実績と知見が当社にはあります。
定額の読み放題というのは、見方を変えればサブスクリプション。このサブスクリプションの知見を、横展開したいとずっと考えてきました。映画や音楽はすでに強いサービスがありますから、まだプレイヤーの少ない飲食店や美容院・ネイルサロンといった店舗向けのサブスクリプションを仕掛けてみてはどうか――そう思い立ったのが、2018年の夏頃です。
――昨年の夏に企画を練り始め、2019年5月にローンチしたことを考えると、約1年弱の準備期間ということですね。その中でオープンイノベーションプラットフォームであるeiiconをどのようにご活用されたのでしょうか。
ビューン・大石氏 : サービスの企画書はすぐに書けました。しかし、この事業が店舗にとって魅力的なのか、そうでないのかの判断が自分にはできない。――僕はビューンの社長なので、親会社であるソフトバンクの承認さえ得ることができれば、この事業は始められます。ただ、ソフトバンクや僕が「おもしろい」と考えても、店舗が「やりたい」という判断にならなければ、この事業は成り立ちません。ですから、店舗の生の声を聞きたいと思ったんです。そこで、店舗に連絡を取る手段として、eiiconを使い始めました。
――では、新規事業の起案にあたり「外部の人の意見を聞きたい」というのが、eiiconを使う当初の目的だったと。
ビューン・大石氏 : そうです。「オープンイノベーション」で検索したらeiiconさんがヒットして、登録をしたんです。eiiconを利用して、意見を聞いてみたい企業にコンタクトを取りました。大手飲食メーカーさんをはじめ、複数の企業にコンタクトをとり、「こんな新規事業を考えているが、お店の役に立てますか?」と質問を投げかけました。その中のひとりが、パワーサラダの専門店「HIGH FIVE SALAD」を展開しているハイファイブの水野さんです。水野さんとは直接お会いして、お話もしましたね。
▲神楽坂など都内に3店舗を展開する「HIGH FIVE SALAD」。
――なるほど。水野さんは、大石さんのどういう点に興味を持って会ってみようと?
ハイファイブ・水野氏 : お会いしたいと思った理由は2つあります。1点目は、店舗向けのサブスクリプションにもともと興味があったことです。僕自身、サラダの定額制モデルを始めたいと思っていました。健康に対して意識が高い人は、体のメンテナンスのひとつとしてサラダを食べます。ですから、定額制とは相性がいい。ただ、自分ではどう進めるべきかが分からなかったんですね。そんな時に大石さんから、「店舗向けのサブスクリプションを考えているんです」という話をいただいたので、願ってもない提案でした。
2点目が、大石さんと僕は、実は同じ会社で働いていたことがあるんです。「C CHANNEL」という、LINEを育てた森川さんが運営している動画サービスの会社です。僕は森川さんをすごく尊敬していて、森川さんからたくさんの勇気をもらいました。大石さんは森川さんと近い距離でお仕事をされたご経験をお持ちだということでしたから、「ぜひ、お会いして話を聞いてみたい」と思ったんです。
――すでに「C CHANNEL」という共通点があったわけですね!お二人はいつ頃、お会いされたのでしょう。
ビューン・大石氏 : 昨年の11月頃です。初めて水野さんとお会いした時は、まだ事業化の判断をしていないタイミングでした。安直な判断をするよりは、リアリティのある意見を聞いたうえで事業化を決めたかったからです。さまざまな意見を聞いた結果、肯定的な意見が多かった。そこで、僕は年末に開催されたビューンの取締役会で、この新規事業を提案し、承認を取りに行きました。
■アイデアからカタチへ、共創で生まれた新サービス
――承認を得た後、両社の共創はどのように進んでいったのですか。
ビューン・大石氏 : 何度かお会いして、その度に内容を具体化していきました。最初は、「こんなビジネスモデルを考えていて、こういった売り方をしたいのですが、どうですか?」といったビジネスモデルの相談がメインでした。そこからサービスの中身、さらには画面構成やプロモーションの話へと進めていきました。「こういう画面構成を考えているが、使い勝手はどうですか?」「こういうプロモーションは、どうですか?」といった具合です。水野さんの率直な意見を聞きながら、サービスの中身を詰めていきましたね。
