コロナ禍でも成長トレンド。本格化するAI×防災の共創事例
多くのビジネスパーソンが注目するAIビジネスですが、AIには多用に細分化された用途があります。ですから「どの領域のAI活用がアツいか?」に注目するのが正しいビジネス洞察眼と言えるでしょう。TOMORUBAの連載「Break Down AI」では、期待される【AI×○○】の実態を深堀りし、どのような共創が行われているかに迫ります。
今回は、災害大国とも言われる日本国内における防災にAIを活用した共創事例を紹介します。地震や大雨、台風などの災害が後を絶たない日本に、更なる追い討ちとして新型コロナウイルスの影響も大きな課題となっています。災害による被害を最小限にするためにも、テクノロジーの活用が急務となっている中で、どのようなイノベーションが起きているのでしょうか。
コロナ禍でも成長を続け2025年には市場規模は約1160億円に
市場調査会社シードプランニングが2020年12月に発表したレポートによると、防災情報システム・サービス市場は、2025年に約1160億円に発展すると推計されています。
出典:シード・プランニング
この推計は新型コロナウイルスの影響を加味した上のものなので、コロナ禍においても防災市場は成長を続ける見込みとなっていることがわかります。
成長の要因として挙げられるのは今後、SaaS型・AI活用型の情報分析サービスが本格化すると考えられている点です。2020年7月に閣議決定された「骨太方針2020」の中でも、“近年の自然災害による被害の激甚化、頻発化が取り上げられ、防災・減災への取組を強力に推進する”と明記されています。
このことから、防災市場は当面のあいだ官民一体となって市場を成長させていくものと思われます。
AI×防災の共創事例
ここからは、AIを活用した防災分野の共創事例を紹介します。
【AI Shift×福井県×サイバーエージェント】電話応対の自動化「AI Messenger for Voice」で災害情報の問い合わせを効率化
対話AIを開発するAI Shiftは、福井県、サイバーエージェントと共に、AI自動音声対話システム「AI Messenger for Voice」を活用した電話応対の自動化に関する実証実験を2020年12月より開始しています。
福井県では自然災害の発生件数や被害額が年々増加しており、防災分野におけるAI・IoTの活用が急務となっている背景があります。これまで、大雪・天候等の影響により県管理道路の通行規制を行う場合、福井県庁が提供するホームページ「みち情報ネットふくい」上で、県民やドライバーに規制路線や規制時間などの情報提供をしていた一方、県外から往来するドライバーを中心に、電話での問い合わせが一定数あり、その都度、県庁職員がホームページ上で規制情報を確認する必要があるため、問い合わせの回答に時間を要する状況でした。
このような状況を改善するため、AI ShiftはAI音声対話サービス「AI Messenger for Voice」を提供し、福井県における道路規制情報の問い合わせへの電話応対の自動化を目的とした実証実験を実施しています。
これにより電話応対の自動化に加えて、「みち情報ネットふくい」上の道路規制情報と連携することで、24時間365日いつでもスピーディーに、最新の正確な情報をドライバーへ提供可能になるとのことです。
関連記事:AI Shift×福井県×サイバーエージェント | 福井県庁の電話応対の自動化に「AI Messenger for Voice」を活用した実証実験を開始
【応用地質×みずほ情報総研×インキュビット】土砂災害の危険性がある地域を抽出する「地形判読AIモデル」を開発
応用地質と、みずほ情報総研、およびインキュビットの3社は2019年7月、複数の地形的特徴から土砂災害の危険性がある地域を抽出するAIモデルを開発しました。この地形判読の精度についてフィージビリティスタディを実施した結果、実現可能性が高いことを確認したとのことです。
限られた自治体の防災体制の中で、広範囲かつ同時多発的に発生する土砂災害に対応し、住民の確実な避難を実現させていくためには、土砂災害危険地域のハザードマップの整備や潜在的な危険地域の把握、地盤変動に対する監視体制の強化などの対策が、今後ますます重要となっています。
