マーケティングに新風を吹かせる【AI×マーケティング】の共創事例
多くのビジネスパーソンが注目するAIビジネスですが、AIには多用に細分化された用途があります。ですから「どの領域のAI活用がアツいか?」に注目するのが正しいビジネス洞察眼と言えるでしょう。連載「Break Down AI」では、期待される【AI×○○】の実態に迫り、どのような共創が行われているかに迫ります。
今回はマーケティング領域にフォーカスした事例を紹介します。今日のマーケティングにおいてデータ活用は切り離せないものとなっていますが、いくら企業がビッグデータを保有しているだけでは宝の持ち腐れというものです。ビッグデータからマーケット攻略の金脈を掘り起こし、それを戦略に落とし込むためにはAIのチカラが不可欠。各社がどのような共創でマーケティングに新たな価値を生み出そうとしているのか、見ていきましょう。
5年で2倍成長も。デジタルマーケティング市場はまだまだ急成長分野
デジタルマーケティング分野は急成長分野だと言われてからかなりの月日が経ちますが、いまだにその成長速度は衰えていません。
出典:矢野経済研究所
矢野経済研究所が2019年に公開した「DMP/MA市場に関する調査を実施」の調査サマリーによると、DMP(データマネジメントプラットフォーム)とMA(マーケティングオートメーション)市場は2019年に668億円(見込み)となっており、その5年後の2024年には1330億円まで成長する予測となっています。実に5年で市場規模が2倍となる試算です。
そして、DMPやMAに限らずこれからのデジタルマーケティングを担う新技術としてAIに期待がかかっています。
AI×マーケティングの共創事例
マーケティング領域のAI活用での共創事例を見ていきましょう。
【DNP×ラトナ】センシング・AI技術を活用した次世代型ショールーミング店舗「boxsta」
大日本印刷(DNP)は2019年8月、既成概念に捉われないオープンイノベーションによって新規事業を生み出し、社会へ新しい価値を提供する取り組み「DNP INNOVATION PORT」をスタートし、その一環としてIoT/エッジコンピューティング領域に強みを持つラトナと共に、協業を開始しました。
この取り組みでは共創開始からわずか4ヶ月でセンシング・AI技術を活用した次世代型ショールーミング店舗「boxsta」を開設するにいたっています。
出典:AI活用 次世代型ショールームプロジェクトにおけるDNPとの協業のお知らせ
boxstaは2019年11月~12月の期間限定で、渋谷スクランブルスクエア2階POPUPスペースで運営されました。boxtaの特徴は店内のカメラとマイクで来店客の動きや声などをセンシング(計測~数値化)し、AIで解析してマーケティングデータとしてメーカー企業にフィードバックするというものです。
関連記事:DNP×ラトナ | センシング・AI技術を活用した共創プロジェクト。新たな価値を創出するセンシングの未来構想とは?
【アサヒ×Cogent Labs】最新トレンドを反映しパッケージデザインを生成する「AIクリエーターシステム」
アサヒグループホールディングスとCogent Labsは2020年3月、最新のトレンドを反映し、これまでにない独創的なパッケージデザインを生成する「AIクリエーターシステム」を共同で開発しました。
このシステムは、ディープラーニングを活用することで、AIが優れたデザインに共通する特長を抽出し、人間では簡単に思いつかないようなアイデアを生み出すことが可能とのことです。
飲料食品の見た目が売り上げに結びついていることから、AIを活用して購買意欲を刺激するパッケージデザインを作ります。まずはAIで大量にパッケージデザインを生成し、その次にデザインの評価をするAIで優れたパッケージデザインをスコアリングして可視化します。
4月から試験運用を開始して、AIから得たデザインを既存商品のデザイン案にも選択肢として加える計画です。
関連記事:アサヒ×Cogent Labs | 最新トレンドを反映し優れたパッケージデザインを生成する「AIクリエーターシステム」を共同開発
【博報堂DY×オープンエイト】AIによるニュース動画自動作成ソリューション「NEWS BRAIN」を提供開始
博報堂DYメディアパートナーズとオープンエイトは2020年1月、新聞記事をもとに要約から音声化までをワンストップで行うニュース動画自動作成ソリューション「NEWS BRAIN」(ニュースブレイン)の提供を開始しました。
