実用化目前!「エッジAI」の基礎知識と共創事例
多くのビジネスパーソンが注目するAIビジネスですが、AIには多用に細分化された用途があります。ですから「どの領域のAI活用がアツいか?」に注目するのが正しいビジネス洞察眼と言えるでしょう。eiicon labの連載「Break Down AI」では、期待される【AI×○○】の実態に迫り、どのような共創が行われているかに迫ります。
第一弾として紹介するのは、実用化が間近と言われている「エッジAI」です。AIというとクラウドで管理されている印象がありますが、エッジAIは“現場”で活用されるAIです。
クラウドではなく現場にAIが置かれることで、どのような利点があるのでしょうか。またビジネスとしてのポテンシャルはどうか、解説していきます。
現場で活用されるエッジAIとは?
エッジAIとは、簡単に言えば「現場で活用されるAIデバイス」のことです。そしてエッジAIの対比として挙げられるのがクラウドAI。エッジAIが現場で活躍するデバイスなのに対して、クラウドAIは名前の通りクラウド上で稼働するAIとなっています。
AIは大量のデータを高速処理して学習モデルを作ります。そのため、クラウドならば大量のデータを一極集中で処理して精度の高いモデルを作れますし、マシンを増設することも可能なのでスケーラブルであることがメリットです。その一方で、クラウドAIを活用するためにはクラウドにアクセスしなければいけません。そのため通信料金がかかりますし、通信することで遅延も発生するというデメリットがあります。
エッジAIは現場のデバイスでデータ処理し学習モデルを作ります。ですから、クラウドAIのように都度都度の通信が発生することはないのでリアルタイム性の高い処理が可能になります。
実用例については、事例を後述します。
5年以内に実用化見込み!エッジAI市場ポテンシャル
エッジAIは実用化が間近なAI技術としても注目されています。米調査会社のガートナーのレポートでは、エッジAIは「5年以内に実用化が期待されるAI技術」として紹介されました。
出典:Gartner
次にエッジAIの市場規模に目を向けてみます。富士経済グループのレポートによると、国内のエッジAIコンピューティング市場は2018年度見込みで110億円、そして2030年度予測では664億円と調査結果が出ています。
同レポートでは、エッジAI市場は産業機器向けと民間機器向けに大別されており、産業機器は実証実験が続けられている段階なのに対して、民間機器はモバイル機器がメインでカメラ(画像認識)で既に実装が進んでいるとのこと。
実際、iPhoneやPixelといったハイエンドのスマートフォンのカメラ機能にはエッジAI技術が用いられているので、まずは民間機器からエッジAIが普及していくという見立ては想像しやすいです。
関連ページ:本格的な導入が進む国内のAI(人工知能)ビジネス市場を調査 | プレスリリース | 富士経済グループ
関連ページ:5 Trends Emerge in the Gartner Hype Cycle for Emerging Technologies, 2018
エッジAIによる共創事例
ここからは、実際にエッジAI分野で進んでいる共創の事例を紹介していきます。
■【アラヤ×モルフォ】 AIモデル自動圧縮ソフト「Pressai」
エッジAIのアラヤと、画像認識AIのモルフォは共同でAIモデルの自動圧縮ソフト「Pressai(プレッサイ)」を開発し、2020年3月から提供を開始しています。
プレッサイは、AIモデルを圧縮、小型化・高速化することでAIをエッジ化することができるサービスです。前述したように、クラウドAIだと通信費や遅延のデメリットがありますが、プレッサイによってエッジAIとして稼働をはじめることができます。
想定される利用用途として、自動車、スマホ、8K・4Kテレビ、セキュリティカメラなどが挙げられます。
関連記事:アラヤ×モルフォ | エッジAIを加速させるAIモデル自動圧縮ソフト「Pressai」を共同開発
■【大阪ガス×ハカルス】大阪ガスの社内業務や利用者へのAIシステム共同開発
大阪ガスはAI企業のハカルスと共同で、同社の社内業務の効率化システムと、利用者に提供するAIソリューションを共同開発することを2019年9月に発表しています。
ハカルスは「スパースモデリング」と呼ばれる、少ない学習データでも特徴量の抽出が可能な技術を得意としています。スパースモデリングを導入することで、ブラックボックスになりがちだったAIの意思決定の過程が人間にも解釈可能になったり、エッジ側で学習と推論が完結したりといったメリットがあります。
関連記事:ハカルス×大阪ガス | AI・IoTソリューション共同開発の検討開始
■【エイシング×第一生命】AIアルゴリズム「AiiR」開発加速と専門開発チームの強化
エッジAIのエイシングは2020年3月、第一生命およびスパークス・グループを運営者とする「未来創生2号ファンド」の2社を引受先とする第三者割当増資により、三井住友海上キャピタル株式会社を運営者とする「MSIVC2018V投資事業有限責任組合」を引受先とした2019年11月の調達と合わせて、シリーズB投資ラウンドにおいて計7億円の資金調達を実施したことを発表しました。
エイシングは独自のエッジAIアルゴリズム「AiiR」技術の研究開発や、エッジAIアルゴリズムの専門開発チーム「Algorithm Development Group(ADG)」の設立などを進めているが、この資金調達によって「ADG」をはじめとする同社の強み“組み込み技術”を活かした開発体制の強化や開発人材の育成、これまでにない新たなエッジAIアルゴリズムの商用化に向けた活動へさらなる投資を加速していくとのことです。
関連記事:エッジAIのエイシング、シリーズB投資ラウンドにおいて総額7億円の資金調達を実施
【編集後記】エッジAIは身近なAI技術
iPhoneのカメラ機能では、暗闇で写真を撮っても明るく補正してくれたり、撮影後でも背景をボカすことができるポートレート機能があります。これらの機能はまさにエッジAI技術で支えられていて、クラウドAIを介することなくスマホ(エッジデバイス)だけでAIによる画像の補正ができるわけです。
カメラのようなキラーアプリをきっかけにエッジAIが普及すれば、その知見からカメラ以外の分野でもエッジAI技術が広がっていくでしょうから、実用化されるAIとして期待が高まります。
(eiicon編集部)