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【Public Innovators Vol.1】 沖縄を”挑戦できる島”へ──那覇市副市長・古謝氏が語る、行政がスタートアップ振興に取り組む理由

【Public Innovators Vol.1】 沖縄を”挑戦できる島”へ──那覇市副市長・古謝氏が語る、行政がスタートアップ振興に取り組む理由

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日本各地でスタートアップ・エコシステムの構築が加速している。その多くは、民間企業が主導するのではなく、行政が中心となって地域経済の活性化を目指して行われている。こうした変革の中心にいるのが、イノベーティブな思考を持つ行政職員だ。従来の枠にとらわれず、新たな視点とアプローチでエコシステム形成を促進し、地域に新たな活力をもたらしている。

TOMORUBAの新企画『Public Innovators』シリーズの第1弾として、那覇市副市長の古謝氏を取り上げる。古謝氏は、東京大学卒業後、総務省に勤務し、その後、民間企業に転職。2022年12月には那覇市副市長に就任し、沖縄のスタートアップ・エコシステムのキーパーソンとしても活躍している。

古謝氏が沖縄でスタートアップ振興に取り組む理由とは。沖縄をさらに発展させるための構想とは。詳しく話を聞いた。

▲那覇市 副市長 古謝玄太 氏

東京大学 薬学部 卒業後、2008年に総務省(旧自治系)に入省。岡山県や本省で地域振興や情報政策に携わる。2013年には内閣官房で沖縄振興を担当し、跡地利用などに取り組む。長崎県では観光・国際・文化・財政分野の課長職などを歴任。2019年からは復興庁で福島の拠点構想を担当。2020年に総務省を退官し、NTTデータ経営研究所にて、沖縄のベンチャー支援等に携わる。2022年に出身地の沖縄にもどり、県内ベンチャー企業勤務などを経て、同年12月より現職。那覇市出身。

総務省から民間へ「沖縄を挑戦できる島に」という思いが原動力に

沖縄県那覇市で生まれ育ち、大学進学を機に東京へ。その後、総務省に入省した古謝氏は、当初から「沖縄を多くの人が挑戦できる島にしたい」という思いを抱いていたと話す。この思いを強くした背景について、次のように振り返る。

「大学時代、東京大学で沖縄県人会を立ち上げました。沖縄出身者で集まって飲み会を開いたり、学園祭ではエイサーの演舞などに取り組みました。こうした活動を通して、沖縄を意識することが増え、『私もいずれは沖縄で頑張りたい』という思いが強くなっていったのです。加えて、うちなーんちゅ(沖縄人)は愛郷心が強く、まわりの沖縄出身者にも同じ思いを持つ人が多かったことにも影響を受けました。

しかし当時は、沖縄に戻っても就業先の選択肢が少なく、起業という発想も一般的ではありませんでした。それがもったいないと感じたんです。沖縄で頑張りたいと思う人たちが挑戦できる環境をつくれば、もっと面白くなる――私はそうした環境づくりに興味があったので、進路として地方自治や地方創生を所管する総務省を選びました」

古謝氏がファーストキャリアに選んだ総務省(旧自治省)は、地方自治を担う国の行政機関だ。地域の暮らしやすさを高める制度や事業づくりに取り組む、まさに地方を良くするための政策づくりの最前線である。古謝氏は入省後、本省勤務のほか岡山県や長崎県にも赴任。特に長崎では約5年間、管理職として地域活性化に力を注いだ。

「長崎は長年人口減少が進んでいて、沖縄と同じように離島が多くあります。その地域ならではの魅力を活かしながら、地元の方やU・Iターン者が活躍できる環境づくりに取り組みました」

総務省で約12年にわたってキャリアを重ねた後、古謝氏は民間企業のNTTデータ経営研究所へと活動の場を移した。そこで取り組んだのが、沖縄のベンチャー企業を対象とした研修事業だった。

「NTTデータ経営研究所で勤務する中で、沖縄でのスタートアップ向けのアクセラレーションプログラムの企画を立ち上げました。

これはまさに、私がもともとやりたかったことでしたし、当時のパートナー企業が沖縄県内でシェアオフィスを運営していたこともあり、ニーズにも合っているということでプログラムの立ち上げに至りました。

内閣府の振興事業に私が提案し、NTTデータ経営研究所とシェアオフィスを運営する県内企業2社の連携体制で、20〜30社ほどのスタートアップを対象にプログラムを実施したのです」

沖縄でのスタートアップ支援の経験を踏まえ、「沖縄という地域とスタートアップの相性」について尋ねると、古謝氏は3つの観点から沖縄がスタートアップの起業に適していると語る。

「1つ目は、沖縄はもともと起業へのハードルが低く、起業する人が多いという点です。スモールビジネスが多く、廃業も多いものの、沖縄では『なんくるないさ』という気持ちがあり、スタートアップに対する抵抗感が少ないのです。

2つ目は、沖縄がアジアと日本をつなぐ場所にあるという地理的な特性を持っていること。日本からアジアへのビジネス展開や、アジアから日本への進出において、沖縄はハブのような役割を果たせます。

3つ目は、沖縄の文化的な独自性の高さ。沖縄には他の地域にはない文化があり、それをうまく活用することで新たな事業に挑むことができます」

39歳で那覇市の副市長に就任――課題解決型の起業支援事業をスタート

古謝氏は、2022年7月の参議院議員選挙に出馬した後いったん沖縄県内のベンチャー企業に勤めるが、同年12月に那覇市長からの打診を受けて副市長に就任する。就任当時は39歳で、史上最年少の那覇市副市長が誕生した。現在、那覇市では副市長は2名体制となっており、古謝氏は経済や観光、健康、教育など幅広い分野を管掌している。特に、教育と経済に注力しているという。

