「パーパス」とはなぜ注目されるのか?誰のためのものか?5分でわかる基礎知識
新規事業やオープンイノベーションのプレイヤーやそれらを実践・検討する企業の経営者はTOMORUBAの主な読者層ですが、こうした人々は常に最新トレンドをキャッチしておかなければなりません。そんなビジネスパーソンが知っておきたいトレンドキーワードをサクッと理解できる連載が「5分で知るビジネストレンド」です。キーワードを「雑学」としてではなく、今日から使える「知識」としてお届けしていきます。
今回取り上げるのは「パーパス(経営)」です。ここ数年で耳にする機会が増えましたが、なぜ企業がパーパス経営に取り組むのでしょうか。そして、パーパス経営を実践することで誰のためになっているのでしょうか。新しい概念であるパーパスについて知っておきましょう。
パーパスとは企業が「社会にとってどのような存在価値があるか」を示すもの
パーパス(Purpose)とは「目的」「存在価値」といった意味がありますが、ここ数年では「企業が社会にとってどのような存在価値があるか」を示すことをパーパス(経営)と呼び、新たな概念として注目を浴びています。
近い概念の言葉として「ミッション」「ビジョン」「バリュー」などがありますが、日経新聞ではこれらの言葉とパーパスとの違いについて以下のように解説しています。
これまで企業が提唱してきたビジョンやミッションといった言葉よりも、さらに上位の概念であると言えるでしょう。
参考ページ:パーパスとは 「存在意義」会社が自ら定義: 日本経済新聞
パーパスはなぜ注目を集めていて、誰のためのものなのか
2020年頃から、日本でも企業のパーパスについて語られることが多くなりました。「パーパス経営」の著者、名和高司氏はパーパスが注目されている理由について「3つの市場からの要請」を挙げています。
1.エシカル消費が注目される顧客市場
2.環境・社会問題に関心の高いミレニアル世代・Z世代を中心とした人財市場
3.ESG投資が広まっている金融市場
このように、企業の社会的責任(CSR)やESG投資の台頭を背景に、企業が社会問題に取り組むことがクールであると認識されています。
また、米国最大のロビー団体ラウンドテーブルは2019年に株主至上主義との決別として「企業のパーパスについての声明」を発表しています。その中で、世界最大の資産運用会社ブラックロックのCEOラリー・フィンクは「利益とパーパスは矛盾しておらず、むしろ利益と目的は密接に結びついています」と書簡を述べています。
参照ページ:「パーパス経営」とは。 【第1回】なぜ世界はパーパス経営に注目するのか
参照ページ:【イラスト図解】Z世代が加速する、「社会を良くする」ビジネスが凄い
パーパス経営が生まれる以前における企業の「目的」をめぐる長年の議論
パーパスという概念が生まれたのは2010年代後半になってからですが、それ以前から企業の「目的」とはなんなのか、長年議論が重ねられてきました。
詳細な起源の解説は割愛しますが、ステークホルダーをバランス良く重視するのか、それとも株主の利益を最大化する「株主至上主義」なのか、はたまた株主だけでなく従業員や経営陣へのサービスを重視する「経営主義」なのか、時代によって論調は変遷してきました。
そこに「企業の社会的責任(CSR)」をどう捉えるかも要素として加わり、近年ではESG経営やSDGsといった持続可能性の話も含め議論されるようになりました。
2021年、ドイツ銀行の研究により、CSRやESGで高い評価を受けた企業は市場平均を上回る成績を残しているとの結果が明らかになったことで、企業がパーパスを策定する動きが広まってきた経緯があります。
国内で活発になるパーパスの動き
国内でもパーパスを取り入れた企業が増えています。ヘルスケアスタートアップのおいしい健康は、味の素からの資金業務提携を発表した際に「食を通じた、世界の健康創造」という“協業パーパス”を策定しています。
参照記事:ヘルスケアスタートアップ「おいしい健康」×味の素 | 資本業務提携、食と健康のDXによる人生100年時代の社会課題解決へ - TOMORUBA (トモルバ)
また、保育支援サービス「ルクミー」を開発するユニファは「家族の幸せを生み出すあたらしい社会インフラを世界中で創り出す」というパーパスを掲げています。シリーズDで総額40億円の資金調達を発表した際に寄せられた投資家のコメントにはパーパスへの共感が多く寄せられていました。
参照記事:ユニファが国内外の投資家から40億円のシリーズD資金調達を実施 - TOMORUBA (トモルバ)
加えて、企業のパーパス発信をサポートする枠組みも生まれています。博報堂とnoteはパーパスを起点とした企業・ブランドの情報発信を行うため、業務提携契約を締結し、企業向けサービス「new branding with note」を提供しています。
参照記事:博報堂×note|企業・ブランドのパーパスを発信・可視化するサービス“new branding with note”の提供で業務提携 - TOMORUBA (トモルバ)
【編集後記】大手企業・スタートアップがパーパスの潮流を牽引
いくつか事例を紹介したように、大手企業やスタートアップがパーパスを掲げることは珍しくなくなってきました。パーパスを取り入れるほど市場の評価が高くなることも研究結果として出ており、パーパスに向き合わない理由がなくなりつつあります。
大手企業・スタートアップがこの潮流を牽引することで、ボリュームゾーンである中小企業にもパーパスが浸透すればESG投資が循環し、持続可能性が加速するはずです。
(TOMORUBA編集部 久野太一)
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