ハイファイブ・水野氏 : 僕は店舗側の立場から、「このくらいの価格帯なら使ってみたいと思う」「この販売ルールは厳しいかもしれない」といった提案をさせていただきました。僕自身、このサブスクリプションサービスを、どんなことがあっても実現したいと思っていましたから、僕のお店のことだけではなく、「Sub.」がどうすれば成功するのかを、僭越ながら自分の考えられる範囲でご提案しました。
――水野さんのどのような意見が「Sub.」に反映されているのでしょう。
ビューン・大石氏 : たとえば、販売ルールです。「Sub.」で販売する定額商品は、最低6カ月は内容を変えないでくださいというのが、僕たちの考えていた当初の販売ルールでした。ですが、水野さんから、飲食店は市場の反応を見ながらスピーディに商品を入れ替えるため、6カ月ではなくて3カ月の方がいいという意見をいただきました。システム設計の観点でいくと、もちろん6カ月の方が楽なんです。でも、お客さまが求めているのはシステムではなく店舗のサービスですから、店舗の意見を優先しようと判断しました。こういった視点は、僕たちだけでは気づきえないことでしたね。
ハイファイブ・水野氏 : 途中からですが、当社が運営する「HIGH FIVE SALAD」の店舗マネージャーにも議論に参加してもらいました。店舗で何か新しいことを始める場合、オペレーションが円滑にまわるかがとても重要。ですから、現場で働くスタッフたちにも意見を聞きました。すると、「こういう場合はどう対処すればいいのですか?」という質問がいくつか寄せられたんです。そこで、店舗スタッフ向けのオペレーションマニュアルが必要だと大石さんに伝えたところ、すぐに作成していただけました。正直なところ、ここまで私たちの意見を汲んでもらえると思っていなかったので、とても驚きましたね(笑)。
――今年5月に「Sub.」がスタートしました。現在、リリースから約1カ月ですが、始めてみての感触や手ごたえはいかがですか。(※本取材は2019年6月に実施した)
ビューン・大石氏 : 「HIGH FIVE SALAD」さんを含め7ブランド22店舗で「Sub.」をスタートしました。プレスリリースを出したところ、店舗はもちろん、代理店契約を結びたいという企業からもたくさんのお問い合わせをいただき、かなり手ごたえを感じていますね。また、「Sub.」にご契約いただいたユーザーたちの動きを追っていると、ものすごくアクティブに商品を買っていらっしゃる。頻度高く使っていただければ、サブスクリプションの解約率も低くなります。ですから、「Sub.」の解約率は低くなると予想しています。
▼【Sub.】定額サービスの導入店舗
――店舗側からみたユーザーの反響はどうでしょう。
ハイファイブ・水野氏 : ハイファイブでは、スムージーのサブスクリプションから始めました。スムージーで始めてみて、成功すればサラダにも広げていきたいと考えています。反響についてですが、実は今朝も、お客さまから「スムージーのサブスクリプションを始めたいのですが、方法を教えてください」というお電話をいただきました。少しずつ問い合わせが増えてきています。お客さまが、徐々に飲食店のサブスクリプションモデルに慣れ親しんできているという実感がありますね。
▲HIGH FIVE SALADが提供しているグリーンスムージー。
■“ハレの日”のお店ではなく、“日常使い”のお店
――今後、どのようにこの事業を発展させていくご予定ですか。
ビューン・大石氏 : 僕らがターゲットにしているマーケットは、主に飲食とサロンなどの店舗です。飲食やサロン情報を提供しているWEBサイトはすでにたくさんあります。ただ、既存のWEBサイトに掲載されている店舗は、デートや接待といった特別な日、“ハレの日”に使うお店が多いですよね。僕たちが「Sub.」を導入していただきたいお店は、ハレの日のお店ではなくて、“日常のお店”なんです。近所のカフェだったり、デリカテッセンだったり…。なぜかというと、サブスクリプションのポイントとして、「習慣的に使ってもらうこと」が重要だからです。ですから、ユーザーが日常使いする店舗をターゲットに、サービスを拡大していきたいと考えています。
