半導体不足はなぜ起きた?米中貿易摩擦、巣ごもり需要、台湾への依存などを解説
新規事業やオープンイノベーションのプレイヤーやそれらを実践・検討する企業の経営者はTOMORUBAの主な読者層ですが、こうした人々は常に最新トレンドをキャッチしておかなければなりません。そんなビジネスパーソンが知っておきたいトレンドキーワードをサクッと理解できる連載が「5分で知るビジネストレンド」です。キーワードを「雑学」としてではなく、今日から使える「知識」としてお届けしていきます。
今回は、「半導体不足」について解説していきます。身近な例だとSwitchやプレステ5といったゲーム機の供給が追いつかず高値での転売が話題になったり、自動車の生産が遅れているといった問題で半導体不足を実感している人もいるのではないでしょうか。
半導体不足が発生した原因は複合的ですが、主な原因となっている要素をいくつか紹介します。
半導体の6割以上はPCやスマホに利用されている
そもそも半導体は何に使われているのでしょうか。その用途について振り返ってみます。米コンサルティングファームのベイン・アンド・カンパニーの調査によると、世界での半導体の用途別シェアは下図の通りです。
出典:Why semiconductors are as scarce as gold | Article | ING Think
PC(サーバー含む)とスマホだけで6割を超えるシェアとなっており、ついで家電、自動車、産業向けとなっています。
【需要】コロナ以前から5Gシフトで需要増だったところ、巣ごもり需要が追い討ち
半導体不足を引き起こすひとつの側面である需要増加はどのように起こったのでしょうか。そもそも、半導体の需要増はコロナ以前から始まっており、2020年春の5Gスマホへのシフトに向けて半導体の需要は高まっていました。
そこにコロナ禍での巣ごもり需要が追い討ちをかけた形になります。具体的には、家で過ごす人が増えたためにパソコンやテレビの需要が増えました。冒頭で触れたゲーム機が手に入らない状況も巣ごもり需要の高まりが大きく起因していると考えられます。
加えて、2020年の秋頃には自動車市場が回復しはじめ、半導体の需要は非常に高い状態になってしまいます。
【供給】半導体生産は台湾企業へ集中。さらに米中貿易摩擦の影響で供給不足に
半導体を開発しているアップルやクアルコム、エヌヴィディアなどの大手企業は、自社で半導体生産の工場を持たない「ファブレス」という業態です。これらの半導体を実際に作るのが半導体の生産を専門で行う製造委託企業の「ファウンドリ」です。ファウンドリは世界の半導体製造の約3割を担っています。
現状、ファウンドリは東アジアに拠点が集中しており、特に台湾のTSMCは55%のシェアを占めています。
さらに、米中貿易摩擦の影響で米国は中国企業のファウンドリ「SMIC」との取引を停止し台湾や韓国のファウンドリへ発注を切り替えています。
その結果、【ファブレス×ファウンドリ】のビジネスモデルのリスクが顕在化し、さらに世界の半導体製造が台湾に一極集中する事態を招いています。
それに加えて2021年には米国の工場が大寒波で操業を停止、ひたちなか市の工場が火災で操業停止、東南アジア各地で新型コロナが感染拡大し操業停止が相次ぐなどして、サプライチェーンが目詰まりを起こしました。
半導体不足はすぐには解消はされない見通し
需要側も供給側も、短期的に根本的な問題解決ができる見通しはありません。半導体工場はどこもフル稼働が続いているため、各社積極的に工場建設などの投資を進めている状況です。
日本でもTSMCとソニーが工場建設を進め、デンソーも投資を決めています。
参照ページ:車や家電が手に入りづらい 半導体不足は解消するか: 日本経済新聞
また、半導体製造に用いられる希少資源であるネオンの7割をウクライナに、自動車の部品に使うパラジウムの4割をロシアに依存するなど、戦争が半導体不足に影響を与える可能性は高いでしょう。
そのため、半導体の需要と供給のバランスがとれるのは中長期的なスパンで考えなければなりません。
【編集後記】巨大産業は国際情勢に左右されやすい
この連載は「5分で知る」ことをひとつの価値にしていますが、半導体市場は巨大なので網羅的に書くことが難しかったです。例えばファウンドリでは台湾企業のTSMCが55%のシェアを誇っていますが、半導体の基盤となるシリコンウエハーは日本の信越化学工業とSUMCO、台湾のメーカーが寡占する分野だったりします。
本文では希少資源の産地であるウクライナやロシアが戦争によってサプライチェーンのリスクとなっていますが、台湾や日本も戦争のリスクはゼロではありません。巨大な産業ほど国際情勢で大きく状況が変わってしまうので、リスクの分散が重要です。
(TOMORUBA編集部 久野太一)
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