少子化の逆風でも成長を続けるAI×教育の共創事例
多くのビジネスパーソンが注目するAIビジネスですが、AIには多用に細分化された用途があります。ですから「どの領域のAI活用がアツいか?」に注目するのが正しいビジネス洞察眼と言えるでしょう。TOMORUBAの連載「Break Down AI」では、期待される【AI×○○】の実態に迫り、どのような共創が行われているかに迫ります。
今回は教育の分野でAI活用を取り入れているプロジェクトにフォーカスをあてます。「教育」と言っても幼児教育から義務教育、大学教育、その他いろいろとありますが、学ぶことは「目的を持ち、計画を立てて、それを実行すること」ですから、AIの特性を考えると、活躍できる分野であることがわかります。AI×教育の現状を振り返りつつ、共創事例を紹介していきます。
少子化でも幼児向け、企業向け、eラーニングなどが成長中
最初に、教育産業の市場規模についてみてみます。2019年に実施された矢野経済研究所の調査では2019年度は2兆7656億円となっており、グラフをみても分かるとおりここ数年は横ばいとなっています。
教育産業のターゲットのボリュームゾーンは義務教育と大学教育だと考えると、少子化トレンドでじりじり下がっていると思いがちですが、実際のところは横ばいをキープしています。
出典:教育産業市場に関する調査を実施(2019年) | 市場調査とマーケティングの矢野経済研究所
教育産業は15の分野に分けられますが、そのうち「学習塾・予備校市場」「幼児向け英会話教材市場」「学生向け通信教育市場」「幼児向け通信教育市場」「資格・検定試験市場」「幼児受験教育市場」「幼児体育指導市場」「企業向け研修サービス市場」「eラーニング市場」の9分野が成長していて、幼児向け、企業向け、eラーニングなどが教育産業の市場規模キープに貢献していることがわかります。
そして今、注目されているのが学習塾でのAI教材活用です。矢野経済研究所の調査サマリーにも「生徒および講師は、日常的に学習の成果や理解度、課題箇所など、学力の把握や管理が可能になる」とメリットが紹介されており、今後の成長が期待されている分野となっています。
AI×教育の共創事例
ここからは教育分野でのAI活用の共創事例を紹介します。
【atama plus×ジャフコ×DCM】AI学習の開発を加速するため15億円の資金調達
atama plusは、ジャフコならびにDCMベンチャーズがそれぞれ運用するファンドを引受先とする第三者割当増資の実施により、2019年5月にシリーズAラウンドで約15億円の資金調達を実施しました。この資金調達により、累計調達総額は約20億円となっています。
atama plusは、生徒が「基礎学力を最短で身につける」ことを目的に、AIを活用した中高生向けタブレット型教材「atama+」(アタマプラス)を全国の塾や予備校に提供しています。生徒一人ひとりのデータを「アタマ先生」と名づけられたAIが分析し、一人ひとりに合った「自分専用レッスン」をつくることで学習を効率化していくというもの。
開発スピードを更に加速し、一人ひとりの生徒の満足度を最大化できるプロダクトの強化及び、学習塾各社へのサポート体制の強化をしていくとのことです。
関連記事:AIによる学習の最適化を図るatama plus 、15億円の資金調達を実施
【atama plus×Z会】AI教材「atama+」を指導の中心においた教室の開校に向けて業務提携
もうひとつatama plusの共創事例です。atama plusとZ会グループは2019年11月、国内塾最大級の売上実績を有する栄光において、atama plusのAI学習教材「atama+(アタマプラス)」を大規模導入することを決めました。同時に、atama plusとZ会グループは、業務提携契約を締結したことも発表しています。
この提携では、2020年3月にZ会グループで進学塾等を運営する栄光の「栄光の個別ビザビ」が、新たに「atama+」を指導の中心においた教室を開校するとともに、133教室で「atama+」を導入、その後さらに他教室にも拡大していくことが主な内容となっています。