一方で、複雑な地形的特徴から土砂災害の危険地域を特定することは、高度な知見と専門的な技術が必要ですが、広範囲にわたるエリアの中から土砂災害の危険箇所を人の目で網羅的に抽出することは、多大なコストが求められるという課題があります。
この課題に対して開発された「地形判読AIモデル」は地形的特徴から土砂災害の潜在的な危険性がある地域を抽出するモデルになっています。これにより従来は熟練した複数の地質技術者が数日かけて解析していた潜在的な危険箇所を、短時間で抽出することが可能となりました。
今後、次世代の災害対策情報提供サービスや巨大地震を対象とした広域地質リスク評価サービス、ビジネス向け自然災害リスク情報レポートサービスなど、付加価値の高い防災・減災サービスのラインナップ拡充を図っていくとのことです。
関連記事:応用地質×みずほ情報総研×インキュビット|土砂災害の危険性がある地域を抽出する「地形判読AIモデル」を開発
【スペクティ×旭化成ホームズ】スペクティが旭化成ホームズにAI防災・危機管理ソリューション『Spectee Pro』提供
Specteeは2021年2月、旭化成ホームズに対して、AI防災・危機管理ソリューション『Spectee Pro(スペクティプロ)』を提供開始しました。旭化成ホームズでは主に災害時等の情報収集を目的として同ソリューションを採用しています。
スペクティはTwitterやFacebookなどのSNSに投稿された情報や、気象データ、停電情報など様々な情報を総合的に解析し、自然災害、火災、事故等の発生など、緊急性の高い情報を100以上のカテゴリーでリアルタイムに配信する他、市区町村、空港や駅、観光スポット、工場や商業施設、自社の設備や事業所周辺といった対象と組み合わせて地図で表示し、「どこで何が起きているか」、発生場所、被害状況、規模などを即座に確認できます。
旭化成ホームズは、災害時に顧客の安心・安全を守るため、いち早く効率的に被害状況を把握する手段として、SNSに投稿される情報に着目し、SNSからリアルタイムに災害情報を覚知できる『Spectee Pro』を導入する運びになったとのこと。
スペクティは今後も『Spectee Pro』を活用して、災害・危機管理情報の収集や地図等を使った被害状況の可視化など、災害時における企業の危機管理ニーズや自治体の防災対応の迅速化・効率化を目指し、業界標準の危機管理ソリューションとして提案していく方針です。
関連記事:スペクティ、旭化成ホームズにAI防災・危機管理ソリューション『Spectee Pro』を納入
【フューチャーモデル×NTT東日本×みらい翻訳】防災シーンを想定した多言語音声翻訳プラットフォーム「ez:commu」
AI自動音声翻訳機「ez:commu」をはじめとしたIoTデバイスの開発を行うフューチャーモデルは、NTT東日本とみらい翻訳が神奈川県藤沢市で行う実証実験に参加しました。今回の実証実験では、フューチャーモデルが開発・提供する13言語に対応した音声翻訳デバイス「ez:commu+みらい翻訳」を用いています。
実証実験の内容は神奈川県藤沢市の協力のもと、多言語音声翻訳システムを活用し、災害時の訪日外国人、在留外国人に対する行政の対応について確認を行うというものです。
具体的には市職員など接遇者が防災対応において多言語音声翻訳システムに求める要件や活用方法、平常時(観光や業務)での利用が災害発生時の利用にシームレスにつながることなどが検証されました。
今後は、アンケートやヒアリング調査も行い、災害時における多言語音声翻訳システムの活用方法検討に活かしていくとのことです。
関連記事:AI自動音声翻訳機「ez:commu」|NTT東日本とみらい翻訳が神奈川県藤沢市で実施する、多言語音声翻訳プラットフォームの実証実験で活用
【編集後記】多くの災害をデータとして活用できる国は希少
日本は災害が多い国ですが、それを逆手にとってポジティブに捉えれば「防災先進国」であり「災害データを多く持つ国」とも言えます。データが多いほどAIの精度は上がっていきますが、ただ災害が多くても活用可能なデータとして使えなければ意味がありません。そういった意味でも、日本の防災技術は世界でも指折りと言えるのではないでしょうか。
(TOMORUBA編集部)