ハイファイブ・水野氏 : 日常使いという話がありましたが、僕の思いも実はそこにあります。僕らは単にサラダを提供したいだけではありません。お客さまにサラダのあるライフスタイルを提案することで、健康をお届けしたい。ですから、サブスクリプションでご契約いただいて、頻度高く健康的なサラダやスムージーを体に取り入れていただく。そうすれば、お客さまの健康につながります。僕たちが本当に提供したい健康を届けることができるのです。
ハイファイブは、いち飲食店からスタートして、現在、飲食ベンチャーへと進化しつつあります。次に目指すステージはヘルスケアです。ヘルスケア領域にどう入っていくか。そう考えたときに、サブスクリプションは、僕たちがヘルスケアに食い込んでいくための、もっとも効果的な手段だと考えています。
ビューン・大石氏 : サブスクリプションを取り入れる際に重要な要素は、“習慣性の有無”です。健康やヘルスケアは習慣性と関わりが大きいですから、サブスクリプションとの相性はとてもいいでしょうね。そういう意味では、サラダはサブスクリプションのいいモデルになっていくと思います。
――両社の知見を活かした共創を通して、「Sub.」という新規事業が生まれました。共創を進めていくにあたり、ポイントとなった部分があれば教えてください。
ハイファイブ・水野氏 : 私は、「思いのある人と一緒に仕事がしたい」と常々思っています。今回、大石さんのように強い思いを持った方とともに新しいチャレンジができて、とてもワクワクしました。一緒に飲みに行ったこともあって、お互いのバックグラウンドを分かり合えた点も大きかったかなと。とても楽しい時間でした(笑)。
ビューン・大石氏 : 水野さんは飲食店というトラディショナルな業界にも関わらず、イノベーティブな発想を持って事業を運営されています。「C CHANNEL」でのご経験をお持ちですからITにも詳しい。しかも、ご自身でリスクを取って起業していらっしゃる。起業はとても勇気のいることですし、なかなかできません。僕は、そういう人にこそ学びたいと思いました。ですから、お互いの信頼関係が重要な要素だったのではないかと思います。
■「サブスクがほしい」というニーズは、ユーザーにはない
――現在、さまざまな業界が「サブスクリプション」を導入しようとしています。最後に、サブスクリプションの可能性についてもお伺いしたいです。
ビューン・大石氏 : サブスクリプションは今後も広がると思います。ただ注意すべき点は、ユーザーには「サブスクリプションがほしい」というニーズはないということです。「サブスクリプションをやりたい」というのは、あくまで事業者目線でのニーズです。
ユーザーはどこを見ているかというと、損益分岐なんです。「HIGH FIVE SALAD」さんでたとえると、「月3000円でスムージーが月30杯まで飲み放題」という定額設計です。スムージーの定価は一杯400円ですから、サブスクリプションにすることで、同じ400円のスムージーがわずか1日1杯100円で飲める。だったら安い。これがユーザーのニーズです。
ですから、なんでもサブスクリプションにすればいいわけではありません。重要なのは、「どういう商品をいくらで販売するか」。僕は喫茶店が大好きで頻繁に行くのですが、「9000円で無制限飲み放題」なのか「2000円で1日1杯飲み放題」なのか、サブスクリプションといってもさまざまな価格・商品設計の仕方があります。
サブスクリプションは、「いかに会員を増やすか」だけではなく、「いかに使い続けてもらうか」も重要な指標。ですから、使い続けてもらうための設計がポイントですね。そういった商品設計も含めて、お店の人たちと意見交換をしながら、「Sub.」を発展させていきたいです。
■取材後記
「価値ある出会いが未来を創る」――BtoBのプラットフォームを展開するeiiconは、企業と企業が持つ知見の掛け合わせにより、今までになかったような事業が生まれることを目指している。今回、取材でお話しを聞いたビューン社とハイファイブ社は、まさにお互いの知見を活かし、かつ補完しながら新しい事業の創出を実現された。月並みな感想かもしれないが、「素晴らしいストーリーが聞けて、とてもうれしい」というのが取材を終えての私たちの思いだ。引き続き、eiiconを通して価値ある出会いが生まれるよう、私たちも全力で出会いの機会をつくっていきたい。
(構成:眞田幸剛、取材・文:林綾、撮影:古林洋平)