
製造過程の飲料残渣が土壌を変える?――サントリー×TOWING、高機能バイオ炭の実証実験を開始
サントリーホールディングス株式会社とグリーン・アグリテックスタートアップの株式会社TOWINGは、製造過程で発生する飲料残渣を活用した「高機能バイオ炭」(※1) の実用性に関する共同実証実験を開始した。バイオ炭には、TOWINGが開発した微生物群が付着しており、肥料効率の向上や温室効果ガス(GHG)の削減など、環境と農業双方に資する効果が期待されている。
本実験は、①製造残渣をアップサイクルし、新たな資源循環モデルを構築すること、②高機能バイオ炭を用いることで、化学肥料使用の抑制と栽培効率の向上を実現することの2点を主目的としている。特に、バイオ炭に含まれる微生物が有機肥料の分解を促進することで、作物の生育を支援するとされる。
緑茶粕が“宙炭”に変わる――未利用資源のアップサイクルで持続可能な農業へ
実証の第一歩として用いられたのは、サントリーの飲料製造から生じる緑茶粕だ。これを炭化し、TOWINGの保有する機能性微生物を付加した高機能バイオ炭「宙炭(そらたん)」を製造。国内では農業由来の産業廃棄物が全体の約2割を占め、多くは焼却または埋立処理されている。(※2) 今回の実験は、こうした未利用資源を“再び価値あるもの”として再生させる試みでもある。
高機能バイオ炭で実現する、収穫量と環境の“両立”
農林業分野は、全GHG排出量の13%を占めており、特に化学肥料の製造と使用がその大きな要因となっている。(※3) 化学肥料を有機肥料に置き換える「再生農業」は有望だが、収穫量の減少が課題だ。
サントリーとTOWINGは、契約農場にてチャノキ(緑茶原料)の栽培に高機能バイオ炭を併用することで、その効果を検証。第1期の収穫では、品質を維持しながら収穫量が増加する結果が得られた。今後の試験でも同様の成果が再現されれば、化学肥料に依存しない農業の実現に向けた突破口となるだろう。

サステナブル農業の未来を拓くTOWINGとサントリーの共創
TOWINGは、名古屋大学発のスタートアップとして2020年に創業。「超循環社会」の実現を掲げ、地域未利用資源と微生物を活用した農業資材「宙炭(そらたん)」の開発・販売を行っている。すでにJクレジット制度に登録し、バイオ炭の農地施用によるカーボンクレジットの販売も行っている先進企業だ。
一方、サントリーは英国やタイでの再生農業プロジェクトにも注力しており、今回の取り組みもその一環だ。再生農業、微生物技術、バイオ炭、資源循環――これらを結びつけることで、両社は“サステナブルな農業の社会実装”という共通目標の実現を目指す。
本実証実験は、農業生産における環境負荷を減らしながら生産性を維持・向上するという、相反しがちな課題の両立に挑む試みとなる。サントリーはTOWINGへの出資を通じて戦略的パートナーシップを強化し、この取り組みを国内外へ展開していく構えだ。
循環型社会の実現には、業種・領域を越えた連携が不可欠だ。飲料メーカーと農業系スタートアップという異色のコラボレーションから、次世代の農業と地球環境の持続可能性に向けたモデルが生まれようとしている。
(※1) 未利用バイオマス資源の炭化物(バイオ炭)に、TOWINGが開発した有機肥料の分解促進機能等を有する土壌由来微生物を付着させた特殊肥料。TOWINGでは、「宙炭(そらたん)」として製品化。
(※2) 環境省「産業廃棄物の排出及び処理状況等(平成30年度実績)について」https://www.env.go.jp/press/109265.html
今後は、緑茶粕以外の製造残渣も原料に加え、高機能バイオ炭の生産範囲を拡大する計画だ。サントリーの広範なサプライチェーンから生まれる廃棄物を循環型資源に変えられるかどうかが注目される。
(※3) 国連食糧農業機関(FAO)調べ。2019年時点。
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(TOMORUBA編集部)