今回、「atama+」の大規模導入に至った背景は、これまで導入してきたZ会グループの学習塾において、いずれも、生徒の成績向上や満足度といった面で顕著に効果が表れている実態があります。
今後はZ会グループの教室事業に「atama+」の導入を広げ、「最高の教育」の提供を更に追求していく方針とのことです。
関連記事:atama plus×Z会グループ|AI教材「atama+」を指導の中心においた教室の開校に向けて業務提携
【Z会×EduLab】AI活用の自動採点に関する共同研究を開始
Z会からもうひとつ。教育サービス事業およびAI事業を展開するEduLab(エデュラボ)と、Z会グループは2019年9月、資本業務提携を締結し、取り組みの第一弾として、AIを活用した英語スピーキング能力の自動採点に関する共同研究を開始することを発表しました。
英語については4技能(「話す」「書く」「読む」「聞く」)の教育および能力測定が重要視される一方で、特に「話す」(スピーキング)能力の測定・評価についてはコストがかかり、また評価者により結果にバラつきが生まれやすい点が課題とされています。
こうした背景を受け両社は、Z会グループが実施する英語4技能テスト『英語CAN-DOテスト』での数万規模の解答音声データ、観点別の評価データを活用し、EduLabが持つテスト技術およびAIを活用した自動採点技術を用いることにより、スピーキング自動採点の研究開発に着手します。
また、同共同研究では、英語能力の到達度指標『CEFR-J』の開発者である投野由紀夫氏(東京外国語大学大学院教授)が監修者となり、スピーキング自動評価の妥当性や信頼性に関するアドバイスをするとともに、研究成果の学会等での共同発信を行っていきます。
今後EduLabとZ会グループは、教育現場や学習者の様々なニーズを発掘し、両者の持つ資産を組み合わせることで、より良い学習機会の提供に向け貢献していくとのことです。
関連記事:Z会×EduLab|AI活用の自動採点に関する共同研究を開始
【埼玉県×ユニファ】官民連携「スマート保育園」の実証実験を開始、IoTやAIを保育業務に活用
次は教育というよりも、保育に近いジャンルからの事例紹介です。埼玉県は民間企業等からの提案を受け付けるプロジェクト「Saitama-Collaboration-Lounge(Sai-Co-Lo:以下、サイコロ)」活動の一環として、ユニファと連携し、保育士の業務負担軽減と保育の質向上等を目指す実証実験を実施しました。
実証実験では、ユニファが開発する「ベビーテック」を保育園に無償で試験的に導入します。データの収集・分析を行い、安全性確保を前提に、効率化できる業務の整理やICT化の課題等を検証しました。検証したのは以下の3点。
1.園児のお昼寝中の体動や体の向きを記録する『ルクミー午睡チェック』、スマート体温計『ルクミー体温計』などにより収集した情報を分析し、子どもの健康状態の異変を早期検知する「見守りAI」
2.『ルクミーフォト』での自動撮影や音声録音のデータをAIが処理することで、効率的に日誌を作成する「スマート日誌」
3.『キッズリー保育者ケア』での保育園の組織診断による早期離職の防止
埼玉県は今後も、ユニファの持つIoT、AIを活用したプロダクトを用い、保育士の業務効率化を目指します。そうすることで、保育士が子どもと向き合う時間に集中できる環境を整え、人手不足の解消や保育の質の向上にもつなげていく狙いがあります。
関連記事:埼玉県|ユニファと連携し、9月から官民連携「スマート保育園」の実証実験を開始、IoTやAIを保育業務に活用
【編集後記】デジタル庁との連携に期待?
菅内閣の目玉のひとつにデジタル庁の設立がありましたが、今後デジタル庁ではAIをはじめブロックチェーンや5Gなど最新技術との連携を進めていくものと思われます。
教育は文部科学省の管轄ではあるものの、今回紹介したようにAIは効率よく学習するための手段としては有効であり、さらに教育現場の省人化にも貢献できるポテンシャルがあります。
官民連携することで、AIは日本の教育システムを大きく前進させる起爆剤となるでしょうか。今後も注目です。