教育に関しては、教育委員会の教育長と連携し、学校現場の働き方改革に向けて「教員負担軽減タスクフォース」を立ち上げて対応している。具体的には、教員不足の解消に向けた対策、教育現場のDX推進、地域イベントへの学校関与の見直し、スクールロイヤー(弁護士)による相談体制の整備、そして警察OBによる学校巡回などを進めているそうだ。

一方、経済に関しては、都市型MICE戦略を積極的に推進しており、学会や企業のインセンティブツアーなどの誘致を通じて、地域経済の活性化を図っているという。また、スタートアップ支援にも注力しており、2024年度(令和6年度)より“なはし社会地域課題解決型起業支援事業”をスタートさせた。この起業支援事業の特色について、古謝氏は次のように説明する。

「スタートアップ・エコシステムの構築については沖縄県が力を入れて取り組んでいるので、那覇市としては、地域課題に特化した形で支援しています。

単に産業としてスタートアップを支援するだけではなく、地域課題や社会課題を解決するスタートアップに対して伴走支援を行い、ビジネスの立ち上げをサポートする事業を行っています」

初年度の起業支援事業では、観光人材育成のための教育プログラムや島豆腐の製造過程で発生する副産物のアップサイクルなどのビジネスプランが採択され、事業化が進められているそうだ。

行政がスタートアップ振興に取り組む意義とは何か。この問いに対して古謝氏は大きく2つの点を挙げる。

「1点目は、経済活性化です。スタートアップ振興は特に若者にとって大きな引力になると考えています。移住やUターンで沖縄に来る人々にとって、スタートアップが盛り上がっている地域だということは、大きな魅力となるでしょう。特定の産業に限定するわけではなく、新たな挑戦を受け入れる寛容性や多様性を推進することにより、さまざまなことにチャレンジしやすい社会を作ることができます。こうした点で、経済や地域の活性化に大きく貢献できると考えています。

2点目は、スタートアップに地域課題や社会課題にフォーカスしてもらうことで、これまでは行政が資金を投じて対応してきたところを、ビジネスで解決できるようになることです。このこと自体が、行政にとっても地域にとっても非常に大きな意味があると考えています」

▲古謝氏は副市長として活躍する傍ら、沖縄の次の50年を考える『PROJECT50』や、若手経営者の交流会『G.O.K.U』なども主催している。上の写真は、『PROJECT50』による「これからの沖縄の50年を見据えた未来への提言書」の副知事への手交シーン。この後、提言書は沖縄県知事に届けられた。(画像出典:古謝氏Instagramより)

副市長が描く沖縄の『新5K経済』――開業・起業しやすい環境を整え、“しなやか”な経済を築く

「行政職員がイノベーティブな思考を育むには」という問いに対して、古謝氏は「行政は”課題に対応する仕事”が、全体の95%以上を占めています。ですから、”今は課題にはなっていないけれど、未来に向けて新しく始めていくべき活動”は不得意ではあります」と率直に語る。

ただ、人口減少や労働力不足、テクノロジーの進化といった時代の変化を前に、従来型の課題対応だけでは地域を支えきれないと危機感をにじませる。

そこで、行政職員にも「どんどん新しいことをやっていこう」と伝えているという。ただ、行政職員はイノベーティブな取り組みを推進する訓練を受けているわけではないことから、まずは「外部と積極的に交わっていこう」と呼びかけ、実際に那覇市職員有志による交流・学びの場“とびなは”を立ち上げていることを明かした。

最後に、今後の沖縄ビジョンについて聞いてみた。

「これまで沖縄は『3K経済』と言われ、基地、観光、公共の3つの分野に偏っているとされてきました。この状況を変えていかなければならないということで、ITや物流など新たな分野に注力してきた経緯があります。私はこれに対して『新5K経済』を提唱しており、観光に加えて、健康、環境、海洋、開業・起業を新たに打ち出しています」

この5つの中で、古謝氏が特に重要視するのが、社会情勢に左右されにくい開業・起業だ。沖縄が得意としてきた観光は、コロナ禍で大きな打撃を受けた。だからこそ、外部の影響を受けづらい産業の育成に注目している。

「起業とは、その時々の社会情勢に対して新たなチャレンジをするものです。そのため、起業を推進すれば、社会情勢の変化に対応できるしなやかな経済を築くことができます。沖縄を”起業・創業しやすい島”にすることで、世界情勢に影響されない、しっかり伸びていける力強い経済を作れると考えています」と、未来に向けた強い意志を込めて語った。

取材後記

那覇市副市長・古謝氏へのインタビューを通じて浮かび上がったのは、沖縄という地が持つポテンシャルを誰よりも信じ、スタートアップ振興を通じて地域の未来を切り拓こうとする強い意思だった。「課題への対応」だけにとどまらず、「未来をつくるための挑戦」へと行政の役割を広げていく。その難しさを誰よりも理解しながらも、あえてその先頭に立つ姿は、まさに『Public Innovators』という言葉にふさわしい。行政、民間、そして地域の人々をつなぎながら、「挑戦できる島」としての新しい沖縄を形づくっていく。古謝氏のその歩みを今後も追っていきたい。

(編集:眞田幸剛、文:林和歌子、撮影:齊木恵太)

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  • 茂原 初谷

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