子供が家族の介護をサポートする「ヤングケアラー」の実態と、その問題とは?
新規事業やオープンイノベーションのプレイヤーやそれらを実践・検討する企業の経営者はTOMORUBAの主な読者層ですが、こうした人々は常に最新トレンドをキャッチしておかなければなりません。そんなビジネスパーソンが知っておきたいトレンドキーワードをサクッと理解できる連載が「5分で知るビジネストレンド」です。キーワードを「雑学」としてではなく、今日から使える「知識」としてお届けしていきます。
今回取り上げるのは「ヤングケアラー」です。ヤングケアラーは“ビジネス”トレンドというよりも、ここ数年で概念が定着してきた“社会課題”であると表現した方が適切ですが、社会課題とはすなわちビジネスチャンスとも言い換えられます。
新しい概念であるヤングケアラーとは何か、そしてどういった課題が解決されずに顕在化しているのかを解説していきます。
ヤングケアラーとは介護・サポートをする18歳未満の子供
ヤングケアラーという言葉には法令上の定義はありませんが、日本ケアラー連盟は「家事や家族の世話、介護、感情面のサポートなどを行っている、18歳未満の子どものこと」と表現しています。
このようにヤングケアラーとは、本来は大人が担うべきケアの責任を子供が引き受けている状態を指しています。ケアが必要な人は主に障がいや病気のある親や高齢の祖父母ですが、きょうだいや他の親族の場合もあります。
具体的には以下のようなケアを引き受けている子供がヤングケアラーに該当すると言われています。
●障がいや病気のある家族に代わり、買い物・料理・掃除などの火事をしている
●家族に代わり、幼いきょうだいの世話をしている
●障がいや病気のあるきょうだいの世話や見守りをしている
●目を離せない家族の見守りや声かけなどの気づかいをしている
●日本語が第一言語でない家族や障がいのある家族のために通訳をしている
●家計を支えるために労働をして、障がいや病気のある家族を助けている
●アルコール・薬物・ギャンブル問題を抱える家族に対応している
●がん・難病・精神疾患などの慢性的な病気の家族の看病をしている
●障がいや病気のある家族の身の回りの世話をしている
●障がいや病気のある家族の入浴やトイレの介助をしている
また、18歳〜おおむね30代までのケアラーのことは「若者ケアラー」と呼称する場合が多いです。
参照ページ:ヤングケアラーについて
参照ページ:ヤングケアラープロジェクト
ヤングケアラーの実態
2021年3月に厚生労働省が実施した調査では、「家族の中にあなたがお世話をしている人はいますか」という質問に対し、「いる」と答えた中学2年生は5.7%となりました。これは中学2年生の17人に1人がヤングケアラーだったということになります。
世話をしている家族が「いる」と答えた人に頻度についての質問をしたところ、世話を「ほぼ毎日」している人は半数近くという結果になっています。
埼玉県が2020年11月に実施した高校2年生を対象にした調査では、ヤングケアラーが平日にケアに欠けている時間は「1時間未満」が4割、「1時間以上2時間未満」が3割となっています。しかし、前述の厚労省の調査では同様の調査で中学2年生は平均4時間、全日制高校2年生は平均3.8時間と、前者の調査よりも長い結果となっています。
参照ページ:子どもが子どもでいられる街に。~ヤングケアラーを支える社会を目指して~ 【厚生労働省】
参照ページ:ヤングケアラーの実態に関する調査研究 報告書
参照ページ:ケアラー及びヤングケアラー実態調査の結果について - 埼玉県
ヤングケアラーの何が問題なのか
日本では家族か介護をするケースはそれほど珍しくありませんが、ヤングケアラーはなぜ社会課題となっているのでしょうか。いくつか指摘されている点があります。
欠席・学力低下など学校生活への影響
前述したとおり、ヤングケアラーは家族の世話に1日数時間を費やしているケースが多いです。そのため、学校生活への影響が問題となっています。
2017年7月に実施した藤沢市の「ケアを担う子ども(ヤングケアラー)についての調査≪教員調査≫」では、学業への影響は特に遅刻・欠席、宿題忘れ、学力低下といった結果を引き起こしていることがわかります。
出典:ケアを担う子ども(ヤングケアラー)についての調査≪教員調査≫
進路・就職のサポートが必要
ヤングケアラーを研究する成蹊大学の澁谷智子教授は「ケアラーはサークル活動やアルバイトなど同世代と同じ経験をしていないことに自信をなくしがち」と問題点を挙げています。
実際、前述の厚労省の調査でヤングケアラーに該当する人に「学校や大人に助けてほしいこと、必要な支援」を聞いたところ、最も多かったのは「進路や就職など将来の相談にのってほしい」で男性は11.7%、女性は19.7%となっています。
参照ページ:ヤングケアラー、就職で苦悩…「家族より自分を優先?」「介護経験、面接で理解されず」
【編集後記】ヤングケアラーは実態の把握が難しい
今回はいつもの連載とは少し趣を変えて、ビジネストレンドというよりも未解決の社会課題としてヤングケアラーを取り上げました。ヤングケアラーの問題を解決しようとする事業者はまだ少なく、やはりそのボトルネックは「実態が把握しにくい」ことです。
ヤングケアラーは家庭内で発生している課題で、顕在化しにくいものです。本文でも参照している厚生労働省の調査によると、各市区町村の要保護児童対策地域協議会がヤングケアラーの実態把握を行っているのは3割程度しかありません。
ヤングケアラーにソリューションを届けるためにも、まずは実態把握を進めることが問題解決の最初の一歩となりそうです。
(TOMORUBA編集部 久野太一)
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