「NEWS BRAIN」は、記事をアップロードすると、要約と読み上げ音声ファイルが作成され、AIのサポートにより報道写真や動画と組み合わせたストーリー性のある1本の動画が出来上がるのが特徴です。
博報堂DYメディアパートナーズが持つ、東京理科大学と共同開発した記事要約音声化システム「ASSS」及びメディアビジネスにおける知見と、オープンエイトが持つ、テキストと静止画・動画をアップロードするだけでAIのサポートにより表現力豊かな動画を作成することができる動画編集クラウド「VIDEO BRAIN」を組み合わせて開発されました。
自動生成された動画はデジタルサイネージやSNSで活用される予定で、動画編集の工数を劇的に削減する効果が期待されます。
関連記事:博報堂DYメディアパートナーズ×オープンエイト | AI技術を活用したニュース動画自動作成ソリューション「NEWS BRAIN」を提供開始
【サイバーエージェント×阪大×立命館大】商業施設でロボットによる接客・広告の実証実験を実施
サイバーエージェントにおける研究開発組織「AI Lab」は、大阪市が開催するIoT・ロボットビジネス実証実験支援プログラム「AIDOR(アイドル)エクスペリメンテーション」において、大阪大学・立命館大学との3者共同研究グループによる接客ロボットの実証実験を、2019年7月から8月にかけて、大阪南港の複合商業施設「アジア太平洋トレードセンター(ATC)」にて実施しました。
この実証実験では、ATCを実証フィールドに、心理学的な知見に基づいた動作を実装したロボットを設置し、通行人に対して協力店舗を推薦し誘導を行いました。今回は主に、「通行人をロボットの前に立ち止まらせる動作生成」と「通行人をロボットの前で滞留させる動作生成」についての検証を行ったとのことです。
今後、実証実験を通して得た結果をもとに、ロボットによる接客・広告技術の研究を進め、実用化に向けて取り組んでいく予定です。
関連記事:サイバーエージェントの研究開発組織「AI Lab」、大阪の商業施設でロボットによる接客・広告の実証実験を実施
【サイバーエージェント×AWL×サッポロドラッグストアー】店舗のデジタルトランスフォーメーションに関する実証実験を開始
続けてもサイバーエージェントの共創事例です。サイバーエージェントは2020年2月、オンラインとオフラインを融合したマーケティングプラットフォームの確立を目的に、AWLと資本業務提携、さらにサッポロドラッグストアーと業務提携を締結し、AWLが提供するAIカメラソリューションを活用した小売事業者のデジタルトランスフォーメーションを推進する実証実験・広告商品開発を開始することを発表しました。具体的には北海道に200店舗以上を展開するドラッグストア「サツドラ」にて、下記の実験を実施しました。
1.OMO分析運用プラットフォーム開発に向けたデータ収集、PDCAによるノウハウ蓄積
2.デジタルサイネージによる購買の行動変容
3.AIカメラやPOSなどで取得可能なデータを活用した販促施策自社アプリの販促メディア化と販促施策
4.デジタル広告を活用した店舗への集客最適化
この実証実験を通じて、小売のデジタルトランスフォ―メーションを推進し、OMO(Online Merges with Offline)分析運用プラットフォームの開発および店舗の価値向上を目指すとのことです。
関連記事:サイバーエージェント×AWL×サッポロドラッグストアー | 店舗のデジタルトランスフォーメーションに関する実証実験を開始
【編集後記】拡大する「マーケティング」の意義
冒頭にデジタルマーケティング市場が成長を続けていると述べましたが、共創事例を見るに、一体どこからどこまでが「デジタルマーケティング」なのかわからなくなるような、幅広いアイデアがあふれています。
博報堂DYとオープンエイトのニュース原稿をサマリーして読み上げるソリューションなどは、デジタルマーケティングにおける王道のAI活用ですが、商業施設でのロボットによる接客は果たしてデジタルマーケティングと呼ぶのでしょうか。
呼び方は重要ではありませんが、マーケティングが包括する意味・意義がどんどん拡大していっている印象があります。既存のマーケティングの定義にとらわれない自由な発想から、イノベーションが飛び出して来そうな期待感のある領域です。
(eiicon編集部)